春櫻賦・Let’s Jazz

あそこがかんげきなの





’97・12・19 の大劇場初日を観劇した時を振り返って。

「錦織りなす」という表現がぴったりの舞台「春櫻賦」。それぞれの場面毎に美しい絵巻をひもといたような感動がありました。
桜吹雪の演出、、幻想的な鬼太鼓、雲海の中の舞い、情感溢れる歌の数々、そして圧巻のフィナーレ「桜のボレロ」。どれもが見事というしかない美の世界でした。

 もう、東京公演まで轟さんの舞台は見れない(浪人の息子の受験だったので)身の上の私でした。だから、どうしても夢の世界に陶酔しきりたくて、場面毎の轟さんの表情、声、指先から爪先まで、全てを心に刻みこむべく 臨んだこの日でした。その点では目標を達成出来て、日舞のしなやかな動きも、激しい立ち回りでの凛々しいお姿も、うっとり感激出来たのです。

 ただ、美しい錦絵の間が繋がらない為に、作品そのものには陶酔しきれませんでした。
物語の展開があまりに不自然で、それを理解しようとするとさっきの場面毎の感動さえ失われそうな気がして、「ん?」と思う気持ちはスミに押しやる意識の操作を要しました。 
 何故琉球を飛び出したのか、後から考えてもさっぱり分からない。これからどうするんだろう?皆それでいいの?おせっかいオバサンとしては 心配のタネのつきない終わり方でした。
何より残念なのは、新たな組替えで、ようやく相手役の月影さんが来たというのに、主人公龍山との接点が薄いという点です。
 例によっての「なりきりラブラブモード」で酔いしれるという ひそかなもくろみは、せいぜい龍山に支えられてその腕の中で死んでいく阿満丸クンでしか 叶うことなく、最後の「一緒に歩くと決めたら離さない・・」を、天空から降りてきた一本のクモの糸のようにすがって救いの道を求めるしかなかったのが寂さきわまりない事でした。

「Let’s Jazz」は、楽しいショーでした。
轟さんの魅力全開!っていう感じで、次々に変身して出ていらっしゃるお姿に 息をするのも忘れる位。中でも「アフリカ」の、魂の叫びと呼べるような歌とダンスは最高!それから、ストーリー性たっぷりの「ルイ」の場面は、孤独で寂しくしかも一途なトランペッターのルイが 轟さんのお姿に重なって感動的でした。
 個人的には前回の「レ・シェルバン」のジゴロや革命タンゴなど、いろいろな音楽パターンがあったほうが好きなんだけど、実は。 ジャズでも、もう少し曲層に幅を持たせて欲しかったな。

この公演中のお茶会は、参加することが出来なくて、Kumiさん K子さん sakikoさん達のご報告でみなさまにお伝えする事が出来ました。
お留守番のもどかしさを ぐっとエネルギーにため込んで、帝劇で爆発じゃぁ〜!


そうして迎えた’98・4・3日、帝劇での初日の舞台は、最高に嬉しくてシアワセの幕開けとなりました。

まず、オープニングからして大劇場とは違っていたし、物語りの展開が自然になっていたのに驚きました。
何と言っても、「小紫ちゃん(月影)良かったね」って言えるもん。これなら。
突き詰めれば話しのツジツマが合わない所もあるけど、でも、流れとしては大分繋がり、頑張って意識調整をしなくても 「なんか え〜はなしやん」 と思える。

「あそこがかんげきなの」という場面はいっぱいありました。
最初の方の「さ〜ゆいゆい」の歌のところで、お着物の襟をピッ ピッって二度引っ張って、そこからしなやかに腕を出されるところ。この粋なしぐさ!ほぼまっすぐの眼差しなんだけど、チラッと襟元を見て、歌に影響しない程度に息を整える感じの顎のあたりなんかがね。粋なんだわぁ。毎回、固唾を飲んで見ちゃうシーンなの。(少しオヤジ入ってるかしらん?)

