習慣流産と免疫

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習慣流産にはさまざまな原因があります.

流産の原因の 70 %以上は受精卵の染色体異常です.残りの 30%に黄体機能不全、子宮の異常、免疫の異常などがあるわけです.

今回は、そのなかでも免疫、とくにHLAに関して説明します.

免疫とは?

免疫とは、古典的な概念では「自己」と「非自己」を認識して「非自己」を排除するような働きをいいます.

胎児は免疫学的には父親由来の抗原を表現する移植片(非自己)であるため、当然母体側としてはそれに対する免疫反応が起こります.

昔は、妊娠中は免疫力が落ちるのでそれで 10ヶ月間胎児と共存できるのだろうと考えられていました.実際、妊娠中はウイルス疾患などにかかりやすくなります.

しかし、いまでは、胎児に対しての積極的な免疫反応が(胎盤のもとになる絨毛細胞の増殖を促すなどして)妊娠の維持に必要である、と考えられています.

そもそも、強い種族の維持のためには、「よその血」が入ることが必要なわけです.胎児への免疫反応が無いほうが良いのであれば、親子、兄妹などの近親婚が理想的、ということになりますよね.したがって、われわれの創造主はあえて「よその血」同士で妊娠できるように人間を創ってくれたのですね.

HLA とは?

それでは、「自己」と「非自己」はどのようにして区別するのか?細菌とかウイルスを排除するのは当然としても、臓器移植などに関してはわれわれの身体はなにをもとにして「自己」と「非自己」を区別するのでしょうか?

その答えが、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)というものなんです.

主要組織適合遺伝子複合体(MHC)が各動物にひとつずつ存在するといわれています.マウスならなに、ラットならなに、というふうに.

人間では、HLA 抗原というもので、常染色体の六番目の短腕に集中しています.

骨髄移植ではHLA 抗原の完全一致が必要ですし、その他の臓器移植でもかなり一致しないと拒絶反応が強く、移植はうまくいきません.

以上のようなことから、HLA 抗原が夫婦の間で良く似ていると、胎児を「非自己」として認識できず、胎児に対しての積極的な免疫反応が起こらないので流産に至るのではないか、と考えられるようになったのです.

ところが、正常妊娠と習慣流産を比較した最近の研究では、HLA 抗原が似ていても似ていなくてもあまり流産率に関係はなさそうだ、ということになり、現在ではほとんどの施設でも検査としては「参考程度」のものとなっています.

わたしも、最近は検査には出していませんね.

夫リンパ球輸血(夫アロリンパ球免疫療法)について

HLA 抗原が夫婦の間で良く似ていると流産しやすいらしい、ということで、1981年に医学雑誌で有名な Lancet や Am J Obstet Gynecol に立て続けに夫リンパ球輸血が紹介され、一躍ブームとなりました.

要するに、夫(由来の組織、すなわち胎児)に対して免疫反応が起きるようにしよう、ということです.

いろいろやられているうちに、 HLA 抗原が似ていない夫婦でも効果がありそうだ、ということで原因不明の習慣流産にも行われるようになりました.斗南病院でも神谷先生が数人に行い、まあまあの成績だったと記憶しています.

ところが、1994 年にワールドワイドと題した世界中の多施設での集計結果が報告され、リンパ球輸血に特別な効果は認められない、という結論が出されました.その後は日本でも賛否両論が現れ、リンパ球輸血を中止した施設もあります.

以下に、虎の門病院産婦人科部長、佐藤孝道先生の文章を引用させていただきます.

これは、Balloon 別冊 part 2、赤ちゃんをつくろう! 79ページに載っています.

「・・・しかし、実感として、リンパ球輸血が全く治療効果がないかというと、そうとも言い切れません.二回流産した人が、何も治療をしないで妊娠して、三回目も流産する確率は約 40 %と高いものですが、リンパ球輸血をすると、流産率は 12-13 %に下がります.これは流産の既往(経験)のないカップルの自然流産率とほとんど変わりません.また、三回流産した人が、四回目の妊娠で流産する確率は約 50 %ですが、リンパ球輸血後の妊娠だと、流産率は約 20 %とやはり下がっているのです.(中略)私(佐藤)は、効果やメカニズムについてはうまく説明ができませんが、とりあえずやってみますか?、とこの治療法を希望するカップルには実施しています.・・・」

夫リンパ球輸血の効果はどのように判定するのか?

それでは、夫リンパ球輸血が効果があったのかどうかは、どのように判定するのでしょうか?

結局、やった、妊娠した、効果があった、というようなあやふやな結論になるわけで、やった、流産した、効果がなかった、といわれるかもしれません.

これでは二重盲検法が行われる前の薬の認可と同じですね.

昔の薬は、使った、治った、効いた(良かった)、で認可されていたわけ.だからサリドマイド事件など起きたのですが.

そこで、夫のリンパ球に対する妻側の抗リンパ球抗体を簡便に調べる方法として、東海大学のグループが 1993 年に発表した Flow cytometry crossmatch test (FCM クロスマッチテスト)という検査法を以前このページで紹介しましたが、現在は検査をしてくれる施設がなくなりました.

外注できる検査として、古くから行われている リンパ球混合培養抑制試験、というのがあるのですが、夫リンパ球輸血の効果を本当に判定できるかどうかは(FCM クロスマッチテストも同様ですが)不明です.

まとめ

以上をまとめると、現在のところ習慣流産に対する夫リンパ球輸血の効果は、はっきりとはしないが効く場合もありそうです.

しかし、統計的にはその効果は否定的です.また、その効果を判定するための客観的な試験法も確立していません.