2014.11.03; 16.08.05   ↑UP   2015年の史上最高の暑さ、CO2濃度飛躍的増加、CO2排出量横ばいについて江守様と議論<New  IPCC第5次報告書 第1作業部会 政策決定者向け要約 <オススメ

IPCC第5次報告書 統合報告書 政策決定者向け要約
IPCC Fifth Assessment Synthesis Report Summary for Policymakersの翻訳文(訳注1)
翻訳:井上雅夫 2014.11.03 - 21
11.26 (訳注4)IPCC第5次報告書の全体構成
12.01 (訳注5)20世紀半ば以降の温暖化の原因は温室効果ガス。では20世紀前半は? <オススメ
15.02.05 (訳注6)環境省主催のシンポジュウムで江守正多様に質問 <オススメ
15.02.23 (訳注7)環境省のパブコメ募集に「IPCCの知見は誤りです」と意見提出 <オススメ
15.03.06 (訳注8)セクハラ疑惑パチャウリIPCC議長の辞任レターを翻訳
15.06.24 (訳注9)26%削減目標のパブコメ募集に「地球温暖化はエセ科学」と意見提出 <オススメ

 目  次
タイトル・執筆者

1.観測された変化とその原因
 1.1 気候システムにおける観測された変化
 1.2 気候変動の原因
 1.3 気候変動の影響
 1.4 極端現象
2. 将来の気候変動、リスク、および影響
 2.1 将来の気候の主要な駆動要素
 2.2 気候システムにおける予測される変化
 2.3 変動する気候に起因する将来のリスクと影響
 2.4 2100年以降の気候変動、不可逆性、および急激な変化
3. 適応、緩和、および持続可能な開発のための将来経路
 3.1 気候変動に関する意思決定の基礎
 3.2 緩和と適応によって軽減される気候変動のリスク
 3.3 適応経路の特徴
 3.4 緩和経路の特徴
4. 適応と緩和
 4.1 適応と緩和の応答のための一般的な有効な要因と制約
 4.2 適応応答の選択肢
 4.3 緩和のための応答の選択
 4.4 適応と緩和、技術、および資金供給のための政策アプローチ
 4.5 持続可能な開発とのトレードオフ、相乗作用、相互作用
(訳注4)IPCC第5次報告書の全体構成
(訳注5)20世紀半ば以降の温暖化の原因は温室効果ガス。では20世紀前半は? <オススメ
(訳注6)環境省主催のシンポジュウムで江守正多様に質問 <オススメ
   【江守様の「温暖化はウソだと思っている方へ」の問題点】 <New
(訳注7)環境省のパブコメ募集に「IPCCの知見は誤りです」と意見提出 <オススメ
(訳注8)セクハラ疑惑パチャウリIPCC議長の辞任レターを翻訳
(訳注9)26%削減目標のパブコメ募集に「地球温暖化はエセ科学」と意見提出
<オススメ



承認された政策決定者向け要約           IPCC第5次報告書 統合報告書

気候変動2014
統合報告書


承認された政策決定者向け要約

2014年11月1日
コア執筆チームメンバー
Myles R. Allen (United Kingdom), Vicente Ricardo Barros (Argentina), John Broome (United Kingdom), Wolfgang Cramer (Germany/France), Renate Christ (Austria/WMO), John A. Church (Australia), Leon Clarke (USA), Qin Dahe (China), Purnamita Dasgupta (India), Navroz K. Dubash (India), Ottmar Edenhofer (Germany), Ismail Elgizouli (Sudan), Christopher B. Field (USA), Piers Forster (United Kingdom), Pierre Friedlingstein (United Kingdom), Jan Fuglestvedt (Norway), Luis Gomez-Echeverri (Colombia), Stephane Hallegatte (France/World Bank), Gabriele Hegerl (United Kingdom), Mark Howden (Australia), Kejun Jiang (China), Blanca Jimenez Cisneros (Mexico/UNESCO), Vladimir Kattsov (Russian Federation), Hoesung Lee (Republic of Korea), Katharine J. Mach (USA), Jochem Marotzke (Germany), Michael D. Mastrandrea (USA), Leo Meyer (The Netherlands), Jan Minx (Germany), Yacob Mulugetta (Ethiopia), Karen O'Brien (Norway), Michael Oppenheimer (USA), R.K. Pachauri (India), Joy J. Pereira (Malaysia), Ramon Pichs-Madruga (Cuba), Gian-Kasper Plattner (Switzerland), Hans-Otto Portner (Germany), Scott B. Power (Australia), Benjamin Preston (USA), N.H. Ravindranath (India), Andy Reisinger (New Zealand), Keywan Riahi (Austria), Matilde Rusticucci (Argentina), Robert Scholes (South Africa), Kristin Seyboth (USA), Youba Sokona (Mali), Robert Stavins (USA), Thomas F. Stocker (Switzerland), Petra Tschakert (USA), Detlef van Vuuren (The Netherlands), Jean-Pascal van Ypersele (Belgium)