こんな細かく言うとキリがないけど、「美海美島」の歌も素晴らしい!海を愛する優しさと、島を守ろうとする闘志が、まるで、客席に波が押し寄せるように伝わってきます。さざ波から 激しい高波となって客席を満たしていくような感覚に浸りきりました。

いわずもがな、だけど轟さんの日舞はさすがです。どこにいらしてもすぐ分かる、腰の入り方、指先まで行き届いた神経が、オーラを発してるんじゃないかと思う程輝いていますもの。

それで思うのは、作品の「質」について。
確かに作品の完成度ということからするとペケなのかもしれない。でも、舞台芸術としてのレベルからすればかなり高いものになっていると私は思いました。
谷先生はきっともっとたくさん轟さんの魅力、雪組の実力を見せつける作品にしたかったんだろうな、という気持ちが、分かる気がしました。聞いた訳じゃないけど。伝わるものがあるの。
ある面での轟さんの新たな魅力(ファンにはとっくに分かってるけど)をアピールし、芝居も歌も日舞もこなせる雪組の素晴らしさを、たくさん見せたいというお気持ちが、結果的にはストーリーに無理を強いる形になったのね。でも、谷先生のその目標は達成されたし、「命ぬ宝」というテーマは、しんみり心を打つわけなので、これは成功と呼べる出来ではないかと思います。
「いい仕事 見せてもらいました」という満足感がありますもの。
幻想的な舞台装置、桜のはなびらの演出がなかなかです。初めの太刀踊りで撒き散らした桜の花びらが鬼太鼓のシーンで蹴り上げられ 波の背景とぴったり。 数馬が一太刀降ろした後に降り注ぐ花びらに彼の絶望感が伝わって・・。そんな心憎い演出が随所に散りばめられていました。
そして何よりの実力者揃いの舞台は、文句なくハイレベルな出来映えでした。

もとに戻って、あそこがかんげきって言えるのは、やっぱり小紫の心の動きがはっきりしたこと。
「海が結んでいる」という龍山に、「う、うみが好きになったわ」と言う小紫。本当は「貴方が」と、言いそうになって、慌てて言い直した感じが微笑ましい。
だから、「津軽じょんがら」での二人が 余計にうっとり出来るようになりました。
次第にテンポが早くなって小紫を気遣うように時々見る龍山の優しい眼差し!一途について行こうとするけなげな小紫に拍手!拍手!!

「さくら さくら」が、あんな素敵な歌とは思わなかったです。
あの歌のアレンジが気になると友人が言ったけど、私は全く気にならないどころか 大のお気に入りなの。
舞台を包む音楽と舞いが 天空から下りてくる羽衣のように、しなやかに流れて溶けていくような陶酔感を味わいました。
あ〜良かった。

「Let’s Jazz」
やっぱり一番は「アフリカ」です。大劇場の時と同じに感激でした。
男役の美学 ここに極めり!って感じ。
あの激しいダンスシーンの表情の そこ ここに、例の林真理子さんが言われた”やばさ”の根元がかいま見れるし。あれは轟さんだけのもの。
それから「ルイ」。何故あんなに切なげに歌えるの?それを思うと泣けちゃいます。
ルイの気持ちが伝わるからっていうより、あんなに哀しい絶望感を表現される轟さんに感激なの。

毎回アドリブで楽しませてくれたおじいさんおばあさんのシーンも大好きでした。
でも、それは、その直後に出てこられるマルディグラのデュエットダンスの超カッコイイシーンへの前振りだからかも。
・・・流れ星がビュンビュンと落ちる夜空をバックに踊る二人。
ここでは グンちゃんは、ちょっと気の強い大人の女。 お互いに相手をからかうような挑戦的な微笑みを交わして、恋のかけひきを楽しむかのよう。
↑の、ルドルフの絵のように、一瞬 心が繋がった時の火花の煌めきがあなたにも見えたかしら?

I remember you 。
タータンの甘い歌声に乗せて踊る二人。
大人のエレガンスだわ〜。 穏やかで 深い愛という、この歌のテーマそのものの二人の雰囲気。
信頼と憧れのまなざしで見上げる女性と、それを受けとめてしっかり抱きしめる男性って、もうすっかりこの世から姿を消したと思っていたけど。
これだから宝塚って素晴らしい!夢の花園よ 永遠に!!!

