「ほんっとうにさ、困るんだよね…。」 かわいくってさ… 困り果てた声を出すガブリエルの姿に、苦笑して、先を促した。 相談があるんだけど、と深刻そうな声を出されたときは、何事かと心配したが、聞いてみれば、恋愛相談だという。 それならイタリアの方が適任じゃないのかとちょっと思ったけれど、まあとりあえず聞いてみるべきか、と彼にコーヒーをすすめたわけで。 「…イザベルが、か?」 「そう。…わかる?」 …なんとなく、わかる気がする。 かわいすぎて困る。というその気持ちは。 イタリアも、そんなところがあるから。 「特にさ、姉さんとか母さんみたいに、自覚があるならまだいいんだけど、ベル自覚ないんだよ…。」 私をナンパするなんて、そんな暇な人いるわけないじゃない、って、ナンパされてたそのすぐ後に言うんだよ〜? だそうだ。なるほど。それはまた。 たぶんあれだろう。女性になった日本が、私に迷子かと声をかけてくる方が増えたのですがそんなに頼りなくなりました?と真剣に言っていたのと同じだろう。イギリスが、だーかーらーそれはナンパ!!と怒鳴ってやっと気付いていたようだった。 「他にも、隣りで無防備に寝るのとか、風呂上がりで普通に出てくるのとか、ほんと勘弁してって思うことばっかり…。」 どうしたらいいと思う…? その言葉に苦笑する。それはのろけだろう。…それだけ、信頼されているという証。 まあ本人がかなり辛いのはわかるが。経験上。 ただ、もう1つ経験上、わかることがある。 「…それを経験して、嫌いになるのか?」 「…まさか。」 「なら、耐えて隣りにいることだな。」 耐えきれなくなったら、そのときまた、二人で話し合えばいい。 そう、してはいけないのは、彼女の隣りを離れること。 「まあ、他のやつに奪われていいのなら、別だがな。」 「絶っ対離れない!」 睨みつける勢いでそう言った息子に、くく、と笑った。 「真剣な表情は嫌いじゃないんですけど…。」 ため息をつくケイに、青春だなあと思わず笑った。 「笑い事じゃありませんよ、父さん。」 まあ気持ちはわかるけどな。 「けど、のろけにしか聞こえないけどな。」 笑って言うと、そ、んなんじゃないですけど。と赤くなった。 息子に思わずにやにやしながら見ていると、真剣に相談しているんですが。と怒られた。 ちゃんと聞いてるよ、とたしなめて、続きを促す。 「…サラは、いつでもカメラを持ってるじゃないですか。」 「そうだな。」 「カメラ大好きじゃないですか。」 「ああ。」 「…すぐカメラマンモードに入っちゃうんですよね。」 「デート中でも?」 尋ねるとこくん、とうなずく彼に、やっぱりな。と思って。 「…その姿も好きなんですけどね…。」 でも、デート中くらいは僕の方見て欲しいじゃないですか。 そう呟く息子の姿に、くすくすと笑って。 「…だから笑わないでくださいって。」 そう言われても。…やはり親子は似るのだろうか。 日本と同じような喧嘩をしたことがある。…だからこそわかる、原因。 「…ケイ、基本ができてないぞ?」 「基本?」 「その気持ち、サラにちゃんと、伝えたか?」 ほら。沈黙が答えなんだろう? 「…いえ…。」 「コミュニケーションが基本だろう?」 恋愛でも、なんでも。 そうふふん、と言ってやれば、父さんが言えたことですか、とじと目で見られた。視線を反らす。 「…好きなんだろう?」 「…世界で一番。」 …なるほど。それはちゃんと、言えるらしい。 甘ったるい砂糖菓子を食べたような気分になって、苦笑いして。 「なら、ちゃんと伝えろ。」 付け加えた言葉に、はい。としっかりした答えが返った。 「母さんは、父さんに隠し事とかしてなさそうだよなあ。」 いいな。