11/4(土)
朝早くからバスでザルツブルクへ。
ところが雪のため道路が大渋滞していて、ザルツブルクについたのは午後3時前。3時から大聖堂(ドーム)でミサのリハーサルの予定があったため、昼食もとらずにまっすぐドームへいくと、むこうのエージェントのコンラッド氏がサンドイッチを用意してくれていました。感謝。それを食べてすぐにリハーサル。
ここはモーツァルトがかつて洗礼を受けた教会で、ものすごく立派です。壁や天井には絵画や彫刻が施され、ドームの部分を見上げると遥か上方に天使の絵が描かれています。すると天からオーケストラの音と歌手の声が降ってきて、「マインドコントロール」寸前。宗教の力は偉大だ。
11/5(日)
朝からドームでミサです。
曲はモーツァルトのミサ・ブレビス変ロ長調。
モーツァルトがこの教会のために書いた曲で、指揮・合唱・オルガンはドーム専属の方たちでした。司祭の進行でミサが進みます。 終了後ミサに集まった人たちが帰る間にオルガニストのソロがありましたが、これがものすごくかっこいい。白髪のいい年のおじいさんだったんですが、演奏が進むに連れて顔が真っ赤になってきて、このままいってしまうんじゃないかと思いました。
午後からは自由行動。モーツァルトの生家などとりあえずミーハーな線を押さえます。夜7時に「アウグスティナー・ブロイ」というビヤホールで集合ということで一時解散。ザルツブルグ城やサウンドオブミュージックに出てきた墓地などを見て、さてビヤホールへはバスで行こうということになり、バス停まで行きますが、どこまで乗ればいいのか、どうやって切符を買えばいいのかさっぱりわかりません。で、通りすがりのおじいさんに聞こうとしました。ところがこのおじいさんの英語が怪しくて、どのくらい怪しいかというと、私たちと同じくらい怪しい。
「アウグスティナー・ブロイというビヤホールを知ってますか?」
「ああ、知ってる知ってる。あそこのビールはうまいんだぁ」
「そうですか。あっはっは」
「はっはっは」
盛り上がっている場合じゃありません。
「バスで行きたいんだけど」
「バス停はここだ」
「いや、切符はどこまで、どうやって...」
「歩いても15分くらいだぞ」
(もういいや、めんどくさいし)「じゃあ、歩いていきます」
「そうか。じゃあわしが連れて行ってやろう」
(おっさんバスに乗ろうとしてたんちゃうんか)
「いや、でも...」
で、おじいさんは黙々と一人で歩いていってしまうので、しかたなくわれわれも後についていきました。15分黙って歩くと目的のビヤホールに着きました。おじいさんはさらに黙々と中に入っていこうとします。「私たちは仲間と待ち合わせているので、ここで失礼します。ありがとう」こう伝えるのにさんざん苦労したあげく、強引に「ありがとう。ばいばい」
おじいさんごめんなさい。ありがとう。おじいさんは私たちと一緒に飲みたかったようでもあり、ちょっと心が痛みました。
11/6(月)
今日はモーツァルテウムでのコンサートの日です。
リハーサルは夕方からなので、午前中は自由行動。モーツァルト広場でおみやげ買ってから、サウンドオブミュージックで有名なミラベル庭園に行きましたが、一面の雪で花なんかまったく見えません。今度は夏に来よう。
夕方からモーツァルテウムの大ホールでリハーサルです。ここで2番ホルンのエキストラがきてくれました。モーツァルテウムの学生でクリスチャン・シュテールという長身の好青年です。さすがにモーツァルトの国の学生さんで、完璧に吹いてくれました。
演奏曲目は、
モーツァルトの交響曲第5番
セレナータ・ノットゥルナ
ハイドンの交響曲第70番
アンコールは日本の曲がよかろうということで
「あこがれの郵便馬車」(オーボエの井上雅勝による編曲)
終了後ザルツブルク市内のビアハウスで打ち上げ。好青年だったクリスチャンは酒が入るにつれて豹変し、最後には女性団員を口説いていたそうです。やはりホルン吹きはどこの国でも同じか。
11/7(火)
朝からバスでヴィーンへ出発。このバスの運転手がドイツ語しか話しません。しかもかなり訛っているらしい(もちろん私にはわかりませんが)。おかげでドイツ語の話せるチェロの中山嬢はバスガイドの席に座りっぱなしでお相手をさせられていました。しかもこの人が異常に時間に厳しい。
