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迎えたパーティ本番の日。
恥をかくわけにはいかない。オーストリアさんに迷惑かけるわけにはいかないもの、と気合いを入れる。メイクオッケードレスもサイズぴったり。
高く結った髪に、ドレスと同色の髪飾りをつけたら完成、だ。

ぱちん、とつけたところで、用意できましたか、と外からかかる声。今行きます、と返事をして。
鏡で最終チェック。…よし。
ドアを開けばきっちりと燕尾服を着込んだオーストリアさんの姿。…やっぱかっこいいなあ…

「行きましょうか。」
手を伸ばしてくれる彼に、そっと寄り添う。触れるときに一瞬ためらったけれど、ええい、と腕を絡ませて。



会場について、こっそりとため息。
こういうきらびやかな場所は、あまり得意とはいえない。とても、緊張する。
深呼吸したら、大丈夫ですよ、と声をかけられた。見上げると、優しい紫。
「…安心してください。私がいますから。」
ああ、不安になってるの、気づいてたんだ。その細かな気遣いがうれしい。
「私を、頼ってください。」
力強い声に、明るくはい。と答えて。
扉の向こうへ、足を踏み入れた。

足を進めると、視線が集まってくるのを感じた。ちら、と見る。…間違いない。みんながこっち見てる。
「やっぱりなあ、オーストリアさんかっこいいもんなあ。」
小さく呟くと、なに言ってるんですか、と呆れた声。
「皆あなたを見ているんですよ。」
「えっ、私どっか変ですか!?」
ぺたぺた頬に触れたり自分の体を見下ろす。…特に変なとこないと思うんだけど…

「いいえ。変なところなど。…あなたが美しいから、ですよ。」
「!そ、そんな、」
不意打ち!赤くなる顔を思わずそらす。
なのに彼は感嘆したように、息を吐いて。
あ。小さく、笑った。…まるでいたずらでも思いついたみたいな顔。視線を戻すと、まっすぐにこっちを見るから、思わず、たじろいだ。
「…踊りましょうか。」
「へ?はい?」
「私と踊っていただけませんか?ハンガリー。」
優しく微笑んで手を出されて。
…断る理由もなく。いやでも断りたい!できれば!心臓が壊れる!
でも…その手を取らないことなんて、できないもの、私…


顔近い体近いっていうかああもうかっっこいいなあ……!
ステップを踏みながら、は、と息を吐いた。心臓の鼓動がありえないくらい早い。頭がくらくらする。もう無理。もう限界。
なのに、彼はそっと顔を近づけてきて。
「あなたはやはり、青がとても似合いますね、とても綺麗です。」
「〜っ、あ、ありがとうございます…」
そう言うしかほかに、なくて。
くすくす。優しい笑い声。頬が火照って、熱くて仕方なかった。



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