.

くるりふわり、とやわらかい、明るいキャラメル色の髪が揺れる。
「そのリボン、気に入ってるんだな。」
髪に揺れるピンクのそれを指すと、ママに買ってもらったの。とうれしそうな表情。

「似合ってるね。」
「ほんと?ありがと、イザベル。」
ほわんとした笑顔は、弟そっくり、だ。
うちのルキーノは確かに俺に似ているが、マリアほどではないと思う。いやあいつの場合、性格が完全にスペインだからなあ…。
俺に似てるってことは兄ちゃんにも似てるってことだよ?とかヴェネチアーノが言ってたが、そんなことはないと、思う。
天使。そう弟が呼ぶのがふさわしい愛らしさは、確実に俺にはなかったと、自信を持って言える。

「ロマーノさん?」
くるりと大きな、琥珀色の瞳。
肩につくかつかないか、くらいの髪が彼女が体を揺らすのにあわせて、揺れる。
「…おかわりいるか?チュロス。ついでにリモナータもつけるけど。」
「欲しいです!」
「イザベルは?」
「いる!」
やったあとあがるふたつの歓声に、ちょっと待ってろ、と立ち上がる。


部屋の中に入ると、ちょうどガブリエルが下りてきたところだった。寄りそうになる眉を、戻して、声をかける。
「ガブリエル、のどでも乾いたか?」
「しい。」
慌てた様子で人差し指をたてられた。かくれんぼ、らしい。なるほど。
なら協力してやろう、と連れ立ってキッチンへ行く。
しゃがみこめば、俺の体の陰になってしまう小さな体。隠して、リモナータを作り出す。
ちら、と下を見る。
短い金髪、空のように澄んだブルーの瞳。

…つい、眉が寄ってしまうのはもう、仕方ないと思う。
こいつはあのじゃがいもそっくりだから。なんというか…うん。仕方ないと、思う。
オールバックにすれば、完璧にあれのちっさい版だ。
…だから、こいつを見るたびに弟は、どうしても頬が緩むし、俺は眉を寄せてしまうんだ。
しっかしこいつ、肌白いな。うらやましい。やっぱ北の方の血だろうな。しみじみ思っていると、ばたばたと下りてくる音。

「母さん!かくれんぼしてるんやけど、ガヴィ知らん?」
「さあな。見てないぞ。」
そっか!ありがとー!ばたばたまた走っていく息子の姿に、なんというか単純というかだまされやすいというか、と呆れて見ていると、グラッツェ、と綺麗なイタリア語。見れば、少し照れた、かわいい笑顔。

…ふむ。こういうとこは父親に似ないでよかったな。うん。思いながら、リモナータを5人分、作り出した。


戻る







































.
ふわりとかわいらしいワンピース姿なのは、リリーで、ちょっとボーイッシュな、キュロット姿なのはサラだ。
性別考えると逆なんですけどねえ。違和感のまったくない2人に小さく苦笑。

「日本さん、これはなあに?」
「桔梗、ですよ。」
「かわいい。」
「作ってみます?」
ぱっと、リリーの表情が輝いた。けれど、何か言うまえに、だめよ、日本さん。とサラの声。

「リリーの料理音痴は、なめないほうがいいわよ?」
「イギリスさんレベルですか?」
「うーん…そこまではいかないと思うけど…。」
「なら、大丈夫ですよ。」
慣れてますから。笑って言えば、二人は顔を見合わせて、同じ表情でくすくす笑った。
こっち回ってきてください。言えば、走ってくるリリー。長い髪が、揺れる。

「リリー。髪止めたら?」
「あ、そうだね。ありがと、サラ。」
ゴムをうけとって、髪をまとめるリリーを見ながら、サラも髪をくくったりするんですか?と尋ねる。
肩より短いその長さだと、まとめるのは大変そうだけれど。
すると、綺麗な紫の瞳が、細められた。横に振られる、首。

「ううん。リリーと、ママ用。絶対忘れていくんだから!」
「ごめんなさーい。」
あまり謝る気のなさそうな返事だ。小さく笑う。
ねりきりの作り方を教えながら、じっと見てくる金色の頭を二つ、ながめる。
イギリスさんとは、少し違う色だ。…ということは、フランスさん似、なんでしょうね、きっと。
瞳の色は、二人とも、カナダさんと同じ紫、だけれど。その色は、どちらもとても綺麗だ。
「日本さん、これでいいの?」
「ええ。上手ですよ。」
とても。そう付け足すと、とてもうれしそうに二人は笑った。

戻る






































.

