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その手元を見て、小さくため息。
「フランスさんってほんと器用ですね…料理できる上に裁縫までできるなんて。」
「今すぐお嫁に行けそうだろう?」
「誰のとこにですか?」
「もちろんカナのとこ」

へーと流すと、あ。流された。と声。
…こんな普通に会話ができるくらいに、なった。カナ、と呼ばれることも少しずつ増えて、…隙あらば口説いてきたり、セクハラまがいのことしてくるのにはまだちょっと慣れないけど。
少しずつ仲良くなっていく感じが、僕の知ってる彼じゃないんだと思うとちょっと落ち込むけど、でもちょっと楽しくもある。

「カナダ、そろそろ魚ひっくり返した方がいいぞ?」
「へ?あ、わわ…」
慌てて返すと、綺麗なキツネ色。
「…見てないのに何でわかるんですか…?」
「慣れだよ。」
楽しそうに笑う声。けれど、その視線は机の上から離れない。
彼が針と糸を出してきて縫っているのは、僕のシャツだ。
袖口のところを、木の枝に引っ掛けて破いてしまったのだ。
あちゃあ、と見ていたら、よし、じゃあお兄さんがどうにかしてあげよう、とフランスさんに言われて。
それでちくちくとフランスさんは細かい作業をしているわけだ。
ちなみに僕は、彼の代わりに夕食を作っているのだけれど…
「魚裏も焼けた?」
「えと、はい!」
「じゃあ皿に盛り付けたら完成。」
…どうしてこっち見ずに料理指導も並行してできるんだろ…
僕には絶対無理だなあと思いながら、魚を落とさないように皿に乗せて作っておいたソースをかけた。

「よし、こんなものかな。できたよ。」
「あ、ありがとうございます!」
皿を机に置いて、シャツを受け取る。広げて、ぱちんと瞬いた。
「わぁ…!」
破れたところを直すだけじゃなくて、綺麗に刺繍まで入ってる!
「ぱぱっとやったからあんまり細かくないけどな」
「そんなことないですよ、すごいですよ!」
ありがとうございます!と頭を下げると、どういたしまして、とくしゃくしゃ、と頭を撫でられた。
…そういえば、昔もこうやって直してもらったことあったな。少し思い出す。…僕がよく転んだりして、服破いたら縫ってくれて。そこに模様とか綺麗に入れてくれて。懐かしく思って、シャツを大事に畳む。

「じゃあ、祝・カナダの初料理を食べようか」
「あっ、う…あんまりうまくできてないと思います、けど…」
キッチンの方へ歩き出した彼を追って慌てて言う。フランスさんに食べてもらうレベルなんかじゃ全然ないと思う…味付けとかほぼ彼の指示通りだけど…
「そんなに難しいことしてないから大丈夫だって。……イギリスの影響受けてたらちょーっとやっかいだけどさ…」
行儀悪いけど、とひょい、と鍋に残っていたソースに指をつけて一舐め。どきどきしながら、んー、と呟く彼を見る。

「…ん。大丈夫大丈夫。おいしい。」
「いやでも、フランスさんの作ったのに比べたら…」
「そんなに自信ないなら教えてやろうか?料理。」
「えっ、あっお、お願いします是非!」
頭を下げて言えば、了解、と苦笑された。


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