地図だって単なる道具

 以前、俺はこのコーナーで、ガイドブックなんかクソ食らえと書いた。『自由気まま』を身上とする俺としては、こうるさくて、おせっかいやきの、ミーハーで、土産物屋タイアップの太鼓持ち情報テンコ盛りの低脳旅行ガイドブックなんぞ、ただお荷物になるだけだからだ。
 ときには地図も持たずに、出会いの新鮮さだけを求めて行き当たりばったりの旅をすることもあるとも書いた。
 だが、馬鹿の一つ覚えで、いつでもそのスタイルというわけではない。
 例えば、ガイドブックで、じっくり情報を吟味することもある。ミシュランとかアメリカ(BBCかな?)のテレビシリーズになったロンリープラネットのものとか、ナショナルジオグラフィックとか、明確な価値基準をもって、優秀なスタッフが時間をかけて作っているガイドは、大いに活用させてもらっている(日本のものでも、登山ガイドや環境庁の各地ビジターセンター発行のパンフなどは、情報がしっかりしていて有用だ)。最近は、インターネットを使って、目的地の『レア』な情報を探しておいたりもする。
 ただし、そういったガイドを活用するのは、『気まま』がコンセプトの旅じゃなくて、『目的』が比較的明確な旅の場合だ。
 地図に関しても、同じこと。
 オープンフィールドのエンデューロなんかに出るときは、できるかぎり詳しい現地の地図を手に入れ、主催者から渡されるコマ図と照合して、現地の状況を徹底的に頭に叩き込んでおく。山に登るときもしかり。できるかぎり情報を集めておいて、地形図にそれを転写し、自分オリジナルの戦略地図を作ってから事に臨む。レースは、持ってる情報の多寡で順位が左右するし、山登りでは、地図がどれだけ頭に入っているかで、命を左右することもあるからな。
 『気まま』なツーリングの場合は、別に明確な目的があるわけでもなし、時間の制約もたいしてあるわけじゃない。それに、危ないと思ったらそこから引き返しゃいいんだし、何も持たなくたってなんともないのだ。逆に、荷物を持ちすぎたり、情報を詰め込みすぎたら、その重みでフットワークが悪くなってしまう。
 それにしても、日本のガイド記事というのは、どうしてあんなに幼稚なのだろう? 林道ツーリングの記事なんかで、「ここは道が荒れていて危険だから、一人では行かないように」なんていうコメントに出くわすことがあるが、どういう神経して、こういうことを書くかね? 一人でいこうが、1万人で行こうが、そんなことは行く奴の勝手。ついでに、生きようが死のうが、それもそいつの勝手だ。危険を承知で一人で行って、ドジってくたばったって、そいつの責任でしたことなんだから人がとやかく言う問題じゃない。まったく、幼稚園の遠足か? また、ご丁寧に、そんな記事を読んで、そのまま人にご意見するクソバカまでいるんだから……豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえってんだ。
 おっと、ちょっと興奮しちまった。……要は、ガイドブックや地図も道具の一つなんだから、いい道具を自分の目的に応じて使りわけりゃいいってことなのだ。
 それにしても、我が幼稚園国家日本には、このテの道具でまともなものはほんとに少ない。

 

