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この世界には魔力、というものがある。
魔力はもちろん魔法を使うための力なのだけれど、それだけじゃなく、力を補助するためにも使えるのだと知ったのは、知り合いのおかげだ。

「俺様なんかは、潜在魔力が強すぎて。小さいころは、力の制御ができなくて、よくもの壊したりしてたもんだけどな。まあ俺様は天才だから!すぐに使いこなせるようになったけどな!はははははは!」
とかなんとか。

それのおかげでパワーが足りないと言われていた自分も、友人二人と肩を並べる程度には強くなった。
けれど別に強くなりたかったわけではなく、俺の目標は美しく戦うことなので、別に根性あるやつはかかってこいみたいなそういうのをしたいわけではなかったから、そんな感じの二人とは、別行動をとることも多く、旅の途中で、目的もなく歩き回って美しい人や風景を探すのは、習慣に近いものになっていた。


そんなある日、ある田舎町で、寄るところもないし、で山の中へと入ってみたときのこと。
手付かずの自然がこれだけ残ってれば大したものだと思いながら、歩いていると。
小さく、人の声、のようなものが聞こえた。
かすかだけれど。…泣いている、のだろうか。
ひく、としゃくりあげるような声に、ゆっくりとそっちへ足を向ける。
大きくなる声は、女性か、子供か。
「…どっちにせよ綺麗な子だといいねえ…。」
そう呟いて、木に手をかけ、のぞきこむと。
木の反対側にしゃがみこんでいた子供が、びくり、と顔をあげた。

なんて大きな瞳なんだろうと、思った。
零れ落ちてしまいそうな輝きに、思わず手を伸ばして。

「っ触らないでっ!」

叫びと同時に、ばちん!と見えない何かに手がはじかれた。
「!?」
「あ…。」
くしゃくしゃに顔を歪めて泣き出してしまったその子を見て、大丈夫だから、とそう声をかける。

「ご、ごめんなさい…!ぼ、僕、う、うえええ」
「あー。平気だ。な?」
そして考える。…今のは、魔力だ。スペインとかがよく使う、衝撃波のたぐい。
それと、この子の、故意にしているのではなく、したくないのにしてしまっているような、雰囲気。

「僕こんなことしたくないのに…っ!みんなはじきとばしちゃ…っ!」
うわああん、と泣き声を上げる小さな子供に、そっと手を伸ばす。
「や、やだ!」
また、衝撃波が襲う。…けれど、あらかじめ予想できていれば、怖くない。
それをかわして、ひょい、と膝の上に抱き上げた。…軽い。
びっくりしすぎたのか、涙の止まった瞳はまん丸に見開かれている。
落ちそう、と思ってその目尻にキスをした。

「ふえっ!?」
「っと。」
また来た衝撃波に、今度はさすがによけられず、自分の防御に回した魔力を少し強めた。それだけで霧散する力。
何も起こらないのが不思議で仕方がないのか、ぱちぱちと見上げてきて。
プロイセンが言っていた、自分で制御できない状態、というのはこういうことだろう。感情が高ぶると自然と発動してしまう力。

「手。」
「て?」
「あわせて。…そう。」
彼の両手を胸の前で合わせるようにして、わ!と怒鳴る。
びくっと震える体。けれど…衝撃波はこない。
「…??」
「力を循環させてやったんだ。少し練習すれば、手を合わせなくてもできるようになる。」
「???」
わからない、と見上げてくる視線に、だから、と笑った。

「もう誰も、傷つけなくてすむんだ。」
教えてやろうか?そう軽く口にする。簡単なんだ、方法は。

その途端、彼の目からぱたり、と涙があふれた。
「お、おい」
「…ふぇ、え…っ」
泣き出した彼にどうしたら、と思っていたらぐしぐし、と涙を拭って、ほんと!?と叫んだ。

「え?」
「ほんとに、教えてくれるの?」
うなずいたら、ふにゃり、と笑った。
その笑顔のまぶしいこと!