大劇場では あれこれ不満もあったけど、東京公演で ほぼ解消した「春櫻賦」。
Jazzだけじゃつまんない・・と思ってたけど 胸高鳴りっぱなしの「Let’s Jazz」。
催眠術のキーワードみたいに、これから「春」「ジャズ」という言葉には平静では居られない。
それほど はまった東京公演でした。
千秋楽で笑顔がはじけた雪組生達を見て、これから 更に凄い舞台をこなしていくパワーを感じました。よかったね轟さん!ブラボー 雪組!



阪急HP「公演」・・・老後の思い出に残しておきます・・・
4・4
昨日の雨も寒さも収まったのは、雪組に敬意を表しているんだな、と思えた程の素晴らしい舞台でした。
心の琴線にふれるしっとりとした作品「春櫻賦」、久々の(一本ものが続きましたから)宝塚ならではの歌とダンスが弾けるショー”Let’s Jazz”。
どちらも、初日からこんなに完璧に近い出来でいいの?と思われる程 ハイレベルで見応えのある舞台でした。あ〜 満足!・・でも、これからもっとハイピッチで”更に高いもの”を見せてくれる事でしょう。これ以上どうしようって言うの?と思っていても、きっともっと凄いものに仕上げていってくれそうな余裕を感じさせる新生雪組パワーが溢れていました。 
「春櫻賦」は大劇場からの手直しがかなりあり、お話が自然に展開されるようになりました。龍山(轟)と小紫(月影)が互いにひかれあっていく経緯がわかるように場面が増え、中城(安蘭)とゆうな(貴咲)が何時思いを通わせ合うのか、何故秋月(香寿)が、執拗に龍山を追ったかという事もよく理解できました。どのようになったかは 見てのお楽しみ。(ご覧になれない方の為に 後日ご報告させて下さい)とにかく話が自然になったこともあってか 安心して物語の世界に入り込むことが出来ました。
おおげさかもしれませんが、「芝居の醍醐味」を味わった気がします。
芝居というものが持つ魅力、生の舞台で役者の息づかいを感じながらその世界に遊ぶ素晴らしさに酔いました。
出演者達の演技、舞、歌、すべてが作品の完成度を高め、見る者に大きな満足感を与えてくれました。ショーでも雪組生皆の息がぴったり、特にタータンの甘い歌声に乗せて、轟さんと月影さんとのデュエットダンスの場など、お互いに優しく目を交わして微笑むシーンがたくさんあってファンとして嬉しかったです。
あまりに興奮してお見苦しいご報告になってしまいました。
最後に恒例の轟さんのユニークご挨拶を。(一部ちょっと違ってるかもしれません)
 このあたりに花咲か爺さんがいるように、桜の花も満開となりました。(突然 朗々と歌い出して)「春のうららの す〜み〜だがわ」・・・。
桜の開花宣言と共に東京にやって参りました、新生雪組。あの美しい桜に負けないよう、この帝国劇場で舞い続けます。どうぞよろしくお願い申しあげます。 

 幕が二回下り、客席が明るくなり、轟さんのアナウンスで「本日の公演は終了いたしました」と流れても止まない拍手。そして遂に幕の左手から轟さんがお一人で出ていらっしゃいました。何だか感激してしまって何をおっしゃったか覚えていません。舞台袖に引き上げられる轟さんに思わず「ありがとう!」と叫んでしまいました。皆様の歓声に消されて届くはずもない声でしたが、心からの声でした。

