98年12月 ノンフィクション


『チビクロさんぽ』の出版は是か非か(市川伸一編、北大路書房 2000円)


「ちびくろサンボ」を改作し、差別部分を除去したという「チビクロさんぽ」をめぐってメーリングリストでディベートを行い、その記録をまとめた本。テキストベースで議論をする、という観点からも読めるし、もちろん差別問題と表現の自由のトレードオフについて考えることもできる。
 個人的には守氏(作者であり心理学者でもある)の議論の姿勢は、ちょっと乱暴というか粗雑な印象はぬぐえなかった。この印象は守氏の最終レポートを読んでやはり決定的になった。もっともそうなった理由の一部は実は反対派がもうちょっと主観ではなく明文化された世界観で、出版姿勢を問うというところが弱かったことの裏返しでもあるのだが。
 と、いうわけで、最後についている第3者(有識者?)がログを読んでまとめたコメントを読むと、読みながら感じていた「はっきりしない感じ」が他の人にとってもそうとわかり、溜飲がさがる。特に道田@琉球大学氏の発言155以降、急激に議論に欠けていた部分が明確化し面白くなったと思う。その分、守@信州大学氏の最終レポートの無邪気さ(といっていいのかなあ)は残念であった。蛇足でしかないでしょう。2作目の話というのは、それほど本題にはリンクしていないと思うのだが。

 ここで疑問なのは「差別は社会制度である」という命題が、証明も否定もされなかったこと。一部の差別はそうだと思うのだが、身体障害を表現する言葉がマスメディアから駆逐されたことの背後にあるのは「差別」ではないのだろうか? よくわからない