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「おー!我が愛しい愛しい妹よ!」
そう遠くから叫んで、走ってくる兄の姿に、イザベルは呆れた表情をした。
熱烈的なハグは、好きではないが、まあ避けたってぼろぼろ泣くだけだし。めんどくさいし。
やれやれとため息。目の前に迫ったでかい兄の姿に、ちょっとやだなぁとため息。

すると、目前に背中。
「え。」
「ふぎゃ」
何かがつぶれた声にその背中の横から覗けば、顔面捕まれた兄の姿。
「嫌がるレディに抱きついたりするなよ」
声に見上げれば、兄より身長の高い金髪の。

「…ガブリ、エル」
「何やねん邪魔すんなよなあガヴィ!」
感動の兄弟の再会やねんで!という声に、にこ、と笑うガヴィ。
「…いくら兄でも。抱きついたりはして欲しくないんだけど」
恋人権限で。そう笑われて、かあ、と頬が熱くなった。

ぷんすかしながら、兄さんが諦めて歩いていくのを見ていたら、肩をたたかれた。
「少しでもイヤだなって思ったら、ちゃんと言って。」
どうにかしてあげるから。なんて真剣に言われて、あんたどうするのよ…と呟く。

「なにが?」
「私なんかにそこまでして、楽しい?」
私よりいい女なんてたくさんいるのに。
頭はいいスポーツ万能気遣いはできて料理がうまくてフェミニスト、な、徹頭徹尾完全無欠に近いこの男に、何を勘違いしたか、ベルが好きなんだけど、なんて告白されてしばらくたったけれど、やっぱりもったいないんじゃないかと思う。私には。

なのにこいつは。
「楽しい。」
そう言って笑う。
「…変人」
「なんとでも。ほら、行こう。」
そうやって、自然に手をつなげてしまうあたり、やっぱり私じゃ釣り合わないと思うんだけど。

「ベルは、他のことなら聡いのに、自分のこととなると鈍いよなぁ…」
「何が?」
「何でもない。」
(俺にはもったいないくらいの美人のくせに、無防備すぎて見てられないんだよ、まったく…)


完全無欠欠点は彼女しか見えてないのに女性みんなに優しい彼氏×一見キャリアウーマン実際はか弱いギャップが持ち味(無自覚)彼女


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ふわり、と微笑む恋人に、リリーは困ったように笑った。
「あの…マリア」
「なあに?あ。もしかして、クッキー苦すぎた?」
心配げな表情にまさか、と首を横に振る。
そんなわけがない。マリアの作るお菓子はいつだっておいしい。
「ならよかった。」
ほっとため息をついて、紅茶を飲む彼女を見つめる。…わざとか、否か。
この子は、だいたい無意識でやってるんだけど、たまに意図的に、だから困るのだ。見分けがつかない。
けれどなんとなく、そう、な気がして。
「マリアさん。」
しゅるり、と髪をまとめたリボンをとく。
今出ないと飛行機に間に合わないんだけど。…仕方がない。
登山仲間に後でメールしとこう、とあきらめながら、座り直す。
「なあに?」
にっこりと微笑んだ彼女に、あー。と小さく声を上げて。
「怒ってらっしゃいます?」
「とっても!」
あー。やっぱり…。
「そんなに好きなら、山と結婚すればいいのよ」
ぷーい、とそっぽを向いた彼女に、ごーめーんってーと謝る。確かに、ここしばらく休みの度に登山に行っていたから、ほったらかしにされた彼女が怒っても無理はない。
「知らなぁい!」
「マーリーアさまー」
「馬ー鹿!」
「大好きー」
「私もよ?」
その答えに、一瞬息を詰まらせると、彼女はくすくす笑って。
「大好きよ?リリー。」
「…降参。」
両手を上げると、彼女は楽しげに笑って。
「私も大好き、マリア。」
諦めて笑うと、綺麗よねえ、リリーは。とそう笑われて、そういうマリアの方が綺麗な笑顔なのに。と思った。


美少女?美青年?不明な優しい彼氏×ふんわりのんびりでも怒ると怖い彼女


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かちゃ、と紅茶のカップを持ち上げて、それで?サラ。と電話の向こうに呟く。
「次はいつ帰ってくるの?」
『そうねぇ…』
あー…これは誤魔化すな。いつものパターンにため息。
「いいかげん帰ってきなさい」
そのうちね。なんて返事に、そのうちそのうちっていつまで先延ばしにするつもり?と呟く。
『仕方ないでしょ、仕事なんだから』
「ママ寂しがってたよ」
言えば、黙る。困った妹だ。…ママと喧嘩して飛び出したから、帰りづらいのは知っているけれど。
まったくもう、意地っ張りなんだから。小さく笑って。
「謝りたいんでしょ」
『…謝るとき、』
「一緒にいてあげるから。」
仕方のない妹だなぁ。そう言ったら、少し機嫌を損ねたらしい。そんなこと言うなら帰らないもん。なんて。…子供じゃないんだから…
『なんか言った!?』
「何にも言ってないってば」
『心の声が聞こえました〜』
「わかったわかったわかりました!」
ため息をついて、頭をかく。
「私が、…僕が、寂しいから、帰ってきて。」
サラ。そう言ったら、息を飲む音が聞こえた。
『…っそーいうことは恋人に言ってあげなさい!』
「はぁい」
くすくす、と笑ったらもーこの弟は…と呟きが聞こえた。
「弟じゃないもんお兄ちゃんだもーん」
『だもーんなんて言う兄は認めません〜』