と呟く息子に、何事ですか。と呆れた視線を向けた。 「相談なんだけどー。」 彼女に素直になってもらうのってどうしたらいいと思う? 言われて、彼女に信頼してもらえるほど大人になる、ことが必要だと思いますが。ときっぱり言うと、彼はうー。と机に突っ伏した。 「何ですか。間違っていますか?」 「…いいえ、正論だと思います…。」 やっぱそうかー、俺が頼んないのかー…。 めずらしくへこんでいるようなので、やれやれ。と呼んでいた本を閉じる。 「…エリ、ですよね。」 こくん。とうなずく彼に、まあ彼女の場合は遺伝もあるでしょうが。と思う。 素直に言えない血筋、というか。父親そっくり、な。 「そりゃあ、もっともっと、成長しなきゃいけないってことはわかってんだけどさあ…。」 彼女があまりに素直でないのが、気になって仕方ないようだ。 やれやれと見やり、尋ねる。 「そんな彼女は、嫌いですか。」 「まさか!」 素直じゃないからこそ、たまにしか言ってもらえない好き、だからこそ、じいんとするんじゃんか。 返された言葉に、肩をすくめる。 つまりは彼女のことが大好きだと。…惚気、られているようなものだろう。 「なら、それでいいじゃないですか。」 たまに、の言葉をしっかり大切にしなさい。 そう伝えると、わかった。としっかり返ってきた。 「だってなんかプライドがさあ…!」 年上やし男やし!と拳を握るルキーノに、はいはい、とりあえず飲み、とアイスカフェオレを差し出した。 父さんって、母さんに負けたー!って思うことってないん!?と勢い込んで聞いてくる息子に、はあ?と首を傾げたのはついさっきのこと。 そりゃあ、ロマーノ綺麗やし美人やし。阿呆なことして何やってんだこのやろう、と呆れられたことだって何度もあるし。 それになにより、『惚れた方が負け』らしいから。そりゃあ俺の負けやなーとは思うけど。 そういう話ではないっぽいルキーノに、何があったん、と話を促してみると。 ベアトリクスに、怒られることばかりだと、いうのだ。…そりゃあなあ。 小さくてかわいらしくて、外見はお人形さんみたいなベアトリクスだが、その中身は、オーストリアの生き写し。 きちりと厳しいその性格では、確かに怒られることもたくさんあるだろう。俺もよくオーストリアに怒られるしな。未だに。 「なんていうか…情けなくなってくるねんて…こんなかわいい彼女また怒らせたーって…。」 ベアトリクスの笑顔が好きやのに… そうしょぼんとするルキーノに、んー。と首をかしげ、尋ねる。 「俺はロマーノの怒ってる顔も好きやけど、ルキーノは違うん?」 「………。」 ロマーノは、あんまりまっすぐ、俺を見てくれない(すぐ照れるから。かわいい。)けれど、怒ったときだけは、まっすぐに見つめてくれるから。 その瞳が向けられるのがうれしくて笑って、さらに怒られることもよくあるけど。 「ルキーノ?」 「…かわいくないわけないやんか…!!」 あのちっさい体で、聞いているんですかルキーノ!なんて腰に手あててぽこぽこ怒ってんのかわいくないわけないやんか!もうきゅんってするくらいかわええねんからなああああ! 途端にでれっと表情を崩してじたばたしだしたルキーノに、大好きやねんなあと笑ったら、当然や!と元気な返事が返って来た。 「パパは、ママのこと、宝箱にいれときたいって思ったこと、ない?」 後ろからぽつり、と呟かれた言葉に、は?と瞬いて、それから、苦く笑った。 「ないな。…一度手放したのは、俺だから。」 まだどこかにある。あの子を育ててきた、気持ち。閉じ込めて自分だけのものにしてはもったいない。 綺麗なものを見せたい。おいしいものを食べさせたい。そして、それが一緒に、であればいい。 