「、ん…。」 まぶしさに眉をひそめながら、目を開く。 …ここは。 「…オーストリアさんち…。」 見覚えのある部屋に目をこすりながら体を起こす。 応接室だ。…どうやら眠ってしまっていたらしい。まったく、彼の家で眠ってしまうなんて! しっかりしなくちゃ、と息をついて、…何かおかしいと、思った。 …なんだろう。この部屋?いや…いつもどおり…?でもない、かもしれない。少しずつ、何かが違う気がする。 たとえば、カーテンの色は同じでも、チェックのはずがストライプであるとか。 たとえば、私が持ってきたはずの花がないとか。 たとえば、見覚えのない絵が飾ってあるとか。 些細なこと。来ない間に模様替えしたのだと言われれば、そうなんですか、で終わってしまうような。 けれど、…なんだろう。違和感が拭えない。 それはまるで、初めて会う人の家にいるような、感覚が。 こんこん、とノックの音。 一瞬で姿勢を正し、身なりを整えてからはい、と応える。 かちゃ、とドアを開けて入ってくるのは、ここがオーストリアさんの家、であるならまあ当然だけど、オーストリアさんで。 オーストリアさんの、はずで。 違和感が、大きくなる。 まるで、初めて会うような。 『おまえが一番好きな人が、おまえに出会わなかった、世界。』 嫌いな声がそう告げたのを、思い出して。 「はじめまして。あなたが、ハンガリーですね?」 …冷たい目がまっすぐに、私を見た。 次へ |