(※ifの話。長い。) あいつのどこが好きなんだ。 ぽろ、とそう漏らして、しまった、と思うのはいつものこと。 あのねあのね、そう言ってから堰を切ったように目の前で笑うそいつは好きなところ、を並べ立てはじめる。順番はいつも違うが、内容はいつも同じ繰り返し。目が髪が体が、性格が癖が。すべてが好きだとそう何度でも語る。 失敗してそう言ってしまったときはいつも、その話を最後まで聞かなくてはならなくなるからうんざり、だ。 「…でも、一個だけ、嫌い。」 ぽつ、とそんなことを言うのは初めてで、何だ、と顔を上げた。 きらい、ううん、苦手、かな。華やかに笑う、顔。 それはどこか、寂しそうで。 「だって待たせるん、だもん。俺が待つの嫌いなの、知ってるくせに。」 それは、馬鹿弟が言った…初めての愚痴、だった。あいつが、いなくなってからの。 じゃがいも野郎ードイツ、の消息不明の第一報から、一年が経とうとしていた。 何があったのかはわからなかった。…けれど、もう見つからないだろうと、諦めることは誰にもできなかった。 『だってドイツ、早めに帰ってくるって言った。』 きっぱりとイタリアさんがそう言ってきかなかった、というのが主な要因だ。マリアちゃんもガブリエルくんも、彼が帰ってくるのは当たり前のことだと思っているらしくて。 彼女らは普通に生活を送っていた。国の仕事はプロイセンさんが代わりにやっている。…けれどそれは、あくまで帰ってくるまでの代役として、だ。帰ってくるのが前提条件。 気丈に振る舞っている、わけではないのは、見ていてわかった。ただ信じているのだ。必ず帰ると。 …その方が、胸が痛くてたまらない、のだけれど。泣きじゃくってくれた方がまだましだ。なのに。…泣き虫なはずの彼女は、イギリスさんに捕まっただけで泣いていた彼女は、一度も泣かなかった。 イタリアくんは、待っている。笑顔で普通に生活を送りながら、ただ、ただ。 イタちゃんの家で、週一回集まるようになったのは、日本さんの提案だ。 お菓子とか飲み物を持ち寄って、他愛もない話をして、過ごす。ただ、それだけ。 でも、彼女がうれしそうに、心から楽しそうに笑うから、それでいいのだと思う。普通に料理をしてしゃべって。 ただそばにいること、しかできないから、せめて彼女が心から笑える時間を作ってあげたくて。 そして、そうやってただ待っていることしかできないまま、一年が過ぎた。 今日はみんなで裏庭にテーブル出してティーパーティ。今日で三日連続!何故かというと、子供達がアメリカのとこにみんなで泊まりに行ってるから。…俺が一人なの、気にしてくれてるみたい。嬉しいんだけど、申し訳ない気もする。 みんなで持ち寄ったお菓子を食べながらしゃべっていると、兄ちゃんの携帯に電話かかってきた。ちょっと、と席を外す兄ちゃんをきょとんと見送る。 「んだよ馬鹿!」 電話でて第一声がこれ。 「…誰から、でしょう…?」 「たぶんスペイン兄ちゃんだと思うよ…。」 不思議そうなカナダの声にそう答える。兄ちゃん口悪いからなあ。特にスペイン兄ちゃん相手だと。 「は!?あーもうとりあえず落ち着けこのやろ!」 「元気ねえ。」 「本当に。若いっていいですねえ。」 しみじみしたハンガリーさんと日本の声にくすくす笑う。たしかに。これ以上ないくらい元気だ。 そう思っていたら、いきなり兄ちゃんが振り返った。大きく見開かれた目が、まっすぐに俺を見る。…何だろ? 「…っばか弟!夕飯に使うからハーブとってこい!」 怒鳴る兄の声に、瞬く。 「へ。」 「さっさとしろ!!」 「うぇ、は、はい!」 ああもういきなり何?思いながらも、ケンカしたくないから、立ち上がって、ごめんね、とみんなに声をかけて、一端家の中に入る。ハーブとかを植えた家庭菜園は、表の庭の方だ。