補聴器(牧野耳鼻咽喉科医院)
ご訪問者数
平成12年4月9日より




<補聴器と眼鏡>
補聴器については多くの誤解があります。眼鏡のように適合させれば直ぐに使用可能とはなりません。
近視の補正はあくまでも物理的レンズ特性の調整です。しかるに補聴器の場合は単に音を増幅させたの
みではだめなのです。世間でよく言われている ” 補聴器買ったけどガーガー雑音ばかり入って人の話
がよくわからない ”がこの結果です。約10年補聴器外来をしていますが20%の方は理論的に最良の
調整をしても残念ながら使えるようにはなりません。眼鏡の調整ではこのようなロスはないはずです。
従ってこの両者では販売法も変えなければなりません。10-40万出して買っても20%の方は無駄
になってしまいます。補聴器とお金の交換ではいけないのです,たとえ型取りしても,もし使用出来な
い場合は無償で返品可能なシステムでなければなりません。購入したが使用出来なかった人は補聴器に
対して以後,否定的な意見を述べるでしょう。これではますます世間の評価が悪くなってしまいます。



<伝音性難聴 と 老人性難聴>
耳の聞こえの仕組みを簡単に説明します。オーディオの増幅装置と比較します。
  
          マイク____中耳(鼓膜,耳小骨,蝸牛)
            ↓          ↓

          コード____聴神経
            ↓          ↓

          アンプ____脳(聴覚領域)

の如く対応しています。

 伝音性難聴とはマイクのみ故障した状態です。他の部分は正常であり有効な医学的処置が可能です。
たとえば鼓膜に穿孔があれば鼓膜形成術で閉鎖すればよい訳です。また難聴があっても音を増幅さえす
ればよく,極論すればどんな補聴器でも役にたちます。

 感音性難聴とはコードの不調,あるいはアンプの故障です。当然ながらこれらの部位は頭蓋内にあり
 現代の医学では全く処置出来ません。老人難聴の大部分はこの状態で,音が歪んで聞こえています。
言葉は聞こえるが何を言っているか分からないことになります。このハンデがあるため音の増幅のみで
は補聴器を使えません。残存聴力特性に厳密に適合させねばなりません。





<補聴器の現状>
まず最初に述べますが補聴器の場合 ”高価=高性能”、”高性能=聞き取りが良い”訳ではありません。使用者の聴力像にある程度理論的に合致するのがよい補聴器なのです。新聞の広告では”雑音が少ない,歪みが少ない,聞き取りがよい”などの美辞麗句が並ぶ場合もありますが,これらの条件を一度に全て満足させるのは無理なのです。”雑音”,”聞き取りやすさ”,”音のボリューム感”などの感覚がありますが,単一要素をよくすると他の要素は必ず犠牲となります。電子的に特殊な増幅操作は可能になりましたが、人によっては歪みの感覚になる場合もあります。 箱型,耳掛け,カナル(挿耳),デジタルが現在一般的な補聴器です。価格はそれぞれ5万前後,7ー8万,12ー15万、20−40万円がおおよその目安です。音質コントロールのトリマーをオプション追加するとやや高くなります。最近の傾向ではカナル、デジタルが主流です、耳掛けが少なくなりました。ただ老人の方には箱型の需要もあります。適合操作もパソコン上で可能になり、使用者の残存聴能力と理論上は合致させることが容易になってきました。これだけの調整をしても使用を始めて直ぐに100%満足はありません。後でものべますが日常生活の中で使用して慣れることが必要です。これにつけこみ一部の業者はより高価な品を勧める場合があります。私の聞き及んだ範囲では15個購入された人がいます。 良識ある業者で初回購入してだめなら残念ながらその方の補聴器への適合は少ないと思います。


