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※伊が先天性女体化な現代パロですのでご注意ください。


設定
イタリア 社長令嬢。二十歳
オーストリア 伊の父。若き社長
ハンガリー 伊の母。今は、専業主婦

ドイツ 墺の会社に勤めている
プロイセン 独の遠縁。会社重役。墺洪とは大学時代からの友人。







「……へ?」
今なんて言ったの、パパ。
そう、聞き間違いだと信じたくて尋ねたのに、パパはめがねを上げて、ですから、と言った。

「あなたには、お見合いをしてもらいます。」

パパとママは、有名企業の社長さんと、元秘書。大学で出会ってはいたのだけれど、恋人になったのは就職してから、だったんだって。恥ずかしがりながらママが話してくれる昔話は、恋愛小説よりずっとずっと素敵!
お姉ちゃんは、幼なじみのスペイン兄ちゃんと、高校の卒業式のその日に婚約した。文句ばっかり言ってるけど、2人でいると本当に幸せそうで。
いいなあ、私もいつか、そんな恋愛してみたいなって、思ってた、のに。

「なんで…?」
「あなたも年頃なんですから、そろそろ結婚を考えないと」
「相手くらい自分で見つける!」
思わず立ち上がると、す、と手を取られた。手を引き寄せて抱きしめてくれる優しいママの笑みに、泣きそうになる。

「大丈夫、会うだけよ。…オーストリアさんの会社の人なんだけど、とってもいい人だから。」
ね?優しい声。見上げると、お願い、イタちゃん、と言われた。…申し訳なさそうに、そう言われたら、断りづらいじゃんか、ママのいじわる…
「…会うだけ?」
パパの方を見て言うと、大きくうなずいてくれた。
「会うだけです」
「絶対?」
「絶対。」
念押しして、しぶしぶと、それならいいよ、と呟いた。





「……は?」
今なんて言ったんだ、兄さん。

そう問うと、だーかーら、とソファにふんぞりかえった彼は、言った。
「次の日曜、お見合いな。」
「…誰の」
「おまえの。」
あっさり言った彼を、とりあえずソファから叩き落とした。

兄、と呼びはするが、血縁的には遠縁、になる彼は、自分よりかなり年上で、うちの会社の重役でもある。会社の創設時からのメンバーで、社長とも仲がいい…らしい。喧嘩している(しかも子供の言い合いみたいな)ところしか見たことはないが、まあ、そういうのができるほどには、仲がいいようで。
その社長の娘にお見合いをさせたいのだがいい相手はいないかと言われ、さらっと自分の名前を挙げたらしいのだ!

「大丈夫だって〜、ただ、あまりに男っ気がないから発破かけたいだけ、だし。会うだけ会うだけ」
「だったら俺でなくても……いやいい」
怒鳴りかけて気づいた。そういえばこの人友達ほぼいないんだった。俺くらいしか、いなかったのだろう。
「…今なんか失礼なこと思ったろ。」
「いや別に。」
半目になって見られ、流す。
…おそらくこの様子では、社長まで話は通っている。決定事項、としてから、俺に話をしたのだろう、断れないように!

深くため息をついて、で、場所と時間は、と尋ねた。
ああ、せっかくの休日が丸潰れだ!





はあ、とため息一つ。
「…すごいな。」
さすが社長令嬢のお見合い。超高級レストランの一室で、相手を待っていた。

「早く会いたいか?ドイツ」
イタリアちゃんは小さい頃からかわいかったぜ、と笑う兄に、会ったこと、あるのか、と尋ねると、小さいころに一回。と返ってきた。…初耳だ。
「ほんとにかわいかったぜ〜天使っていうのはこういうことを言うんだろうなって思ったね!」
「…月日は流れ、少女はあのころの面影もない姿に、」
「なってない!」
俺の夢を壊すな!だそうだ。本気で怒鳴られて眉をひそめる。
「言ってみただけだろう…」
「言うな!!きっとあの子は清楚でかわいらしいまんま、」
「はいはい」
流して、外を眺める。…待ち合わせの時間まで、あと、少し。




「パパ、ほんとお願い!」
「今更ダメです。ああもう諦めなさい!逃げても無駄です!」
…うー…パパのバカ。
恨めしく見ると、会うだけ、ですから。我慢してください。とため息とともに言われた。
「絶対?」
「絶対!」
何度もしたやりとりをもう一度繰り返して、ため息ひとつ。
「ほらほら、イタちゃん。顔上げて。笑って。」
せっかくおめかししたのに、とママの声。
前髪を整えられて、ね?と言われたら、うなずくしかなくて。

「はい、笑ってー」
「…えへ」
「うんかわいい」
じゃ、行こうか。言われて足を踏み出した先に、スーツの人が2人、いるのがわかった。




甘そうだ。

初めて会った感想が、それだった。
ミルクチョコレートのような髪と、大きなキャラメル色の瞳。
着ていたふわふわしたワンピースも相まって、とても、甘くておいしそうに見えたのだ。
頭がくらくら、した。甘い香り。…するわけはない、のはわかっているけれど、確かに感じた。甘い甘い、酔いそうなほどの香り。
…いや、もう。酔ってしまっているのかもしれない。
一目見たその瞬間から、目が離せなくなっていた。

天使、と兄さんが言った意味がよくわかった。
ふわりと流れる髪、あどけなさをまだ残した顔は、照れからか、少し紅潮している。
目の前に立った彼女は小さくて、抱きしめたらすっぽりと、俺の腕の中に入ってしまうだろう。
会社にいるような、大人の女性ではないけれど、その容姿といい、恥ずかしそうな仕草といい。
可愛い。というか、愛しい。守ってやりたい。心を満たす甘い感情に、自分にこんなものがあったのか、と思った。仕事フリーク、と言われたこともある自分、に。


「はじめ、まして。イタリア、です。」


鈴を転がすようなかわいい声に、やっと周りの世界が帰ってきた。
ちょこんとお辞儀をするのがああ、本当にかわいらしい!
「はじめまして。…ドイツといいます。」
抱きしめたい、と思う心を鎮めて何とかそう返すと、ドイツ、さん、と俺の名前を呼んだ彼女は、ああもう、なんて顔で笑うんだ!
思わず抱きしめに行きそうになった体を制した自分を誉めてほしいと思った。


恋に落ちる、とは、まさしくそのままの表現なんだ、と初めて知った。

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