新世紀エヴァンゲリオン シト新生:第一印象

 まず、テレビ本編(24話まで)の再編集版である「DEATH」について。
 時系列をばらばらに構成し、むしろキャラクターの心情にしたがって並べ直したアイデアは興味深い。でも、それが面白いのは最初の10分ぐらい。本編をみていなかった人はキャラクターの名前さえ覚えることができなかったのではないか?しかも70分は長すぎた。戦闘シーンをもう少し減らしてでもいいから、もう10分ほど短いほうがかえってあの短いカットの積み重ねの効果も生きたように思う。
 映画というのは時間の流れを再構成する作業だ。その作業には基本となる時間軸が必要だ。通常は物語の中の時間が、そのまま基準時間となる。今回はその基準時間がまったくなかったことが、観客に対して不親切な内容になり、なおかつ「REBIRTH」につながらないという結果になっている。まあ、ファン大会のイベント用映像ならものすごく面白かったとも言える。
 むしろああいう方法で再構成するのではれば、ドキュメントタッチ(本編でもやっていたけれど)にしたほうが親切だったのでは。まあ、それをやりたくなかったからああいう方法を選んだのだと思うけれど。また、サウンド面ではキャラクター達の内面の声を副音声みたいに流す工夫もされていたが、僕いった劇場ではあまり聞き取れなかった。(何をいっているかはなんとなく分かったけれど)。
 疑問点が一つ。なんで弦楽四重奏でパッヘルベルのカノンなんだ?しかも物語上の時間設定もすごく不思議な設定になっていた。REBITH完結編でこの謎もとけるのだろうか?いや解けまい(←反語)
 結論から言うと、製作スタッフの意図はかなりの完成度で再現されていたたように思う。でも、それが観客が楽しめるかどうかはまた別なのだった。

 で、今回が第一部(笑)の公開となる「REBIRTH」について。
 監督のお言葉通り「とてもいいところで終わ」っていた。ウナゲリオン(愛称)がひらひらと舞い降りてくるところでチョンとなるので、ああもっと見たいというより、「ええー」(ぼのぼのの声で)となってしまう。まあ、もとより未完成なのは織り込み済みなので、クドクドはいうまい。むしろ問題はアスカの心理描写だ。
 ひとことでいうと、テレビシリーズであそこまでキャラクターの心情を追い込んでおいて、「母親が自分を見つけてくれる」というイメージシーンだけで復活させてしまうのはちょっと物足りない。ある人いわく「突然分かりやすいお話になった」というのはいいえて妙なのである。以前僕も少し指摘をしたが、(エヴァンゲリオン試論)物語としてキャラクターの心の再生を描くのは不可能に近い作業なので、結局ああいうありきたりのところで成立させるしかないのである。ご丁寧に、アンビリカルケーブル(へその緒)もはずしてくれる分かりやすい演出もあるし。
 でも言わせてもらうと、アスカの心の傷はつまり「イグアナの娘」なのである。それを普段はプライドだけで支えているのだ。そこまで傷を描写してしまった以上、母性的な愛情を示されるだけではなく、母親になる(あるいは自分が母性を持っていること)を彼女が実感できなければ、その傷の回復はありえないのである。そういうシーンがあの時点ではなかった。それはこの問題に対する庵野監督のつきつめの甘さを感じる。
 となると、今回語られなかったシンジの物語がどうなるかも推してしるべし、ということになる。ただ、唯一の希望は監督が映画版では「奇跡を見せなくてはいけない」と言っていることだ。僕は勝手にこれを、心の傷の回復を物語の上で解決するのは難しい、という意味でとっている。では、夏に奇跡を見られるのだろうか?

 それからシンジ君抜きまくりのシーン。今の時点では監督の意図を判別できないが、ちょっと変態ちっくな行為で心の傷が描けるという発想だったら「子どもっぽい」からやめようね。ああいうシーンをつくっちゃったことは評価するけど、全体の評価とはまた別。それからミサトの心の問題はこの後で描かれるのだろうか?結構不安である。

 とはいうものの、REBIRTHの作画、演出は確かに悪くない。(演出は不思議なもので、あれをテレビで見ると映画的な画面に見えるのだが、劇場で見ると映画というより豪華なテレビ演出に見える)観客はちょっと引いていたが、弐号機のアクションはよく描けていた。また、あそこでかかと落としするのはガイナックス的ではあると思う。 

 総論でいくと、初日のスタートダッシュはよかったが、あの内容では今後伸び悩み(というか、失速)が十分予想されるため、結果的には当初予想はやや上回るものの平凡な興行成績で終わるのではないだろうか?
 さて夏の「THE END OF EVANGELION」。REBIRTH完全版だけだったら何もわけの分からない映画になってしまうから、やはり「DEATH」と同時上映になるのだろうか?あるいは「スレイヤーズ」という見方をする方もいるようだが、興行方法でも疑問が残る。
 でも、僕は見にいっちゃうだろうな。悪い女にひっかかったようなもので・・・。 (97/03/16)


RN/HP