陰陽師


 平安京を舞台に、陰陽師、安倍晴明と源博雅のコンビが、ホームズとワトソンよろしくさまざまな怪異と遭遇する本作もついに7巻目。夢枕獏と岡野玲子コンビの筆も好調で、本巻では、鬼神と化した”菅公”こと菅原道真が、宮中の歌合わせを妨害しにくるエピソードが描かれる。

 本巻で興味深いのは、怒り狂う菅公の”上"にさらなる神が姿を表し、地獄から天上までが一つの光景として連なるシーン。その場面にあって、晴明は決して驚きを見せないのだ。これは、あらゆる世界を貫く法則”陰陽道”を操る晴明が、「現実」も「天上」も「地獄」も、角度を変えただけですべて同じ世界ということをわかっているからに違いない。

 古来、日本人にとって、人と鬼と神というのは別個のものではなかったという。左遷の恨みから鬼神となった菅原道真を天神様として社に祀る、という行為からも明らかなように、3者は変換可能な存在なのだ。それはそのまま「現実」、「地獄」、「天上」の関係にも重なる。

 岡野玲子はこれまでも「異界」と「現実世界」を描いてきた。ロック兄ちゃんが寺で修行する『ファンシイダンス』、魔女サイベルが人間の世界と出合う『コーリング』。が、いずれの作品でも、彼女が描く異世界は、まるで現実世界と地続きのように描写される。全く別の世界として表現されがちな「現実」と「異世界」が、彼女の筆にかかると「人」と「鬼」のように変換可能な対象となるなのだ。それは、実は、作者と晴明が、同じ視線を共有しているということにほかならない。

 だから本作の平安の都では、鬼と人が同じように息づいている。そこが本作の魅力で、従来の時代ものと一線を画すところだ (藤津 亮)  この作品で平安京の風景が、妙にリアルに感じられるのは、そんな作者と主人公の視線の重なりが生み出すマジックゆえなのだ  (98/7/5)