拡張されたコア執筆チームメンバー
Gabriel Blanco (Argentina), Michael Eby (Canada), Jae Edmonds (USA), Marc Fleurbaey (France), Reyer Gerlagh (The Netherlands), Sivan Kartha (USA), Howard Kunreuther (USA), Joeri Rogelj (Belgium), Michiel Schaeffer (The Netherlands), Jan Sedla.ek (Switzerland), Ralph Sims (New Zealand), Diana Urge-Vorsatz (Hungary), David Victor (USA), Gary Yohe (USA)

レビュー・エディター
Paulina Aldunce (Chile), Thomas Downing (United Kingdom), Sylvie Joussaume (France), Zbigniew Kundzewicz (Poland), Jean Palutikof (Australia), Jim Skea (United Kingdom), Kanako Tanaka (Japan), Fredolin Tangang (Malaysia), Chen Wenying (China), Zhang Xiao-Ye (China)

この報告書をStephen H. Schneider(1945〜2010年)に捧げる。



政策決定者向け要約




この統合報告書は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の3つの作業部会の報告書(関連する特別報告書を含む)に基づいている。この報告書は、IPCC第5次報告書(AR5)(訳注4)の終局的な部分として気候変動に関する統合された概説を提供する。

この要約は、より長い報告書の構成(観測された変化とその原因;将来の気候変動、リスクと影響;将来の適応、緩和、および持続可能な開発の道筋;適応と緩和)に従っている。

この統合報告書の主要な評価の知見の確実さは、各作業部会の報告書および特別報告書と共通である。それは執筆者チームの基礎をなす科学的理解の評価に基づいており、確信度<confidence>の質的レベル(非常に低いから非常に高いまで<from very low to very high>)として表現され、可能であれば、定量化された可能性(ほぼあり得ないからほぼ確実まで<from exceptionally unlikely to virtually certain>)と共に確率的に表現されている(注1)。適切な場合は、知見は不確実性修飾語を使うことなしに事実の陳述として述べられる。

この報告書は、国連気候変動枠組条約(UNCCC)第2条に関連した情報を含む。


(注1)それぞれの知見は基礎となる証拠と合意の評価に基づいている。多くの場合において、証拠と合意の統合が確信度の割当を支持している。証拠を要約する用語は:限定的、中程度の、または確実な<limited, medium, or robust>である。合意に関しては、低い、中程度の、または高い<low, medium, or high>である。確信度<confidence>のレベルは5つの修飾語(非常に低い、低い、中程度の、高い、および非常に高い<very low, low, medium, high, and very high>)およびイタリック体(例えば、中程度の確信度)を使用して表現される。次の用語は、成果または結果の評価された可能性<likelihood>を示すために使用されてきた:ほぼ確実<virtually certain>99〜100%の可能性、可能性が非常に高い<very likely>90〜100%、可能性が高い<likely>66〜100%、どちらも同程度<about as likely as not>33〜66%、可能性が低い<unlikely>0〜33%、可能性が非常に低い<very unlikely>0〜10 %、ほぼあり得ない<exceptionally unlikely>0〜1%。追加的用語(可能性が極めて高い<extremely likely>95〜100%、どちらかと言えば<more likely than not>50〜100%、極めてあり得ない<extremely unlikely>0.5%)も適切な場合は使われるかもしれない。評価された可能性はイタリック体で記載される、例えば、可能性が非常に高い(詳細はGuidance Note on Uncertainties, 2010, IPCC参照)。


