銀天盤 ○紅星 ○卓上遊戯


 2000年神無月会

「紺碧の風起てり」

 昨今の界央都市で続発している第四区分事件(異能者事件)への対応で身動きがとれなかったセイリング・フォース追加任務機関のシャンリー二尉が、久々に身体が空いたので魔術学院を訪れたことから物語は始まる。

 彼女の目的は、前回のシナリオの結末により追加任務機関にバイトとして配属されることになったカナエとの面通しであった。学院の図書館でアトラス相手に延々愚痴をこぼすカナエを捕まえ、S/Fとしての心構えを説くシャンリー。事件解決による立身出世を夢見ていたカナエだが、男社会で栄達した尊敬するべき先輩であるシャンリーの言葉は素直に聞き、任務中は独断専行しないことを承諾する。

 次にシャンリーが向かったのはブドゥー道場。キャンペーン出てない間に登場した新キャラを全部チェックするつもりらしい。手固い。アトラスも案内がてらこれについていく。

 見定める相手は当然、ヒャルデル=アルベルス=バーレーン。正道騎士。バーレーンの奇跡。

 ほっこりと縁側で茶をすする十四歳と二言三言の会話で「こいつとは関わりたくねー」と見切る。目的は黄竜顕現潰し。しかし具体的な方策はなにも持たず、ということだけ確認し、対応はとりあえずジョン=千葉とセンジュ老に任せて道場は離脱。

 ここで一旦S/F本部に戻ったシャンリーだったが、正門警備の儀仗兵が一般隊員ではなく海兵隊(精鋭部隊)に代わっていたことに不信感をおぼえる。探りを入れるが成果無し。

 本部内も普段とは少し違う雰囲気。業務は通常通り行われているが、そこかしこに見える海兵隊員。アトラスを一階に置いて二階の本部に状況報告に向かおうとしたとき、階段を降りてきた元上司ボルドー一尉がすれ違い様「本部から出ろ」と囁きかける。

 急を察しきびすを返すシャンリー。しかし、慇懃な態度の海兵隊員に阻まれる。「シャンリー二尉、出頭命令が出ています。まずは二階の追加任務機関本部へどうぞ」門も押さえられているのを見て、ここは大人しく二階へ向かうシャンリー。どうやら連れだとは気づかれていないアトラスに目配せ。

 二階では上司である追加任務機関長、ソブリーズ=エディスターレン三佐が拘束を受けていた。

『追加任務機関は全ての任務を停止し、速やかに武装解除。その後成員は指示あるまで拘束のこと』

 横暴な命令に不服を示すシャンリーだったが、発令者はS/F執行総監ラズム三将。朱印も燦然と輝く正規の書類。そのうえ書類を提示して武装解除を迫るのは、本部付きエリート中のエリート、ジョン=カーベル三佐……。

 エディスターレン三佐を人質に取られた形で対応に窮余するシャンリー。

「まずは、民間人の追加任務機関協力員への出頭要請をお願いできますか?」

「……彼等になんの用があるの?」

「その質問にはお答え致しかねる」

 ウィル、カナエ両名への呼び出し状を書かされ、さらに一階にいたアトラスも二階へ連れてこられる。

 カーベルの真意を問いただすシャンリー達。追加任務機関主要員を確保してやや口の軽くなったカーベルは、自らの行動の理を説く。

「界央都市に不自然な力の持ち主が集まっているのですよ。現状はご存じでしょう? 彼等の全てを排除します。市民生活の平和と安全を守ることこそが、我等S/Fの使命。違いますか?」

「その方法で問題が解決するとは思わないわ」

「解決して見せます。そのための今回の作戦です」

「それと、俺達を拘束することと、どういう関係があるんだ?」

「現在、貴方達追加任務機関は異能者の存在を隠したまま対処療法的に事に当たっていますが、我々はそのような甘い手段を取る気はありません。異能者の存在を市民に公表し、排除の空気を作り出します。密告、私刑、迫害……。様々な圧力が、彼等の生存を困難にするでしょう。

