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マックスーと呼ばれて、くるであろう衝撃に体が身構えた。
がばり、と後ろから飛びつかれた。
それに耐えたら、今度は何故か、腕を首に回して体重を後ろにぐいっと。

「ぐっ、締まってる締まってる!」
「ちっくしょう何で俺が抱きついても微動だにしないんやおまえは!」
「そりゃ体格の差…苦しい苦しいギブギブギブ!」
何とか締めてくる腕から逃れて、ルキーノを見下ろす。
そう、見下ろす。小さい頃はだいたい同じだった身長は、成長期が終わってみれば、俺の方が若干高く。
それをルキーノがかなり気にしているのは知っているが、こっちとしては嬉しいかぎりだ。

「はぁ〜…明日になったらマックスの背が1メートルくらい縮んでへんかなぁ」
「どんだけ縮めるんだよ…」
わしゃわしゃと髪をかき混ぜると、そーいうことするから嫌なんや!と吠えてきた。

「俺の方が年上やでと、し、う、え!」
「一週間しか違いませんー」
「一週間でも俺の方が早く生まれたの!」
だーかーら、そうやってガキっぽいことするから子供扱いしたくなるんだっつーの…
ふと思いついて、まだ年上の素晴らしさについて語っているルキーノの口をキスで塞いでみる。
「っ何すんねん!まだ話の途中」
「大人扱い。」
しれっと言ってやると、きょとんとしたあと、やったらええわ、とそれはもう嬉しそうに笑うルキーノ。

あまりの単純さに、笑いそうなのをこらえて、もっとーというリクエストに応えて、もう一度キスを落とした。



大人の振りする馬鹿×単純馬鹿

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「俺、リリーがどこにいても見つけ出せる自信ある!」

いきなりそんなことを叫ぶから、どうしたの?と笑う。
「だーかーら、リリーが」
「それはわかった。けど、どうしていきなりそんなこと言い出すの?」
首を傾げると、ん?と瞬いた。
「…どっか行きそうな顔してたから?」
「私が?どこに?」
苦笑して言ってみると。

「……山。」
「う」
「やっぱりまた行こうと思ってたやろ。」半目で見られて、だめぇ?と困って笑ってみせる。
「だめとは言ってないけど。…分かれへんなあ、山の良さは…」
「んー…とってもいいんだけどなぁ…わかんない?」
「登るのは楽しいけど…」
そんな熱中するほどでは、らしい。残念。
「でも、リリーは好きやで?」
「?」
首を傾げたら、楽しげな笑顔。

「山のこと話してるときの、きらきらしてるリリーの笑顔は、好きやで。」

「…っ!」
目をまん丸にしたら、にしゃあ、とネコ科の笑み。あ。してやられた。と気づく。この笑みはいたずらに成功したときのだ。

「そういうびっくりした顔も好きやけどな〜」
「…性格悪い…」
「人聞き悪いなぁ」
突っ伏したら楽しげな笑い声。
心底気に入らなかったので、ぐい、とその首を引き寄せた。
「わ!」

「悪いことする子にはお仕置きしないと…な?」
低く囁いたら、ぎゃー!と真っ赤になって叫んだルキーノに思い切り突き飛ばされた。

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「ベルが好きなんだけど。」
道行く女性がみんな見惚れるような笑顔で、芳しい香りをさせる大きな、真っ赤な薔薇の花束を渡してきてそんなことを言ったのは、もう幼馴染にちかいくらいずっと一緒に育ってきた、従兄弟のガブリエルだ。

父親譲りの金髪と蒼い瞳と高い身長。母親譲りの、フェミニストで優しい性格。
…はっきり言おう。あいつはもてる。めちゃくちゃもてる。尋常じゃないくらい。
そんなガブリエルが、そう言ったのだ。…信じられると思う?

冗談、と思ったのに、からかってるわけでも騙してるわけでもないから。と先手を打って、彼は笑った。
「返事は、一ヶ月後に聞きに来るから。」
本気で、考えて。そう、言って、薔薇を押し付けて。

あいつは今、家にいない。父親の手伝いで、地球の裏側にいる。帰ってくるのは、ちょうど。


「…明日ね。」
「…そうなの…。」
机につっぷしてそう答えた。
周りに座るのは、いつも一緒の女子会のメンバー。エリ、サラ、ベアトリクスと、ガブリエルと一緒に地球の裏側なマリアの代わりに、何故かリリーがいる。…まあ、結構よくあることなんだけど。
「一ヶ月…何してたのよ?」
「…悩んでた。」

素直に言ったら、こら、とデコピンされた。強いエメラルドの視線に、小さく痛い、と呟く。
「もっと早く相談しなさいよ。…一人でうじうじするのは、イザベルの悪いとこね。」
目の下にくま。何日ちゃんと寝てないの?心配そうな表情に、ごめん、と謝る。それから。
「ありがと。」
「相談してくれるだけ成長したと思いますよ。」
さらりとベアトリクスのきつい言葉。ずっと何かあったのかと気にしてくれていたのに、大丈夫だからと納得させていたので、拗ねているのだ。
「…けど、本気で考えて、ねえ。ガヴィらしいわー。」
じゅーとオレンジジュースを音を立てて飲むサラの言葉。
「え、何で?」
「ほんとなら、いい返事を期待してる、とか言うとこでしょ。」
「そうね。イザベルの返事なら、どんな返事でも受け止めるからってことよね。」
そう言われれば、そう、かも。断っても、彼はきっと。そうか。と笑うんだろう。
それで、次の日からは、普通に振舞うんだ。そういうことができる。
…だからもてるのかなー。ちょっと思って、ため息。

「…要は、イザベルの気持ち次第。ってことよね。」
にこ、と笑ったリリーと視線があって、かわいいなあ。こんなにかわいかったら、きっと悩んだりしないんだろうなあ。と思っていたら。
いつのまにか、全員の視線が突き刺さっていた。

「…え?」
「え、じゃなくて。」
「イザベルの気持ちを聞いてるの。」

うんうん、とみんなにうなずかれて、わ、私?と自分を指さした。
「…わ、私…」
うろうろ、と視線をうろつかせて。
「…わかんない…」
ぼそ、と言ったら、しん、とされた。だ、だって、恋なんかしたことないし、人を好きになる、なんてわかんないんだもん!