「僕、カナダ!」
「カナダ、か。よろしく」
「うん!よろしくお願いします、センセー!」
「先生?」
後にも先にも、俺のことを先生、なんて呼ぶのはカナダ一人だった。



…小さなカナダ。昔の話だ。十年以上前の、思い出。忘れられない人。一緒にいたのは、そんなに長い期間ではなかったのだけれど。よく思い出したりするのは、年取ったからかな。
あの頃一緒につるんでいた二人とも別れて、一人で旅をはじめてしばらく経つ。

あの子は今どうしてるのかな、なんて考えて笑って。
「…先生?」
後ろから呼びかけてきた声に、固まった。


うわあ、先生だ、ほんとに先生だった、とはしゃぐ少年―いや、すでに青年か。当時からは想像できないカナダの姿が、目の前にあった。
一緒にいたのはわずか三日。三日目の晩に、喧嘩っ早い馬鹿二人が、武闘大会五連覇目いくぞ!とかって出発することに決めてしまったから。
けれど、その姿ははっきりと覚えている。…挨拶もなしに別れてしまったから、それが気になっていたのかもしれないけれど。
小さな子供は、守ってあげないと壊れてしまいそうな宝物のようだった。

では目の前の青年はカナダと似ても似つかないのかというとそういうわけでもなくて。
柔らかそうな細い金色の髪。こぼれ落ちそうな瞳も、そのままだ。メガネはかけてはいなかったけれど。優しい雰囲気も、はにかむような笑顔も、そのまま。

ただ。とカナダが隣に立てかけた大きな包みをちら、と見る。長いそれは、形状から言って剣だ。かなり大きな、大剣。…似合わないけれど、それを使って戦ってきたのだろう。まだ若くて、青い、剣士の雰囲気を身にまとっている。守られるだけの子供の頃は微塵も感じなかったものだ。

「お久しぶりです!」
はにかんだような笑顔に、思考の海から戻って、久しぶり、と返す。
「どうしたんだ、こんなところで?」
ここは彼と出会った町からは遙か遠い場所、だ。
「旅の途中、です」
いろいろあって、と笑ったカナダが、少し寂しそうだったから、それ以上は触れないでおこう。
「そっか。1人で?」
「あ、はい。最初は二人だったんですけど…」
置いてかれました、と苦笑するカナダに、ひどいやつだな、と眉を寄せる。
「まあ、いつものことです。先生も1人ですか?」
うなずいてコーヒーを口に運んだ。
それから、他愛もない話をした。旅の途中のエピソードなら、俺にも、彼にも、つきないほどにたくさんある。
それで笑いあっているうちに、ふ、と言葉がこぼれた。

「ごめんな、置いていって。」
「え。」

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言われたカナダも目を丸くしていたけれど、俺もまさか、そんなことを言うなんて思っていなくて思わず、口を押さえた。
「あー…いや…」
意外と気にしてたんだなあなんて、他人事のように思って、なんて言おう、と言葉を探していると、カナダが柔らかく笑った。

「そりゃあ、いなくなったって聞いた日は泣きましたけど。」
「うっ…」
そうか。泣いたんだ。罪悪感にぐっさりと胸を刺されてつっぷすと、子供のわがままですよ、と彼は笑った。
「気にしないでください。…それに、あなたがあの時、行ってくれたから、今の僕があるんです。」
「?」
どういう意味だ?と首を傾げると、見に行ったんです。あの年の武闘大会の、決勝戦。という返事。
「え!?」
あの年の、…なんか変なことしてないか、と即記憶を探る。あの年、ってことは…いや、いや!大丈夫。口説いたのはたしか準決勝の相手のレディだし、決勝はなかなかいい感じにかっこよく、終わった、はず。よし。大丈夫大丈夫。優勝後のコメントも変なことは言ってない、はず!

「優勝したときの先生の姿は、子供の僕にとっては、かもしれないですけど、英雄みたいにかっこよかったんです!そのときに決めたんです。将来は、剣士になろうって。」
反対されましたけど、もう心は決まってて。
そう嬉しそうに言われて、なんだかこそばゆい気分になる。
「だから、あなたのおかげで、今の僕がいるんです。…ありがとうございます。」
「俺は何もしてないよ。」

苦笑する。今のカナダを作ったのは、カナダ自身だ。俺のことはきっかけに過ぎない。
「そんなことないですよ!僕本当に憧れて、先生に追いつきたくて…あっ!あの!」
「ん?」
何?と首を傾げると、いきなり彼はがたん!と立ち上がった。

