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ぽろ、と涙がこぼれた。
「…?」
ぼろぼろと、あとからあとからあふれてくる涙。何故かはわからない。だけど、止まらなくて。
「…っ!」
きりり、と胸が締め付けられる。苦しい。つらい。こわい?…なんでか、わからないけど。怖い。

声も出せずに、机につっぷして止まらない涙を服で拭っていたら、す、と差し出されるハンカチ。
「…?」
にじむ視界で見上げると、青が見えた。
…フランスさんだ。
「ん。」
握らされるハンカチ。受け取って、でも心配かけちゃいけないと思って、あの、と声を出そうとしたら、抱きしめられた。ぎゅう、と強く。
「…っあ、あの、だ、だいじょうぶ、」
「いいから。…泣いて、いいから。」
頭を優しく撫でられる。それだけで、またぼろぼろ涙があふれてくる。
「…う、ぇ、」
「我慢しないで。…思ってること、言ってみて。」
優しくて、暖かい声にそう促されて、口を開ける。
だけど、ちゃんとしたと言葉になんかできそうになくて、口を閉じる。と、心を読んだように、思ってること、そのままでいいから。意味ない言葉でいいから。そう囁いてくれた。
それを聞いて、小さく、そっと、口を開く。

「こ、こわいの。」
「うん。」
「何が、かわかんないけど、こわくて。ふあんで、くるしくて…っ」
しゃくりあげるせいで、つたない口調になっていることに気づいても、直せなくて。それでも、頭を撫でてくれる手が、すがりついた胸が暖かくて、頼ってしまう。
「うん。」
何も言わずに聞いてくれるのが、本当に助かって。文になってない言葉を、いくつもいくつも並べる。
フランスさんは、ただ、いて、言葉を聞いてくれた。

やっとのことでおさまってきて、すみません、と謝ったら、こら、と怒られた。
「謝る必要なんかないだろ?…頼っていいんだ。」
家族なんだから。そう、額を合わせて優しく微笑むから、また涙があふれてきてしまった。


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「フランスさんの馬鹿!」
怒鳴って駆けていくカナダを見送って、リリーとサラはじい、とフランスを見上げた。
「…あー。」
やっぱ俺が悪い?困ったような笑顔に、当然でしょ!と二人分の雷が落ちた。

「もうほんとにフランスさんったら!」
「うんうん」
部屋にこもってしまってぽこぽこ怒っているカナダの話を、ゆったりとリリーが聞く。サラは、フランスに説教中、だ。
「ひどいと思うでしょ!?」
「思う。」
「もう昔からそうなんだから…」
呟いたカナダに、リリーは首を傾げた。
「じゃあ、ママはどうしてパパと結婚したの?」
ひどい人なんでしょう、と言われて、瞬いて、それから穏やかに笑った。
「…だって、仕方ないじゃない。好きなんだから。」
そう言われて、リリーも小さく笑う。
「そっか。」
「そう。」

そのとき、こんこん、とドアを叩く音。
「はい?」
『…あー、カナダ。ケーキを焼いたんだけど』
『パパ違う!その前に言うことあるでしょ!』
ドアの外のやかましさに、顔を見合わせて笑って。
『…ごめんなさい。許して、カナ』
「だって。どうする?ママ。」
「しょうがないかなぁ。」
やれやれ、とわざとらしくカナダはため息をついて、それから二人で噴き出して。
がちゃり、とドアを開けたら、甘い匂いが広がった。

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