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ぱら、と座ったまま、持ってきていた本をめくる。
「なあ父さん。」
「なんですか?マックス。」
「一番上のボタンはずしてい?」
「写真撮るまでくらい我慢しなさい。」

言えば、だって苦しい…とかなんとか聞こえたが、聞こえない振り。
はああ、と深くため息をついたマックスは、ネクタイの結び目を触る。
…まったく。ちゃんと正装をすれば、大人に見えるじゃないですか。いまだに悪戯で騒ぎを起こす長男を見て、そっと思う。仕事はきっちりこなすのだが、真剣にしないといけないシーンではそれができるのだが、はめのはずし方が少々やりすぎなのだ。彼は。…だから、幼く思えてしまう。成長した彼は、もうすでに私より身長も高く、運動をするのも嫌いでないらしく、がっしりとした体つきは、成人男性のものだ。…おそらく、今の自分では、本気で勝負しても勝てないだろう。…それだけ、大きくなっても中身が伴わなければ。もう少し落ち着き、というものを持って欲しいものだと、こっそりため息。

「母さんたち遅いな。」
「女性の準備というのは時間がかかるものですよ。」
「はーい。」
「返事は短く。」
「…はい。」
そんなことを話していたら、ノックの音。はい、と答えると、かちゃ、とドアが開いた。
ふわりとまるでそこだけ光が差したように、部屋が明るくなる。

「お待たせしました!」
「遅くなってすみません…。」
我が家の、美しい女性陣の姿。
2人が着たドレスは、決して派手なものではないが、シンプルな方が、2人の美しさを際立たせる。
ベアトリクスが着ているのが、昔、自分がハンガリーにあげたものだと気付いて、そんなに大きくなったんですね、と少し感慨深くなってしまった。

当時、本当にハンガリーが好きで、素直に話しかけることすらできなくて、それでも誕生日に何か贈り物を、と選んだドレス。少し現代風のデザインになっているのは、ハンガリーが手直しをしたからだろう。ベアトリクスによく似合っている。いつもは下ろしている濃い茶色の髪を一つにまとめて上げてしまうだけで、こんなに大人っぽく変わってしまうとは。…女性とは本当に不思議なものだ。

「では、写真を撮っていただきましょうか。」
そう言って、本を閉じた。
年に一度、家族写真を撮る。…それは、子供達が生まれたときにハンガリーと2人で決めたこと。成長の記録に。家族の、記録として。撮ろう、とそう決めて、もうアルバムもかなりのページが埋まったけれど。
はい、と返事をしたハンガリーがこちらに歩いてくる。それに、椅子から腰を浮かせて。


「きゃっ!?」
いきなり、ハンガリーが近くなった。つまずいたのだ、と気付いたときには、すぐ近くに彼女の顔があって。
「!?」
慌てて彼女の体を抱きしめるが、勢いあまって、どさ、と椅子ごと後ろに倒れそうになった。足を踏ん張って、なんとか、それだけは阻止したが。

「…はあ、怪我はありませんか?ハンガリー」
肩に顔を埋める形になった彼女に声をかける。
「は、はい…大丈夫です、ありがとうございます。」
上体を起こしたハンガリーと至近距離で目が合って、思わず、息を飲んだ。

ハンガリーは美しい人だ。それは知っている。初めて会ったときから、ずっと思っていたこと。彼女に言えば、そんなことないですよオーストリアさんの方が、とか言うのはわかっていたけれど、でも。それこそありえない。
自分は、彼女より美しいものを今まで、見たことがないのだから。

頬に手を触れる。その存在が、実在するものだと確認するために。
「オーストリア、さん…?」
戸惑ったような音色をつむぐ、その唇さえ、美しくて。


ぱん、と音がして、はっと我に返った。
「はいはーい。いちゃくつのは家帰ってからなー?」
顔を上げると、にやにや笑ったマックスの顔!
「っ!マックス!あんた足引っ掛けたでしょっ!」
ぱっとハンガリーが離れていった。行き場をなくした手を、額にあてて深くため息。

