[実践的な装備としてのウェア]

アウトドアの世界で、昔ともっとも変わったのはウェアリングかもしれません。
かつてはアウトドアウェアといえば、ウールやダウン、綿などの天然素材のものがほとんどでしたが、今では、100%といってもいいほど化学合成(シンセティック)繊維素材におきかわっています。
そして、アンダー、インナー、アウターという三つに区分されたそれぞれのウェア群が機能分担し、気温や天候などのシチュエーションによって組み合わせ(レイヤード=重ね着)を変化させて対応するレイヤーシステムが確立されています。アウトドアウェアは他の装備と同じように、場合によってはそれ以上に実践的な装備になっているのです。

[アンダーウェア]

 アンダーウェアに要求される機能は端的にいえば皮膚表面をドライに保つことです。運動すれば汗をかきますが、アンダーウェアは、その汗を皮膚表面から吸い上げ、外側へと放出して肌をドライに保たなければなりません。
 普通のファッション素材では、吸汗性が高く、肌触りのいい綿がアンダーウェアやスウェットシャツ素材の代表格ですが、綿はアウトドア用アンダーウェアの素材としては適していません。大量に汗をかくアウトドアスポーツでは、綿に含まれるセルロースが水をためやすく、すぐに飽和状態となってウェットに肌にまとわりついてしまいます。肌に水分が直接触れると、それが蒸発するときの気化熱によって、体温が奪われます。とくに、冬に汗をかいてそれが冷やされると低体温症になるまで体温を奪われ、場合によっては危険なことすらあるのです。
 今のように高機能の化学合成繊維がないころは冬のアンダーウェア素材としてはウールが一般的でした。ウールは繊維自体に水を滞留させる性質がなく、毛細管現象によって、かいた汗をすぐ外側に排出するので、いつも肌がドライに保たれるのです。冬山で、一人は綿素材のアンダー、一人はウール素材のアンダーを着ていました。吹雪の中で遭難し、ほかはほとんど変わらない装備だったのに、綿素材を着ていた人間は死亡し、ウールのほうは何もなかったという例もあるほどです。
 ただし、ウールではそれに含まれるラノリンなどに対してアレルギーをおこしやすい欠点があります。ウールのようにウィックドライ(蝋燭の芯のように水分を吸い出す性質)効果があって、アレルギー性もなく、またウールより軽いという性質を実現したのがシンセティック素材のオーロンやポリプロピレン、ポリエステル、クールマックス、クロロファイバーといった繊維を使ったアンダーウェアです。
 それぞれで微妙に性能は異なりますが、いずれも前記のような性能を備え、汗をかいても綿のような不快感がないのが特徴です。最近では、さらに高い抗菌性を持たせて不快な匂いなどの発生を押さえたジオラインのような素材も登場しています。
 こういったシンセティック素材は、冬の使用を中心としたアンダーウェアの他にも、夏向きのTシャツやスウェットシャツ、さらには次で紹介するインナーウェアの素材としても使用されています。どんな条件下でも、綿よりははるかに快適なことは間違いありません。
●追記
 ぼくは、ゼロポイントブランドのクロロファイバー製アンダーウェアをずっと愛用しています。フィールドウェアとしてだけでなく、冬のオートバイライディングなどにも欠かせない装備で、へたなアウターを着用するより、このアンダーウェアのほうが保温性が高く感じられます。汗をかいても、すぐに排出されるので、常に肌はドライで、綿との差は歴然です。
 また、夏場にはもっぱらウィックロン素材のTシャツを愛用しています。ぼくは大汗かきなのですが、シャツがビショビショになるほどの汗をかいたままで冷房の効いた喫茶店などに入ることもありますが、これならまったく平気です。

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