アイスランド語の参考書

 参考までに、僕が使ったことのある本の内、アイスランド語学習者に特に役に立つと思われるものを挙げました。日本では入手しにくいもの、もしかしたら絶版かも知れないもの、日本語でも英語でもない言語で書かれたものも含まれています。
 表題の後の(~語)は、その本の解説が何語で書かれたものかを表します。
 

入門書

Stanislaw Bartoszek / Anh-Dao Tran著 Icelandic for beginners (英語) 特におすすめ

 第1課はあいさつから始まり、各課は本文・新出単語・文法解説・練習問題の構成で、まさに入門書です。解説文の英語も英語ネイティブ以外にも読みやすいもので、程度も低すぎず、この本1冊だけで充分アイスランド語の基礎は身につくと思います。
 実はこの本は人にあげてしまったので記憶違いかも知れませんが、カセットテープもついていたと思います。
 

Jón Hilmar Jónsson著 Islandsk grammatikk for utlendinger (ノルウェー語)

 上の本とは違って文法事項のみの入門書という感じです。まとまった本文や単語索引や練習問題はないので、この本だけでアイスランド語の平均的な基礎力は身につかないでしょうが、厳選された文法事項と簡潔明快な解説がよいと思います。ただしノルウェー語です…。
 

変化表

(アイスランド語の語形変化には、辞書に載っている情報だけでは足りないので、詳細な変化表が不可欠です)

Colin D. Thomson著 Icelandic inflections (英語・アイスランド語・ドイツ語) 特におすすめ

 語形変化を意味する術語inflectionは、名詞・形容詞・代名詞の語形変化をさすdeclensionと、動詞の語形変化をさすconjugationの両方をさす上位概念ですから、本書はその名の通りアイスランド語で語形変化するもの全てを網羅した変化表です(400ページ以上あり、外見はどう見ても辞書ですが)。
 正確な現代アイスランド語を話したり書いたりするには必携です。
 

Christine Jörg著 Icelandic conjugation tables (英語・アイスランド語・ドイツ語・フランス語)

 上に書いたとおり、conjugationですからこちらは動詞の語形変化だけを扱ったものです。直説法現在・過去、接続法現在・過去の両方の全人称と並んで命令形まで全て挙げてあり、また語幹が変化してしまって原形がわからない場合に便利な索引なども付いていますが、残念ながら過去分詞の変化が扱われていません(過去分詞の変化は上のinflectionで補えます)。とはいえ弱変化動詞の変化が詳しいのは本書だけですので、やはり必携書と言えるでしょう。
 

文法書

(入門書をひととおり終えた後に参考書として使う、アイスランド語文法を体系的に解説したもの)

森田貞雄著 アイスランド語文法 (日本語)

 ゲルマン語比較文法や中世ゲルマン文学の研究者を念頭に書かれたらしく、現代アイスランド語と古アイスランド語が並記されていて、例文などは多くが古アイスランド語のものですから、本来は現代アイスランド語の入門者にはすすめられない本ですが、せっかくアイスランド語を始めたからには、アイスランド人がいつも自慢する古アイスランド文学作品のサガやエッダをそのうち読んでみよう、という人には役に立つと思います。なんといっても解説が日本語です…。
 

Bruno Kress著 Isländische Grammatik (ドイツ語)

 現代アイスランド語の記述文法としては文句なく最高のものでしょう。本国アイスランドでも、この本と並ぶような現代アイスランド語の記述文法はまだ出版されていません。
 語形変化(形態論)と、その用法や構文(文論)が分かれているところが古くさいですが、内容が古いわけではありません。現代アイスランド語の全般にわたって、明快に分類し、詳細な解説を加えています。唯一の欠点は文法事項の索引が付いていないことでしょう。
 

辞書

森信嘉著 アイスランド語基礎1500語 (アイスランド語-日本語基礎語彙集) 特におすすめ

 辞書ではありませんから、収録語数も少なく、解説項目もあっさりしたものですが、絶対必要な基礎語彙を、まず覚えるべき意味と一緒に身につけられます。基礎1500語なんだから当たり前じゃないかと思われるかも知れませんが、僕がアイスランド語を始めた頃は本書は存在しなかったので、何が基礎語彙かもわからず、またまず覚えるべき意味も別の外国語を通して推測するしかなく、仕方のないことですが能率はよくありませんでした。
 というわけで、これからアイスランド語を始める方には、外国語で書かれた辞書を買うより先に、まず本書で基礎語彙をしっかり身につけてしまうことをおすすめします。
 巻末に日本語から引けるように索引が付いているのも便利です。
 

Ole Widding / Haraldur Magnússon / Preben Meulengracht Sørensen著 Íslenzk-dönsk orðabók (アイスランド語-デンマーク語辞典)

 アイスランド語の正書法が古いですが使用上差し支えありません(「z」を「s」に読みかえるだけ)。日常使うには充分な語数ですし、アイスランド語の用例には必ずデンマーク語訳がつけてあります。
 

Jón Skaptason編 Ensk-íslensk skólaorðabók (英語-アイスランド語辞典)

 アイスランド人向けの学習用英和辞典みたいなものです。アイスランド語学習者のことはまったく考慮していないので、名詞の文法性すら書いてなく、また用例にもほとんどアイスランド語訳が付いていません。というわけで本来ならあまりすすめられませんが、現状では英語から引けるアイスランド語辞典が他にないので一応挙げておきます。
 

Jón Hilmar Jónsson著 Orðastaður (アイスランド語語法辞典)

 その名の通り語法、つまり用例辞典ですが、本書の特徴は、すべての用例が、使う状況がすぐ思いつくような完結したひとつの文になっていることです。
 たとえばáhríf「影響」を引くと、Ég vonast til að hann beiti áhrífum sínum til að sættir takist.「和解が成立するよう、彼が影響力を行使してくれることを期待している」とか、Talið er að verkið hafi orðið til fyrir áhrif frá biturri lífsreynslu skáldsins「作品は、作者のつらい人生経験の影響を受けて誕生したと言われている」とか、すべてちゃんとしたひとつの文が用例として載っています。
 本来の使い方ではないかもしれませんが、外国人としてはこれを膨大な例文辞典として利用しない手はありません。ただし例によって本来はアイスランド語学習者を念頭に置いたものではないので、当たり前ですが例文には訳は付いていませんし、あと外国人が一番知りたいような、基本的な前置詞や副詞や接続詞は見出し語になっていません。それでも正しいアイスランド語の使い方を身に付けたければ、本書は間違いなく必携でしょう。
 それにしても、700ページにも及ぶ本書をひとりで作ってしまう著者(編者でないことに注意)には恐れ入ってしまいます。
 

2003年6月10日更新

 
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