妊娠とタバコ

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タバコが自分のからだや胎児に悪い影響がある、というのはみんな知っていると思います.でも、ストレスの多い仕事をしていると(看護婦さんとか)妊娠していてもタバコを続けているひとがけっこういます.わかっちゃいるけどやめられない、のですね.

では、具体的にタバコはどのような害があるのか?

周産期医学 vol.28 増刊号 1998、32-37ページを参考にして解説してみます.

タバコの有害物質

紙巻タバコの煙の中には、4000 種類以上の化合物があることがわかっています.そのうち、とくに胎児に影響のあるものを列挙します.

1.一酸化炭素(CO)

2.ニコチン

3.シアン化合物

4.ベンツピレン

まず、1.の一酸化炭素ですが、これは容易に胎盤を通過し、胎児の血液中のヘモグロビンに結合してカルボキシヘモグロビン(HbCO)というのを形成します.ふつうは、酸素とヘモグロビンが結びついて、胎児の組織に酸素を運ぶのですが、一酸化炭素は酸素よりもものすごくヘモグロビンとくっつきやすいので、肝心の酸素が運ばれなくなるわけです.そして、末梢組織が低酸素状態になります.このカルボキシヘモグロビンの量は母体よりも胎児のほうが高くなるといわれ、一酸化炭素吸入による被害は胎児のほうが大きいのですね.

極端な例では、一酸化炭素吸入自殺者(ガス自殺)20 例のうち、母親は生き残ったにもかかわらず胎児が死亡した例が 4 例あり、また胎児死亡はまぬがれたものの児に精神運動障害、水頭症、知能遅延などが 8 例認められたといいます.(1955 年の報告)

2.のニコチンは、血管を収縮させ、子宮・胎盤血流量の低下、絨毛間血流量の減少をおこし、胎児への酸素供給を減らして胎児の発育低下をもたらすといわれています.

3.のシアン化合物ですが、これも胎盤を容易に通過します.最近、よくマスコミをにぎわす毒物ですね.シアン化合物を含む食餌で飼われたネズミから生まれた子ネズミの体重や脳重量は有意に軽いという報告があります.

4.のベンツピレンは発ガン性、催奇形性があります.

喫煙の影響

1.出生児の体重減少

1957 年のカリフォルニアの 7499 人の妊婦を対象とした報告では、低出生体重児の発生率は非喫煙群で 6.8%、喫煙群で 12.5 %と約 2 倍.一日 10 本以下の喫煙で 96g、20 本以上の喫煙で 200gの体重減少を示したとのこと.

2.流産率・早産率の上昇

自然流産の原因の多くは胎児の染色体異常ですが、これを考慮した報告では、妊娠中の一日 14 本以上の喫煙で、流産率が 2 倍になるとのことです.

早産の頻度も、非喫煙者とくらべると喫煙者は 1.4 〜 1.5 倍高いと報告されています.

3.常位胎盤早期剥離の発生

常位胎盤早期剥離の発生率は一般に約 0.4 %といわれており、妊娠中毒症に関係するものが多いのですが、常位胎盤早期剥離の約 40 %が何らかのかたちで喫煙に関係している、という報告があります.

4.周産期死亡率の上昇

周産期死亡率は、非喫煙者とくらべると喫煙者は 1.2 〜 1.4 倍高いと報告されています.

5.催奇形性

喫煙と胎児奇形の関係はまだ結論は出ていませんが、ベンツピレンなどが奇形を起こす可能性はあります.

精子とタバコ

最近のアメリカの論文で、十八歳の男性二十五人を対象に、精子を調べた報告がありました.

喫煙群(過去二年以上、一日二十本以上喫煙しているもの)が十人、非喫煙群が十五人の比較では、喫煙群のほうが精子の染色体異常が多く、総精子数、運動精子数、運動率は有意に低かったそうです.ただ、精子奇形率はどちらも変わらなかったのですが、喫煙群には頭部が円形の精子(round head sperm)が多く、これは不妊男性に良く見られるものだそうです.(たぶん未婚の)十八歳にしてこのように精子に異常所見が出るのですから、ご主人にはタバコはひかえてもらったほうがよさそうですね.

受動喫煙について

夫や職場の同僚のタバコの煙は、自分の意志とは無関係に吸引させられるものであり、これを受動喫煙といいます.なんと、喫煙者本人がフィルターを通して吸う煙(主流煙)より、点火部から立ち上る煙(副流煙)のほうがニコチンは 3 倍も濃いんですね.

妊娠 36 週以上の妊婦 500 例を対象とした欧米の報告では、夫の喫煙 1 本あたりの出生体重が平均 6 g 有意に減少するとのこと.また、3891 例の妊婦を対象にした調査では、妊娠期間中 1 日最低 2 時間以上受動喫煙にさらされる妊婦は、さらされない妊婦に比べて妊娠 37 週以上の低出生体重児のリスクが 2.2 倍と有意に高く、出生体重は平均 24 g 減少したとのことです.

妊娠した場合、タバコは胎児に有害です.喫煙者である夫や職場の同僚に理解を求めましょうね.

まとめ

喫煙によって胎児におよぼす有害作用物質は、おもに一酸化炭素、ニコチン、シアン化合物です.

一日のタバコの本数と出生児体重の減少とは正の相関があります.

妊娠中の喫煙は、常位胎盤早期剥離のリスクを高めます.

妊娠中期以後の喫煙は周産期死亡率を高めます.

喫煙と先天奇形の関係は明らかではありませんが、いくつかの報告があります.