※自分設定による学園パロディなのでご注意ください。




朝、七時十五分起床。
眠いが、体を起こして、机の上の携帯をとる。
電話番号を履歴から呼び出し、かける。相手は出ず、留守番電話サービスに繋がったが、気にはしない。
電話切って、制服に着替えをし、パンを焼きながら、歯を磨いて、キッチンに戻って、昨日の夕飯の残りのスープを温める。

七時半、ちん、とパンが焼けてから、スープをよそって、いただきます、と手を合わせ、食べる。
食べ始めてから、もう一枚パンを焼く。
そそくさと食べ終わってから、レタスやハム、きゅうりを取り出し薄く切り、手頃な大きさにちぎる。
本日二度目のパンの焼ける音を聞いてから、持ってきていた携帯で、さっきと同じ番号に電話をかける。
今度は、十回呼び出し音がなる前に、ぶつん、と切れた。
はあ、とため息をついて、携帯をしまい、焼けたパンを取り出して、半分に切る。
バターを塗って、野菜、ハムを乗せて、パンで挟む。

七時五十分。作った簡易サンドイッチを袋に入れて、昨日用意しておいた鞄の中身を確認して、鍵を二つ取り出して、鞄を背負う。

七時五十五分。手には二つの鍵と、サンドイッチ。
「いってきます。」
誰もいない家に告げ、外に出て鍵をかける。
そして、アパートの廊下を歩き、二軒となりの前で足を止める。
うちの家の、ではない鍵を差し込んで、がちゃん、と開く。
ドアを開け、玄関で靴を脱いで、中に入り、勝手知ったる中を歩いて、一つのドアを開く。
カーテンの隙間から光の漏れてくる部屋で、携帯を片手に持ったまま、裸で眠る男の姿。

八時ジャスト。すう、と胸一杯に息を吸い込んで。

「起きろイタリアーっ!!!」
怒鳴った。


八時十分、なんとか着替えさせて下まで連れてきたまだ半分以上寝ている友人を自転車の後ろに乗せ、サンドイッチをそいつの口につっこんで、自転車に乗り、本気でこぐ。


八時二十分、校門をすり抜け自転車置き場へ。やっと目の覚めたらしいイタリアとおはようと挨拶をして、教室へ。

八時半、教室に入って自分の席に座ったところで、授業開始のチャイムが鳴った。






一限、理科

「…となるわけだ。わかったかー?」
白衣をばさ、と翻しての、返事はー?という明るい声に、はーい、と声が返る。
その中に、返事を返さない生徒もまあ半数はいて。かわいくないねえ、とながめると、その中に、つっぷしたまま動かない生徒を一人発見した。
くす、と微笑んで、つかつかと歩く。

「…お兄さんの授業で居眠りかい?イタリア?」
耳元で囁くと、ヴェ?と特有の声を上げて突っ伏していた少年から青年へ変わる途中の男子が、のろのろ、と顔を上げた。

「あれー?フランスせんせ?」
「おはよう、イタリア。」
「おはよーございます〜…」

へら、と笑うイタリアの顎をするり、と撫でて、フランスは微笑んだ。
「イタリア…おまえは、そうか、お兄さんの個人授業が受けたいのかな?」
「ヴェ?」
首を傾げるイタリアに、フランスはにっこり微笑んで。
「今日、お兄さんの家で、個人授業、といこうか?」

その途端、がたたん、とフランスのすぐそばで、机が振り上げられた。

「おまえは一度死んでこいこっのエロ教師ーっ!!」

机を頭上に振り上げ、うがあ、と吠えたドイツ。
このクラスでは当たり前の光景。

どたばたん、といった途端に、キーンコーンカーン、と授業のチャイムが鳴った。






二限、職員室風景

「うー…頭痛い…」
「お疲れさまです。」
苦笑した向かいの席の姿に、日本せんせ、と呼びかける。

「なんでイタリアとドイツが一緒にあなたのクラス何ですかね?」
「そんなのあなたがいるからに決まっているじゃないですか。」
しれ、とした言葉に、あ、やっぱり、と笑った。
フランスの頭には、こぶが一つ。
さすがに机でなぐるのは止めた(というかさすがに死ぬから、と周りのクラスメートに止められた。)けれど、思いっきり頭突きを食らわせたドイツのせいだ。