<望ましい補聴器販売店>

いろいろな形態で補聴器が販売されています。病院の補聴器外来,専門店,眼鏡店,時計店,電気店などがあります。補聴器は単なる音の増幅器ではありません,適合には技術が必要であり専門的な知識が求められます。他の仕事の片手間に出来る内容ではありません。私としては最初の2者を勧めます。
最短一ヶ月の無料試聴期間がある。前述の如く約20%は使用出来ず無駄になってしまう。この弊害を避けるため である。ただこのシステムをとる業者は少ない。
認定補聴器技能者がいる認定補聴器専門店。あるいは補聴器に精通した耳鼻科医がいる病院。コンタクトレンズを 作る時は眼科医に行くのが世間の常識ですが補聴器の場合は耳鼻科医は無視されます。現状では我々耳鼻科医の補 聴器に対する認識は低いと言わざるを得ません。ただ耳鼻咽喉科学会として補聴器は重点教育項目となっておりい ずれ改善すると期待しています。
ある程度の品揃え。業者によっては箱形,耳掛けのみを勧める場合あり。これは適合手順が簡単であり技術が拙 くても一定の利益が得られるためである。また利幅の大きいカナルのみを勧める場合もあり。いずれも要注意であ る勿論選択には幅があるが業者の都合で決めるものではない。
購入して終わりではない,その後のアフターサービスが重要。
買い替えばかりを勧める店は避ける。長期の経過では難聴が進行する場合もあるが,まずは機器の 内部調整 で対応すべきである。




<デジタル補聴器について>
 音声の入出力をデジタル処理するものである。レコ−ドが今までの補聴器、CDがデジタル補聴器と
考えれば理解し易い。一般的には音質は澄んだ印象となる。周波数特性が以前よりはパソコンを利用し
て効率的に変更可能、環境に応じて特性変換が可能。業者の宣伝の要旨は大体このようである。アナロ
グが終わりデジタルの時代になったような印象を受けるかもしれない。
ただ補聴器としての現実は必ずしもそうではない。


デジタルについての個人的なコメント

 CDは確かにアナログを駆逐したが、これはあくまでも聴力が正常な場合である。”従来のアナログ
で改善が認められない高度難聴者がデジタルを使用すれば劇的に改善”との宣伝文句も見かけるが、実
際には失望する方が多いでしょう。音質改善のために特性に変化を付ける方式がいくつか実現されてい
る、しかしある意味では自然な音に変化を加え人工的な音のひずみを作成しているのかもしれない。健
常者には有利なことが感音難聴者にはマイナスになる可能性もある。
 軽度難聴者には有効であろう、平均聴力損失レベルで60、70dBが限界ではないか。ただこのレ
ベルではアナログでも有効であり、感覚的な趣味の問題となる。アナログレコ−ドへの回帰が一部の音
楽マニアでみられるが、人工的に澄んだ音よりも暖かみのある音を好む人もいるのである。 値段もカ
ナル26万前後、CIC(完全耳穴挿入タイプ)30万前後と高価である。独断的であるが、お金に余
裕があり積極的に生活改善をめざす人に向くのではないか。
     




<補聴器の両耳使用について>
 普通は両耳で聞いていた訳ですから理屈の上では理想的です。うまく使えれば立体感,聞き取りの向
上が得られます。ただ補聴器を使うことによる異和感も2倍あるいはむしろ二乗となります。聴力像か
らも効果が得られない場合もあります。片方で約80%の使用率と述べましたが,両耳に関してはより
少なくなります。


両耳使える条件

1  片耳に補聴器を以前より使用しており取り扱いに熟知している。

2  会議などでより活用したい等 意欲的であること。volを下げることにより
    雑音が減少し聞き取りがよくなる。

3  主たる耳と比べ聴力像に左右差がないこと。片耳が軽度あるいは中等度難聴で他方が高度
    難聴ならば片耳使用がよい。

4  両耳共に高度難聴であり片耳のみでは効果のない場合。


 両耳使用が理想的と宣伝する業者もありますが、最初から両耳に補聴器を使用することは避けてください。
リハビリの訓練のつもりで段階的に慣れなければなりません。
 
 ”補聴器1つで20万だけど,両耳だったら2つで35万にしますよ”

