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はああ、と深いため息をついた。 この間、オーストリアさんが縁談の話して、嫌って泣いちゃってから非常に気まずい。 …結局あの後、なにもなかった、し。 …彼の気持ちは、わからないし。 どういう態度をとったらいいかわからなくて、挙動不審な上に、最終的になんだかんだと理由を付けて逃げ出してしまう。 きっと彼も怪しんでるだろうなあ…。 「はあ…」 ため息。ああもう掃除を言い訳にしすぎて隅から隅までぴっかぴかだし…。 「ハンガリー。」 「!は、はい!」 声が裏返った。ああやばい、と思いながら笑ってごまかす。 「な、なんですか?オーストリアさん…」 「話があります。」 来てください。言われて、ぱっと言い訳を考える。だって、彼と向き合うのは怖い。 彼の気持ちが、わからないから、怖い。 「ええと、」 掃除がまだ終わってないから。行き着いたいつもの言い訳を口にしようとしたら、す、と手を、取られた。 「!」 「来てください。」 掃除なんて後でかまいませんから。さあ。 ぐ、と手を引かれたら、逃げられるはずもなくて。…それがわかってたから、確実に捕まえられる方法を取ったんだろうけど。 彼に引かれて、歩く。強い手の、力。…男の人なんだなって、思ったりしたら失礼かな。 それにしても、何の話、だろう? 彼の後ろ姿を見つめても、わからない、まま。 しん。と重い沈黙が、部屋の中に満ちる。 …えーと。どうしたらいいのかな。 何の話、ですか?って、聞いただけ、なのに、な。 ちら、と見ると、彼は難しい顔のままで。 口を開こうとはしないので、ううん、と視線を部屋の中一周させて、窓の外へと意識を向ける。 あ、いい天気ー。 ……………。 オーストリアさあん…話してくれないと、ちょっと、居心地が悪すぎ、るんですが…。 「…ええ、と…。」 なんとか勇気を出して、声を出す。あ、そうだ。 「なんか飲み物!入れてきますね!」 じゃあ、と立ち上がると、待ってください!と大きな声。 ぱち。瞬いて見ると、あー。と、困った表情。 「…どうも…いけませんね、恋愛ごと、は、苦手で…。」 ……恋愛、ごと? 手で覆ってはいるけれど、隠れてない、赤く染まった頬。 ぱちぱち、瞬いて考える。…そんな、でも、だって。 ……言いづらそうな、こと。期待、してもいいのかな。 ねえ、オーストリア、さん。もしか、して。 ごくり。思わず唾を飲み込んで。 「…オーストリアさん。私のこと、どう思ってます?」 思い切って、尋ねてみた。 ぎょっとした表情をする彼。ちょっと、怖くなる、けど、深呼吸一度。 「私は、好きです。あなたが。」 あなたは、どうですか? はっきり言えば、目を丸くした後、困ったように笑った。笑った。その事実に、もしかして、という想いが強くなる。 「…先を越されるとは思っていませんでした。」 まったく。あなたには敵いません。そう、言って。 ぴん、と背筋を伸ばす。真剣な表情に、どきっとする。 「あなたが、好きです。ハンガリー。誰よりもずっと。…一生、そばにいてはくれませんか?」 …ああ、あなた、は。 つ、と頬を、流れる一滴。 「本当は、手を離すつもりだったんですよ。縁談まで用意して。…なのにあなたがあんな態度を取るから、離せなくなってしまいました。」 貴女のせいです。ああ、でも、それは、私にとってはうれしいこと! ああ、だって本当に、あなたが、あなたと、一緒にいられるだけで、本当に十分だったのに、ああ! 「ハンガリー。返事がありませんが?」 優しい声がそう告げる。こっち側に回ってきた彼に、そっと手を、取られて。 「…っ、もちろん、よろしくお願いします!」 一緒にいてください! 涙を拭ってそう答えたら、彼はほう、とため息をついて、優しく、手を引いて。 その体温に包まれる感覚に、幸せが満ちてまた、一滴、こぼれた。映っていた彼の形が、ぼやけて見えなくなる。 そのとき、きん、と小さな金属がぶつかるような音と。 扉が開く、音がした、気がした。 |