「はー…風邪でも引いて休まないかねぇ、あいつ」
「教師としてあるまじき発言は止めてくださいね、フランス先生。…あと。」

もしドイツくんが休むとして、イタリアくんも看病と称して休むに決まってるじゃないですか。

日本の言葉に、ものすごく納得したフランスだった。







三限、古典

「…となるわけですね。では、次の問を…ロマーノくん。」
日本の冷静な声に、はっとロマーノが体を起こした。
明らかにさっきまで寝ていた人の顔だ。顔に、服のしわがうつっている。おまけによだれまで。
「できるだけ寝ないでくださいね。」
「…すみません。」
ロマーノが、隣の席のハンガリーに、今しているページを教えてもらっているのを確認して、それじゃあ、この問題、わかる人、とクラス全員に呼びかけた。

手が上がる条件は、二つ。一つは、まじめに予習をしてきていること。
もう一つは、その回答に自信があること。
このクラスで、その二つを満たすのは。

上がる手は、一つ。

予想通りの人物に、日本は、やっぱり、と思いながら、その生徒を当てた。
「イギリスくん、お願いします。」
黒板を指すと、イギリスが立ち上がった。

生徒会長にして、この学校きっての秀才、イギリス。
最近は、古典に興味があるらしく、よく私のところに質問にくる、勉強熱心な生徒だ。
この間、まだ高校生なんだから、恋とか部活とか、しなくていいんですか、と聞いたら、恋なら、している、という意外な返事があった。
そうなんですか、と返しながら、何だか胸の痛みを覚えてしまったのは、きっと忘れた方がいいこと。

かりかり、と解答を書くイギリスの横顔見て、また痛み出した胸を隠すように、問題集を抱える。
かと、とチョークを置いて振り返ったイギリスと、目があった。
途端に騒ぎだす心臓を必死で押さえながら、ええと、とイギリスの書いた解答へと目を向けた。

だから、日本は知らなかった。
日本が目をそらしたあと、イギリスも、同じように胸を押さえたことを。


以下、ロマーノとハンガリーの小声の会話。
「なあ、イギリスって、先生に告白したのか?」
「ううん、してないらしいわ。」
「どう見ても相思相愛なのにな。」
「ほんと。…日本先生も、普段は勘がいいのに、自分のことになると鈍感なんだから…。」
「…イギリスもさっさと言っちまえばいいのにな。」
「…人のこと言えないくせに。」
「……おまえもだろ。」





四限、体育

「今日でバスケ最後やから、試合するで試合!」
楽しげに告げたスペイン先生は。
何故か、バスケのゼッケンを着ていた。
そして、クラスを3チームに分けて、ひとつをフィンランド、ひとつをドイツにキャプテンをまかせ、何故か、もうひとつのチームのキャプテンに自分がついて、フィンランドのチームを審判に任命すると、何故か、ジャンプボールの位置に自分が立った。

「…何で参加してるんですか、先生。」
身長の理由から選ばれたドイツが、スペインの目の前に立つ。
「ええやん。俺も混ぜてー。」
やる気満々なスペインの姿に、ドイツは、はあ、とため息をついて。

イタリアの吹く、ちょっと息の抜けたホイッスルの音が、鳴り響き、フィンランドが、ボールを真上に投げた。

「やー、楽しかった!」
何故か本気でバスケをしかけてきたスペイン率いるチームに、ドイツのチームは僅差で負けた。
「やっぱ汗流すのはええよな!」
「……先生が生徒相手に本気だすなよ…。」
「ええーだって負けたくないし。」
ドイツほんまに強いねんもん。そう言われたが、それは違う、と思う。
後一歩、まで追い詰められたのは、チームのみんなのおかげだ。