「おかわり!」
「…よく食べるねえ…。」
親そっくりだよ。そう呟きながら、追加のリクエストのあったホットケーキを焼いてやる。
「イザベルの分も!」
「おー、りょーかい。」
「え、あ、…ありがとう。」

どうやら言い出せなかったらしい。照れたように笑うイザベルは、本当に美人だ。
短く整えられた、黒に近い、焦げ茶色の髪と、そのオリーブ色の瞳は父親譲りだけれど、どうしてこう、なんというか、全然違うんだろうなあ。
スペインが女だったらこんな美人だったんだろうか、と思うけれど、それとはちょっと違う気がする。
やっぱり、目の感じとか、母親譲りなんだろうな。ふたりのいいとこを合わせた、女の子。…そりゃあ美人なはず、か。
肌の色が健康的なのは、太陽の国の子供だからだろう。

イザベルより、2人の子供だなあと納得してしまうのは、兄のルキーノの方だ。
容姿は完全にロマーノ。けれど、その瞳の色と、楽しそうな笑顔は、スペインのもの。
髪型も今はほぼロマーノなんだけれど、絶対見間違いようがない何か、が決定的な何か、が親子の間にはある。
たぶん、内面から出てくるもの、なんだろうな。それが。
快活なその性格は、一目見ただけでわかるくらいだから。

太陽の国と、そう呼ばれる、二つの国の子供たち。
とりあえず、2人に共通していえるのは。
「…将来がとっても楽しみだねえ…。」
頬がにやけるその事実だけ、だ。
上機嫌に鼻歌を歌いながら、ほら、ホットケーキ焼けたぞーと、2人に声をかけた。

戻る







































.
「リトアニアさん。」
「何?」
ここがわからないんですが、と俺のとこの本を持ってくるのは、ベアトリクス、だ。
小さな体は、うちのお姫様と同じくらい、かな。
オーストリアさんと同じ、茶色の長いまっすぐな髪は、今はひとつにまとめられているけれど、いつもは下ろしている。

「どこ?」
その緑色の大きな目と視線を合わせると、ここなんです、と小さな指がさす。
「ああ、ここは…。」
教えながら、こっそり思う。しかしまあ、難しい本読むなあ…。子供が読む本じゃないぞ、これ…。
けれど、目をきらきらさせるその表情からは、本当に本好きなんだなっていうのが伝わってくるけれど。

「わかった?」
「はい!ありがとうございます!」
「ベアトリクス、これであってるか?」

呼びかけは、書斎の方から。ベアトリクスが借りたいって言った本をまとめていたマックスのものだ。
俺がやろうかって言ったんだけど。いつものことだから。って。

マックスのイメージは、ハンガリーさんの色、だ。灰色がかった茶色。金色に近い、やわらかい、色。実りの色、ってイメージがある。
ただ、目の色は、オーストリアさん譲りなのか、紫だけど。短い髪が揺れる。
ぱたぱたと走っていったベアトリクスが、一冊一冊確認して、はい、あってます。と答える。
柔らかい声。うれしそうな声、だ。それに、笑顔。

その表情を見ると、かわいいなあって思う。あのオーストリアさんが、ベアトリクスには甘いと聞くけれど、気持ちはとてもよく、わかる。
マックスの方は、かっこいいとかかわいいとかより、うーん、たよりになる、感じ。ハンガリーさんの若いころにそっくりだからかもしれない。

「じゃああの、これ、借りていきます。」
すぐ返しますから!そう言う声に焦らなくていいよ。と笑う。
「じゃあ、ありがとうございました。」
「気をつけてね。」
「はーい。」
2人連れ立って歩く姿を見送って。
「…うーん。兄弟っていうのも、いいのかもなあ。」
ちょっとだけ、思った。

戻る








































.
日本さん、って呼びそうになる。
ケイくんの後ろ姿見てると。

もちろん、日本さんより幼いのはわかってるし、並んでるとやっぱり違うなあと思うんだけど。
日本さんと同じ髪型の黒髪とか、その立ち振る舞いとか、好んで着る和服とか。
見てると、どうしても間違いそうに、なる。
慌てて口をつぐんだところで、黒い目がこっちを見た。

「あれ、フィンランドさん?」
どうかしましたか?尋ねられて、日本さん、いらっしゃいますか?と尋ねる。

「あー…今ちょっと留守にしてて、」
「ケイ、誰かお客様?」
玄関口から現れたのは、ケイくんより少し背の高い金髪。
その色は、シーくんと一緒だ。瞳の色のエメラルド、も。同じ。
イギリスさん譲り、なんだろうな。
けれど、あそこの兄弟と少し違った印象をうけるのは、やっぱり女の子だから、だろうか。
長いストレートの髪を、二つにくくったエリちゃんは、大きな瞳をこちらへ向けた。