家の中を通った方が早い。 玄関から出て、菜園の方へ向かう。あ。しまった。何作るか聞くの忘れた。…まあいいか。いろいろとって行って後で聞こう。あまったのみんなで分ければいいし。そう思って、しゃがみこんで、どれにしようかな、と選ぶ。ぴちち、と鳥が飛んでいく音。風の歌。緑の匂い。もうすぐ、夏がやってくる。 …彼がいない、二度目の、夏が。 考えていたら、後ろできい、と音がした。門の開く音だ。 お客さんかな?そう思って振り向いて。 世界から音が消えた。 青。世界で一番、好きな、色。他のものでは代用なんてできそうもないその色。 色のくすんだ金色。本当は、もっと月の光のような、輝く色をしているのだと、知ってる。 知ってる。それが、誰のものか。 …そこに立っている人物が、誰なのか! 「…たりあ、」 掠れた声が、呼んだ。ぱたり、と涙が零れ落ちる。それと同時に走り出した。 求めて止まないその存在に、手を伸ばす! 「ドイツ…!」 強く抱きつくと、しっかりと受け止めてくれた。消えない。何度も見てきた夢じゃない!その頭に、背中に手で触れる。ちゃんと、いる、ここにいることを確かめる。 「…イタリア。」 低い声が、呼んだ。声が鼓膜を揺らす。間違いない、ドイツだ、ドイツがここにいる! 力の限りしがみつく。ぼろぼろと涙が後から後から溢れてくる! 「ドイツ、ドイツ、ど…。」 唇を塞がれた。キス、だ。荒々しいそれが、それでもうれしくてたまらなくて、必死で彼を求める。 「ん、んあ、んうう…。」 息が苦しくなっても離れたくなくて、がんばっていたら、ぐい、と肩を離された。銀の糸が、つながる。 「あ、」 もっと、と言う前に、膝の後ろに手が回って、横抱きにされた。 しっかりとしがみつくと、片手で玄関を開けて、入っていく。 リビングのソファについた。下ろされる体。頬に触れる、手袋越しの手。 「イタリア、」 熱く呼ばれて、顔を見上げる。ちゅ、と額に触れる口づけ。それだけじゃ足りなくて、首に手を回して引き寄せ、唇を求める。 降りてくる唇を割って、舌を入れれば、答えてくれる。くちゅ、と立つ音なんて気にも留めずにただ彼を感じたくて、舌を動かす。漏れる声がえろいとか、どうでもいいことは一端忘れる。 ドイツ、ドイツ、ドイツ!ただそれだけで、いい。 息継ぎをしてはキスを繰り返して、ようやっと落ち着いて、顔を離す。青い瞳。…それと、見慣れないものが目に入った。 「…ひげ。」 顎に触れるとざらざらした。…ドイツは、綺麗好きだからこんな状態初めて見る。 髪も、腰くらいまで長くなってしまっている。 「ああ…ここ二日くらい切る間も惜しくて、な。」 焦って帰ってきたから。そう言う声。耳を打つ、大好きな声。帰ってきた、ああ、帰ってきたんだ! 「…、っ、おかえりなさい…!」 「…ただいま。遅くなってすまなかった、イタリア。」 またぼろぼろと涙が溢れてきた。止まらなくて、ぎゅう、と抱きついたら舌で涙を拭われた。なんとか嗚咽を飲み込んで、見上げる 「…、ドイツ、おなかとか空いてない?」 「それは大丈夫だ。…ああ、けれど風呂には入りたいかな。」 体を起こす彼に慌ててしがみつくと、イタリア、と呼ばれた。いやだ。離れたくない。…怖い。 「…イタリア、」 「やだ!」 離さない、離したくない。 「…一緒に、」 「それはダメだ」 「何で!」 見上げたら、彼は困ったように笑った。 「…今裸のおまえを見たら我慢出来ない自信がある。…けれど、風呂の中だとじっくり味わえないだろう?」 一年ぶりなんだ。焦ってしたりなんてもったいない。そんな風に耳元で囁かれて顔が熱くなった。 「だから…」 それでも、手を離せなくてきゅ、としがみつく。 しばらくの沈黙の後、彼はぽつん、とリモナータ、と言った。 「へ?」 