詩集

夕日のように

1967〜1971


目次


走る少年

五月の少女

飛行機雲

ヨ−ヨ−つり

ブランコ

つつましい出会い

点描





走る少年


少年は

森の中を走る

朝露にぬれた下草を

そのやわらかい足でふんで走る

するどい朝の光線と

キンキンひびくミソサザイの歌を

背に受けて

全身の力を手と足にこめて走る

七色にかがやくしずくが

少年の額からとびちっていく

少年はなおも走る

静かな森に

少年の足音だけがこだまする

少年は走らずにはいられない

走って、走って、走りつづけて

深い、深い森の、いちばん奥に

すいこまれること

ただそれだけを夢見て

少年は

走る



五月の少女


いっしんに走って来たあなたは

僕とパッタリ目があうと

笑ってホッとため息をついた

あなたの可愛らしい

呼吸の音が

さわやかなバスの車内で

ひときわ大きく聞こえた

僕はあなたのカバンを

僕のカバンの上に重ねて

縁にはえる窓の外を

ながめていた



飛行機雲


君はいつも高い靴をはいて

キリンのように歩く

人波から首一つ抜き出た

君の瞳には

街路樹の梢にかたむく

飛行機雲が浮かんでいる







おれは

うす緑色の酸素を呼吸する

一匹の豹だ



ひすいの原野を

音なくすべり

エメラルドの葉の茂りで

地平に大きく輝く日輪を見つめる



ステンレスの背骨をもつ

一匹の豹だ






ヨ−ヨ−つり
子供は

顔を赤くして

奥歯をかみしめ

紙ひもの先の金具を

そおっと

水にひたす

ゴムがピ−ンと伸ばされる

子供は思わず腰を浮かす

ゴムの下に 光るヨ−ヨ−!

子供の手に力が入る

持ち上がれ ヨ−ヨ−!

ヨ−ヨ−重い

石のよう

プツンと切れた紙ひもの先に

残る力をもてあます

小さなカニのような指

ヨ−ヨ−屋さんは知らん顔

シュ−ッ シューッと

石のヨ−ヨ−ふくらます





ブランコ


灰色の朝の雲より

重く垂れさがる

二筋の鎖

ブランコ 大きな ブランコ

鼻翼を朱く染め

しょっぱい水をすすりあげ

ピエロはブランコ大きくゆらす

パリからロンドン

ロンドンからパリ

冷たく風を切り開き往復する

ド−ヴァ−海峡に

うねりは雲を浸す

ピエロは吠える

大風のように

垂れがちの目の端に

海はキラリと結晶する

ロンドン橋のたもと

セーヌ河のほとりの

恋人たちは

見上げる空に

何ものか巨大なものの

過ぎ去った

うずまく風を聞く






つつましい出会い

私たちはつつましく出会った

だれもそれに気付かなかった

私たちの心の中は

荒れ狂う海のようだったけれど

私たちの表情は

ほんの小波しか見せなかった

私たちは倒れそうだったけれど

何でもないように立っていた



私たちを襲う運命の嵐は

いつもこんなふうにやってくる



私たちは名も告げあわずに別れた

私たちはもう会えないかもしれなかった

けれど

私たちはつつましく別れた



その時

私たちによって

何が

信じられていた?





点描


丘の上の

プールのまわりに

ひろがる緑の芝生の

中に立つ桜の木の下

の陰に横たわる

僕と君

の焼き立てのパンのような肌の上を

涼しい風がすべってゆくと もう

青い空には赤トンボが

宙づりになり

ツクツクボウシがおそるおそる

鳴きはじめ

遠くの丘の上の

白いアパート

の規則正しい窓にサルビアが

咲いている

熱帯魚のように

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