鉄一攫千金ツーリングvol−1 水晶山を目指せ

 世の中、どこもかしこも不景気で、気分まで落ち込んじまう。場当たり的な政治にもまったく期待できんし、宝くじ買っても、当たったためしがないしなぁ……。だけど、ぼんやりしていても状況はかわらんし……。といったわけで、唐突だが、この沈滞状況を吹き飛ばすために、一攫千金ツーリングを決行することにした。

 

手がたく水晶をゲットするゾ!
 一時期、徳川埋蔵金探しがテレビ番組になったりしていたけれど、調べてみると、日本全国に埋蔵金伝説がたくさんあるし、金や宝石が採取できるなんて噂も多々あることがわかった。これなら、うまくすりゃスコップ一つで億万長者ではないか!?
 てなわけで、すっかり宝探しモードに入った俺は、口コミやらインターネットやら、あらゆる情報網を駆使して、有望な候補地をリストアップした。そんな中で、白羽の矢を立てたのが、東京近郊で水晶がザクザク採れるという穴場。
 埋蔵金や金鉱と比べると少々地味な感じがするが、ここでは、最近、時価数百万円の100kgもある結晶が採れたとのことで、それなら金にだってなんらひけを取らない。なんといっても、編集部を起点にして、日帰りでも行ける近さがいい。なにしろ、こんな御時世だから、元手少なくてチャレンジできるのはありがたいからな。
 さっそく、愛車XR600のリアバッグにシャベルをブチこむと、中央高速を西へ向かう。
 目指す土地は、武田信玄のお膝元、身近なところで言うと、O誌の大先輩風間深志氏の出身地に近い、とある山の中だ。
 はっきり地名を出して、『ここだ』と言えないのは、お宝を一人占めしようなんて狭い了見じゃなくて、この記事を読んでワンサカ人が押し寄せると地元の人に迷惑になってしまうことを考慮してなので、そこんとこ了解してもらいたい。それでも、ヒントは散りばめておくから、地図と首っ引きで、良く考えれば場所はわかるはずだ。せっかくのお宝探しだもんな、すんなり教えられて行くより、ロールプレイングゲーム風とでも言うか、謎解きから入っていくのが正統派というものよ。

ブドウ畑を突っ切って進め
 高速のインターを降りたら、日本一のブドウ産地のそのブドウ畑の中を北西に進む。のどかな田園風景、緑が目に染みる……のはいいのだが、このあたりは盆地のせいで、むちゃくちゃ暑いのがかなわん。当日は、東京でもすでに午前中で30℃を越えていたが、このあたりは、らくにそれより5℃は高い。走っていても熱風で頭がクラクラする。俺は、暑さにはほんとに弱い冬型人間だが、お宝ザクザクの秘密の山が間近だと思うと、我慢ができるのが不思議だ。心頭滅却すれば陽もまた涼しいってことだな。
 さて、広大なブドウ畑を突っ切り、市街地に入って『塩』の字のつくJRの駅を越えたら、今度は北へ進路を変える。
 じつは、このあたり、学生時代から何度となく山登り、オフロードを走りにしばしば訪れていて、けっこうローカルなことも知り尽くしていたつもりだったけど、水晶がゴロゴロしている山があるなんてまったく知らなかった。灯台元暗しというか、視点を変えてあたりを眺めると、意外なものを発見できるから、世の中面白いもんだ。
 そういえば、この四月には、奥秩父の主脈のどてっ腹をぶち抜くトンネルが開通して、秩父とこっちの盆地がダイレクトに結ばれた。山越えの道は、古い往還の登山道以外なくて、昔その道を歩いたときは、一泊二日の行程だったが、それが数分で結ばれるのだから、まったく隔世の感がある……んなことは、どうでもいいな。
 市街地を過ぎると、大きな橋の手前で左に折れて、狭い上り坂となる。このあたりの農家は、畑から少し離れたところに母屋があって、住宅街のようにそれが集まっている。旅行記風にいうと、落ち着いたたたずまいの街路が続く。
 ほどなくして、情報にあった玉○小学校と玉○神社の社をみつける。『玉』の字がつくということは、こいつはまぎれもなく宝石にまつわるということ。俄然、期待が高まってくる。われわれは、今日の収穫を期待して、神社にお参りをすませた。
 その小学校と神社の間の細い道を入っていくと、今度は桃畑に出る。斜面に広がるその畑の中を行くわけだが、ここは、基本的に農作業車専用道なので、バイクは手前に置いたほうがいい。
 桃畑の中の道に入ると、『水晶山』と書かれた小さな看板がところどころにある。
「なんだか、有名なところじゃないのか?」
 と、盛長カメラマン。
 確かに、インターネット上でも、鉱物採集ガイドにも、けっこうおおっぴらに出ているこの場所は、その世界の人にとってはメジャーな場所だとは思っていたが、看板まで出ているとあっては、ちょっとメジャーすぎないか? というそこはかとない不安にとらわれる。
 気分をとりなおして、桃畑をズンズン進むと、急に舗装が途切れて、山道になった。