そう思う心の方が、ずっと強い。 「…マリアか?」 尋ね、リリーの前にコーヒーを置く。ありがとう。返る声は低いけれど、その容姿は、中性的で、女性にも見えて。 …けれど今はたしかに、『彼氏』の顔をしていた。 「うん。…太陽の下が一番似合うのは知っているだけど。」 イタリアのその性格を容姿を受け継いだあの子は、とても活発で、元気で、明るくて…そして、自由で。 掴んでも、掴んでいる気がしないんだと、小さくリリーは呟く。 …なるほど。そういえば、イタリアも、ドイツと出会うまではあっちへふらふらこっちへふらふら、見ていて危なっかしかった。 だから、その姿を、捕らえてしまいたいと思うのだろう。 けれど、それを彼女が望んでいると思えない。とそう悩んでいるようで。 「…どうしたらいいかなー…。」 「…とりあえず、愛を捧げてくればいいんじゃないかな。」 言葉でも態度でも。全身全霊をかけて伝えれば、それを無視するような子ではないはずだから。 「…うん。抱きしめて好きだーって叫んでくる。」 「そりゃあいい。」 いい報告を待ってるぞ、と笑った。 戻る . 女性陣の着替えやメイクが遅いのはいつものことだから。 あまり心配はしていなかったんだけれど。 「姉さん?母さん?」 あまりに遅いから、呼びにきて。 その瞬間と目があって。 さ、と血が落ちた。 「…っ父さん!」 叫ぶ。金髪の後ろ姿が振り返る。今は何もできない自分が歯がゆい。 「姉さんたちがさらわれた!」 だん!蹴り開けた扉。わあ、と慌て出す中の連中を、勢いのある拳が、足が、押しのけていく。ない道は作ればいいとばかりに。 …スペインさんもイギリスさんも爛々としてるなと、こっそり、思う。 息はあっていない。まったく。 けれど、その軌跡は、かぶらない。まったく。 異なる動きをする蹴りや殴りが、そのへんにいたやつらを次々に戦闘不能にさせていく。 「先行け!」 「ここはまかせろ!」 二人の声に、おう!と走り出した。 「ガヴィ!」 呼ばれて、姿勢をかがめると、びゅ、とすぐ上を蹴りが飛んでいった。マックスだ。 「んでもって横飛べ!」 言われて従うと、がっと、体ごと突進してきたルキーノ。かすったそれに思わず息を飲んで。 「マックス!」 「先行って!ベアトリクスと母さん頼んだ!」 オーストリアさんは、一瞬ためらったようで。 それでも、無茶はしないように、とだけ言って、先へ進んだ。 「見ろ。」 フランスさんが呟く。 …地下へ続く階段だ。 かか、と降りると、ガヴィ!と声がした。 「!姉さん!」 鉄格子の向こうに、見慣れた女性達の姿。…よかった。全員無事だ。 「鍵取ってきました!」 後ろから走ってくるリトアニアさんが、鍵束を示す。 あっというまに、鍵は開いて、日本さんなんかは、イギリスさんは!?と尋ねて、そのまま暴れる組に加わりにいったようだ。 サラが、フランスさんに抱きついて泣いている。…よほど怖かったらしい。 「姉さん、母さん!」 「ガヴィ!」 母さんにぎゅう、と抱きしめられる。怖かったあ。へにゃんとした、声。 「ドイツは?」 「…暴れてると思うよ。」 入ってすぐに二手に別れたきり、だ。 彼女は無事ならいいや。とそう微笑んで。 「姉さんは?」 「ここ。」 そう声がした方を向くと、ハンカチを腕に巻いた、姉さんの姿。 「…それは?」 「え?ああ。大丈夫よ。ただのかすり傷だから。」 「傷?」 「マリアがちょっと抵抗したら、ナイフでしゅって!」 ひどいよ!そう言う母さんに、す、と目を細く、する。 す、と立ち上がると、ガヴィ?と首を傾げられて。 「…俺ちょっと父さんの方見てくるよ。」 先行ってて。大丈夫だから。 そう二人に告げて。 たん、と走っていくと、ケイとシーランドが暴れていた。 