うちのママは世界一かわいい! 今日は母の日。どうやってお祝いしようか、とガヴィと話し合う。 「花は去年あげたし」 「一昨年は似顔絵だった。」 どうしようかなあ、と腕を組んで考えていると、ガヴィがあのさ、と呟いた。 「プレゼント、じゃないんだけど…」 「なになに?ママの喜びそうなもの?」 わくわくと身を乗り出すと、少しだけ考えたあとで、ガヴィはあの、と口を開いた。 「はああ〜」 くて、とつくえに突っ伏す。 誰もいない家は静かだ。ドイツはお仕事で一週間帰ってきてないし、子供達はどこかへ遊びに行ってしまった。…なんだか、静かすぎてきゅう、と胸が締め付けられた。 「寂しいなぁ…」 小さく呟くと、余計に寂しくなってしまった。 そっと、指輪をなぞる。寂しいときには、つい触ってしまう。ドイツとの繋がり。その象徴。 一週間は長い。ドイツがいないと、余計にそう考えてしまう。 子供達と一緒に過ごしているときは、忙しくてそんなこと考えている暇なかったけど。 一人になってしまうと、どうしても。 「…会いたいなぁ…」 ドイツ。ドイツドイツドイツ。 きゅ、と指輪を指ごと握りしめる。 はああ、とため息をついて、体を起こした。 そのとき、玄関からただいま、と声がした。 低い声。子供達じゃなくて…!? がったんと立ち上がって、慌てて走り出す。 玄関に走っていくと、そこには焦がれた金色の背の高い姿! 「ドイツ!」 叫んで飛びつくと、抱きとめられた。 「ただいま、イタリア。」 「え、ええ、何で?何で?まだ一週間くらいかかるって、」 見上げると、困ったように笑った。 「持ち帰れる仕事を持って、帰れ、と言われてな…」 こいつらのおかげで、と振り返るのに合わせて、彼の後ろを見る。 「マリア!ガヴィ!?」 えへへ、と笑う二人に、目をぱちぱち瞬く。 「仕事場に来たんだ」 「ええ!?」 どうして、と子供達を見る。 「…母の日、だから。」 「ママが喜ぶことって、パパが帰ってくることかなって、二人で行ってきたの。」 そう言われて、抱きついたままドイツを見上げる。だそうだ、と困った顔。 ドイツから手を離して、二人の前にかがみこむ。 「二人だけで行ってきたの?」 「うん!」 「…前、連れて行ってもらったことあったから…」 返事に、二人を強く抱きしめた。 わ、とかきゃ、とか声が上がる。 「…ありがとう、二人とも。」 ちゅ、と二人の頬にキスをすると、マリアはうれしそうに、ガヴィは恥ずかしそうに、笑った。 戻る . 「はいパパ!いつもありがとう!」 家に帰るなり渡された花束を、ありがとう、と受け取る。それから、カレンダーを見てようやっと気がついた。 「今日、父の日か。」 「そうだよ〜」 だから、ドイツの好きなものいっぱい作ってみました。私もお手伝いしたの! 笑顔の母娘に、小さく笑って、ありがとう、とお礼を言う。 「絶対おいしいから!」 「それは楽しみだな。」 まあイタリアとマリアが作った料理がおいしくないわけがないのだけれど。苦笑して、それからふと、心配げな表情になったイタリアに気がついた。 「どうした?」 「…ガヴィが帰ってきてないの。」 そう言われて、時計を確認する。今日は早く帰ってきたから、まだ五時半だ。 「…ちょっと長く遊びに行ってるだけだろう。」 心配しなくても大丈夫だ。と言って、そうだね。と少し不安げな笑みを浮かべるから、頭を撫でる。 とりあえずもう少し待ってから、判断しようということにして、仕事場へ荷物を置きに行く。 がちゃり、とドアを開けて。 「!…ふ、」 苦笑した。そっと閉めて、イタリアにガブリエルいたぞ、と声をかける。 「えっほんと!?」 大声で叫ぶから、しい、と静かにさせて。 もう一度開くドア。 自分の椅子に座る、小さな影。 「…ガブリエル。」 呼ぶが、すうすうと眠る彼は目覚めない。 頭を撫でて、置いてあるスケッチブックに気がついた。 開けたページに、描かれた絵は、よく見る風景だった。 