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2002.03.15 最新版に更新

[文献提供:東京都小平市 国立精神・神経センター武蔵病院 院長 埜中征哉先生]
この病気は、本邦で私が10人程知っています。
その他学会でもときどき報告されます。
現在日本には40ー50人位と推定しています。
多いのは日本、ドイツ、フランス、イタリアです。
アメリカからの報告はありません。
埜中征哉先生とご一緒に・・・



ドイツの医師、ウールリッヒ(Ullrich)によって最初に報告された
(Ullrich O: Kongenitale atonisch-sklerotische Muskeldystro- phie. Moschr Kinderheilk 47:502-510, 1930)
先天性筋ジストロフィー。
本邦では埜中(Nonaka)らが多くの症例を経験し報告している
(Nonaka I,
et al: A clinical and histological study of Ullrich's disease
(congenital atonic-sclerotic muscular dystrophy). Neuropediatrics, 12:197-208,
1981)
(埜中征哉:臨床のための筋病理、日本医事新報社、東京、1999)
原因は筋細胞膜の外側にあるコラゲンVIの異常(日本からとイタリアから報告された)
(Higuchi I, et al: Frameshift mutation in the collagen VI gene causes Ullirch's
disease. Ann Neurol 50:261-265, 2001)
(Vanegas OC, et al: Ullrich scleroatonic muscular dystrophy is caused by
recessive mutations in collagen type VI.
Proc Natk Acad Sci USA 98:7516-7521, 2001)
<臨床的特徴>
1.生下時ないし、乳児期より躯幹に近い関節が固い(脊柱の側ワン、首が前に曲がらない、斜頚など)
2.遠い関節は(手先、足先)逆に軟らかく曲がりやすい
3.発育・発達の遅れがある(約半分の人は歩けない)
4.全身の筋肉が細い、顔の筋肉の力も弱い(表情が乏しいことがある)
5.汗かきで暑さによわい
6.中枢神経系症状はなく、知能は正常で、むしろ優れている
7.進行は遅く、停止していることもある。
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脊柱の側わんがあり、頭が前屈しないのが特徴的です。
この方は股関節脱臼があります。 |
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手(左)、足(右)の関節は軟らかく、過伸展
するのが特徴的です。 |
<病理学的特徴>
1.筋ジストロフィーの所見(筋線維の壊死・再生の所見)がある。
2.筋線維のタイプ分布異常があり、神経系の異常が加味されている可能性もある。
3.結合組織が増えている。
4.コラーゲンVIの抗体で染めると、コラーゲンVIが欠損しているか減少している。
<コラーゲンVIとは?>
コラーゲンとは皮膚、骨、筋細胞の間などにあって細胞と細胞をしっかりと結合させる組織です。
そして、しっかりとした組織にしています。コラーゲンはいくつもの種類があって、臓器や組織によって、
その分布が違います。
コラーゲンVIは、筋細胞と筋細胞の間にあって筋細胞がバラバラにならないように支えています。
皮膚にもあります。患者さんで完全欠損の人も、部分欠損の人も、症状にはあまり差はありません。
完全欠損の人は、皮膚の生検でも診断ができます。
<病気の原因>
1.患者さんの多くはは遺伝的なバックグラウンドがないので、
多分常染色体劣性遺伝と考えられる。
・・・・・ということは血族結婚以外つぎの子孫に遺伝する可能性はまずない。
2.患者さんが少ないこと(今まで世界でも100以下の報告)しかないもあって
遺伝子座も決まっていない。
3.現在は、メロシン陽性型先天性筋ジストロフィーに分類されている。
原因解明には患者さんのDNA分析などが必要。
<治療>
1.進行が遅いので、進行を阻止するリハビリテーションが必要。
2.遺伝子異常が見つかったので、遺伝子治療の可能性が出てきた。
3.コラーゲンVI補充療法の可能性も出てきた。
4.呼吸筋が侵されやすいので、呼吸筋のリハビリテーション、
呼吸不全患者には人工呼吸管理が必要である。


takateru@venus.dti.ne.jp