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「後で、いいです。」
なんかちょっと怖いんで。そう笑ってみせると、そうですか。と彼はうなずいた。
「わかりました。では、そうですね、夕食の後で。ゆっくり話したいので。」
「はい。」
では。と玄関に向かう彼を見送るために、とりあえず頭巾をはずした。


夕食の後、そろそろと彼の部屋へ向かう。
な、何だろう、なんの話なんだろう…怖いなあ…。
こんこん。ノックすれば、どうぞ。と静かな声。
「し、失礼しまーす…。」
「待っていましたよ。座ってください。」
ハイ。と答えて、おそるおそる座る。
書類を書いていた彼は、少しだけペンを走らせて、こっちへ戻ってきた。
「それで、話、なんですが。」
「は、はい!」
……怒鳴ってどうする。声の大きさに、えへ、えへへ、と笑ってみせると、彼は少し、考えるようにあごに手を当てた。
「え、ええと、それで…。」
話って?尋ねると、ああ、はい。と彼がぴん、と背筋を伸ばすから、つられて姿勢を正して。



「縁談がきました。」
「……は、い……?」


「…だれ、の、ですか?」
思わずそう尋ねると、あなたのです。とさらり。
「は……?」
「まあ、あなたの独立の前段階として、ですが。すぐあなた一人にするわけにはいきませんから。」
「は、あ…。」
まぬけな返事しか返せない。何を言っているのかわからない。

「一ヶ月ほどしたら、あなたはここを出て、そこへ行くことになりますので。」
そのつもりで。さらり、と。そう、言われて。


「…っ冗談じゃない!!」
思わず立ち上がり、ばん!と机を叩いた。
「何なんですか、何なんですかそれ!ふざけるのもいい加減にしてください!なんで、なんでそんな…!」
いつのまにそんな話、ていうか本人の承認とらずにそんな話しないでください!
「絶対嫌ですからね、私受けませんからねそんなの!!」
「…っく、」
肩が、ぴく、と震えた。あ、まさか笑って…!?
「!何笑ってるんですか!私真剣なんですよ!?」
ひどい!と叫ぶと、彼はあはははは!と声を立てて笑った。

あまりに珍しいことに、思わず硬直。
「…え…っと…?」
ぱちぱちと、瞬いていると、ああ、す、すみません、と彼は苦しそうに言って。

「冗談です。」
「………はいっ!?」
「すみません。あなたがあまりに緊張していたので…。」
からかっただけです。肩をすくめてそんなことを言われて、思わず深く、ため息をついた。

「……なんですかそれ……。」
心臓に悪いですよ…。呟いて、すとん、とソファに座り直す。
ああなんか、どっと疲れた…

「…ええとそれで、本当は何の話、だったんですか?」
「ああ、はい。」
彼は今度こそ、今度こそ真剣な表情になって。

「あなたの独立が決定しました。」

………はい?


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