 しかし、そのためには異能者に対する恐怖が欠かせません。奴等を人間だと思わない土壌。速やかにコンセンサスを構成する必要があります。そのためには……」

 ばさり、と十数枚の羊皮紙を卓に置くカーベル。それらは全てS/Fの身上調査書。

 紙上に並ぶ名前、名前、名前。シール、ブドゥー、ウォン、ガスバル、センジュ、ニール、カートレーゼ、マーカス、キリエ、ゼロ、イーグル、そして他にも……。

「追加任務機関。そしてそれに関わった人々。あなた方は多くの局面で異能者と接触し、彼等も人間であると知ってしまっている。それは我々の作戦にとって非常に危険なことなのです。異能者は全て化け物として処理されなければならない。人々の心に躊躇を残さないためにも、あなた方には沈黙していただきます。

 ……シャンリー殿は関わった件全てについて、大変素晴らしい報告書を提出してくださっている。おかげで我々はあなた方一人一人について相当に詳しい情報を調べることが出来ました。お礼を申し上げますよ。これならば関係者全員とコンタクトを取って協力を要請することも難しくありません」

「カーベル君」

 それまで黙っていたエディスターレンが口を開く。

「その、協力を要請した関係者の、身の安全は保障されるのだろうな」

 窓際から、奇妙に落ち着いた表情で振り返るカーベル。

「界央都市数十万人の財産と生命を守るためならば、例えばその万分の一にも及ばぬ被害は……」

 致し方のないところかと。

「うーん……」

 額に手を当てて考え込んでいたシャンリーは、一つため息をついて。

「よし」

 平静にそう漏らすと、雷光の勢いで椅子を蹴り、カーベルへトンファーを抜き撃った。

 「関係者」に「協力」を「要請」し「沈黙」させる。そのために最も有効な手段は? 「万分の一にも及ばぬ被害は致し方ない」。その言葉の意味は?

 『追加任務機関関係者を抹殺せよ』

 この状況下でおとなしく拘束を受けるわけにはいかない。シャンリーの判断は正しかっただろう。しかし、戦闘力を奪おうと肋骨へ叩きつけたトンファーに伝わる硬質の感触。

(胴甲! 海兵隊戦闘装備……。最初からそのつもりか!)

「シャンリー逃げろ! 仲間に報せるんだ!」

 怒鳴るエディスターレン。自らは拘束され動けない。

「追加任務機関の反逆を確認した。取り押さえろ」

 不敵に笑って指示を出すカーベル。まずは確実に、民間人のアトラスを狙って殴りかかる海兵隊員。

「痛い」

 しかし気絶チェックに失敗しない根性アトラス。魔術師のくせにスゲエ。

 家具を蹴倒して退路を確保し、ドアから出ると見せかけて窓を破りアトラスの魔術で逃亡する二人。エディスターレンは潔く諦める。今は一人でも多く仲間を地下に潜らせることが優先。

 外へ出ると見せかけて中庭へ。馬場の馬を素知らぬ顔で借り受け、二人乗りで一路マーカスの店へ。

 店を守る、ガスバル達に伝えると残るマスターと、荷物をまとめて蓄電するキリエ。シャンリーはキリエの荷物の一部を受け取る。キリエはブドゥー道場への伝言も務めてくれた。

 そして二人はシールのパン屋へ。途中S/Fの誰何を受けるが、これはシャンリーの知っている人間だったので顔パス。

 PLが昨日の徹マンでひっくり返っていたシール、ここにようやく復活。ウォン先生にも話を通し、二人も身を隠すことに。

 シャンリーはここでニールから妙な話を聞く。S/Fが商人ギルドに働きかけて寄付を求めているという……? この時期になんのための追加予算を?