「あの!僕のこと、弟子にしてくれませんか!?」

…いや、そんなに勢い込んで言われても、ねえ…。
「弟子、なんて取れるほど極めてないよ。」
我流だし。戦斧を毎日のように振り回していた戦闘馬鹿なスペインや、騎士の一族の出身らしく基礎からしっかりしているプロイセンのように、本気でやっているわけでもない。ただ自分の身と、あと可愛い女の子がかっこよく守れたらそれでいい。そういう剣術だ。

「でも僕、その、」
諦めきれない、といった様子のカナダ。…弟子は、取る気ないんだけど…うーん…
「んー…じゃあ、こうしよう。」
ついておいで、カナダ。そう言って、きょとんとした表情の彼を連れて、歩き出した。



きん、と金属の立てる鋭い音がする。
「ふっ、」
一息の呼吸だけで、その剣を振り回せるその体力には驚いた。見た目より、ずっとパワーと持久力が、ある。
一本勝負しよう、と持ちかけたのは俺だけれど、絶対すぐ負けます、と彼が渋っていたとおり、すぐ終わると思っていた。
けれど。これがなかなか。

片方の剣だけで重い斬撃を受け流し、その背後に回る。すぐに衝撃波による追撃。…センスは悪くない。基礎もしっかりできている。ただ、経験が足りない。剣筋がワンパターンすぎる。
そう思いながら、小さく笑った。よし、決めた。

そして、一瞬の隙に踏み込んで、剣を潜り抜けて、ぐ、と顔を近づけて。
「っ!」
ちゅ、と音を立てて鼻の頭にキスをした。
「わ、わ!」
びっくりしたのか、バランスを崩したカナダはどさ、と尻餅をついて。がらん、と大剣が、土の上に落ちた。

「はい。終わり。」
「…やっぱり強いですね…。」
困ったような、諦めたような。そんな笑顔を浮かべた彼の前に剣を収めてしゃがみこむ。
「…大人しく諦めます。もっと強くなって、それで、」
言いかけた彼の口に人差し指を当てた。なんですか?と言わんばかりに首が傾ぐ。

「いいよ。一緒に行こう。」
「!ほんとですか、先生!」
「ただし!…その先生、っていうのは、ナシ、な?」
どうして?と聞かれて、言ったろ?弟子は取るつもりないんだってと笑う。
「俺のバディとして、なら、一緒に連れて行くけど。」

どうする?と尋ねる。彼は、びっくりしたように目をまん丸にして。
落ちそう、とその目尻にキスを落として、ああ、あの時と一緒だ、と思い出した。
初めて会ったときも、そんな風に、こぼれ落ちそうな目で、俺のこと見てた。

「どうする?」
もう一度尋ねると、彼はくしゃ、と泣きそうに微笑んで。
「よろしくお願いします、フランスさん!」



「…ほう。よくわかった。つまりは、おまえがカナダを誑かしたんだな?」
「……なんでそうなるんだか…。」

聞きたい、というか脅しに近い勢いで聞かせろって言ったのはおまえだろ、何でそんな怒ったオーラにあてられなきゃいけないのお兄さん、とぼやく。あーあ、カナダはあんなにかわいいのに、ほんっとこいつとは気が合わない!
目の前に座ってにらんでくる、イギリスをちら、と見やってため息。

「おまえのせいだろうが!だいたい俺はカナダが剣術の世界に入るのも反対だったんだ、なのにおまえが!」
「それを決めたのはカナダ。」
「きっかけ作ったのはおまえだろ!」

ああもう何が何でも俺のせいにしたいらしいなあ、と立ち上がった彼を見上げて、今にも抜き放たれそうな剣に、す、と椅子に置いた剣に手を伸ばして。部屋の中でケンカすると怒られるんだけど。ああでも、ふっかけてきたのこいつだし。いっか。

そう考えながらイギリスの出方を見ていると、ばたん!と大きな音を立ててドアが開いた。
「大変です!」
からん、と鳴ったベルの音と共に聞こえてきたのは、他でもないカナダの声で。

「どうした?」
「山から魔獣が下りてきてて…!それが結構固くて、全然歯が立たなくて、」
今ドイツさんとイタリアさんが足止めしてるんですけど、かなり厳しくて、と息を切らせて報告するカナダに、コップに水を注いで渡す。
ありがとうございます、と言って飲み干すのを横目で見ながら、剣を装着。戦闘準備を手早く終わらせる。

