1999年度の活動報告


 1999年度は、記号論部会の発展解消という形で新たに発足した動詞部会が3週間に1回程度開かれた他には、本会報の発行以外に特に記すべき活動は行われなかった。音韻論部会は諸般の事情により休止状態が続いている。

動詞部会

 研究会発足の経緯であるが、例えばドイツ語の完了助動詞の選択が場所の移動や状態の変化が基準になっていると説明された場合、日本語話者にとって果たしてそれで納得がいくか、という疑問から、動詞のアクツィオーンスアルト・アスペクト・テンスなどについていろいろ考えてみよう、という甲斐崎の提案で発足した。
 1999年度は、主に基礎的な文献を取り上げて、そこでの議論を再検討する、という形で進行し、尾立、久保、小林、甲斐崎4名の常時出席者の他、小倉、倉敷、中田も参加した。
□寺村秀夫・鈴木秦・野田尚史・矢澤真人(編)『ケーススタディ 日本文法』1987年、東京・おうふう刊 より、 ・ケース8「テンス」44頁〜49頁 ・ケース9「アスペクト」50頁〜55頁
 初めは、参加者が母語話者としての語感を利用できるように、日本語を分析した研究が選ばれた。ごく基礎的事項のみを扱った文献であるが、本書をたたき台に様々な論点をとらえて議論を行い、テンス・アスペクトという観点からの言語分析についての理解を深めることができた。
□宮島達夫『語彙論研究』1994年・むぎ書房刊より、 ・第2章「日本語とヨーロッパ語の移動動詞」43頁〜72頁 ・第5章「移動動詞と格・前置詞 ――ヨーロッパ語との比較――」463頁〜474頁
 次は、参加者の専門であるドイツ語・ロシア語・フランス語・英語をちょうど対照した研究ということで本書が選ばれた。良くも悪くも、最も手っ取り早い対訳文献として聖書を取り上げ、4言語での基本的な移動動詞の分布を大雑把に分析して、それぞれの言語の一般特性までを探ろうとしたもので、分析の精密性はともかく、動詞の意味論的研究のひとつとして活発な議論の題材となった。
□甲斐崎報告「現代ゲルマン語の完了形・進行形・起動相について」
 1999年度最後は、これまでの成果を踏まえ、もう一度本部会成立の発端となった疑問点に立ち返るという意味で、ドイツ語・英語・オランダ語・デンマーク語・アイスランド語から、比較対照した場合に、動詞のアクツィオーンスアルト・アスペクト・テンスといった観点から興味深い現象を取り上げ、ごく簡単に甲斐崎が報告を行い、それをもとに議論を行った。
 今後は、1999年度にある程度固めた基礎知識を元に、参加者各人の専門分野に直接貢献できるような高度な議論を目指す一方、関係するその他の様々な領域、例えば意味論、統語論、言語運用論、言語類型論、さらには言語教育への応用、などにも興味深い議論を求めて活発な活動を展開していきたい。(文責 甲斐崎)




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