このような販売をする業者もありますが上記文面よりお分かりと思いますが論外です。



<トラブル例>
***その1***
近隣の耳鼻科での話
ある日患者さん登場
”補聴器買ったけど,聞こえが全然よくならない”
”どこで買ったの”
”出張してくる補聴器屋さん”
”まあ診ましょうか,補聴器はずして下さい”
”これはひどいね耳垢がぎっしり詰まっているよ”
”でも補聴器屋さんは耳をみて中に粘土みたいのを入れて型を 取りましたよ”
”でもこれじゃ聞こえる訳ないよ,きれいにしましょう”
処置後
”先生よく聞こえるよ,これだったら補聴器なんかいらないよ”
患者さんは大喜びで帰る

笑い話のようですが実際にあった内容です。業者は耳型を取る時に耳垢栓塞には気が付いたはずです。 にもかかわらずとにかく売りつけた訳です。このような業者は買ってから不満がでてもまず対応は してくれません。特にこの場合は無理でしょう。



***その2***
当院での話
患者さん登場
”補聴器買ったけど壊れたから見てくれ”
”それは保険医療じゃないから購入した業者に相談して”
”聞こえの検査もしてないし,訳あって絶対に行きたくない”
”なぜ?”
”補聴器説明会のチラシをみて行ったんだけど,希望もしないのに強引に耳型を取られて
代金を請求された。断るのも恐くて購入した。でも担当の人には二度と会いたくない”
”使ってみて具合はどうだった?”
”聞き取りがよくなって便利だったけどすぐに壊れた”
”当院の出入りの業者さんに修理を頼んでみましょうか”
後日
この補聴器の中の装置は10年以上前に輸入された型番で修理が出来ないと 戻ってきました。
(解説)
この業者は売り方も強引だったのですが,補聴器の特性が使用者の聴力特性とたまたま 一致していたために,結果としては当初は問題ありませんでした。カナルタイプといって オーダーメイドで作るタイプです。内部にどのような装置を組み込むかは業者の良識に委ねる しかありません。この場合は,ほとんど二束三文の廃棄対象の装置が使われたようです。




<補聴器適合の手順>
1 補聴器を装用する側を決定します。現在の聴力像,利き腕が関係します。原則としては聞き取りの
   よい耳にします。細かい条件はケースバイケースです。

2 補聴器の種類を決定します。難聴の程度,手の器用度,外観,予算がファクターとなります。こ
    れも一概には決められません。ただカナル(挿耳型)は軽度より中等度向きと教科書にはありま
    すが工夫すれば高度難聴にも使用可能です。

3 標準聴力検査、場合により語音明瞭度検査をおこなう。

4 デジタルでは聴力のデ−タをパソコン入力します。

5 以上の操作で理論上の最適の条件が設定されます。ただこれは適合の第一歩です。

6 ここから試聴を開始します。実際の生活場面で使用してもらいます。使い始めて直ぐに有効に 
  なる訳ではありません。あくまでもリハビリの訓練と理解して下さい。段階的に使用時間を延 
  ばしていきます。最初はテレビのニュース番組などがいいでしょう,これはアナンサーの口の
  動きが分かるからです。また最近では補聴器を付けた状態で語音明瞭度検査(ことばの聞き取り検査)
 を行い調整の参考にします。

7 同時に家族のいる方はそちらの教育も必要です。老人難聴の人と話す場合はなるべく周りは静 
   かに  ,ゆっくり,顔を向けて話すことが重要です。とにかく言葉の判別能力も落ちている訳 
   ですから。

8 最短一ヶ月の試聴は必要です。その後購入してもらいます。

9 その後も3月後、6月後、1年後のチェックも重要です、知らないうちに耳垢で性能が
  落ちる場合もありますし、外耳道の湿疹とか炎症になってることもあります。

10補聴器を長持ちさせるためには、途中でオ−バ−ホ−ル修理が有効です。普通は
  保障期間が1-3年あります。期限が切れる前に一度は上記調整を勧めます。








<上記条件に適合する補聴器外来(ただし私の知る範囲)>

       

       牧野耳鼻咽喉科    0547ー37ー5814
       第二,第四火曜日    9:30ー12:00  牧野医師

       あんどう耳鼻咽喉科   045ー336ー0878
       随時                                   安藤医師

       和田耳鼻咽喉科     045ー822ー1474
       随時                                  和田医師

       テクノス         045ー314ー6576
       随時   できれば金,土曜日           市野 認定補聴器技能士






メニュ−画面に戻る