「さーなんのことやら」
「とぼけるな!ベアトリクス!」
「はい。確かにこの目で見ました。」
「ちょ!ベアトリクス駄目だって言ったらっ!」
わいわいと騒がしくする家族を見ていたら、そろそろ撮りますか?とすっかり呼びに行くのを忘れていた昔からの知り合いの写真家の男性が声をかけてきた。


椅子に座るのは、ベアトリクスとマックス。後ろに、ハンガリーと並んで立つ。
ハンガリーに座ってはどうですか、と言ったのだが、後ろから何されるかわからないので嫌です、えーもうしないってば、顔がにやついてますお兄様、というやりとりがあったため、こうなった。まったく…。はめをはずしすぎるのは本当に、どうかと思うんですが…。とりあえず帰ったらお説教は決定している。

「早く撮ってこの服脱ぎたい…。」
「まったくあなたという人は…。」
「お兄様、髪が跳ねてます。」
「お、サンキュ。」
仲のいい兄妹を見ていると、隣から小さく笑い声が聞こえた。
「?」
「オーストリアさんも、跳ねてますよ。」
「え、あ。」
さら、と髪に触れる、白い手。優しい手つきで、髪を撫でられる。
「はい。」
「…ありがとうございます。」
苦笑して、撮りますよ、という声に前を向く。

カメラの方を向いて、そっと。椅子の影で、手を動かした。
さっきまで私の髪に触れていた手を、握る。
「!」
「ほら、前を向いて。」
はじかれたようにこっちを見た彼女に、そう囁く。
「…は、い。」
小さな、声で返事。それから、きゅ、と手を握り返された。たったそれだけの動作で、胸が満たされる。


愛しい。彼女が好きだ。ずっと前から。誰より、ずっと。
この気持ちを、言葉にするのは難しいけれど、でも。
「はい、じゃあ撮りますねー。」
その手を離さないこと、くらいならできる、と、その手をしっかり握った。



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というか感想というか考察というか

独伊家は、夫婦がらぶらぶいちゃいちゃばかっぷるのままです。子供達に空気読んでもらう感じで。マリアはあんまり気にしないので、主にガブリエルが大変かな…。でも、子供達が大人になってもとても仲よし家族。です。


西ロマ家は、ケンカは減るかな…ロマが諦めるという意味で。ちょっとツンが減ってデレが増える感じ…子供達はより一層頼りがいが出てきそうです。イザベルが特に。ルキーノはKY度が上がってそうですね…西並みに…。


英日家は、もうなんか、夫婦、なかんじで。いちゃいちゃとかは控える…ときは控えるけど、みたいな。TPOをしっかりわきまえてます。ひとりひとりが。だから、家族でいるときは団欒を大事にするし、みたいな…
子供達もすごくしっかりしてるので一番大人な家族になりそう。


仏加家は、仲よしなんですが、サラが仕事で家にいないことが多いかな…リリーもなんだかんだいって家にいないことが増えそうです。夫婦仲はべたべたっぽい。でも、一緒にいる時間が少ないから、子供達が帰ってきたときの家族の時間を大事にするっていうか、そんな感じです。


墺洪家は、マックスが、外ではしっかりしてるくせに家でははめはずして怒られてそうです。でもそれくらいでバランスよさそう。ひとりひとりがしっかりしてる家庭なので。夫婦は、年を増すごとにいちゃいちゃしだすと思います。



こんな感じで、ファミリア!はずっと続いていく感じがします。一つの節目なので、これが一つの終わりということで…いやいやでもまだ書きたいことはいっぱいあるから書くんですが!!これで終了というわけではなくてなんていうか…途中すっとばしてエンディングだけ書いた感じ?ですかね。


ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
これからもよろしくお願いします!


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