「『ヤシロシステム』?」
「そうだ。もっとも、部品のほとんどが台湾製のパチもんらしいがね」
コンクリート打ちっ放しの、底冷えのするような地下の部屋。
イルザークの眼前には、わずかに羽虫の振動のような音を立てる、中に人間が入りそうな大きの、漆黒の球体が台座に固定されてあった。
「概念的にはおそらく、君の世界の話に出てきた『世界樹』に近いものだろう。細かい説明は省くが、こいつを端末にして電異の海の中に、君の言う『萌え時空』を展開して貰う」
「結界のことか? それは、創成は可能だが、電異の海だの、端末だの、わけがわからんぞ」
「俺も八王家だの暗黒龍だの、わけがわからなかったよ。お互い様ということだな」
多津丘と名乗る男は、「YASHIRO コピー」とラベルの貼られたケース入りの、金色の円盤を取り出して示した。
「まあ、技術的なことはソフトに任せればいい。中に入ったらガイダンスの通りに進んでくれ」
「その前に聞いておきたい。協力してくれるのは有り難いが、どうやって『萌え』を集めるつもりだ」
「言って理解できるかはワカランが……」
多津丘は、ケースから取り出した円盤を確認しながら話す。
「わが国には古来、『蟲毒』という呪力の精製法があってな。一カ所に強力な存在を集めて、それらを争わせることによって生じたパワーを、勝ち残ったモノに背負わせる。こうして適者生存の理に適った存在を創り出し、その力を呪術などに利用するわけだ」
「では、結界内で萌えキャラ同士を競わせて……」
「生き残った一名を選ぶ」
地下室に沈黙が満ちる。
「それは……。それはしかし、むしろ参加者全員の力を純粋に合わせた方が……」
「数ばかりの寄せ集めで、暗黒龍とやらに勝てるのかね?」
(暗黒龍……)
こうしている間にもミソロギアは、暗黒龍の脅威にさらされている。
復活直後の暗黒龍自体には、まだそれほど強力な力は戻っていないだろう。しかし配下の軍団は既に動き始めている。一般兵ならともかく、竜牙三将が出てくれば、一国や二国はすぐにでも壊滅させられてしまうだろう。
後がない。余裕もない。そのことはイルザークも重々承知している。
「……あいわかった。宜しく頼む」
「任せておけ」
多津丘は漆黒の球体の操作パネルを叩き、中に円盤をセットする。やがて球体のハッチが開き。
そして萌えキャラロワイヤルの幕も開く――。
(せいぜい、盛り上げてくれよ。くくく……)