昼食場所で自分だけ料理をどんどんもってこさせてさっさと食べ終わり、われわれはまだコーヒーを飲んでいないのに「もう時間だ」と怒っています。ヴィーンへ向かう途中で景色のいいところに止めてくれたのはいいんですが、「ここで写真を撮る時間を10分だけやる。それ以上は絶対に待たない」と、まるで修学旅行の引率の先生状態です。この人には最終日にも空港まで送ってもらうことになっていたので、機嫌をそこねたら大変です。バスの時計は5分進んでるし、「みんな10分前には集合しよう」とおびえてしまいました。まあ途中で観光ガイドもしてくれたりと、時間に厳しい以外はひとのいいおじさんでしたが。
ヴィーンへ着いたのは夕方だったので、とりあえず大きな商店街のあるケルントナー通りへ行きましたが、ほとんどの店がもう閉まっていて結局散歩しただけでした。夜は郊外にあるグリンツィンクという飲み屋街(ホイリゲという、生ワインを飲ませる飲み屋がたくさん集まっている)に集合し、アコーディオンとベースの二人組の流しの演奏をバックに宴会でした。
11/8(水)
昼過ぎまで自由行動なので、とりあえずヴィーンの市街を一通り眺めようとリンクという環状道路を走っている路面電車に乗りました。ここを一周すると、博物館や国立歌劇場などの主な建物を見ることができます。あまり時間がないのでこれでヴィーンは見たことにして再びケルントナー通りに行きました。
ドブリンガーに楽譜を見にいくと壁一面に風呂屋の下駄箱のようなものがあり、この中に楽譜が入っているようです。勝手に出してみていると、店の人がきて「セルフサービスじゃない。勝手に見るな」と怒られてしまいました。店の広さは心斎橋のヤマハよりは狭くて、神戸楽譜より少し広いくらいですが、楽譜を自由に見られないので、冷やかしはできません。きちんと欲しいものを決めてからいった方がいいようです。
予想外に早く楽譜屋を出ることになってしまい、シュテファン寺院を見ながらフィガロハウスに向かいます。しかしこの時期は閉鎖されていて外から見るだけです。少しはおみやげを買わなくてはいけないので地図の専門店を探してヴィーンの市街を描いた絵地図を5枚仕入れました。通りのファーストフードで昼食をとりホテルへ戻りました。
演奏会場の教会へ向かうバスの発車時刻に遅れるとまた運転手に怒られるので、早め早めに行動しますが、やはり団体行動ではどうしても時間遅れが生じてしまいます。またまた機嫌の悪い運転手。演奏会終了後に迎えにきてもらう時間も30分ほど余裕をみて言いました。
演奏会場のミノーリテン教会はザルツブルクのドームとはちがい、小ぶりの普通の教会です。どこで演奏するのかと思っていたら、なんと祭壇でやるということで、少しびびってしまいます。
曲目は、
交響曲第5番
ディベルティメント第1番
カッサシオン第1番
セレナータ・ノットゥルナ
ハイドンの交響曲第70番
アンコールは「鉄腕アトム」と「あこがれの郵便馬車」の2曲(ともに井上雅勝編曲)を予定していましたが、ノットゥルナが終わった時点で少し時間オーバー気味で、バスの時間に遅れるとまた運転手に怒られるので、急遽「アトムはなし」ということにしました。ところが「郵便馬車」を演奏していると、それまであまり気乗りしない表情で聞いていた観客たちの目が一斉に輝きはじめ、スタンディングオベイションまで出てしまいます。やはり日本人奏者には日本の曲があっているのでしょうか。しょうがないので「アトム」もやり、逃げるようにかたづけてバスの待っている場所へ走りました。
打ち上げは再びグリンツィンクのホイリゲへ。今度はバイオリンひきのいる店でした。弓の毛を一本抜きそれを弦に結びつけて、指先で根本から先の方へ引っ張りながら摩擦で音を出して曲をひくという技を披露してくれました。我らがコンマス氏が「この芸はいただきだぜ」という目で見つめていたのを私は見逃しませんでした。
11/9(木)
5時起床して6時に空港へバスで出発。
再びブロイラーしながら11/10(金)朝、無事に関空に到着。リムジンバスで奈良のわが家へ一直線。
時差ぼけ対策として日の光にあたろうと、奈良公園を散策し、中学の修学旅行以来の大仏殿に行ってみました。天井を見上げるとザルツブルクのドームが思い出されます。
今度は絶対に雪が降らない季節にもう一度行くことにします。