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目が覚めたら、この悪い夢も終わってると、信じてたけど、そんなことはないみたいだった。
寝かされていたこの部屋だって、いつも僕が使わせてもらってたから写真とか生活用品あったのに…全部、ないし。
部屋の中で見つけた歴史書によると、子供の頃は、僕はずっとイギリスさんといたことになっているらしい。…あの短かったけど楽しい思い出がないと、僕とフランスさんに接点ってないんだなあと、しみじみ…してる場合じゃないんだってば。うん。

あのアメリカの顔した番人?はなんて言ってたっけ。元の世界に戻る方法。
「…鍵。」
そうだ。鍵。フランスさんの心の中にある鍵を集めなきゃいけないって…
…けど、心の中にあるものどうやって集めるんだろう?

「うーん…」
首を傾げて考えていたら、こんこん、とノックの音。
はい、と返事をすると、大丈夫か?とフランスさんが声をかけてきた。がちゃり、と開く扉。漂う甘い香り。…あれ?
「おーい」
「うぇっ、あっはい!平気です!」
慌ててそう返したら、そんなに慌てなくていいのに、とおかしそうに笑われた。その手は、お盆を片手で支えていて。
甘い匂いの原因は、その上に乗ったカップだ。
「ああ、これか?ほら。」
差し出されたそれを受け取る。…温かい。
「あ、ホットミルク…」
「ああ。飲めるか?」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
そう微笑んで、口をつけて、少し飲んで、その味にはっとした。

「これ…。」
「お。気付いた?」
「…メイプルシロップ…。」
しかもこれ、自分がいつも使ってるやつだ。間違いない。アンバーの、少し濃い味がミルクに溶けてじんわりと広がる。
どうして、と見上げたら、好きなんだろ?って言われた。
「イギリスからそう聞いてたから。」

…ああ、そうか。この人は。
『本当にカナダはこれが好きだなあ…』
そう言って、苦笑しながらホットケーキを焼いてくれた彼とは、別人なんだ。
寂しくなりながら、それでも、同じようにまたこれ使って何か作ってやるよ、と笑う彼が、やっぱりフランスさんらしくて。

「…ホットケーキがいいです。」
「ん?」
首をかしげた彼に、そっか、彼の家だったらクレープみたいな薄いのの方がメジャーか、と気付いて説明する。
「卵と小麦粉と牛乳とベーキングパウダー混ぜて焼くんですけど、ちょっと分厚めに焼いて、焼きあがったあつあつの上に切ったバター乗っけて、その上からメイプルシロップたっぷりかけて食べると、すっごくおいしいんですよ。」
「へえ…それは想像しただけでうまそうだな…。よし!お兄さんが腕によりをかけて作ってあげよう!」
お兄さん料理は得意なんだから、と笑う彼に、楽しみにしてます、と笑って返した。
その材料ならあるからすぐ作れる、と歩き出した彼をベッドに座ったままみていたら、ああ、そうだ、カナダ、と呼ばれた。振り返るときにさら、と金色の髪が揺れる。


「はい?」
「これから、よろしく。」
ぱちん、とウインクして差し出された手に、こちらこそよろしくお願いします、と言って、その手を握った。


ドアが閉まった後、いつのまにか、自分の手のひらに何かが握られているのに気がついた。
「…これは…?」
…何か、金属の一部分。…アンティークの鍵の先端のようだ。
鍵。
気付いてはっとする。…これが、元の世界に戻るための、鍵。




『鍵のかけら』を手にいれた!



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