1.観測された変化とその原因
気候システムへの人間の影響は明らか<clear>であり、最近の人為起源の温室効果ガスの排出は過去最高である。最近の気候変動は、人類と自然のシステムに広範囲な影響を及ぼしている。 {1}



1.1 気候システムにおける観測された変化
気候システムの温暖化は明白であり<unequivocal>(訳注:気象庁訳では「疑う余地がない」)、1950年代以降、多くの観測された変化は数十年から数千年にわたって前例のないものである。大気と海洋は温暖化し、雪氷の量は減少し、海面水位は上昇してきた。 {1.1}
最近の3つの10年間のそれぞれにおいて、1850年以来のどのそれ以前の10年間よりも、地球表面は継続的に温暖化してきた。北半球において、1983〜2012年は最近1400年間の最も温暖な30年であった可能性が高い中程度の確信度)。線形傾向<linear trend>で計算された世界平均地上気温データ<The globally averaged combined land and ocean surface temperature data>は、多数の独立して作成されたデータセットが存在する1880〜2012年で、0.85[0.65〜1.06]℃(注2)の温暖化を示している(図SPM.1(a))。 {1.1.1, Figure 1.1}

数十年の確実な温暖化に加えて、世界地上気温は実質的に10年変化および経年変化を示している(図SPM.1(a))。自然の変化により、短い記録に基づく傾向は最初と最後のデータに非常に敏感であり、一般的に長期間の気候の傾向を反映しない。一つの例として、(強いエルニーニョで始まる)過去15年にわたる温暖化率(1998〜2012年;0.05[−0.05〜+0.15]℃/10年)は、1951年から計算された温暖化率(1951〜2012年;0.12[0.08〜0.14]℃/10年)より小さい。 {1.1.1, Box 1.1}

海洋の温暖化は、気候システムに蓄積されたエネルギーの増加において優位を占めており、1971〜2010年に蓄積されたエネルギーの90%以上を占め(高い確信度)、大気中に蓄積されたエネルギーは約1%に過ぎない(訳注3)。世界規模で、海洋の温暖化は表面近くが最も大きく、上部75mは1971〜2010年で10年当たり0.11[0.09〜0.13]℃温暖化した。海洋の上部(0〜700m)が1971〜2010年に温暖化したことはほぼ確実であり、1870年代〜1971年は温暖化した可能性が高い {1.1.2, Figure 1.2}

北半球の中緯度の陸地平均降水量は1901年から増加してきている(1951年以前は中程度の確信度、以後は高い確信度)。他の緯度の地域で平均した長期間の正または負の傾向は低い確信度である。観測された海洋表面の塩分の変化は海洋における世界的な水サイクルが変化したことの直接的な証拠である(中程度の確信度)。1950年代以来、蒸発が優位な高塩分の領域はより塩分が高くなり、降水が優位な低塩分の領域ではより淡水化してきた可能性が非常に高い{1.1.1, 1.1.2}

工業化の始まり以降、海洋のCOの吸収により海洋の酸性化がもたらされた;海洋表面水のpH(海洋の酸性化はpHの減少で定量化される)は0.1減少し(高い確信度)、これは水素イオン濃度の26%の増加に対応する。 {1.1.2}

1992〜2011年にわたって、グリーンランドと南極の氷床は質量を減少させ(高い確信度)、2002〜2011年にわたる減少率はより大きい可能性がある。氷河はほとんど全世界で縮み続けた(高い確信度)。北半球の春の積雪面積は減り続けてきた(高い確信度)。表面温度の増加と積雪面積の変化に対応して、永久凍土の温度がほとんどの地域で1980年代早期から増加していることについて高い確信度がある。 {1.1.3}

年平均の北極の海氷面積は1979〜2012年にわたって減少し、その減少率は、10年当たり3.5〜4.1%の範囲である可能性が非常に高い。北極の海氷面積は各季節で、また1979年以来の連続する各10年において減少し、10年間の平均面積の減少は夏に最も急速であった(高い確信度)。年平均の南極の海氷面積が1979〜2012年に10年当たり1.2〜1.8%の率で増加した可能性が非常に高い。しかしながら、南極大陸については大きな地域的な相違があり、一部の地域で増加し他の地域では減少していることについて高い確信度がある。 {1.1.3, Figure 1.1}

