詩集

夕日のように

1972〜1976(3)


目次


感傷的なモノーグ

告発者

面接・春の…

少年ジェット

アラーの使者

輝き




感傷的なモノローグ


あんたはもっとしゃべれ

そんな醒めていちゃおもしろくないと

ヨッパライがくだをまく

あんたなんかにしゃべることはないよと

心の中で舌を出しながら

はにかんだ顔をして

すみませんと頭をさげる

下をむいた顔はそれから急にこわばり

座を蹴って表へ出ていく自分を想像する

錆ついた電線にひっかかった月をみつめて

おれの気持あいつらにわかってたまるかと

ひどくセンチになってみたいと考える

そんなこと考えてる自分を

たまらないほど嫌悪しながら

本当に気の合った友だちと

黙って酒をのんでいたいと

泣きたいような気持で考える






告発者


体育祭の喧噪の中で

車椅子に乗り

薄茶色のベレー幅をかぶった

(それはしかし恐しい手術の傷を隠すためだったが)

あなたの周囲は

ぽっかり穴のあいたような

水色の空間を形成し

秋の湖のような

透明な風が吹いていた




あなたはどんなに近づいても

遠ざかっていく風景であり

あなたのそばに立っている友人たちは

あなたを守るうすいみどりの羽根をもつ

天使としかぼくには見えない




フィールドでは

女の子までが髪ふり乱して

騎馬戦をやり

結び目に髪の毛を密生させたハチマキが

大人たちの苦笑をさそっていたが

限られた生を生きるあなたは

それをどんな目でみつめているのか

限られているといえば

彼女らもその例外ではないのに

どうしてあなただけが

まるで違った存在であるのか




あなたには

全ての「教育」が無効である




あなたは車椅子に坐って

透明な風に吹かれている

あなたは存在している

静かな告発者として

数百人の若者の熱気も

あなたの周囲に吹く風を

吹きとばすことはできない




あなたはしかし

静かに

遠ざかっていく風景である、





面接・春の……


お昼ごろ

屋根の上で

友だちと水のかけっこをしていました

と君は言うんだね

それで その髪の毛は

なぜそんなに赤いの

その友達が

コーラをぼくの頭にかけて

それでこんなに……

ふーん

ひばりが鳴いているけど

それとは何か関係ないの

いいえ コーラです

コーラでこんなに赤くなったんです

で 君は学校休んだわけだろう

カッコワルイからって

ええ 麦畑にすわって

学校のキラキラ光る窓みてました

先生の声きこえなかった

もちろん生徒の声だって

ああ今みたいに

ひばりだけが

鳴いていました






少女の肉を

内側から

あかるく照らすのは何ですか?




サクランボのような

悲哀を

少女の肉に

そっと埋め込んで

青空を逆立ちして見てるのは

誰ですか?





少年ジェット

澄んだ彼の声が

立木を裂くことができるなら

ぼくにその時

できないことは何一つなかったといっていい

白いマフラーなびかせて

教会の丘の

獅子の顔した岩の上から

街並のむこうにかすむ

港をみていることだってできたはずだ




 ──おお、涼しげな彼の細い目……




行くぞシェーン!

と叫んでそのまま

港の方へ走ってゆけばよかった

かなしい「正義の印」

白いマフラーなびかせて

茶色の学校越えて

とんでゆけばよかった






アラーの使者


アラーの使者は

いつもどんよりとした

くもり空の十字路で

悪戦苦闘




  ああ あの人は なぞの人!




アラーの使者の敵の名は

思い出せない

ただ白いマントにつつまれた

悲哀のみが

彼の身元証明をする




  大げさな音をたてて
  
  玄関の戸があくと
  
  あわれ小学五年のぼくは
  
  あの人の運命を気使いながら
  
  湿った本の匂いのする地下宝へ
  
  降りてゆかねばならなかった




いくら思い出そうとしても

アラーの使者が勝った場面は

うかんでこない

晴れた空も

アラーの使者には

似合わない




  アラー
  
  アラー
  
  アラーの使者はどこにいる!

      





輝き

窓をみがけ

青空にのびてゆく指の

すきとおるまで




爪をみがけ

うすい肉色が

冬の梢のように光るまで




虚偽の乱反射の中で

全ての慎しみ深い輝きは

灰色の砂に覆われている




ああ窓をみがけ爪をみがけ

狂気の輝きの中に

静謐の鏡あらわれるまで

      




窓を磨け

青いリンゴ

セザンヌのように

輝くまで

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