「どうするんだ?リーダー。」
指示を仰げば、顎に手を当てて考えていたイギリスは、電話を取った。
「オーストリアと日本を呼び戻す。魔法で仕留めた方が確実だろうからな。隣町だから少し時間かかるから、おまえらは足止めしろ。ドイツたちは、念のため北区画の避難誘導しろと伝えてくれ。」
「了解。」
答えは二つ。カナダが息を整えるのを待って、ドアを開く。

「無理はするなよ、特にフランス!カナダに無理させたりするなよ!」
「へいへい。」
過保護な言葉に適当に返事を返して、俺の信頼するバディの肩を叩いて、街へと飛び出した。

「いくよ、カナ。」
「はい!フランスさん!」



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オーストリアから呼び出しの電話を受けて、がちゃり、とギルドのドアを開けると、珍しくそこにはフランスの姿。
「おう、おはようドイツ」
「ああ…オーストリアは?」
聞くとくい、と親指で上を指して。
「来客中。」

こんこん、とノックすると、入りなさい、と声。
そのなんだか疲れ果てたような声を不思議に思いながら、開けると。

「ようヴェスト!」
目の前にあった銀と赤を認識した瞬間にドアを閉めた。が、行動を読んでいたのか、閉まりきる前に足が差し入れられる。
「逃げんなこら!」
少しづつ開いてくるドアを、なんとしても開けさせないように思い切り引く。

「嫌だ!」
「せっかく久しぶりに兄貴が会いに来てやったというのにおまえは…!」
「どうせ、またロクなことじゃないんだろう!」
ぎしぎし軋むドアを挟んで力比べ状態になっていると、オーストリアが呆れたようにため息ひとつ。
「やめなさい、ドアが壊れます。」


しぶしぶ部屋に入ってソファに腰掛ける。オーストリアが電話でイタリアは置いてこいと言った理由がわかった。よくわかった。
「それでな、ヴェスト」
「断る。」

即答する。どうせまた面倒くさいことを頼むつもりなんだろうから。もういつもそうだ。昔っからそうだ。子供のころ、コードネームで呼び合うとかいう遊びをしだして、俺のことをヴェストと呼ぶようになるより前から、ずっと!
「そんな即答するなよ〜俺とおまえの仲だろ?」
「仲というなら、家族という名の他人だが、何か?」
はっきり言っておかないとダメなのは経験上わかっている。絶対嫌だ。だいたい兄貴の『頼み事』は、超が五個くらいつくくらい面倒くさい。
せっかくここでの生活にも慣れてきたところだというのに!

「ぐ…、…ふ、ふふふはははははは!」
「何だそろわざとらしい笑い声は…」
「甘い、甘いぞヴェスト!」

ああそうか。言いかけて、目の前に突き出された紙に、一瞬ひるんで、なんだこれはてひったくった。
「ギルドの依頼書じゃないか…依頼人、プロイセン、内容、詳細は口頭にて…これがな、」
一番下まで見て、気づいて、絶句。思わず額に手を当てて、犯人の名前を呼ぶ。

「オーストリア…!」
「…すみませんねドイツ。がんばってきてください。」
自分が巻き込まれるのが嫌だからといって、勝手に人の名前で依頼受領しないでもらいたい!視線を逸らすな、ああもう!

「これでも一応、軍からの正式要請だぜ?」
これで逃れられないな。と、楽しそうに、いらっとするほど楽しそうに兄貴は笑った。



→ぬるいんだよ に続く



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「それで?」
「それで、イタリアちゃんに会わせろって言ったら絶対嫌だとか言い出してさ。ちょうどハンガリーも帰ってきて、」
「ギルドを追い出されたってわけだ。」
プロイセンの言葉につけたすと、スペインは目を丸くした。
「なんや、ハンガリーとも知り合いなんか!」
世間は狭いなあと、スペインは笑って、ほんとにな。とプロイセンがぼやく。
「弟に会いに来たはずなのに、何でまたおまえらとつるんでるんだか」
「プロイセンが勝手についてきただけやん」
「そうそう。お兄さんたちはこれでもお仕事!」
そう言いながら、剣に触れる。固い感触を確かめる。スペインも肩に戦斧を担ぎなおして。
けれど、仕事の場所まではまだ距離があるし、今から緊張したって始まらない。だから、どうでもいいことをくだらなく話して。

