.

かつ、こつ、と歩く音が響く。 どこまでも続いていそうなレンガの壁に手をついて、まっすぐに道を歩き続ける。 手に持ったランプだけが、唯一の灯りで。 ここがどこかもわからないまま、ただ歩き続ける。 「…あ。」 しばらく歩いた後、道が終わっているのが見えた。駆け寄る。 …扉だ。鉄の扉が、そこにはあって。息をのんで、そこに手をかける。 ぎいいいい、と軋むような音がして。 ドアが、開いた。 「やあ！」 「…アメリカ…」 無駄に元気なその姿に、思わずため息。そうだよなあ、こんなわけわかんないことするのアメリカだよなあ。 「違うんだぞ、俺はここの番人さ！」 「はあ？」 「俺たちは、姿を持たないからね。借りたんだ。」 「？？」 よくわからないながらにうなずいて、でここ、どこ？と尋ねる。 見たことのない場所だ。暗くて狭いところ。赤いレンガが、延々に続く通路の先。 …確か僕、普通に自分の家で寝てたはずなんだけど…。 気づいたら、ここにいた。歩いていた。歩かなきゃって思って、ここにたどり着いた。 「ここは入り口さ。」 「入り口？」 「そう。ほら。」 指すのは、ひとつの、おしゃれな扉。 綺麗な装飾とステンドグラスがはめ込まれた、アンティーク調の美しい扉。 「ここから先の世界は、君がいる世界に似ているけれど違う世界だ。」 「違う、世界？？」 「君が一番好きな人が、君に出会わなかった、世界。」 好きな人。そういわれて、ぱっと浮かぶ姿。 「…フランスさん…」 そういうこと。とうなずかれた。フランスさんと僕が、出会わなかった、世界。 幼いころに出会った、少しの間だったけれど一緒に暮らした、あの時間がなかった、ってこと？ 「元の世界に戻るには、一番好きな人が心の中に持ってる鍵の欠片が必要なんだ。」 「鍵の欠片？。」 「そう。それを集めて、鍵にしないと、君は元の世界には帰れないんだ！」 「ええっ！？」 帰れないって何！？とアメリカを振り返ったら、がたん！と音がした。 前をみると、ぎいい、と、ドアが開きはじめていて。 風が吹き荒れる。立っていられないほどの、風。ドアの方に、吸い込まれるみたいに、体が浮いて。 「え、何、え！？」 「そばにいれば自然と集まるさ。」 じゃ、Good Luck！と楽しそうな声に見送られて、抵抗する間もなく。ドアの向こうに。 堕ちた。