これは、一種のエンターテイメントな読み物ですな

 な〜んて、嘆いていたら、地図出版の老舗『昭文社』が、何を血迷ったか、われらが『野たれ宿』教開祖の賀曽利オヤジにツーリングマップ作らせたなんて、聞き捨てならん情報が飛び込んできた。
 賀曽利さんといえば、「地図はおろか、道すらまともに見て走ってんのかねえこの人は?」てな超アバウトな第一印象だけど、じつは、旅に出るとも〜んのすごく克明なメモをとったり、地図もこまめにチェックするので有名なのだ。なにしろ、1000の峠を越えたと思ったら、「次は、日本の1万峠達成だぁ〜」なんて吠えてんだから……1万の峠といったら、実際に走るより、地図で1万個ピックアップするほうがたいへんだ。ま、いうなれば、メモ魔、地図魔なのである。
 そんな人だから、地図作りには最適かと思うが、それは早計というもの。だって、『峠越え』を見ても、このコーナーの数ページ後ろの破顔一笑写真の賀曽利ングコーナー読んでも、賀曽利オヤジが、『特殊』な価値観を持っているレアなオッサンだってことは、一目瞭然ではないか。
 あの人にとっては、道は荒れ方がひどいほど『良い道』だし、温泉は『混浴』で『若い娘』が多ければ『良い温泉』だし、食い物は『ラーメンライスが最高のごちそう』だし、宿は、そこらへんの『木の下』とか『廃屋』が三つ星クラス……と、その特殊な価値観をあげたらきりがない。
 そんな、レアな情報をしこたま脳味噌にプールした賀曽利さんの基準で、皆様にお勧めのツーリングマップを作ってしまおうというのだから、いやあ、昭文社さんも度胸があるっていうか、物好きというか、見識があるというかないというか……。
 とりあえず、その『ツーリングマップル』の仕掛け人に話しを聞いてみようと、出かけていったわけである。
 この企画を担当した桑原氏は、BMWR1100GSというかつてはガストン・ライエのライデイングでパリダカを征した(そのときは850だけど)化け物のようなオフロードマシンを愛車とするツーリングフリークだった。これなら、賀曽利さんと趣味が合いそうだ!?
 じつは昭文社には、『ツーリングマップ』という手ごろな使いやすい地図が前からあった。だけど、桑原氏は、それを実際に使ううちに、いろいろと使いやすくするアイデアが浮かんできて、わざわざ版形まで変えてリニューアルしたくなったのだ。
 もうすぐ店頭に並ぶその見本を見せてもらった。
 版形は以前のものより一回り大きなA5。文字が大きくなって見やすい。当然、情報量も以前のものより充実している。このサイズは、ちょうどタンクバックのマップポケットにぴったりサイズだ。
 それから、綴じかたがリング式となって、常に必要なページを無理なく開いていられるので便利だ。中綴じや平綴じだと、折り返しているうちにページがバラけてしまったりするからな。
 それから、ページとページの関連づけをメッシュ方式といって、緯度に沿って横に繋がる形式に整理してある。今までのドライブ地図は、エリアとエリアの繋ぎめで、ページを大きく跳んだりして見づらいことがあったが、これならすっきりしている。
 体裁に関しては、かなりリキ入れて作ってあるという印象だ。これで防水コートの紙でも使ってくれると、頭が下がるところだが、そのせいで値段が三倍にもなっちゃ、ちょっと手が出ないもんな。
 で、いよいよ内容だが、その前に、ここだけの話しだが(と言ったら、45万人以上に知れ渡っちゃうわけだけど)、一連のシリーズの表紙とか口絵で、担当の桑原氏がちゃっかり写っていることを報告しておこう(東北編の一コマ、賀曽利さんに言葉巧みに雪道に連れ込まれ、泣きを入れてる写真が秀逸=みんなで笑おう)。
 そうそう、肝心の内容だが、まず地図データに関しては、それが本業の昭文社さんだから、これは文句はない。問題の賀曽利さん担当個所は(ここまで言い忘れてたけど、賀曽利さんが担当したのは、東北版のみだ)、地図内の書き込み情報だ。さっそく、任意のページを開いて見てみよう。ナニナニ……「阿武隈川源流の秘湯で大岩風呂は混浴」、「内湯とプールのような大露天風呂両方混浴」、この情報は使える!! 「トラック野郎御用達の食堂、朝早くから開いていて安くて美味くてたっぷり」、「名物南湖だんごの店数軒」、いいじゃないか! 何だこの峠マークは? ナニナニ……「名無しの中央分水嶺の峠」、趣味に走っとるなあ。それからそれから、なんか、ダートの情報がやたらに充実してるな。「高山植物群落」とか、「オートバイを降り、歩いて3時間の温泉」とか、賀曽利さんらしい独自の観点の情報も満載だ。う〜ん、これは、じっくり読んでも楽しめる……変な地図だ。
 一ついいことを教えておこう。賀曽利さんは、チェック魔だけあって、人が知らないレアな情報を自分だけが持っていることに無上の喜びを感じる人なのだ。だから、賀曽利さんを凌駕するようなもっとレアな情報を、「賀曽利さんは、見逃したみたいだけど、ここにはこ〜んな面白いものがあるんですよ」なんて報告すると、歯噛みして悔しがるのだ。この地図の編集部では、情報モニターを募集してるから、ここは一つ、賀曽利さんと『レア情報』合戦してみよう。

|どんどんTOP|