- Hospital -

 

 

 

   本 : ゴブリンはそこに一冊の本をみつけた
      それは『童話』と言われる本であった。
      ゴブリンはページをめくって行った。
      
『何だ?これは?』
      それは何やら赤色の鬼が出てくる話らしい。
      ゴブリンはその本を読み進むうちに、自分の意識の中の、もう一人の別な自分の存在に気づいた。
      
『お前と同じだ。そして今、お前はお前自身を憎んでいる。』
      この物語はまさにゴブリンを影す鏡であった。
     
 『なぜだ?なぜオレはこんなに・・・赤い奴を憎むのだ!』
      ゴブリンが自分の意識の中、今、別種の感覚が出現しようとしていた。
      この本がゴブリンに人間に対する同情を引き起こしたのだ。
      全く異質なこの感覚に、ゴブリンは激しい苦痛を感じた。
      やがて、それが去った時ゴブリンは今までとは違うものが意識に根ざした事を知った。
      ・・・『優しさ』と『愛』である。

 

   写真 : オークはそこに1枚の写真を見つけた
        それはどこから運ばれて来たのだろうか?
        風に乗り偶然そこに、たどりついたのか真新しい、たった今持ってきたばかりのようであった。
        オークはものめずらしそうに手に取ってみた。
        人間の親子のようである。
        
『フン!人間か!』
        オークはその写真を投げ捨てた。
        が、その時オークの意識は、小さいがハッキリと輝く光を放った。
        
『何だ!これは!』
        オークは自分の意識が暴走した感覚に襲われた。
        意識の中に広がるそのわずかな光りの波紋は瞬時にして、超新星誕生のごとく巨大な爆発を起こした。
        自分の意識が勝手に動き出している。
        オークは恐怖した。
        しかし、その恐怖は消え去った。
        オークは失っていた感覚が復活した事を知ったのだ。
         すべては人間がそうさせていたのだ。
        魔物という意識が、この感覚を消し去っていたのである。
        そして今、オークは取り戻した。
        『優しさ』、そして『愛』を・・・

 

   標本 : ミノタウロスは一つの標本を見つけた
        それを目にした時、ミノタウロスの意識に一つの光りが走った。
        それは失った自分自身の記憶であった。
        奇形・・・人間がまき散らした薬物により生じたものがこの姿なのである。
        
『人間は自分自身を苦しめるものを何かに使っていたらしい。』
        あまりにも破滅的な行為にミノタウロスは同情した。
        その時、彼の意識に『優しさ』と『愛』が生じた。

 

   本 : 散乱している本の中、ひとつのページにスライムは気を止めた。
      人間の歴史の中の1シーンらしい。
      海にただようヘドロ・・・公害?・・・。
      スライムの意識の中、一瞬の光が走った。  
      スライムはその時失われた記憶を取り戻した。
      人間が社会の発展の過程でつくり出した、廃棄物。
      それこそが自分の姿なのである。
      発展と引きかえに、人間は自らも害を与えるものをつくり出していたのだ。
      
『なんと、おろかな・・・。』
      スライムの意識に『優しさ』と『愛』が生じた。

 

 

 

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