「おまえの作ったのが飲みたい。…入れてくれないか。」 作り終わるまでに上がってくる。すぐだろう?言い聞かせるような声に、絶対?と尋ねる。 「絶対、だ。」 それを聞いて、ゆっくり、と手を離した。…やっぱり怖い、けど。 「いい子だ。…すぐ戻る。」 ちゅ、と額にキスをして、彼は足早にお風呂へ向かった。 「…リモナータ、だよね。」 よし、と頷いて起き上がる。お風呂に突撃するのもいいけど、その前に作っておかないと。 キッチンに向かうと、お皿が何枚か積んであった。それではたと思い出す。みんないるんだった…! 慌てて向かおうとして、皿の隣にメモが貼ってあるのを見つけた。 『私達帰るので、後はごゆっくり』 『よかったですね』 『イタリアくんおつかれさま。ドイツさん、お帰りなさい』 『じゃがいもへ、次会ったらぶん殴る』 一人一人の字に、小さく笑う。…今度会ったらお礼言わなきゃ。 それから、リモナータを作るために冷蔵庫を開けた。 くるくる、とグラスをかき混ぜていたら、後ろから手が伸びてきた。 同時に腰を引き寄せられて、ひゃ、と声を上げる。振り返れば、ドイツの姿。タンクトップに、ズボン。…いつもの格好。あ。ひげ剃ったんだ。ひとつに束ねられた髪にもだいぶ輝きが戻っている。 グラスからマドラーを抜いて、飲み干すドイツを眺める。髪長いと別人みたいだなぁ…。かっこいいけど。 じっと見上げていたら、飲み干したドイツにどうした?と聞かれた。かっこいいなあって。素直に言ったら苦笑された。 「そうか。…おまえも美しく、なったな。」 するり、と頭を撫でられた。大きな手の感触に擦り寄る。 近づいてくる顔に、こっちからキスをしたら、甘酸っぱいリモナータの味がした。 「イタリア」 低い声にほう、と息をつく。 「子供たちは?」 「…アメリカのとこ。帰ってくるのは、明日の夕方…。」 「そうか。」 触れ合いそうなほど近い距離で、囁くような声でそう会話を交わして、もう一度キスをする。 イタリアが欲しい、なんて熱く耳元で言われたら、もううなずく以外になにもできなくなって。 優しくベッドに下ろされたら、なんだか胸がどきどきしてきた。まるで、初めてのとき、みたいに。…それよりもずっと、かもしれない。 「ど、いつ…。」 声が震える。伸ばした手も、少し震えてる。そっとその手つかんで、怖いか?と尋ねられる。 「…ううん。」 怖いわけじゃ、ない。ドイツが怖いわけない。ただ。 「…なんか、すっごいどきどきする…。」 「…俺もだ。」 そう言って、ドイツは手の甲にキスをしてくれた。優しい仕草に胸がいっぱいになる。 「ドイツ…」 「イタリア、愛している」 低い声に、うっとりと目を細めたら唇をふさがれた。貪るようなそれに身を任せる。 頬に触れ、そこからつつ、と下に降りていく指。 首筋をなでるそれが、泣きそうにうれしくて。 「背中、浮かせられるか?」 キスの合間に尋ねられ、ドイツの首にすがりついた腕に力を込める。彼が少し体を起こせば、ベッドから背中が離れる。その隙間に回る腕。じじ、とワンピースのファスナーを下ろす音が、する。それがなんだかすごく恥ずかしい。 彼の肩に顔を隠すと、イタリア、と呼ばれた。 「顔を、上げろ。」 「…、」 ちろ、と視線だけで見ると、思わず見とれるほど綺麗なブルー。ああ、ダメだ。やっぱ俺好きだ、ドイツのこと。 そばにいるだけでこんなに幸せになれてしまうくらい、好きだ。 「ドイ、ツ、」 呼んだら、なんだか深いため息。 「夢のようだ。」 おまえがすぐ、近くにいるなんて。囁く声にやだよ!と声を上げた。 「イタリア?」 「やだよ、やだ。夢なんかじゃやだ。」 本物じゃなきゃ意味がないんだ。触れて抱きしめて、かき消えてしまうなんてもういやなのに。 泣きそうになりながらそう言ったら、イタリア、と呼ばれた。 