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ケーキに思いのほか時間がかかって、晩御飯は二人で作った。やっぱり彼の手さばきはさすが、だ。もう僕にできることと言ったらお皿用意したり、とかしかなくて。
ううん…なんでフランスさんはあんなに簡単にやってしまえるんだろう…彼は経験の差だ、なんて言うけど、僕時間が経ったらあれできるようになってるとは思えないもんなあ…。

考えながら料理が綺麗に飾り付けられた皿の乗ったお盆を運んでいると、段差に蹴躓いた。
「わ、わ!」
「っと。」
すぐにがっしりと腰を抱きしめられた。それで、なんとか盆の上の料理は無事で。よかった…とため息。

「大丈夫か?」
「はい…すみません」
「気をつけろよ〜?」
もう。と笑われてはあい、と返す。
「そんなじゃいろいろ心配だなあ…」
これから一人で暮らすのに。言われ、一瞬つまって、それからそうですね、と呟く。…ひとり、ひとりかあ…

「うーん…」
考え込むような声に首を傾げる。どうかしたんですか?と声をかけると。
「やっぱり離したくないな…いつでもうちにおいでよ、カナダ。」
おまえはどこにいってもうちの子だから。

そう、言われて。ああ…と残念に思った。…うちの子。それはうれしくないわけじゃあないんだけど…だって…
本当は、家族よりもっと、親しい仲になりたいんだけど、なあ…。
「カナダ?」
「もちろん、来ます。よろしくお願いしますね?」
笑顔を作って言えば、もちろん。とうれしそうな顔。
「じゃあこれ、運びますね。」
「転ぶなよ。」
「もう転びませんってば。」
そう答えて、テーブルの方へ向かう。
物陰に回ったときに、こっそり、とため息をついた。


瞬間、周りの音が消えて、

扉が閉まるような音がした、気がした。