力はなさそうなのに、ぶん、と大の大人が飛んでいく。 それを避けて、二人に、声をかけた。 「ケイ、シーランド。」 「あ?…なんだ、ガヴィですか。」 …今一瞬怖かった。 「どうしたですか?」 「女性陣は全員安全確認。今フランスさんたちが外に連れ出してる。…日本さんは参戦中。」 「了解。」 「よかったです…。」 ほう、と二人は息を吐いて。 ここの連中はだいたい伸し終わっていたようなので、父さんたちが向かったという先へ向かうことにした。 途中で出会った、ここから先には来るな、と言われたらしいリリーに、魔法の言葉を言って、誘ってその、先へ。 「父さん。」 声をかけると、ちら、と父が振り返った。その瞳の冷たさに、本気を感じ取る。 「下がってろ、ガブリエル。…リリーもだ。」 「嫌です。」 「俺も。」 「…危ねえがら。」 スウェーデンさんの言葉にも、怯まない。 敵は残り、これだけ。父さんとスウェーデンさんに怯えている数人、だけ。残りは全部のしてしまった。…だから。この中にいる。全員に聞いたからだ。叩き起こして、敵全員に。 前へ一歩、踏み出す。止めるように目の前に差し出される、腕。 「ガブリエル。下がれ。」 強い声。けれど、それには絶対答えない。 「…姉さんに傷をつけたのは、誰だ。サラを泣かせたのは、誰だ。」 「!」 にらみつける。他には何もいらない。…わかってくれるはずだから。それだけで。十分。 「…よし、暴れろ。」 「無理はすんな。」 「うん。」 「はい。」 俺とリリーの声が重なって。 本気に、後は言葉なんか、いらない。 戻る . スペインと離れて戦っていると、とん、と背中に当たる感触。 警戒はしない。誰だか、はよくわかっている。本気で暴れ回ってた俺の背後を取ることができるなんて、それこそ数が限られるし、その上、俺がこんなに近づくまで気付かないほど気を許しているってことは。 「私も参加させてください。イギリスさん。」 しっかりとした、楽しそうな声。いいぜ?日本。そう返して。 「ついて来いよ!」 「承知!」 走り出せば、敵うものなど、ない。 「姉さん。無事?」 「あらケイ。遅いわよ。」 ゆっくり後からのぞきにいくと、平然とした姉の姿。母さんは?答えの決まりきったことを聞けば、パパのとこ。決まりきった答え。 「楽しそうでした?」 「楽しそうだった。」 だから誘拐されても全然怖くなかったのよねー。エリの声に、ケイはそりゃあうちの家族は最強だからですよ。と笑った。 「リト!」 「ああ、ポー、レジーナ、大丈夫?怪我はない?」 抱きついてくる二人を抱きとめて、確かめる。遅いし!とそろう声。ちょっと涙声のそれに、しっかり抱きしめて。 「ごめん。怪我は?」 「私は平気。ポーが守ってくれたから。」 レジーナの声に、ポー?と声をかける。すると、もぞ、と動く頭。 「…ちょっと擦りむいた。…イタリアが手当してくれたから、平気。」 「そう…よくがんばったね。」 くしゃりと頭をなでると、彼女はん。とだけ言って、ぎゅううと抱きついてきた。 感じる2人分の熱に、ほうと息をついて。 二度と離さないと、誓った。 「ロマーノ!」 「イザベル!」 途中合流したルキーノとばたばた駆け込むと、おせーぞおまえら!と怒鳴り声。よかった。元気そうだ。2人とも泣きそうな表情だけれど。 「怪我は?」 「!それこっちのセリフだこのやろ!」 へ?と瞬く。何言ってるんロマーノ。と思っていたら、ルキーノが小さく、手、って。手? 見ると、赤いものが少し。 「あ、あー」 平気やって、俺のやないから。言いかけてロマーノの目配せに気づく。イザベルを指すそれに、すぐ気づいて。 「えっと、ペンキが、な?」 