重症 OHSS の治療

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重症 OHSS の治療

 今回は、重症の OHSS (卵巣過剰刺激症候群)の治療について考えてみます.OHSS の原因(病態)、予防法などは他のページを参照してください.

 体外受精・胚移植の場合、もともと卵巣の過剰刺激をしているのですから、大なり小なり OHSS は必ず起こると考えて良いでしょう.OHSS が問題となるのは、それが重症化したときです.

 そして、重症 OHSS のほとんどは、妊娠例か、黄体期補助として HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を強力に使った症例です.妊娠の絨毛組織から分泌される HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)が各種酵素系その他を活性化してブースターの役目をし、症状をさらに悪化させるからです.

OHSS の重症度分類

 体外受精・胚移植の場合の OHSS の重症度分類ですが、もっともわかりやすい腹水の量でいえば、子宮の裏側のダグラス窩というところに少量の腹水が溜まるのが軽症(体外受精で採卵した場合ほとんどが軽症の状態です)、臍下まで腹水の溜まるのが中等症、臍上の上腹部まで腹水が溜まるのが重症(この時点ですでに腹水は2000 ml以上)、胸水が溜まり呼吸障害が出てきたら最重症、と四段階に分類します.

 もちろんそれ以外に、血液の濃縮(凝固能亢進)とか尿が出なくなるとかの臨床症状があります.

重症 OHSS の治療に対する考え方

 重症 OHSS になると、腹水が多量に溜まり、かなり苦しい状態になります.その腹水はどこから出てくるかといえば、血管内から漏れ出てくるわけです(血管壁の透過性の亢進、といいます).水分とタンパク、ナトリウムなどがどんどん血管外に流出し、血管内の浸透圧が下がりますが、赤血球や血小板などの有形成分は血管内にとどまるので、血液濃縮がおこり、粘稠度が増し、血液の流れが悪くなって詰まって血栓症を起こしやすくなります.腎臓の血流量も減るので乏尿となり、ホルモン的に腎臓での水分の再吸収が亢進するのでますます身体に水が溜まります.

 身体の水分の循環・配置が完全に狂って、悪循環となっているわけです.

 そこで重症の際の治療はどうするのか?ということですが、画一的にこういう方法で治療したほうが良い、というやり方はありません.妊娠例と非妊娠例でも違いますし、ケースバイケースで症例ごとに考える必要があります.

 ただ、ある程度治療のスタンダードというのを押さえておくことは必要でしょう.

 まず、治療の基本は、悪循環を絶つことです.

重症 OHSS の治療・水分負荷か水分制限か?

 ここでは、妊娠継続中の重症OHSSについて考えてみましょう.

 ほとんどの論文や教科書では、「血栓症の予防のため、まず血液を薄めなければならない.すなわち一日 2000-3000 mlの生理食塩水などを点滴して、水分補給をして濃縮血液を薄めて、尿が出るようにする」なんて書いてあります.

 ほんとうにそんなことをして大丈夫なのでしょうか?わたしには、そんな論文を書く先生は、臨床経験が全く無いか、あるいは重症の OHSS を扱ったことの無い先生だとしか思えません.

 そもそも、重症の OHSS の場合、身体全体としては水分過剰な状態です.それは、体重を量ってみればすぐわかります.重症の OHSS なら3〜5kgくらい体重増加、すなわち余分な水分が身体に溜まっています.そこにさらに点滴で水を入れるとどうなるか.血管壁はザル状態なのですから、血液の濃縮は改善されず、さらに腹水が増量し、医原性の最重症 OHSS をつくってしまうのですね.

 この水分負荷という治療の矛盾に対して、クリアカットに答えを出してくれたのが、札幌医大の大先輩、荒木重雄先生です.荒木先生の不妊治療ガイダンスには、治療の具体的内容は載っていないので、ここに自治医大方式として紹介させていただきます.

 治療の基本は、悪循環を絶つことですから、血液濃縮を改善して循環血液量を確保し、その結果正常な血圧維持・尿量確保をすることです.そのためには、血管外の水分を血管内に引き戻すことが必要です.

 そのために、水分・塩分制限と、血管内の浸透圧を上げて水分を血管内に引き戻すための大量のアルブミン(ヒトのタンパクの一種)の点滴を行い、血液濃縮が改善されてきたら様子を見ながら利尿剤を用います.必要に応じて付加治療を行います.

 以前はこの治療だけでかなり有効であったのですが、腹水が大量に溜まっていて苦しい状態を速やかに改善するために、最近は腹水濾過濃縮再静注法、というのが行われるようになりました.

 その名の通り、腹水を抜いて、フィルターを通して血球成分や細菌等を除去して、濃縮してまた点滴する方法です.腹水を抜くだけだとすぐ溜まりますし、電解質バランスが崩れておかしくなることが多かったので、昔は「腹水はできるだけ抜くな」と言われていたのですが、この治療にも保険が効くようになり、いまや重症の OHSSに広く用いられつつあります.しかし、発熱や感染の可能性などの副作用もあるので、注意深く施行しないとなりません.

まとめ

 重症の OHSS の治療の基本は、水分・塩分制限と大量のアルブミン投与です.腹水による症状が強い場合、腹水濾過濃縮再静注法も考えます.

 マニュアル的・画一的な水分補給は、さらなる悪循環を生み、重症 OHSS を医原性の最重症 OHSS へと移行させる可能性があります.