額に落ちてくるキス。 「大丈夫だ。…夢じゃない。俺はここにいる。」 「ドイツ…!」 しがみついたら、しっかり帰ってくる、感触。 ああ、ほんとにドイツが目の前にいるんだ! 「…うぇ、」 「泣くな。」 「だ、だって、」 「…イタリア。」 大きな手で頬を包んで、優しいキスをしてくれた。 何度かのバードキスの後、キスが深くなる。舌先を噛まれると弱い。やわやわと刺激されると、くたんと体から力が抜けてしまう。 その上、何故かいつもより、じわん、って感じちゃう快楽が大きくて、慌ててドイツの胸を押し返した。 「どうした?」 「ち、ちょっと待って、」 なんかやばい気がする。こんな初っ端からこんな、感じてたら俺、だって、やばい! 「…待てない。」 「え、ちょ、わ、ドイ…っ!」 押し返した手を取られ、ぐぐ、とドイツが近づいてくる。ちゅ、と指先にキス。あ、くわえないで、それマズいって…っ! ちゅくちゅく、と響く音に、体が勝手に跳ねる。やばい、やばいやばい、ほんとに。 なんでこんな敏感になってるの? 「ど、いつ、」 呼ぶと、手を離してくれた。ほっとする、暇もなくぷちぷちとブラウスのボタンを外す手! 鮮やかな手さばきにわたわたしてる間にあっと言う間に脱がされちゃって。 「ど、」 「…外すぞ」 言いながら外してたら言う意味ないよドイツ… 下着まで外されちゃうと、不安になってしまう。おろ、と見上げると、きれいだ。って。 伸びてくる手。優しく添えられただけなのに、甘い吐息が漏れてしまう。 慌てて口を塞いだら、どうしたって。 「…だって、声。」 「…久しぶりだから感じているんだろう。」 かわいい。って、聞かせろって。甘く言う、その声に逆らえるはずもない。 「いい子だ。」 手を外したら、ごほうびのように額にキス。それから、手がゆっくりと動き始めて。 「ふ、うあ、ん…あっ、」 柔らかく揉みしだくその動きが卑猥で、思わず視線をそらす。 見えるのは、ドイツの青。小さく、楽しそうに笑った口元。 髪の長さだけが不思議で、髪をくん、と引っ張ったら、こら、とちょっと怒られた。痛かったみたい。 「は、あ、ねえ、ドイツ、」 「ん?」 「髪、また切る、の?」 「…そうだな。」 そっか。そうだね、俺も、いつもの髪型のドイツの方が好きだ。だって長いと、髪の毛わしゃわしゃできない。 代わりに首にすがりつくと、彼は少し体を寄せてくれた。 大好きなドイツ。そのにおいを感じ取って、はぁ、と甘い吐息を吐く。 「痕つけたい。いいか。」 小さく囁く声に、こくん、とうなずいて。 じゅう、と吸いつく唇の感覚に、ふあん、と声が勝手にあがる。体が跳ねる。 「ど、いつ…あっ」 「イヤか?」 「や、じゃない、よ、あん!」 じゅ、と胸の先端吸い上げられたら、声が大きくなる。甘噛みされると、ばたばた動きたくなる。じっとしてるのなんか耐えられない! 「こら、動くな。…ほら。」 がっちりと、押さえられたら、その感覚をただただ感じるしかなくて。 「や、ドイ、ツ…あ、あ!」 「…柔らかいな。」 く、と笑う声。気持ちいいか、尋ねられて、こくん、とうなずく。 「はあ、あ!」 ぎゅう、としがみつく力を強くしたら、手が背中、じゃなくて、着ているシャツに触れた。 いらないのに。ドイツを感じたいのに。 「ど、いつ!」 「どうした?」 服、やだって言ったら、それだけでわかってくれたのか、すぐに俺を一度離して、脱ぎ捨てられるタンクトップ。ズボンも、ついでにベッドの上でくしゃくしゃになってた俺のワンピースもベッドの下に放って。 「他に何か要望は?あるならすぐに言え。」 「ヴェ?」 「今言わなければもう中断はしない。…そろそろ耐えられん。」 あまり焦らすな、イタリア。熱い吐息でそう言われて、じゃあキス、と唇を突き出した。 