けっこうはまるゾ! この世界
 暑さに喘ぎながら急傾斜の山道を登ることしばし。
 鬱蒼とした樹林の中に、玉○神社奥の院の社が現われた。情報では、この奥の斜面が目指す水晶山の採掘地だ。高鳴る期待を押さえながら、暑さも忘れて早足で斜面を駆け上がる。
 少し登ると、谷間の一角が、明らかに人為で崩されたガレ場に出た。あちこち掘り返されて赤土の地面に穴が開いている。俺は、持参した園芸用の小さなシャベルを片手に、一瞬、呆然とした。大ぶりなスコップでも背負ってくりゃよかった……。
 あたりを見回すと、大きな岩の上で、誰かが石を割った跡がある。良く見ると、割られた石の断面がキラキラと輝いている。ん? これは。シャベルでさらに小さく割ると、紛れもない角柱状の小さな水晶の結晶が現われた。こりゃ、いけるかもしれない!
 俺は、これが『どんどん』の取材であることなんかすっかり忘れ、盛長カメラマンもカメラをかなぐり捨てて、斜面に取りついた。
 今日は平日で俺達二人だからいいが、休日ともなると、「鉱物採集マニア」たちが押し寄せるのだろうか? 二人でガサゴソやってるだけでも、落石を引き起こしたりするから、さぞ危険だろう。やっぱりドカヘルとロープくらいは用意しなくちゃな。なんて考えたりしながら、泥だらけになって欠片を拾い、穴を掘りまくった。
 オーストラリアだったか、やたらに光物が好きな鳥がいて、針金やらアルミの洗濯バサミやらビーズのネックレスやら集めてきて巣を作るというが、地べたを掘り返して、透明な石を見つけて歓喜していると、この鳥の気持ちがよ〜くわかってしまうのである。
 そんな中、一抱えもある岩の内側が空洞になっているのをみつけた。ひっくりかえして、日の光を当てると、その中が輝く。
 俺は、あわてて、斜面の反対の縁で穴を掘っている盛長カメラマンに声をかけた。
「盛長さ〜ん、俺、すんげーのみつけちゃったよ〜!」
 ほとんどガキの自慢状態である。
 バンバカ落石を起こしながら斜面をトラバースしてきた彼は、それを見るなり、うらやましげな表情を露骨に現す。
「これ、俺がみつけたんだかんね。盛長さんは、写真とるだけだかんね」
 欲がからむと、人間の本性って、ほんと露になるなぁ、なんて微かな理性が反省をうながす俺であった……。
 そいつは重くてバイクの元まで運ぶことができず、分割しようと他の石に当てたりしてみたが、こいつがとてつもなく硬くて、一部が欠けただけだった。
 気がつけば、猛暑の中、タオルは汗でグショグショ、Tシャツには塩を吹き、Gパンは泥だらけのまさに坑夫状態となっていた。夢中で地面と格闘して遊んだのなんて、何十年ぶりだろう?
 その帰り、近くで宝石加工関係の学校に行っている義理の妹に、石を見てもらった。
「これ、全部で、いくらくらいになる?」
 今日の収穫を納めた袋を渡すと、一瞥しただけで、愉快そうに笑う彼女。
「お兄ちゃん、今日は楽しい一日だったんでしょ。それだけでいいじゃない」
 だって。
 ちなみに、中に結晶の生えた空洞のできた岩は、地元では、ガマと呼んで珍重するとのこと。
 よし! 今度は、でっかいスコップとツルハシ、ノミとハンマーの本格装備で、出かけていくゾー!


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