「あ。フィンランドさん。今、父も母も出かけてるんです。」
「もうすぐ帰ってくると思いますので、中で待ってもらえたら、」
「あ、そんな、いいのに。」
慌てて返しながらうーん、すごいな。と思う。
こっちの背筋が伸びてしまうくらいに、2人の対応は大人、だ。
アリシアもいつか、こんな風になるのかなあ。なるんだろうなあ。なんたってスーさんの娘だもんなあ。
シーくんは…いつまでもあのままでいてほしい気も、するけれど。

「そういえば、シーくんは元気ですか?」
「うん。元気すぎるくらいに。」
ああ、あの子が聞いたら怒るんだろうな。お兄ちゃんって呼んでほしいです!って。
思いながら、苦笑。
「あ、そうそう、シーくんとアリシアにあげたいものがあるんです!持っていってくれませんか?」
「え、あ。うん。わかった。」
じゃあお邪魔しまーす、と2人の家に入っていった。


戻る






































.

金色の髪がとても綺麗だ。
「アリシアは、髪はのばさないの?」
「…うん。短い方が、好き。」
ふうん。そう呟いて、その髪を櫛で梳く。さらさらと触り心地のいい髪だ。
「…ママ、とおそろい、だから。」
「…なるほど。」
お母さんが大好きらしい。フィンランドが聞いたら喜びそうだ。

「シーくんもママ大好きですよ!」
「あら。フィンランド大人気ねえ。」
くすくす笑ってそう言って。
はい、できた。と鏡の向こうの紫の瞳に言う。
オーストリアさん譲りの色をしているベアトリクスより、鮮やかなその色も、綺麗だなと思う。

「アリシアは絶対美人になるわよ〜?」
「はい!僕もそう思うです!」
「…そんなこと、ない…。」
「ある!」
ねー。とシーランドと言い合って、その髪につけた髪飾りに触れる。
パパが作ってくれたの、らしい。かわいらしそれを、作ってるところがちょっと想像できないけど。

「でも、ちょっと心配ですよ。」
「何が?」
「アリシアに変な虫がつかないかです!」
あらら。このお兄ちゃんは、小さいながらにうちの兄馬鹿と同じこと言ってる。
「…むしさん…?」
わかってないアリシアに、気にしない気にしない、と言っておいて、シーランドのくしゃ、とアリシアのそれより鮮やかな金髪を撫でる。
帽子は、今は膝の上だ。

「そんなに心配?」
「はいです!」
アリシアすっごいかわいいんですから!ぐ、と拳を握った彼の言葉に、お兄ちゃんありがと、とアリシアがちょっと恥ずかしそうに笑って。
…その笑顔のかわいさに、ああ、これは心配になるなあと、とても納得した。

戻る







































.

「レジーナは黄色とピンクどっちがいい?」
「ピンクー!」
やっぱり。ポーランドそっくりなその答えを聞きながら笑って、ピンク色の絵の具を手に取る。
「なーまだできんの?」
「もうちょっとだけ待ってね〜。」
ごめんねーとつけたすと、早くーと言う声。
こういうとこポーランドにほんとそっくり!
くすくす笑いながら、キャンバスの向こう側の彼女を見る。

髪は、秋の小麦畑の黄金色。瞳は、夏の太陽をいっぱいに浴びた森の色、だ。
恵みの色だと、そう思う。ポーランドと同じ色なんだけど、なんだろう、あの子よりもっと、やわらかい色合いな、気がする。
性格のせい?うーん…それよりは、リトアニアの影響なのかもしれない、けど。
大変そうだよなあ、リトアニアも。
世話をする対象が一気に2人になった感じ。レジーナはほんとにポーランド2号だから。
でも、それが楽しいって思っちゃってる時点で、ねえ。って、本人は笑ってたけど。
レジーナのこの、肩までの長さの髪に、ピンク色のカチューシャ。細かい細工の入ったこれも、きっとリトアニアが作ったんじゃないのかなあ。

「なーまだ?」
「もう、ちょい…オッケー!」
できた!と声を上げると、ぱたぱた走ってくる小さな影。
「!すごいしー!」
「そう?気に入った?」
うん!と大きな返事。うんうん。これだけ気を許してくれるようになるまで、やっぱりちょっと、かかったけど。かわいいなあ。頭を撫でる。
キャンバスにかいたのは、ほかでもない、レジーナの絵、だ。背景はピンク。だってそれがいいって彼女が言ったから。

「これくれるん!?」
「もちろん!でも、持って帰るのはきっと無理だろうから、また宅配便で送るよ。」
「やったー!」
目をきらきらさせた彼女に、気に入ってもらえてよかったなあと、しみじみ思った。

戻る