「…これは、」 うちの庭だ。この部屋の窓から見える、庭。イタリアとガブリエルだろう人が、花の手入れをしている。マリアと、たぶん俺は、ホースで水をやっていて。満開の花にかかる、虹。 隅の方に小さく書かれた、『いつもありがとう、父さん』という言葉に、ちょっと泣きそうになってしまった。 戻る . 「じゃあ、ほんと、がんばってねードイツ。」 ドアを閉める間際のイタリアのそのセリフに少々違和感を感じながら。 「きゃあ。」 小さなマリアと二人きりでお風呂という事態となりました。 まあ、いつまでもイタリアにまかせっきりというわけにも、と自分から言い出したことなのだが。どうも気になる。イタリアが、ドアを閉める前に言った言葉が。 「う?」 「…まあ、とりあえず。」 目の前の仕事を終わらせなければ、どうしようもない、と腹をくくって、スポンジを手に取った。 優しく洗ってやれば、まったく泣くこともなく、おとなしかった。思っていたより難しくない、と思って、ため息をついて、泡を流そうとシャワーを手に取る。 「きゃあ!」 すると、何故か楽しげに、マリアは笑って。 手を伸ばして。 「な、」 うわあ!という声にわー、始まった。とイタリアはこっそり思った。 バスタオルを持って風呂場へ行き、そっとドアを開ける。 ざああと見当違いの方向を向くシャワー。 頭からずぶぬれのドイツ。 「わはー…やられた?」 「…がんばれというのはこういうことか…。」 はあ、とため息をついてドイツが言う。 何故かシャワーを気に入ったらしいマリアは、シャワーを近づけると、ぐいぐい引っ張って、うまいこと方向変えて、洗っているこっちの顔に向けてしまうのだ。 きゃっきゃと喜ぶマリアに、小さく苦笑。 「…まさしくおまえの子供だな…。」 風呂に入るだけで大騒ぎするところがそっくりだ、と言われて、俺ここまで迷惑かけてないよ〜と言ったら、嘘だ。といわれた。…ドイツが普段ちょっとお湯が熱いからドイツーって呼んでるだけなのに…。 「まあ、もうわかった。油断大敵、ということだな。最後まで気を抜かなければ問題ない。」 「…ドイツなんか戦闘にでも行くみたいだよ…。」 きゃあ、こら、おまえのおもちゃじゃない、と真剣にがんばってるドイツにそっと笑って、ぱたん、ともう一度バスルームのドアを閉めた。 戻る . ※生理とか、そういうお話ですので、苦手な方はご注意ください 朝から、イタリアが腹痛を訴えていた。 最近は変なもの食べたりすることもなくなっていたのに、と思いながら、寝てろ、と寝かせて、しまった、今日オーストリアとハンガリー来るんだった、と思ったが、まあ仕方なく。 昼近くになってやってきた彼らを迎えに出て。 ものすごい悲鳴が、聞こえた。 「イタリア!?」 「何事ですか!?」 大慌てで、寝室へ向かう。 ヴェエエエと泣き声をあげているのはイタリアで、特に侵入者もなにもないことを確認して、どうした、と駆け寄る。 すがりつかれて、お、おい?と困惑する。 「ヴェエエエ!ど、どいつ、ドイツー!お、俺、俺っ俺〜…っ!」 「どうしたんだイタリア…」 胸に顔を押し当てて泣くイタリアを泣き止まそうとするが、パニック状態に陥っているらしい彼は何も聞いてくれなくて。 「俺、死んじゃう…!」 「は!?どうしたんだ、ほら、順序立てて話せ。」 死ぬ、とか。どうしてそんなことを言い出すのかわからない。 「どうしたの?」 「何事ですか?」 後ろからハンガリーたちの声がする。わからない、と返して、イタリア、と促す。 「お、俺、おなか痛くて、で、今、シーツが真っ赤で、で…っ!」 「真っ赤?」 「…ちょっと、どいてもらえる?」 小さい声が後ろから聞こえた。振り返るといぶかしげな顔をしたハンガリーの姿。 「お湯と、タオル用意して。あ、オーストリアさん。私のバッグとってもらえます?」 「わかった。」 「はい。」 「は、ハンガリーさあん…。」 