99/04/03
石嘉福さん
昨日は、まるで初夏を思わせるような陽気だったのに、今日は一転花冷えで、冬に舞い戻ったような感じですね。風邪などひかないように、天候の変化に注意しましょう。
一昨日、シルクロードの写真で有名な石嘉福さんが、事務所に訪ねてきてくださいました。
石さんとは、14年前にCBC(中京テレビ)のシルクロード取材でご一緒させていただいて以来、懇意にしていただいています。あの頃、ぼくは、まったく駆け出しのフリーランサーで、文章と写真の両方で一流になってやろうなんて、身のほど知らずに思い上がっていました。
ウルムチから始まって、カシュガル、ホータン、パミール、トルファン、イーニン……と、タクラマカン砂漠の周辺から天山山脈の南北と2ヶ月にも及ぶ取材の間、ぼくは、石さんから、たくさんのことを教えていただきました。
「心のこもった写真を撮るためには、対象物に肉薄しなければならないが、シャッターを押すその瞬間は、一歩離れて客観的なジャーナリストの眼差しで見なければならない」といった写真論というかジャーナリストというもののあり方のようなことから、シルクロードに暮らす中央アジア諸族それぞれの文化や価値観を教わり、様々な友人を紹介してもらいました。
現場で並んでシャッターを押し、帰国してから石さんの作品を見せていただき、ぼくは、ちょっと写真が上手に撮れるだけで思い上がっていたことを痛感させられました。同じアングルで同じシャッタースピードと露出でシャッターを押しているのに、ぼくの写真と石さんの写真とでは、そこにこめられた意味に雲泥の差がありました。
それを石さんは「キャリアが違うのだから当たり前」とおっしゃいましたが、ぼくには、ぼくがどれだけ写真を撮っても石さんに追いつけないと、はっきりわかりました。それは、資質の差です。それから、ぼくは、文章と写真の両刀使いは辞めて、文章に専念することを誓いました。
あのときの旅の記録をぼくは『再見西域』(山海堂)という拙著にまとめました。石さんは、この稚拙な本をとても評価してくださいました。
人を肩書きや上っ面だけではけして判断しない、とてもプレーンな人です。ご自身はシルクロードのエキスパートとしてたくさんの業績を積み上げられ、故井上靖さんや、芸大学長の平山郁夫さんといった方々と親交があり、また、NHKのシルクロードシリーズのコーディネートをされたり、中国政府にも太いパイプを持っておられて、ほんとならぼくのようなチンピラが話に付き合っていただくだけでも恐縮してしまうような方です。でも、小さな事務所をぼくが開いたと知って、とっておきの老酒をぶら下げて、長く外国暮らしをされて最近帰国された娘さんと、お知り合いの編集者の方を連れて、気さくに会いにきてくださるのです。
まだ外が明るいうちから酒盛りをはじめて、夜中まで、共通のシルクロードの友人の話やホームページの話などで盛り上がりました。
ぼくは、18のときに父親を亡くしました。石さんは、ぼくが仕事の方向性を決める上でとても重要な役割を果たしてくださった師であると同時に、父親のように感じています。
石さんは、長年のシルクロード取材で蓄えた貴重な写真や資料、そして体験をお持ちです。それをWEB上で形にしていこうと、盛り上がりました。新年から、娘さんに感化されてE-Mailを始められて、さらにデジタルメディアに興味を持って、さらに表現の場を広げようとされる、その好奇心の旺盛さ、前向きの姿勢には脱帽です。ぼくも、見習わなければ。まだ、どんな形になるかわかりませんが、石さんのWEBSITEにも、ぜひご期待ください!
――― uchida
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