「…びっくりさせんなちくしょー。」 「よかった…」 ほう、と息を吐いたイザベルに、ん、ごめんなーと笑って見せた。 「フィン、アリシア」 呼びかける。怪我は…なさそうだ。よかった。 「スーさん!」 「パパ」 駆け寄ってくる2人。大丈夫け。小さく尋ねる。 「はい、スーさんは、怪我とか」 心配そうな瞳に、首を横に振る。大丈夫だ。 ほう、とためいき。よかったあ。心底ほっとしたような声に、心配かけたかと少し反省。…ついかっとなって暴れに行ってしまったが、彼女たちの顔を見てからの方がよかったかもしれない。 思っていると、ぎゅむ。と抱きつかれた。 「?アリシア?」 どこか痛いのかと尋ねると首を横にふるふる。 「…怖かった」 ぽつん、とつぶやかれた一言が、ほかに何も言えなくして。 思わず2人を、強く、抱きしめた。 「怖かった…っ」 泣きじゃくるサラなんていつぶりに見るだろう。その背中をとんとんと叩く。泣き止もうとしない彼女を、カナダが抱きしめる。 「もう大丈夫だから、ね?」 「カナは?」 「平気です。」 お母さんですから。だそうだ。それはまた頼もしい。 その額にキスを送ったところで、サラ!と焦ったリリーの声。それにサラは、ぴくりと反応して。 「おっそいわよリリー…っ!」 「わ、え、さ、サラ?」 ぎゅう、と抱きつかれてリリーが焦っている。確かに、こんなことは滅多にないから。 そう思っていると、サラが、ふ、と顔を上げた。涙にぬれた瞳があたりを見回す。 「…みんな、」 「ん?」 「無事でよかっ…っ!」 また泣き出してしまう彼女に、思わず微笑んでその頭を撫でた。 「お、日本さんとイギリスさんも戻ってるのか。みんな無事っぽいな」 「マックス」 「お兄様!」 今までどこに、ん?あいつらふんじばったり警察に連絡とか?さらっと答える彼に、思わず息をつく。 すべてを統括的にみれる能力は、さすが、だ。 「もうちょいでドイツさんとガヴィ帰ってきたら…全員だよな?父さん」 「ええ。…多少の怪我人はいますが、全員無事です。」 しっかりうなずけば、安堵のため息。 「はあ…ベアトリクスは?怪我してないか?怖くなかったか?」 「平気です。お母様が一緒ですもの。」 「ならよかった」 「ちょっと」 私には聞かないの?ハンガリーの言葉に、母さんに怪我させられる連中ならもうちょっと骨あったと思うよ。としれっと返す。まったく…まあ、それほど信頼しているということだろうけれど。 「生意気言っちゃって。」 「しかし…よくがんばりましたね、お疲れ様です」 マックスの頭を撫でると、彼は照れくさそうに、笑った。 「イタリア!」 彼女の姿を確認した瞬間、ほっとして呼ぶと、ぱっとこちらを向いて。 その目に、じわ、と浮かんでくる涙。 「…っうわああんドイツーっ!」 がばあと飛びついてくる彼女をしっかりと抱き留めて。 「怖かっ…怖かったよ…!」 今までがんばったのだろう。反動か昔のように泣きじゃくる彼女の頭を撫でる。後ろからやってきたガヴィが、マリアと大丈夫?平気と会話を交わす。 「パパ、ママすっごくがんばったのよ」 みんなのこと励ましたりして、すっごくがんばってた。だから、うんと甘やかせてあげて? にっこり笑う娘の姿に、怪我、大丈夫か?と尋ねる。 「これくらい、勲章みたいなものよ」 「姉さん女の子なんだから…」 呆れたガヴィの言葉に小さく苦笑して、2人の頭をなでる。 「2人ともよくがんばったな。」 くすぐったそうに、微笑む2人。 ぎゅう、としがみついたまま顔を上げないイタリアの、頭を撫で、歩けるか、と声をかける。こくん。小さくうなずいて。 「よし、全員いるな!?」 声を張り上げる。振り返る視線を確認。ええ。全員ですよ。