.

ご飯の方も焦がしたりとかせずにできて。片づけ終わって、コーヒーを入れて彼の前に出したら、小さなため息。
「どうかしました?」
「ああ、いや。…一人でも大丈夫そうだな、と思って。」
浮かべる笑顔は、どこか悲しげで、どこか嬉しそうで。
一人。そうだ、一人、だ。これから。彼の隣にいる生活は、送れない。
遊びに来ることはもちろんできるけど。…それはやっぱり、今までとは少し違うもので。
寂しい。けれど、彼に心配かけちゃいけないよな、と思って笑って見せた。
「はい。一人でも、大丈夫ですよ。」
答えると、そっか。って。
一度目を閉じて、深呼吸をして。
差し出された手に、ぱちりと瞬いた。
「楽しかったよ、ありがとう。」
「、こちらこそ。」
その手を握って、浮かべた笑顔は…ひきつったり、してなかったかな?彼を不安にさせる表情じゃなかったかな。わからないけれど。



そうやって別れて、一年が経った。

何もなかった。何も。…というか一年、彼に会っていない。忙しかったのもあるけど、彼の家に行く勇気がなくて。…彼もうちには来てくれなくて。
残ったのは、思い出と欠けた鍵が一つ。
「…これもなあ…」
彼のそばにいなくなったからだろうか。…あれから、増えることは一度もなかった。だからまだ、欠けたままで。
…帰れないのかな。思って、深くため息。「…会いたい、な…」
会いたい。とにかくフランスさんに、会いたい。どちらの、とかそんな難しい話は置いておいて、彼に、会いたい。

そう思いながら机に突っ伏す。
それから、手を伸ばしたところにあった薔薇の花びらに触れた。
顔を上げる。一輪の薔薇。…毎日送られてくる、んだ。その総数364本。かれこれ一年間。…送り主は、彼、だ。
「…フランスさん…」
小さく呼んで、息をついた。その薔薇の意味を、教えて欲しい。期待していいのか、それとも。

今日はまだ、届いていない。365本目は、まだ。


独立一周年のパーティーはちょっと、忙しかった。
たくさんの人が来て、たくさんの国から手紙やプレゼントをもらった。

ただ一人、彼から、以外。
ため息。幸せが逃げるぞーなんて彼がいたら言いそうだけど、だっていないんだ!もー!

「薔薇も、来ないし…」
はああ、とため息をついて自宅へと辿り着いて。
目の前が赤く染まった。
「…え?」
「やあ、カナダ。」
耳を打つ声。それは、間違いなく、間違いようもなく彼のもので!
「フランスさん!?」
声を上げると同時に気づいた。視界を染めるのは、薔薇だ。大きな花束!
「そんな目まん丸にしてたら、落ちそうだぞ?」
くすくす、と笑いながら言われた。赤が少し遠のいて、現れる、綺麗な顔。…一年前まで毎日見ていた、愛しい人の姿に泣きそうになる。
「おめでとう、カナダ。今日で一年、だな。」
「はい。」
そうだ、一年。一度も、会えなかった。
会議とかも参加できなかったり、フランスさんの方がいなかったり、で。ずっとずっと会いたくて。
優しい笑顔に胸が満たされる。もう泣きそうだ!

「一年経ったら言おうと思ってたんだ。」なんだか晴れ晴れとした声が、そう告げる。なんですか?と首を傾げて。
優しい、笑顔。

「愛してるんだ、おまえを。比較なんてできないくらい、とびきりに。」

……え?
「嘘とか冗談じゃなくて、本気。」
カナダ。甘い声が名前を紡ぐのを聞いて。
ぼろり、と涙がこぼれた。

「泣くなよ…。」
頬を拭う指。感極まって抱きつくと、顔を上げて、と耳元で声。

「答えはもちろん、だよな?」
「…Oui」
泣きながら微笑んで、彼の言葉で返すと、言い終わる前に、唇を塞がれた。
間近な青い瞳に、目を閉じて。

その瞬間、きん、と小さな金属がぶつかるような音と。


扉が開く、音がした、気がした。