CLUMN
「現代科学を革新する」
散逸構造

散逸構造(ディスペーシブ・ストラクチャー)は、ベルギーの物理化学者、イリア・プリゴジンが、開放系非平衡線形熱力学において「時間の不可逆性」「ゆらぎ」「構造」「進化」の仕組みを記述することに成功したものである。この散逸構造論によって、プリゴジンは1977年ノーベル化学賞を受賞した。
熱力学の第二法則に従えば、この宇宙を含め、あらゆる自然現象は無秩序が増加する方向へと向かい、やがては熱平衡の状態「熱的死」を迎える。これが有名なエントロピーの法則だ。しかし、生命現象だけは、この法則に逆らっているように見える。生命は外部からエネルギーを取り入れ、自己組織化して非平衡状態を維持し、生命でありつづける。この生命の営みをヒントに、プリゴジンは散逸構造を理論化した。
散逸構造論は物理化学の理論だが、生命や社会構造など多くの現象を理解するうえでも有効であり、現代科学を革新するものとして注目されている。

「地球は生きている」
ガイア仮説

イギリスの科学者、ジェームス・ラヴロックが著書『地球生命圏ガイア』で説いた仮説。NASA(米航空宇宙局)の火星の生命探査計画に参画したラヴロックは、「生命とは何か」という根源的な疑問に行き着いた。そこで、どんな生命体でも物質やエネルギーを取り入れ排出する性質があり、化学的な非平衡状態を作り出すという仮定を立て、生命体が存在しない惑星の大気や土壌の化学成分は、長い年月の間に平衡状態に達していると考えた。
この観点で分析してみると、まさしく火星は生命が存在しない平衡状態を示していたのである。これを地球にあてはめてみると、三十数億年前、地球に生命が誕生したときから、一度として生命の存在に適さなかった時期はない。大気の平均温度、大気の成分、海水の塩分濃度などが、安定状態の化学的平衡からはほど遠い、生命の生存に適した恒常性(ホメオスタシス)を維持し続けてきた。これほど大幅な非平衡は、化学的法則からは考えられない。唯一可能な解釈は「地球は生きている」だった。

「新しい組織論として脚光を浴びる」
ホロン

ホロンは、ギリシャ語のホロス(全体)と接尾語のオン(部分)を合成したアーサー・ケストラーによる造語である。生物は循環器や消化器などの多くの器官や組織で構成される。それは、さらにより下位の細胞へと分岐していき、有機体的ヒエラルキーともいえる階層構造を作っている。各階層の器官や組織は上位階層の「全体」に対しては、その「部分」となり、下位階層の「部分」対しては自律的な「全体」となる。ケストラーは、その性質を下位のレベルに還元することも、下位のレベルから予測することもできないとした。このような統合関係を、ケストラーはホロンと名づけたのである。
ホロン的システム論は、企業経営の手法や新しい組織論としても注目された。個性を生かし、創造性を発揮することを目指した「ホロニック組織」や「ホロン型組織」などの言葉も生まれた。

「現代物理学と東洋思想の類似性を説く」
タオ自然学

キリスト教を根底にした中世の教条主義的世界観である天動説から地動説へのターニングポイントがあったように、近代西洋科学の要素還元主義、機械論的世界観(前ページの「複雑系」を参照)は、量子力学の誕生と不確定性原理の発見によって、大きく変わらざるを得なくなった。オーストリア生まれの物理学者、フリッチョフ・カプラは、還元主義偏重に対する批判を込め「包括的に世界を受け入れ、それぞれの関係性において物事を理解する」東洋思想に着目して、『タオ自然学』を著した。カプラは著書の中で現代物理学と東洋思想の類似性を説き、現代物理学の哲学的位置付けを行った。