「…まあ、それをそのまま伝えるのもありなのではないですか?」
ため息をついた、ベアトリクスの言葉。
「そうね。イザベルの言葉を聞かないようなやつじゃないし。」
変なことしたりしたら言ってね、ぐーで殴ってあげるから!
絶世の美少女の姿で拳を握ったリリーは、誰より頼りに思えて、ありがと、と苦笑した。



待ち合わせ場所は、よく遊んだ公園。
結局、わからないの、とそう伝えることにした。嘘を付くのは、失礼だ。彼は、本気で気持ちを伝えてくれたのだから。
だから、本当の言葉を伝えなきゃ。これが、私の結論。

でも、決心と実際に伝えるのは全然違って。

き、んちょうする…どきどきどきと、早い鼓動が鳴る。
深呼吸して待っていたら、名前を呼ばれた。ぱっと顔を上げる。
「ベル!」
明るい声。駆け寄ってくるのは、紛れもないガブリエルの姿!
「…あ。」

思わず呟いた。なんだか今、すとん、と答えが投げ込まれた、ような気分だ。
わかった。何であんなに眠れなかったのか。何で彼の言葉がずっとリフレインしていたのか。
もちろん、真剣に考えなきゃ、も、あるんだけれど。
最後に会った記憶だったからだ。彼に。

思うままに、走り出す。驚いた顔になったガブリエルに、いち、に、さん!で踏み切って、抱きつく!
「わっ」
「言い逃げなんかずるいわよ馬鹿!」

首に手を回して、しっかり抱きしめる。離さないように、逃さないように!
あんなに眠れなかったのは、悩んでいたのもあるけれど、ただただ寂しかったのだ!
彼がいなくて、寂しかっただけなのだ!
答えなんか、ずっと私の中にあった。わからなかったのは、見ない振りしてたから。友達だと、決めつけていたから。

「…好き。」
小さな声で囁いたら、一瞬の後、抱きしめられた。強い抱擁。
「…ベル」
愛してる。甘い声ってきっと、こういう声を言うんだろう。かあ、と真っ赤になってしまう。
「う、あ…」
「俺とつきあってくれる?」
一度体を離して、顔をのぞき込むように言われた。
泣きそうになりながら、小さくうなずくと、そっと額にキスされた。


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ビーズの指輪で左手薬指予約
じゃじゃーん、と取り出したのは、一つの小さなきらきらしたもの。
「なぁに?」
きょとんと見上げたら、手出してーとにこにこ。
両手を出したら手の中に渡されたのは、きらきら光る輪。

「…指輪?」
たぶん、ビーズでできてる。細かいところまで丁寧に作られた、それは本当に精巧で、まるで買ってきたものみたいだけど、俺が作ってんでーとにこにこ。
本当なんだろう。彼はとても手先が器用だから。
「くれるの?」
「そうやで〜バレンタインにチョコクッキーくれたから、お返し。」
俺めっちゃがんばって作ってんで、という言葉に、ありがとう、と笑う。

手のひらに乗せられた指輪を取ろうとしたら、ひょい、と取られた。
きょとんと、片手の中でくるくる指輪で遊ぶルキーノを見上げる。
「手、出して?」
「?」
両手を、受け取ったときみたいに出すと、左手。上下逆。と言われて。左手を手の甲を上にして出す。
「ふふーん」
出した左手を取られる。手の甲にキス。
「ルキーノ?」
「今から予約ってことで。」
する、と薬指にはめられた。ビーズの指輪。
「!」
「俺のために置いといて?」
お願い、なんて、そんな顔甘い顔して言わないで。どきどきしちゃう!

「…あんまり長く待たせないでよ。」
「まかせとき。」
にか、と笑った明るい声に、抱きついた。


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ひょいぱくひょいぱくひょいぱく、と。すさまじい勢いで消えていく目の前に山にしたマシュマロに、呆れてものも言えなくなった。
「…どれだけ食べるんですか。」
「ケイがくれる分全部。」
…結構あるんですけど。

3倍返し、と絶対言われるだろうから、と量も値段も3倍にしておいたのだ。
チョコレートケーキ1ホールのお返しは、なかなかな量のマシュマロになった。

「…持ってかえって食べていいのに…。」
「だめよ。リリーとママにとられちゃうもの。」
甘いものに目がないからあの人たち、とぱくぱく。
「別にあげてもいいんじゃないですか?」
「イヤよ。私があんたからもらったんだから。全部私のもの。」
しれ、といわれて、一瞬息を止めて、目を閉じて、はあ、とため息。
ちら、と目を開けると、おもしろそうにわくわくした瞳がこっちをのぞきこんでいた。

「……からかってます?」
「ええーマサカー。」
棒読みではまったく説得力がない。ため息をついたら、楽しげに笑われた。まったくこの子は…。
困ったので微笑んで、腕の中に頭をうずめる。
「何よ。文句でも?」
「…何でも。そんなところも大好きですよ。」
「どんなところ?」
「いじめっこなところ。」
「…けーいー?」
じと、と見られて、冗談です、と小さく笑った。

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