1901〜2010年に、世界平均海面水位は0.19[0.17〜0.21]m上昇した(図SPM.1(b))。19世紀半ば以降の海面水位上昇率はそれ以前の二千年の平均よりも大きかった(高い確信度)。 {1.1.4, Figure 1.1}

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図SPM.1:セクション1.2とトピック1向けの観測値(図a、b、c、黄色の背景)と排出量(図d、明青色の背景)の複合関係。変化する世界気候システムの観測値と他の指示値。観測値:(a)1986〜2005年の平均値に対する観測された世界年平均地上気温偏差。色は異なったデータセットを示す。(b)最も長期のデータセットの1986〜2005年の平均値に対する世界年平均海面水位の変化。色は異なったデータセットを示す。全てのデータセットは衛星高度データ(赤)の最初の年である1993年に同じ値になるようにそろえられている。不確実性は、評価された場合、色のついた陰影で示されている。(c)温室効果ガスの大気中の濃度。二酸化炭素(CO、緑)、メタン(CH、オレンジ)、一酸化二窒素(NO、赤)。氷床コアデータ(点)と直接の大気の測定(線)から決定された。指示値:化石燃料の燃焼、セメント生産、および(油田等の)フレア、ならびに、森林および他の土地利用による世界の人為起源CO排出量。右側に、これらの源からの累積CO排出量とその不確実性をそれぞれ棒グラフとウィスカー<whiskers>で示す。CHとNO排出量の蓄積の世界的影響を図cに示す。1970〜2010年の温室効果ガス排出量データは図SPM.2に示す。 {Figures 1.1, 1.3, 1.5}


(注2)角括弧または後続の“±”における範囲は、他の方法が記述されていない限り、評価された値を含む90%の可能性が期待される範囲である。


1.2 気候変動の原因
人為起源温室効果ガス排出量は、工業化前の時代以来、主に経済成長と人口の増加にともない増加し、過去と比較して現在が最も多い。これが、少なくとも過去80万年間で前例のない二酸化炭素、メタン、および一酸化二窒素の大気中濃度をもたらした。その影響は、その他の人為的駆動要素の影響と共に、気候システムを通して検出されてきており、20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な原因<the dominant cause>であった可能性が極めて高い {1.2, 1.3.1} (訳注5)
工業化前の時代以降の人為起源温室効果ガス(GHG)排出量はCO、CH、およびNOの大気中濃度を大きく増加させた(図SPM.1(c))。1750〜2011年に排出された大気中への累積人為起源CO排出量は2040±310GtCOであった。これらの排出量の約40%は大気中に残留した(880±35GtCO);残りは大気から取り除かれ陸地(植物および土壌)および海洋に蓄えられた。海洋は排出された人為起源COの約30%を吸収し、その結果、海洋の酸性化が生じた。1750〜2011年に排出された人為起源COの約半分は最近40年間にもたらされた(高い確信度)(図SPM.1(d))。 {1.2.1, 1.2.2}