すぐにのしかかってくる体温に、うっとり目を閉じて。 ドイツが好きだ。とりあえずもう何がどうなったってその事実は変えられない。 好きで好きでたまらない。だから、あんまり迷惑かけたくない。困った顔より笑顔が見たいから。 なのに。 「あ、あ…っ!」 「我慢しなくていい…イタリア。」 言えって。そう言うの?ドイツ。ワガママも、文句も。言えって。だって、きっと、しゅんとしてすまないって、言うのに。気にしちゃうくせに。…だから言わないでおこうって決めたのに。 考えてる途中なのに、ドイツの指が中をかき回して思考を遮る。そんなことされたら、だって、我慢、なんか、あ、ダメ、ダメだってば、くるん噛まないでっ! 「あ、や、やああっ!あ、あーっ!」 がくがくと体が震える。視界が真っ白に染まる。緊張した体を、はあ、と息を吐き出して弛緩させると、ゆっくりと抜かれる指。両足に添えられる、手。 「あ…。」 「入れるぞ。」 掠れた声に、ぞくん、とする。直後に、触れる熱源。固いそれに、ドイツも興奮してるんだって思ったらぎゅう、と締め付けてしまって。 「あ、はぁ、は、いってく…っ!」 「…っく、イタリア、」 呼ばれて、頬に触れる手。 重なる唇。じゅう、と舌を吸い上げるようなそれに、少し体の力が抜ける。 その途端に、ぐ、と奥まで突き上げられて。 「〜〜〜っ!!」 叫びは、ドイツの口の中に消えた。 奥まで入れた状態で、しばらく、止まってくれた。ちゅ、ちゅ、といろんなところにキスが降ってくる。落ち着け。ってそう言うように。 「ん、ど、いつ、」 「…大丈夫か?」 心配そうな声に、こくん、とうなずく。だいじょぶ。 「だか、…うご、いて…」 お願い。言った声は思ったよりずっと甘くて。 でもドイツ相手じゃ仕方ないよなあって思った。 うなずいて、ゆっくり動き出すドイツに、一番弱いところ擦られて、甲高い声が出る。 「あ、やー、そ、こ、あぁ…っ」 ドイツの太い首にしがみついて声を上げる。全身が感じすぎてびりびりする。 中を刺激する自身、腰に回る手、触れ合う足、汗の落ちてくる厚い胸板、すがりついてもびくともしない首、そこにある、大切なクロス。感じる匂い。は、と熱っぽい吐息。 うっすら瞳を開けば、見える金と、青。何より大好きな、色。 ああ、ドイツだ。 「…っど、いつ…!」 ぼろぼろぼろ、涙がこぼれる。痛いか?苦しいか?心配そうな声に首を横に振る。そうじゃない。彼が引きそうになった腰に自分から押しつける。 「ふあっ、…だい、じょぶ、だからぁ」 「…ん。」 わかった。そううなずいたドイツが、足を大きく開いた。慣らすように揺らされると、ぐちゅんって音がした。 「あ、あ!ああん…っ!」 、いつ、と呼ぶ。ドイツ、ドイツ。ねえドイツ。お願いがあるの。ひとつだけ、いいたいことがあるの。それだけ叶えてくれるなら、ずっと寂しかったのも心配したのも、もう文句言わないから。 「も、いなく、ならないで、んぁ、俺のこと、置いてかないで…っ!」 待つのはもう嫌。帰ってこなかったらどうしようって怖い夢見るのも嫌。寂しいようってひとり泣くのは、もう嫌! 「…っああ!」 ぐ、と抱きしめられる。強い腕の力。 「約束する。イタリア。もうどこにも行かない。…次は、お前も連れて行く。離さない!」 「あ、あ…っぜっ、たい?嘘じゃ、ない?」 「ああ。絶対だ。」 約束しよう、イタリア。首に回していた片手を、とられる。絡まる指。強い力に目を閉じて。 「あ、あ、んああっ!」 だんだん早くなっていく動きに、ぼろりとまた涙が落ちる。舐めとる、舌。 「イタリア…っ。」 愛している。俺のイタリア。耳元で囁かれる、この一年ずっと聞きたくてたまらなかった声に、ぎゅう、と中を収縮させて、体を震わせた。 