「んじゃ、俺はチーム抜けるから、リトアニア、代わりに入って。」
「あ、はい。」
リトアニアがゼッケンの色を変えるのを見ながら、スペインは、さらさらと説明する。
「で、次はドイツのとこと、フィンランドのとこの対戦な。それが終わったら、リトアニアのとこと、フィンランドのとこ。ま、最後まで回ったくらいで授業終わるやろうから、終わったら呼びにきて〜。」

そのまま体育館を出て行こうとする後ろ姿に、ドイツは眉を寄せて呼び止める。
「ちょっと待てどこへ行く。」
「昼寝。」
「仕事をしろ!」
怒鳴ったドイツに、スペインははあい、と返事をして。
これではどっちが教師かわからない、なんていうのも、このクラスではよくある情景。





昼休み、進路相談室

「なあ、何で教育学部なん?」
てめえが教師だからだよ!
なんて。言えたら苦労はしないが、言っても、ロマーノかわええ!とか俺の最高の生徒や!とか言われて抱きしめられるだけだとわかっているので、答えなかった。
代わりに、ふいと視線をそらす。
「…なんとなく。…悪いのかよ?」
「んー…だって、男嫌いやろ?女の子大好きやけど。」
それは、事実だ。ただ一人の例外が、目の前にいるわけだが、こいつわかってんのか?わかってないだろうなあ、そりゃあ。わかっていたら、こんなに苦しい想いを抱えてなんていない。
「そんなロマーノが、先生っていうイメージがわかへんねん。」
悪かったな、そう返す。

何を言われても、教師になる、と決めた覚悟は、揺るがない。
こいつと同じ、教師になる、と決めたんだ。二年前に。
こいつを好きになった、あのときに。

「あと、ロマーノ、植物好きやろ?」
突然そんなことを言われて、わけがわからなくなった。
「…は?」
「だって、園芸部やし。」
「…そんなの、名前だけ入れただけ、だし…。」
これも事実だ。この高校では、絶対にどこかの部活に籍を置かなければならないから。
だから、俺は、園芸部の幽霊部員、というわけだ。
なのに、だまそうったってそうはいかへんで、と自信満々に笑う。
「嘘や。…校舎の裏の花壇、よう一人で手入れしてるやんか。」
「なっ……!何で知って!?」
誰にも見られないように、こっそりやっていたのに。
「知ってるで?二年前、荒れ果てとった花壇、一人で綺麗にして、種まいて…今綺麗な花咲かせとる。」

かああ、と顔が熱くなる。まさか、知っているやつがいるなんて思ってなかった。
まして、それが、こいつだなんて。
あそこを初めて見つけたとき、どうしても放っておけなかった。
表の花壇に隠れて、荒れ放題になっても誰にも気づいてもらえない。
どうしても自分に重ねて見てしまって。
なんて。口に出したら、ええか、ロマーノはロマーノなんやで、と、一年のときみたいに、まじめな顔をして説教されてしまう。

…そんなまじめな顔も、嫌いじゃ、ないんだけど。

「そんなロマーノやから、農学部のほうがええと思うんやけど。」
意識が遠くに飛んでいる間に、スペインは、俺の目の前に広げていた本の、別のページを開いた。
ふせんがつけてあって、ロマーノ!と書いてあるのが、なんだかうれしかった。
たしかに、植物は好きだ。でも、スペインと同じ教師になる、と二年前に決めた決意が、簡単に動いてくれなくて。それでもやっぱり、と口に出しかけた俺に、それに、とスペインは言う。

「それに俺、植物に話しかけてるときのロマーノの顔、大好きやで。」

むっちゃかわええもん。そう言って、満面の笑顔で笑うから。
俺には、こくん、とうなずく以外の選択肢がなくなってしまった。


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