全人気起源温室効果ガス排出量は1970〜2010年にわたって増加し続け、2000〜2010年は、気候変動緩和策が増加したにもかかわらず、より大きな疑問の余地のない<absolute>増加であった。2010年の人為起源温室効果ガス排出量は49±4.5GtCO換算/年(注3)に達した。化石燃料の燃焼と工業プロセスからのCOの排出が、1970〜2010年の全温室効果ガス排出量の増加の78%に寄与し、2000〜2010年の増加についても同様なパーセントで寄与している(高い確信度)(図SPM.2)。世界的に、経済成長と人口増加が、化石燃料の燃焼によるCO排出の増加の最も重要な要素である。2000〜2010年の人口増加の寄与はそれ以前の30年間とほぼ同じに留まるが、経済成長の寄与は急激に増加している。石炭の使用の増加が世界のエネルギー供給の漸進的な脱炭素(すなわち、エネルギーの炭素集約度の削減)の長年の傾向を逆転させた(高い確信度)。 {1.2.2}
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図SPM.2:1970〜2010年のガス種別年間人為起源温室効果ガス(GHG)排出量(年当たりのCO換算ギガトン、GtCO/年):化石燃料の燃焼および工業プロセスによるCO;森林およびその他の土地利用によるCO(FOLU);メタン(CH);一酸化二窒素(NO);京都議定書に規定されたフッ化ガス(F−ガス)。右側には第2次報告書(SAR)の値と第5次報告書(AR5)の値に基づいて重み付けされたCO換算排出量を使用した2010年の排出量を示す。他の方法が記述されていない限り、この報告書におけるCO換算排出量は第2次報告書の100年間地球温暖化係数(GWP100)の値に基づいて計算された京都議定書のガス(CO、CH、N0、F−ガス)のバスケットを含む(用語集参照)。第5次報告書の最も最近の100年間地球温暖化係数の値を使用すると(右側の棒グラフ)、メタンの寄与の増加によって、より大きな年間全人為起源温室効果ガス排出量(52GtCO換算/年)がもたらされるが、長期間の傾向を大きく変えることはない。{Figure 1.6, Box 3.2}
気候システムへの人間の影響の証拠は第4次報告書(AR4)以降増加している。1951〜2010年の世界平均地上気温の観測された上昇の半分以上<more than half of the observed increase>が温室効果ガス濃度の人為起源の増加と他の人為起源強制力が合わさって生じた可能性が極めて高い。温暖化に対する人間が誘発した寄与の最良の推定値はこの期間の観測された温暖化に類似している(図SPM.3)。南極大陸を除く各大陸地域において、人為起源の強制力が20世紀半ば以降の地上気温上昇にかなり寄与した可能性が高い(注4)。人為起源の影響が1960年以降の世界の水循環に影響を与えた可能性が高く、人為起源の影響が1960年代以降の氷河の退行と1993年以降のグリーンランド氷床の表面の融解の増加に寄与した可能性が高い。人為起源の影響が1979以降の北極の海氷の喪失に寄与した可能性が非常に高く、1970年代以降の世界の上部海洋貯熱量(0〜700m)の増加と観測された世界平均海面水位の上昇にかなりの寄与をした可能性が非常に高い {1.3.1; Figure 1.10}

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図SPM.3:1951〜2010年の期間の温暖化傾向に対して、評価された可能性の高い範囲(ウィスカー)とそれらの中点(棒グラフ)。十分に混合した温室効果ガス、その他の人為起源の強制力(エアロゾルの冷却効果、および土地利用の変化の影響を含む)、人為起源強制力の合計、自然起源強制力、および自然の気候内部変動(強制力なしでも気候システムの内部で自然に起こる気候変動の要素)。観測された地上気温の変化を、観測の不確実性に基づく5.95%の不確実性の範囲と共に、黒で示す。原因であるとされた温暖化の範囲(有彩色の棒グラフ)は、観測された温暖化への個々の外部強制力の寄与を推定するために、気候モデル・シミュレーションと組み合わせた観測値に基づいている。人為起源強制力の合計からの寄与については、温室効果ガスとその他の人為起源強制力のそれぞれの寄与よりも不確実性が少なく推定することができる。これは、2つの寄与が部分的に相殺し、その結果、観測値によりよく整合する<better constrained by observations>合計のシグナルをもたらすからである。 {Figure 1.9}


(注3)温室効果ガス排出量は、100年間地球温暖化係数に基づく重み付けを使って、他の方法が記述されていない限りIPCC第2次報告書の値を使って、CO換算(GtCO換算)排出として定量化される。 {Box 3.2}
(注4)南極大陸については、大きな観測の不確実性が、利用可能な基地で平均化した観測された温暖化に人為起源の強制力が寄与していることに低い確信度をもたらしている。