「お、れ、も、好き、どいつ、あっ!」 低いうめき声。そして、動きがより一層激しくなる。 奥まで突かれるたびに、涙が、声が溢れる。もうぐちゃぐちゃな顔してるのは自分でもわかってるのに、綺麗だ。って感嘆の声。 「…もう、離さない。愛しいイタリアっ」 「あ、ダメ、も、イく、あっ、」 声にならない叫びをあげた瞬間、低い声が聞こえて、中にほとばしる、熱。 「…は、はあ、はあ…。」 ゆっくり、と、目を開ける。視界を占める、青。 「ど、いつ。」 呼んで、首に回していた方の手をくん、と引くと、優しくキス、してくれた。 「ねえドイツ、ドイツの髪、俺に切らせてよ。」 夕方くらいになって、ようやく自分の思い通りになってきた体(朝はひどかった。ほんとに指一本動かせなくて。)でドイツに抱きつきながら、そうお願いする。 「大丈夫か?」 「任せてよ!」 これでも、子供達の髪整えたりしてきたんだから。それに。 あの髪型にするんでしょう?…ドイツのこと、俺よりよく知ってる人なんか、いないもん。 そう思っていたら、じゃあ頼む。と言ってもらえてわーい!と声をあげた。 しゃきしゃき。はさみを通す、金の絹糸。 ガヴィの髪と、似ているけどやっぱり、違う。あの子の髪質はどっちかというと俺よりで、細くてさらさらしてるから。 ドイツの、しっかりした髪を触れるのが、とてもうれしい。 長い髪を揃えていく。長さも、その形も、俺の目が、指が、全部覚えてる。その形を思い出しながら、はさみでしゃきん、と落とす。 しばらくしていると、くく、とドイツが笑った。 「なあに?」 「おまえ、相変わらず好きなことに集中すると黙るんだな。」 いつもうるさいくせに。って。ヴェー…。 「そんなにうるさい?」 「…いや。」 おまえの声なら、もっとずっと聞いていたい。 そう言われて、思わず一度、はさみを止めた。はあああ、とため息。 「…ドイツー…。」 「どうした?」 「そんな声で言わないでよ…。」 なんて、なんて心臓に悪い甘い声!ああもう顔が熱い! もうドイツ黙ってて!なんていいながら、とりあえず髪を切り終わる。 「はい!終わり!」 ばさり、と髪の毛避けにかけていた布をどけると、ああ、うん。この長さだ。 懐かしい、よく知ってるそのドイツの後ろ姿にうりうり、と頭を擦り寄せる。 「こら。イタリア。」 「ヴェー。」 立ち上がれないだろうと怒られても、ぎゅう、と抱きついて。 そのとき、玄関の方からただいま、と聞こえた。 「あ、マリア達だ!」 ぱっと手を離しておーい!と声をかけると、ママ、庭?と聞くからうんーと返す。 あれ、この靴、!まさか!そう声が聞こえて、ばたばたばたと走ってくる足音二人分。 ドイツが隣りに立つ。あの子たちを迎えるように。 すぐに見えてきたのは、ガブリエルだ。 「父さん!!」 目を丸くして、窓のところで立ち止まった彼の隣を、ずかずかと通り抜け、庭に降りてくるのは、何故か無表情な姉。 「…マリア?」 ドイツの前でぴた、と止まって、うつむいていた顔をきっと、上げて。 ぱあん!と乾いた音がした。 ぎょっとする。あの大人しいマリアがドイツの頬、引っ叩くなんて! 「パパの馬鹿!遅い!遅すぎる!ママがどれだけ待ったと…っ!!」 怒鳴りながら、だんだんぼろぼろ涙が溢れてきて。 ひく、としゃくりあげながら泣く彼女に動けないでいたら、父さんごめん。俺もいい?と隣に立つガヴィ。 「…ああ。」 ばちん!とガヴィの平手が一発。今度はさすがに、ドイツも一歩、引いた。それほど強い一発。 「…すまなかった。」 それでもドイツは、赤くなった頬をそのままに、両手を伸ばし、涙ぐむ二人の頭を撫でて。 「…っおかえりなさい…っ!!」 マリアの声に、ただいま。と優しく言うドイツに思わず駆け寄って、三人を思い切り抱きしめた。 戻る |