アナログ掛算回路



二つの信号の掛け算をする回路をマルチプライヤ回路(アナログ掛け算回路)と呼んでいる。二つの入力信号の正負の符号を含めて掛け算をする回路を特に四象限掛け算回路と呼んでいる。

この回路はIC化が進んできた1968年にバリィ.ギルバ−トにより発明された。個別部品で作ると高調波歪みが大きい,信号が漏れる,出力レベルが制限されるといった欠点があったが、IC化により実用化が大きく進んだ。特に回路構成がトランジスタと抵抗だけで構成できることはIC化に適している。ギルバ−トが考案した回路は理論上完全な乗算ができる。

そのためにはIC化するとき次の条件を満たす必要がある。

  1.構成しているトランジスタが同一の特性であること。
  2.信号入力部の電圧−電流変換特性が直線動作である。

二つの入力の積を得るには差動回路を利用するとよい。マルチプライヤ回路(下図参照)の一方の入力は定電流源の電流値を制御し、差動増幅回路の相互コンダクタンスをその入力に比例させる。そうすると、もう一方の入力を差動回路の入力に与えると両入力の積が出力に得られる。下図の回路で計算すると出力電圧は

 

Vo=(q/2kT)(R/R)V

ただし V<<kT/q
   q:電子の電荷  T:絶対温度  k:ボルツマン定数

したがって下図の回路ではVは数mV以下でなければ線形動作が期待できない。実際のICでは動作範囲を広げるためもっと複雑な回路であるが、基本的には下図に示してある可変トランスコンダクタンス形である。

下図において入力Vに直流2mV,Vに交流(振幅8mV、周波数1KHZ)をいれてシミュレ−ションしてみると出力が約1mVになっている。上で示したVoの式で計算した値になっている。

シンクロスコープの緑がV入力,紫が出力波形である。