「なあ、イタリアちゃんってどんな子?」
「かわええで?」
「うん。かわいいな。明るいし、料理も歌も上手だし。」
「ちょっと頼りない感じも、こう、庇護欲?ってやつをかきたてるっていうか、」
「そうそう!」
「マジかよ、くそーヴェストのやつ…!」
そんないい子兄に見せないとは何事だ、と振り返っても見える訳のない、森の向こうの街を見て呟くのを聞いて、スペインと顔を見合わせて噴き出した。そんないい子だから、見せたくないんだと思うけど、わかってないんだろうなあ。

「…楽しそうだな。」
「ん?」
何か言うた?とスペインが聞き返すと、プロイセンは小さくため息。
「毎日、こんな感じなのか?」
「そうやなあ…まあフランスと組むのは珍しいけど。」
「だいたいこんな感じだな。」
スペインとうなずきあう。
だいたい、ギルドに行って、みんなとしゃべって。それから依頼をこなして、その間も話はつきなくて。笑って怒って、まあ泣くこともたまにはあって。
ここでの生活はだいたいそんな感じだ。たまに、強い敵を相手にしないといけなくて、ぴりぴりする緊張に包まれることもあるけれど。

「…いいなあ、毎日楽しそうで!」
あーあ!といきなりプロイセンが大きな声を出した。そっちは楽しくないの。聞けば、やっかいごとばっか。とつまらなそうな返事。
「やったら、来ればええやん。」
だいたいプロイセンに軍のお偉いさんなんて似合わへんわ!スペインが笑いながら言うのに、彼は目を閉じる。
「…そもそも、何で戻ったんだ?」
三人でつるんでいたころは、家出して、もう二度と戻らねえって言っていたくせに。バラバラになって、次に会ったときには戻っていた。
今だって、似合わないかっちりした軍服を肩に羽織っている。権力の象徴。…好きじゃないと言っていたのに。
「……外からじゃ、変えられないこともあるって、わかったんだよ。」
言う言葉は、らしくもなく、真剣で。
何を言ったらいいのか、と考えていると、よーわからんけど。とスペインが首を傾げた。
「つまり、ギルドには来ないんやな?」
「行かねえ。俺様が決めた道だ。最後まで走り抜いてやるよ!」
俺様かっこいいだろ!と笑う姿は、すでにいつも通り。やれやれ、と苦笑して。


ぐる、と低いうなり声を聞いて、足を止めた。
「スペイン、依頼内容確認。」
「数週間前からここに住み着いた魔獣の群の殲滅、っておー…多いなあ…」
低くうなり声をあげてこっちを睨んでいるのは一匹じゃない。かなりの数の魔獣で。
しゃべりながら歩いているうちに、巣の真ん中まで来てしまったらしい。左右にも、後ろからも感じる気配に、合図もなしに背中合わせに三人、戦闘態勢をとる。
「プロイセンもやるん?」
スペインが重い戦斧を振る、音。
「ま。暇つぶしにはなるだろうからな。」
プロイセンが腰の剣を引き抜く、音。
「足引っ張るなよ〜?」
「は!どっちが!」
俺が2本、剣を引き抜く、音。
「ぬるいんだよ。こんなの楽勝だって!」
「気抜くと足すくわれるで〜」

まったく…慣れという奴は恐ろしい。背中を預け合うのは本当に久しぶりだというのに、武器を構えるタイミングは昔通りだ!

武器を構えて、飛び出すチャンスを見計らう。前だけ、自分の間合いの範囲だけを考えていればいい。それ以外は、どっちかがどうにかする!
「じゃ、しとめた数一番少なかった奴夕飯おごりな!」
「水増しすんなよ」
「誰に言うてるんや!」
くだらない言い合いをして。一呼吸。
ふりかえらなくてもわかった。走り出したのは、同時だ!