1.3 気候変動の影響
最近数十年間、気候変動が全ての大陸と海洋において自然と人間のシステムに影響を及ぼしてきた。影響は、その原因にかかわりなく、観測された気候変動によるものであり、変動する気候に対する自然と人間のシステムの敏感さを示している。 {1.3.2}
観測された気候変動の影響の証拠は、自然のシステムに関して最も強くかつ最も広範囲である。多くの地域において、降水の変化または雪氷の融解は水文システムを変更し、水源の量と質に影響を与えている(中程度の確信度)。多くの陸上、淡水性、および海洋性の種は、進行中の気候変動に応答して、それらの地理的な範囲、季節的な活動、移動のパターン、数量、および種間の相互作用を変えている(高い確信度)。人間のシステムへのいくつかの影響も気候変動に原因特定されるが、他の影響から区別可能な気候変動の寄与が大きい場合と小さい場合がある(図SPM.4)。広範囲の地域および農産物をカバーする数多くの研究の評価は、農産物の収穫高に対する気候変動の否定的な影響が肯定的な影響よりも一般的であったことを示している(高い確信度)。海洋生物に対する海洋酸性化のいくつかの影響は人間の影響に原因特定される(中程度の確信度)。 {1.3.2}
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図SPM.4:第4次報告書以降の利用可能な科学文献によれば、最近数十年間の気候変動に原因特定される影響はより大きくなっている。原因特定には気候変動の役割に関する定義された<defined>科学的証拠が必要である。気候変動に原因特定される追加的な影響を示す地図に記載がないことは、そのような影響がなかったことを意味しない。気候変動に原因特定される影響を支持する文献は増大する知識の基礎を反映するが、文献は多くの地域、システム、およびプロセスに関して依然として限られており、データと研究にギャップがあることが際立っている。記号は、気候変動に原因特定される影響の分類、観測された影響への気候変動の相対的な寄与(大きいまたは小さい)、および原因特定の確信度を示す。各記号は第2作業部会の表SPM.A1における1またはそれ以上の記載を参照したものであり、関連する地域規模の影響をグループ化している。楕円内の数字は、タイトルに記述された個々の国、アブストラクトまたはキーワードを有する英語文献に関するScopus文献目録データベース(2011年7月現在)に基づいた2001〜2010年の気候変動の文献の地域的な総数を示す。これらの数字は地域にわたる<across regions>気候変動に関する利用可能な科学文献の総数を提供する;それらは各地域における<in each region>気候変動の影響の原因特定を支える文献の数を示さない。原因特定の評価のための文献に含まれるものは<The inclusion of>は第2作業部会の第18章で定義されたIPCCの科学的証拠基準に従っているものである。極地域と小島嶼の研究は隣接する大陸地域とグループ化されている。原因特定分析において考慮された文献は第5次報告書の第2作業部会報告書において評価された文献のより広い範囲に由来する。気候変動に原因特定される影響の記述に関しては第2作業部会の表SPM.A1参照。 {Figure 1.11}



1.4 極端現象
極端な天気・気候現象における変化が1950年頃から観測されてきた。多くの地域において、極端に寒い気温の減少、極端に暖かい気温の増加、極端に高い海面水位の増加、および強い降水現象の数の増加を含む極端現象の変化の一部は人間の影響と結びつけられてきた。{1.4}
世界的な規模で、寒い昼と夜の数は減少し、暖かい昼と夜は増加した可能性が非常に高い。ヨーロッパ、アジア、およびオーストラリアの多くの地域で熱波の頻度が増加した可能性が高い。20世紀半ば以降、人間の影響が日々の極端な気温の頻度と強度における観測された世界規模の変化に寄与してきた可能性が高い。人間の影響が一部の場所における熱波が発生する確率を2倍以上にした可能性が高い。一部の地域において、観測された温暖化が熱に関連した人間の死亡率を増加させ寒さに関連した人間の死亡率を減少させたことに中程度の確信度がある。 {1.4}

強い降水現象の数が増加した陸域は減少した陸域より大きい可能性が高い。極端な降水および一部の集水域における流出量<discharge in some catchments>の増加傾向の最近の検出は、地域規模の洪水のより大きなリスクを意味する(中程度の確信度)。(例えば、高潮のような)極端な海面水位が、主に平均海面水位の上昇の結果として、1970年以降増加してきた可能性が高い{1.4}

熱波、干ばつ、洪水、台風、および野火のような最近の極端な気候の影響は、現在の気候変動に対する一部の生態系と多くの人間システムの重大な脆弱性と暴露<exposure>を明らかにしている(非常に高い確信度)。 {1.4}