オーストリアの声にうなずいて。 「帰ろう!」 そう言えば、みんなが。 うれしそうに笑った。 戻る . 「で?助けはいるか?マックス」 笑うフランスさんに、邪魔はしてほしくないなあと、にいと笑って答えた。 俺たちがさらわれたなんて、まったく油断してた、なんて言い訳でどうにかなるもんじゃない! というわけで自分の不始末は自分でどうにかしようと、みんなそう思ってるはずだ。俺の知ってる男どもならそう思うはず。 というわけで、ばらばらに閉じこめられたやつらに、フランスさんと手分けして鍵配って回ることにした。 たん、と低い階段を一気に飛び降りて、ふせろ!の声に従って体を伏せる。 頭上を飛んでいったのは、何か、重いもの。 「おー悪いなあマックス。」 「スペインさん…」 その後ろで暴れてるのは、ルキーノだ。左ストレートがきれいに決まる。フランスさんに出してもらったんだろう。 「誰か閉じこめられてるの見ました?」 「あっちで、ケイが。」 「りょーかい。じゃあなルキーノ!」 「おう!」 声を掛け合って、走り出す。 ケイの部屋の前に、なんか敵の山。数人をひらりとかわして見上げると、綺麗な蹴りが見えた。…誰か、暴れてる。 「イギリスさん?」 声をかけると、おうマックスか!と返る返事。やっぱり。 「ちょっと通してください、鍵開けます」 「わかった!」 声とともに、山が崩れる。その隙間をかいくぐって、走っていく。 「マックス!」 「3秒くれ。」 言って、がちゃがちゃと開ける。ち、手間取る…よし開いた! 勢いよく開いて避ければ、飛び出してくる彼の蹴りが、俺の後ろにいた奴を吹き飛ばす。 親子そっくりな威力だ。こっそり思って、そこを2人に任せて走り出した。 がちゃん、ドアを開く。 「2人とも避けろ!」 強い言葉に素直に従えば、開いたドアの向こうに消えていく敵。…うっひゃあ、ドイツさん放り投げたのか? 「父さんやりすぎ、俺の分も残しといてよ!」 同じように避けていたガヴィが言って、部屋を出、襲いかかってきたやつを一本背負い。 「残す?甘いな。早いもの勝ちだ。」 その声色がひどく楽しそうなのを聞いて、ぞっとして、こっそりその場を後にした。鍵はすべて、開いたはずだ。あとはフランスさんの分。 「マックス!」 フランスさんの声だ。階段のてすりに飛びつけば、手を振る姿。その隣には、リリーの、いや、リリアンの姿。 持ち前の怪力で、なんか重そうなものぶんなげまくってる。うはあ近づきたくねえ… 「こっちは終わった!」 「こっちもです!」 返して、フランスさんが、走ってきた敵をひょい、と転かすのを見て、ここも大丈夫、とりあえず出入り口確保した方がよさそうだなと走り出した。 出入り口の辺りには、誰もいなかった。 「なあんだ、つまんねーの。」 ぼやいて、上に腕を伸ばした途端に、目の前に現れる影。 ぎょっとしたら、影は動かないでください、と一言、それから、俺の後ろでなんか、痛そうな音と、うめき声。 「まったく…気を抜くには早すぎますよ、マックス。」 その声に、目の前の影が、父さんだと知る。 その手には、杖が握られている。…これで見事に俺に襲いかかろうとしていた奴を倒したんだろう。 「ごめん、父さん。助かった。」 そう言いながら、彼の肩に触れ、横に押す。 何も言わず従ってくれる彼のいなくなった場所を蹴り上げる。 父さんの背中を狙っていた腕にヒット! 見回せば、まだうようよいる奴ら。どうやら隠れていただけらしい。しょーがない。そうため息をついたら、顔、にやけてますよ、と声。 そういう父さんだって。杖で楽しそうにリズムを取ってるくせに。 「行きますよ」 「いつでもどうぞ」 返して、たん、と床を蹴りだした。 戻る |