涙交じりの声を気にしながら、とにかく言われたものを用意しに走った。 用意したら、男は立ち入り禁止、と追い出された。 「…なん、なんだ?」 「さあ…。ですが、まあ。ハンガリーが絶対大丈夫だと。そう言っていたから、大丈夫なんでしょう。」 そうだ。命にかかわることじゃないから。安心して。 それだけ言い残して、ばたん、とドアは閉まった。 さっきまで聞こえていた泣き声も、今は聞こえなくなって。 とりあえずよかった、と安心しながら、ハンガリーを待つ。 しばらくして、出てきたハンガリーは、なんていうか。と非常に言いづらそうに口を開いた。 「…何て言おうかな…。」 「…とにかく、命に別状はないんだな?」 「ない。それは確実に、ない。」 「血が出た、ということは、怪我?」 「ううん。違うの。…あの、ね。」 生理、なんだけど。 そういわれて、しばし固まった後。 「…あいつ男。」 「今違いますよ。」 ああしまったそうだった。忘れていた。 「…ということで、まあ、月1で起こるから…。」 大騒ぎしなくても大丈夫。と、そういわれた。そうか。女性になるというのはそういうのも変わるということなのか、となんだかどっと疲れた気がしてため息。 「……まあ、よかった。大事じゃなくて、」 「大事よ。」 強い言葉で言われた。見返すと、まっすぐに、真剣な瞳。 「生理が来たってことは、赤ちゃんができる体になったってこと。」 その意味、一回ちゃんと考えておいてね。そう、真剣な声色で言われて。 小さく息を飲んで、しっかりと、うなずいた。 部屋に入ると、あ、ドイツ。と泣きはらした目のイタリアに呼ばれた。 「…まだ、痛むか?」 「ハンガリーさんに薬もらったから、平気。」 ごめんね、大騒ぎして、と言われて、いや、と首を横に振る。 「…女の子は大変だね。一ヶ月に一回なんて信じられないよ…。」 ため息をつく彼女の頭を、くしゃくしゃと撫でて。 「…体が、赤ちゃん、産む用意、してるんだって。」 「…聞いた。」 小さく返すと、くん、と服の袖口をつかまれた。 「……俺、ドイツの子供、欲しい、な…。」 はっとしてイタリアを見る。 おそるおそる、こっちを見上げてくる瞳。 何も言い返せないで、イタリアの顔を胸に押し付けて抱きしめる。 「わぷ。」 そろそろ、真剣に、考えるべきなんだろうと、そう思った。 逃げてないで。現実逃避していないで。彼女と、未来のこと、を。 少しだけ、考えて。真面目な話があるんだが、と言おうと口を開いて。 「…そういえば、生理中って、感度上がるらしいよ?」 「…おまえは何てこと言い出すんだいたりあああっ!!」 「ヴェっ、ご、ごめんなさい〜!」 戻る . 見て見てドイツーときらきら目を光らせたイタリアが見せたのは、葉っぱでくるまれた何か。 「何だ?」 「日本がくれたの〜!」 こどもの日、なんだって。おいしそうじゃない?と言われて食べ物か、と呟く。 「早く食べたい!」 「…子供、の日なんだったら、子供達に、なんじゃないのか?」 つっこむと、あ、そか、ヴェ〜…と落ち込んでしまって。 まったく、と苦笑しながら、頭を撫でた。 …まあ。大丈夫だろう。小さく笑う。うちの子供達は、母親の考えそうなことくらいよくわかっている。 「母さん、はい。」 「ヴェ?」 渡されたそれに、瞬く。 俺には多いから。とちまきを一つ渡されて、ありがと〜とうれしそうにイタリアは笑った。 一緒になっておいしいねと食べる彼女に苦笑して。 「パパも。」 はい、と渡されて笑って、ありがとう、と受け取る。 「みんなで食べるとおいしいよね!」 「そうだな。…イタリア、落ち着いて食べろ、ついてる。」 頬についたのを指でとってやると、ありがと〜と言われた。 ちら、と隣を見ると、ガブリエルも同じ状態になっていて、おまえもか、とガブリエルの頬からとる。 「あ、ごめん、ありがと」 「おそろい〜」 みんなで顔を見合わせて笑った。 戻る |