銀天盤 ○書庫


「それがあなたの 素敵なスタイル


これが私の 不敵なスタイル











 二人揃えば 無敵のスタイル」


 晴天晴天、ただ晴天。

(ここまで雲ひとつないと、かえって不吉な気がしないでもないわね)

 大舞台を前にした者特有のやや神経質な物思いに耽りながら、彼女は深紅の絨毯の導く回廊へ歩を進める。

「蒼穹、というやつだな」

 同じように振り仰ぎながら、横手の回廊からやって来た黒いトレンチコートの男へ、彼女はげんなりした目を向ける。

「暑っ苦しいかっこ……」

「申し訳ない」

 一ミリたりともそうは思っていない口調で返す男に、こちらも苦笑を返してヤレヤレとため息一つ。

「ねえ、知ってる? 空の蒼はなんで蒼いのか」

「光線の波長、とかでは」

「違うんだな、これが」

 得意げに人差し指立てて。示した先は、空。

「海の碧が写っているんだよ」

「それはまた」

 気が利いている、と何故だか満足げな声を漏らす男の様子がおかしくて、「気が利いてるってなによ」と笑い声を上げる彼女。

 香る緑。見晴るかす町並み。柔らかな日差し。

 そよぐ風を受けながら進む先に、大きな黒檀の扉が見えてくる。

「では」

「では」

 少し気取った口調で言う彼女と、いつも通りの男。

 二人は同時に手をかけて、一人は押し、もう一人は引き、そうして扉の向こうへ進んで行った。

 そして記憶のみが留まる。

 ある日の風景。


銀天盤 ○書庫