→連絡なしで二週間経過。 に続く


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ひゅ、と風を切る槍。けれど、最初の時より鈍くなったその切っ先は、何をとらえるわけでもなく、地面に近づいて。くるり、回転して、また牽制するように振り下ろされる。
ぴたり、と地面に平行で止められたそれは、けれど敵への威嚇にはならなくて。

「やっと追いつめたぞ!」
声と、敵の笑顔に舌打ち。ちらと振り返ればそこは厚い壁。前にはかなりの数の追っ手。…まったくついてないというか。まあ、オーストリアさんを逃がすっていう当初の目的は達成してるからいいけど。

思いながら体をずらす。が、向けられたいくつもの銃口はぴったりついてくる。
それでも絶望は感じないし諦めるつもりもさらさらない。
さあて、どうやって切り抜けようか!

「おとなしく観念しろ!」
強い声を出したリーダーっぽい男をちら、と見て。
風が変わったのに、気づいた。
「…観念した方がいいのは、そっちよ。」
「は?」
何を言ってるんだか、みたいな笑いが起きる。けれど、こっちの勝ちはもう確定。ご愁傷様!
「早く捕らえろ!」
その声とともに手が伸びてきて。

私に届く前に、しゅる、と闇に巻き取られた。
「!!」
「なんだこれは!」
敵の全員の体に巻きつくのは、闇だ。捕まっているのに掴めない、その物体に全員が捕らえられて転がされていく。
「ね?言ったでしょ?」
そう肩をすくめて、槍を降ろす。
床も壁も天井も、真っ黒だ。闇はきっと、この建物全体を覆い、敵を捕らえているのだろう。
足を踏み出すのも躊躇われるような、深い闇。足が沈んで動けなくなりそうな(そして周りでは実際にそうなっている)、底なし沼。

けど怖くない。だって。

かつ、こつ、と足音が響く。
「迎えにきましたよ、ハンガリー」
闇の中に立ち、手を伸ばす彼の姿。それは水面の上に立っている、ように不思議な光景。だけれど、不思議じゃない。
だって、これは彼の魔法だから、彼は呑まれない。そして、私も。
「少し遅くなりましたかね。」
「いいえ!」
タイミングぴったりです!
言って、何の迷いもなく、その手に向かって、闇の中へ足を踏み出した!




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「なんて罪深いことでしょう!」
そう、シスターは子供を腕の中に抱きしめて言った。
き、とにらみ上げるのは、銃を抱えた、マスクをした男たち。

子供たちと遊んでいる途中で押し入ってきた、男たちを彼女は恐れず、子供たちを背に、腕の中に守ってみせた。
強い視線に、彼らは少し、たじろぐ。

「っ、悪いが、その腕の中の娘をいただこうか」
びくん、と震えたのは、小さな少女。…この近くの大富豪の、一人娘、だ。…誘拐して、身の代金。筋書きとしては陳腐なものだ。

震える少女を、シスターが抱き寄せる。
「嫌です。」
はっきり答えられて、リーダーらしき男は、頬をひきつらせてシスターに銃口を向けた。上がる、子供の悲鳴。

「ああ、我らに神のご加護を、」
そしてこいつらの、とシスターは呟く。

「脳天に、ハイキックを。」
「は?」

男が思わず声を上げた瞬間、視界の端に何か映った。
彼には認識できなかっただろうが、それは、ブーツの裏で。

「よっ…と!」
窓際から一瞬で距離を詰め、軽いかけ声で、大の男をハイキック一撃で蹴倒したのは、子供たちと遊んでいた奥方…に扮した、カナダだった。
「大丈夫ですか?ハンガリーさん。」
そうシスターに尋ねれば、頭からかぶっていたヴェールを外して、ハンガリーはもちろん、と笑った。

「な、なんだおまえら!」
いきなり倒れたリーダーに、唖然とするしかなかった仲間達が銃を向けてくる。
それが2人の方を向く前に、たん、とハンガリーは跳んだ。
着地するのは、構えられたライフルの上。

「ギルド、よ。」
ハンガリーは空中にいた間に取り出した組立式の槍の先を敵に向けて笑い、
「観念したほうが身のためですよ?」
その後ろでのんびりと言いながら、床に寝かせていたケースから、身の丈より大きな大剣を取り出した。

「カナダくん、あんまりご近所迷惑にならないようよろしく!」
「了解です!」
それだけ会話を交わして。


その後は、子どもたちにとってはヒーローショーのようで、犯人達にとっては地獄の再現、のようだったという。



(カナダがきっと大人気!でフランス兄ちゃんが妬いたり、なんたり)


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