2005年度の活動報告


 会報の編集発行と次の読書会の他には、現在会の活動として特記すべきものはない。メーリングリストも議論の場というより、もっぱら事務連絡用に利用されているのが現状である。

■論文精読会

 メーリングリストを介してではなく、実際に会員が顔を合わせて議論する場を設けようと7月始めに発足し、その後授業期間中は月1回、休み期間中は2週間に1回のペースで開かれている。活動内容は、本来はドイツ語で書かれた論文を精読することであるが、よさそうな題材があればドイツ語に限定せず英語で書かれたものも読んでいる。
 とはいえ基本的に誰も読んだことがないものを選ぶわけであるから、題材の選定が結構難しく、読み始めてから期待通りの内容でないことが明らかとなる場合も少なくない。もともと参加者の専門分野も多岐にわたるので全員が楽しめる題材などないし、それでも論文読解に慣れるという当初の目的は達成できていると納得することにしたい。
 以下は今までに読んだ論文の一覧に、筆者の個人的な感想を付記した。

□2005年7月から Rousseau, André (1998): Über Kasus aus diachronischer Sicht. In: Marcel Vuillaume (Hrsg.): Die Kasus im Deutschen: Form und Inhalt (= Euro- germanistik 13). Tübingen: Stauffenburg, 15-27.
 ドイツ語の格に関して、通時的にだけでなく現代語も対象として、形態よりも意味的・統語的に興味深い現象のいくつかを指摘している。それぞれの議論は深くないが、研究材料の提供という意義がある。ただし参考文献は網羅されていない。

□2005年9月から Wode, Henning (1985): Psycholinguistische Aspekte von Markiertheits- theorien. In: Ursula Pieper/Gerhard Stickel (Hrsg.): Studia linguistica, dia- chronica et synchronica. Berlin: Walter de Gruyter, 937-960.
 有標性の概念が、言語習得の際に見られる様々な現象の解明にいかに有用か示そうとした、20年以上前の当時としてはたぶん先駆的な研究。ただし今となってはデータの印欧語への偏りや議論の浅さが目立ってしまう。

□2005年11月から Klausenburger, Jurgen (2002): Grammaticalization within a theory of morpho- centricity. In: Ilse Wischer/Gabriele Diewald (Hrsg.): New reflections on grammaticalization (= Typological studies in language 49). Amsterdam: John Benjamins, 31-43.
 ロマンス語の様々な形態素発達のデータを元に、形態素形成に影響を及ぼすという文法化のメカニズムを提案している。その理論的構成は非常に抽象的かつ実証困難(と思われる)なもので、文法化研究の今後のあり方を考えさせられる。

□2006年2月から Holzer-Terada, Sigrid/Sohar-Yasuda, Kaori (2001): Der Erwerb des deutschen Tempussystems bei japanischen Studienanfängern. In: Heiko Narrog/Birgit Fuchs (Hrsg.): Freiräume nutzen - Neue Wege suchen. Methodik und Leistungsmessung von DaF in Japan (= Language and Culture Studies Series 44). Sapporo: Hokkaido University, 175-221.
 日本人がドイツ語を学ぶ際どのような間違いをすることが多いか、ドイツ語を学び始めた日本人学生の独作文試験の答案を元に「間違いデータベース」を構築し、数値的に解明しようとした労作。時制に関しては日本語とドイツ語の動詞のアスペクトの違いや、日本語式の現在・非現在の二分法に注意すべき事がわかる。

(甲斐崎由典)



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