※絵部屋と文章部屋両方に同時UP。
【真南風 】
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―― お前って奴は悩み何ざぁないんだろ。
というのは、この宇宙の首座の守護聖の言。
なんだか馬鹿にされてるようなその言葉を、だけどオレはことさら否定しようとは思わない。もちろん悩みがないって言ったら嘘になる。だけどそれを口に出したところで何かが変わるわけではないから。
そうさ、心に引っかかるもやもやは、オレにだって沢山あるんだ。
オレはこの場所で、きちんと役に立てているだろうかとか。
今頃故郷の星はどんな様子だろうかとか ―― 海は荒れてないだろうか、漁は豊漁だったろうか、じいちゃんは …… 元気でいるだろうか、とか。
あとはそういえば最近、こっちに来てから出来た友達のひとりが、妙に気を塞いでるけど大丈夫だろうか(当人に言えばきっと否定するだろうけど、たぶんあれはホームシック)とか。
とかとか。
いろいろ。
いろいろ思うことはあるんだ。オレだって。
だけどそれでしょげて下向いててもしょうがないことも知ってるわけで、あんまり深く思い悩むようなことはしないようにしてる。
それがはたから見れば「悩みがない」ように見えるんだろうし、それでいいやとオレは思ってる。
でも。
それでもどうしようもなく、ふと故郷の海が見たくなるような日だってあるわけで。
そんな時、オレはこの丘の上に来る。
ひるがえる草原が、どこか故郷の海を望む丘に似ている。
もちろんここは聖地の中だから、崖下に広がる蒼い蒼い海も、風に乗せて匂う磯の香りもないけれど、手を広げて風に抱かれていると、心がふわりと軽くなって、空だって飛べるような気がしてくるんだ。
遠い故郷の海まで、繋がってるんだって思えてくるんだ。
ただ、それと同時に、やっぱり少し寂しくなってしまって。
ああ、じいちゃんに会いたいなって思って、じわりと目の端が滲んで、見ていた太陽がまぶしくて、思わず目を閉じてしまったりする。
こんな感じでオレもまだまだなわけだけど、でもやっぱり無理に平気なふりもしないでいたい。
自分自身に目をそらさずいたい。
不安も寂しさも懐かしさも、全部抱いたままのオレがこの場所で、一歩一歩進んでいきたいから。
そういうの全部ひっくるめて、忘れずに連れて、この先に行きたいから。
「よし!」
いつものように、空と太陽と風 ―― と、遠い場所にある故郷の海 ―― に元気を貰って、オレは強くこぶしを握る。
また元気にやっていける。
ちょっぴり泣きたい気分の時があったって、不安に思うことがあったって、オレはまっすぐ前を向いて歩いていける。
そうだ、こんどは、最近塞いでる友達も連れてこよう。
きっとこの風に吹かれたら、元気になれるはずだ。
そんなことを考えつつ、オレは帰るべき道を辿り、走りだす。
背中を風が押している。
大丈夫。明日もきっと、オレは元気だ。
―― 終
◇ Web拍手 ◇
おさわり同盟の「勝手にアンジェ15周年企画」へ投稿した作品。
こっちに来てから出来た友達のひとりが気を塞いでいる件に関しては、人によってエンジュを当てはめたりいろいろ考えてもらえればと思います。
が、当然のように(笑)ティムカを当てはめてくださった人には、以前書いた この話 に繋がるっぽいですとお知らせしておきます(笑)。
2009/09/25作 2010/8/16再録
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