電異の海の中に浮かぶ、小さな管理者用制御室。
聖誕祭を挟んで行われた第3ターン終了後、結果を見てイルザークは愕然となった。
「たまみと宗平が失格だと!?」
萌えフォース収集のためには、様々なタイプの萌えソルジャーが参加している方が望ましい。たまみと宗平は、ほぼ正反対の属性を持った萌えキャラとして、ヴィジュアルイメージや高い頻度の更新を武器とした強力な戦士だった。
「おかしいではないか!? 実力的に判断すれば……」
「だが、これはバトルロイヤルだ」
宙空に表示されたインターバル投票の結果を見ながら、多津丘は無表情に述べる。
「いわゆる、実力者が残るとは限らない。……むしろ、目立った者が警戒されて消えていく。本家「サバイバー」でもよくある展開だな」
「……実力のある駒を残さずして「蟲毒」とやらが成り立つのか?」
「単純に「力の強い者が勝つ」だけでは、客は喜ばない。駆け引きや、様々な要素を含んだ総合的なやり取りが、衆目を集めるのだよ」
「まわりくどい……」
その情のない口調に苛立ちを覚えたイルザークは、地面を強く蹴っていた。
「だいたい、本末転倒ではないか! 萌えフォースを集めるためには、もっと効率の良い方法があるのではないか? 大衆の興味を引いてどうする? そのようなことに意味など無い!」
「意味なら、ある」
奇妙な響きだった。怒りの空気を消され、思わず知らず目を合わせる。
「HIT数が延びるだろ?」
その、目。
虚無へと繋がるような、まるで感情のない、平板で延びきったな黒。黒。黒い瞳。
「皆が見に来ないサイトに意味はない見に来ればカウンタが回る回る回る回るHIT数が一万HIT二万HIT三万HIT四万HIT四万が五万五万が六万六万が七万まだまだ増えるHIT数が増えれば皆が見に来ている意味のあるサイト運営は良いインターネッティング……」
無表情に、呪文のように。
呟き続けるその姿は、八王家の一人、イルザークをして一歩を引かしめた。
(こ、こいつ、狂ってやがる……っ!!!)
戦慄と共に納得する。これまでに覚えた不安の原因を。
そして今からでも遅くはない。
排除することが双方の世界のため……。
静かに、腰に下げていた鞭に手を伸ばしかけたその時。
『イルザーク様っ!』
本国と通じている唯一の情報ルート、伝令貝が急を告げた。
『大変です! 暗黒龍配下の竜牙三将の一人が、ゲートの守備隊を突破してそちらに向かいました!』
「なんだとっ!?」
イルザークの顔色が変わる。竜牙三将と言えば、イルザークに数倍する力の持ち主である。もしここを嗅ぎつけられれば、萌えフォースの収集自体が困難となる。
(このままの方法で、少しでも急ぐしかないのか……っ)
握りしめた鞭の柄が、軋んだ音を立てた。
そして予選最終ターン、開始……。