 しかし検証している暇もない。話もそこそこに飛び出す一同。シール達は河岸へ向かい、使いの者をやって学院からピョル=スを呼び、その背に乗ってダフニスを渡る。これは検問を警戒しての慎重策。

 対してアトラスとシャンリーは今や(ひとみ悟空の許可もなく)ダニカンの梁山泊と化したブドゥー道場へ。

 途中S/Fの誰何を受けるが、今度はワイアール=ロッデリー二尉登場。「そいつらは怪しくねーよ」と下っ端を追っ払う。

「なにをやらかしたんだ今回は……」

 ロッデリーと情報を交換するシャンリー達。エディスターレン三佐が本部以外のどこかに連れ去られたこと。海兵隊の司令部がどこに置かれているのかが不明なこと。上層部の穏健派で追加任務機関を公演していた人物達が「辞職」し、後継にはラズム三将の息のかかった人員が補充されたこと……。

「「正義の味方」が実験を握りやがったぜ」

 吐き捨てるロッデリー。シャンリー逮捕令にはまるで興味がないらしい。

「S/Fは生真面目君達の私兵集団になっちまった。奴等の狙いはこれだったのか、それともこれからなのか……。どちらにしろ、シャンリー、手前はしばらくこの辺をうろちょろしない方がいいだろうよ」

 軽く手を振ると背を向けて去るロッデリー。

「せいぜい気をつけな。てめーを殺すのは俺の仕事だ」

「……その時は、全力でお相手するわ」

 そしてかつてお互いの命を狙い合ったあの日と同じ、夕暮れが街に訪れる。


 沈む陽を受ける、同じ街の別の場所。十人ほどの人物の集う朱に染まった部屋。

「報告! シャンリー二尉、依然足取り掴めません!」

「報告! パン屋にはすでに該当者は見あたりません!」

「報告! 学院班、件の火竜とデュラハンに押し返されました!」

「報告! マルベリウス神殿班、白衣の剣士と交戦。敗退!」

「報告! ブランデイン家当主、任意同行を拒否! 理由は『めんどい』の模様」

「報告! ブドゥー道場の偵察班、ヒャルデルと接触。怪我人が出た模様!」

「報告! 滅尽使の確保に失敗!」

「報告! 石工組合の干渉により……」

 次々寄せられる部下からの報告を、渋い顔で聞き流しながら。

「なんともはや……」

 その男はうんざりと首を振った。

「計画通りとは言え、ここまで徹底的に治安権力の無力を見せられるとたまらんなあ」

「……申し訳ありません」

 頭を下げたのはカーベル三佐である。海兵隊指揮官もその部屋にいるメンバーの中では末席らしく、彼は扉の近くに悄然と立っていた。

「まあ、言いますまい。デルガシア中から集まった八界の精鋭を相手に、死者零名というだけで海兵隊の優秀性は間違いなく証明されておりますよ」

 とりなしたのは漆黒の影。影そのものが貼り付いたかのように、部屋の奥の壁際に揺らめいて見える。

 闇よりも暗く、影よりもなお黒い。暗天に翼を広げる魔物のように。

「……保険は全て失敗しましたが、本命はキッチリ落としたわけです。高望みはいけませんぞ。閣下」

「ま、貴殿の物言いが正しかろう」

 実際にはそれほど落胆していなかったのであろう。軽く首肯すると、渋い顔をしていた男は気を取り直したように部屋中を見渡し、告げた。

「さて諸君。時は来た。人々の安寧を守り、弱気者も、より弱き者も。すべての守られるべき住民の生命と財産のために。これより我等の計画を開始する。個人の汚名を恐れず、公の平和のために邁進せよ! 諸君等の命を預けていただきたい!」

『我等! 界央都市のために!』

 唱和する声。誇りに満ちたその響きを、壁際の影のみは揶揄する思いで聞いていた。

(さてさて。信念と組織行動の練度において一、二を争い、界央都市という地の利の面ではまさに比類なきこの一団が、ついに盤上に乗ったか……。いささか融通がきかんが、そこに気をつければ強力な駒となるだろう。これでどうやら、役者は揃ったか……)

 胸中一人ごちると、影は滑るように音もなく、戸口より外を目指す。

「どちらへ? 伯爵殿」

 立ちふさがる形で誰何の声を発するカーベルに対し、問いには答えず面白そうに。

「殿は目下につける敬称。敬意の表現ではありませんぞ。伯爵様と言うが宜しかろう」

「ご忠告有り難いが、それは重々承知の上ですので」

 しれっと言ってのけたカーベルの鼻先を、影は実に楽しそうに、喉から声を出して笑いながら掠めて出ていった。


 黄竜顕現まで、あと二巡り……。


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