ママに週末の予定聞いとかなきゃなあ、と思いながら、地球の反対側にいる片割れと電話を切った。


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茶色の髪。目の前の、お父様と同じで癖のある髪に櫛を通す。
「まったくもう!ですからもう五分早く起きてくださいと…」
ぶつくさと毎度毎度同じ文句を言いながら、毛先をできるだけ一ヶ所へもってきて、手首にはめたゴムでくくろうとして。
かくん、と首が前に倒れて、手の中にあった髪がばさばさとまたばらばらになって。
「………。」
無言で思いっきり髪を引っ張る。
「お、に、い、さ、ま!?」
「痛い痛いいたたたたた起きます起きます…っ!」

まったくもう!と頬を膨らませて、はげたらどうするんだとか何とか呟いてるお兄様の髪を手早く丁寧にまとめあげる。
…毎日のことだから、無駄にスキルが上がっている。まったくもって無駄だ。
「されたくなかったら、もう少し早く起きる努力をしてください。」
「…だってほら、布団の中って天国じゃん?」
「知りません。…はい、終わりです。」

綺麗に髪を整えたら、おしまい。ありがとな、と振り返って微笑む彼は、さっきまでの寝ぼけて柱に頭打つようなお兄様ではなく、いつもの頼れるかっこいいお兄様。
「まったく…私がこの家から出て行ったらその後はどうするおつもりですか?」
支度くらい自分でできるようになってください、と言えば、大丈夫。そんな日は来ないから。ってそういう問題ではなくて!

「ですからお兄様、」
「あーはいはい。ほら、早く出ないと間に合わないんだろ?」
「ごまかさないでください!」
「ごまかしてないって〜」

そう言いながら私の荷物を持って先を歩いていってしまう彼に、ため息をついた。
「待ってください、お兄様!」


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「よしよし〜ええ子やなぁベアトリクスは。」
くしゃくしゃ、と頭を撫でていつものセリフ。
思わずむっとして、見上げる。
「子供扱いしないでください!」
「してへんけど?」
そう言いながら、ひょい、と私を膝に抱き上げる。そういう行動が子供扱いしてるっていうんです!
ぷい、とそっぽを向いたら、子供扱いなんかしてへんって。と柔らかい声。
「…じゃあ、」
「特別扱い、してるだけ。」
虚を突かれて答えられずにいたら、額にキス。
「…っ!!ず、ずるいです!」
「え〜、なんで〜?」
くすくすと笑う顔(ああもう悔しい。なんでこうかっこいいんだろう!)を見上げて、敵わない、と思った。
どうしても、どうがんばってもこの年上の恋人には敵わない。いつも。
それが、悔しい。いつもがんばって挑むのだけれど、たった一言で負けが決まってしまう。
しかもまったくわかってなさそうなのが余計に悔しい。
「…ベアトリクスー」
「何ですか?」
不機嫌そうな声を出したら、後ろから強く抱きしめられた。
「好きだ。」
真剣な、低い声に、どきんと心臓が高鳴った。
「…っ!!」
「やから、怒らんといて?」
笑ってつけたされた言葉に深くため息。

ほら、やっぱり。
あなたには敵わない。


優しくてかっこいいけどとことんKY彼氏×ちっちゃくてお人形さんみたいに愛らしいけど精神的には超大人彼女。


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「…ベアトリクス。」
「なんです?」
「そろそろ、許してくれない?」
その言葉に、怪訝に思って、彼を見上げる。愛想笑いに、何ですか。また女の子に告白でもされて泣かせました?と聞いてやる。
困り果てた顔。…ふむ。はずれか。珍しい。もし当たっていれば、誤魔化すような曖昧な笑顔を浮かべるから。

「…その返しいい加減やめて…」
「六割当たるんだからいいでしょう。…で?何を許せと言うんですか?」
ほんの片づけをしながらそう尋ねると、彼は小さく咳払い。

「…トリシー。」
…思わず、本を取り落とした。

「…だめ?」
「ダメです!」
「何で!」
「何ででもです!」

トリシー、というのは、エリをはじめ女の子達には呼ぶのを許している愛称だ。男の子は、お兄様にだって呼ばせたことはない。
「俺恋人なのに…」
ぶつぶつ言ったってだめなものはだめだ。

…だって、ベアトリクス、って呼ぶより、トリシー、と呼ぶ方が、ガヴィの声が甘く、感じる、から。もう赤面してしまうくらい。…彼は無自覚みたいだけど。
だから、だめだ。理由も言わない。だって調子に乗るから!
「ベアトリクスー…」
「だめです。第一、何故そこまでこだわるんですか?」
前から疑問に思っていたことを尋ねると、青い瞳が、まっすぐに私を見た。
「…俺だけが特別って証拠、欲しいから。」
「っ!」
かああ、と頬が熱くなる。

「…だめ?」
「………だめです」
「けち。」
「っ何とでも!」

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