4・9
和太鼓の名手として知られる林英哲氏が、今回「春櫻賦」でご指導と演奏をされています。
先ずは鬼太鼓の場。龍山(轟)が、国と父を奪ったものへの憎しみと その父の遺言である「命ぬ宝」という言葉との間の心の葛藤に悩む姿を象徴するように大太鼓に立ち向かいます。
轟さんのバチさばきが素晴らしく、汐風さんはじめ下級生達も息が合ってなかなかの迫力ですし、やがて太鼓の音をバックに、大きな被りものの頭を細い首が折れんばかりに振り回して踊るシーンは見応え充分です。
さらに、龍山と小紫(月影)が、次第に惹かれ合う気持ちを託して踊る「津軽じょんがら」のシーンでは、林英哲氏の和太鼓と、木下伸市氏の三味線が効果的で、録音とは言え とても贅沢な一場面になっています。
ただひたむきに龍山について行こうとする小紫と、己の進もうとする厳しい道に強く立ち向かおうとする中で小紫を気遣う龍山の気持ちが、次第に激しさを増す太鼓と三味線の高鳴りに融合して息を呑む迫力で迫ってきます。
 少しでも太鼓や三味線に興味のある方ならご存じのこのお二方の演奏は一聴(?)に価する素晴らしさですし、今まで興味を持たなかった方にも、キレの良い踊りと共に楽しんで戴けると思います。


4・17
 「春櫻賦」で、主人公龍山が歌う「美海美島」という曲があります。
島国琉球の美しさを讃え、今 困難な時を迎え、その清らかな島を護る為に海に漕ぎ出そうとする気持ち、そして、海が心を結んでくれるという希望を託した歌です。先日の轟さんの歌唱はいつにも増して素晴らしく、幼い頃遊んだ九州の海を思って歌われたのでしょうか、情感がこもっていてしかもそれに流されない確かな音程に 心から感動しました。歌われてご自身も満足のいく出来だったのか客席の感動が伝わったのかお幸せそうな笑顔を見せて下さったように思いました。
 ところで、劇中で「御喜楽座」の座員が言う台詞に「河原者とさげすまれても、お客様が喜んで下さり、お捻りのひとつも戴ければ充分」というのがあります。今時、河原者とさげすむ事も、お捻りなどもない舞台ですが、今回の雪組公演には、その「お客様を喜ばせたい」という思いが随所にみられ、だからこそ「芝居の醍醐味」を堪能した満足感が残るのだと思います。
勿論、他組やこれまでの雪組公演がそうでなかったというのでは全くありません。
個人的なことですが、私が宝塚の素晴らしさを知ったのは雪組「エリザベート」からで、それまで漠然と「宝塚は素人の学芸会をマシにしたところ」というイメージだったものが、180度変わって「こんなに本格的な舞台が日本にもあったの?!」と開眼したのです。
まさに「プロの仕事」を見れた喜びを味わいました。
それから、各組各公演を見てそれぞれに真剣でレベルの高い舞台にふれてきました。
けれどだんだんその事に慣れ、各組の趣向をこらした作品や出演者のパワーを当たり前のように受け止めてきた気がします。
でも、今回の雪組公演で、改めて高質のものにふれた喜びを感じることができたのです。
はっきり言って、作品の内容や話の展開に関しては「高質」とは申せません。(時間の制約その他の事情があったかと思います)  久々の和物と宝塚らしいショーが見れた嬉しさもありました。
でも、それだけでない充実感があったのです。
全員がビシッと揃う総踊り、激しい音をたててぶつかる立ち合い、と全てがごまかしのない本物だということです。桜吹雪の粋な演出、繊細で優美な舞台装置、ショーでは次々に早変わりで、めくるめくジャズの世界が展開し、キレの良いダンスに確かな歌唱が夢の世界にひき止めて離しません。
先日の新人公演で活躍した下級生達も、それぞれの持ち場で精一杯役になりきり、真剣な意気込みが舞台の隅々から伝わってきます。
日舞の動きは一朝一夕ではなかなか身につかず、その点でトップの轟さんや汐風さんのようにそれを得意とする人達だから成しえたことかもしれません。
香寿さんや安蘭さんのように奥行きも幅も広い実力あるメンバーに パワフルな月影さんを加えてコンビネーションの良さもありました。
でも何より、下級生達を「引っ張って行く」というより皆で一丸となってお客様に最高のものをお見せしたいという意欲が伝わってくる舞台だと思います。
東京のゆく春を惜しみながら帝劇に足をお運びいただき、舞台の春に陶酔なさって下さい。



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