2. 将来の気候変動、リスク、および影響
温室効果ガスの継続する排出は、気候システムのあらゆる部分において更なる温暖化と長期間続く変化の原因となり、人々と生態系への過酷で広範囲で不可逆的な影響の可能性を増大させるだろう。気候変動を抑制するためには、適応と共に、気候変動のリスクを抑制することができる温室効果ガスの十分かつ持続的な削減が必要とされるであろう。 {2}



2.1 将来の気候の主要な駆動要素
COの累積排出量が21世紀末期とその後の世界平均地上温暖化の大部分を決める。温室効果ガス排出量の予測は、社会経済の成長と気候政策の両方により、広い範囲で変化する。 {2.1}

人為起源温室効果ガス排出量は主に、人口のサイズ、経済活動、ライフスタイル、エネルギー使用、土地利用パターン、技術、および気候政策によって駆動される。これらに基づいて予測を行うために使用される「代表的濃度経路」(RCP)は、温室効果ガス排出量と大気中濃度、大気汚染物質排出量、および土地利用の4つの異なった21世紀の経路を記述する。RCPは、最も厳しい緩和シナリオ(RCP2.6)、2つの中間的なシナリオ(RCP4.5とRCP6.0)、および非常に多い温室効果ガス排出量を有するシナリオ(RCP8.5)を含む。排出を抑制する追加的な努力なしのシナリオ(「ベースライン・シナリオ」)はRCP6.0とRCP8.5の間の経路に導く。RCP2.6は工業化前の気温より2℃未満である可能性の高い地球温暖化に保つことを目指すシナリオの代表である(図SPM.5(a))。RCPは第3作業部会によって評価された文献におけるシナリオの幅広い範囲と一致している(注5) {2.1, Box 2.2, 4.3}

様々な証拠が、RCPと、第3作業部会で分析された緩和シナリオのより広いセットの両方において、2100年までの累積CO排出量と予測された世界気温の変化の強く一貫性のあるほぼ線形関係を示している(図SPM.5(b))。温暖化のあらゆる与えられたレベルは累積CO排出量の範囲と関連しており(注6)、それゆえ、例えば、より早い時期のより多い排出量は、より遅い時期のより少い排出量を意味する。 {2.2.5, Table 2.2}

マルチモデルの結果は、全人間誘発温暖化を、>66%(注7)の確率で1861〜1880年に対して2℃より低く抑制するためには、1870年以来の全人為起源排出源からの累積CO排出量を約2900GtCO(非CO駆動要素による2500〜3150GtCOの範囲を有する)より下に留める必要があるであろう。既に約1900GtCO(注8)は2011年までに排出されている。追加的な内容は表2.2参照。 {2.2.5}

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図SPM.5:(a)代表的濃度経路におけるCOだけの排出量(線)および第3作業部会で使用されたそれに関連するシナリオの分類(着色された領域は5〜95%の範囲を示す)。第3作業部会によるシナリオの分類は科学文献として発行された排出シナリオの広い範囲を要約するものであり、2100年におけるCO換算濃度レベル(ppm)に基づいて定義されている。他の温室効果ガス排出量の時系列はBox 2.2, Figure 1に示されている。(b)世界CO排出量が与えられた正味の累積量に達した時の世界平均地上気温上昇、その量の関数としてプロット、様々な証拠による。ピンク色の羽根飾り<plume>は、過去の排出量と2100年までのRCPによる気候−炭素サイクル・モデルの階層<a hierarchy>からの過去と将来の予測の広がりを示し、利用可能なモデルの数が減少すると共に薄れる。楕円は、「2100年における全人為起源温暖化」対「第3作業部会で使用されたシナリオの分類に基づく単純な気候モデル(中間の気候応答)からの1870〜2100年の累積CO排出量」を示す。気温軸の楕円の幅は非CO気候駆動要素のための異なったシナリオの影響によって生じたものである。黒塗りの楕円は2005年の観測された排出量と2000〜2009年の観測された気温であり、関連する不確実性を有する。 {Box 2.2, Figure 1, Figure 2.3}


(注5)概略300のベースライン・シナリオと900の緩和シナリオが2100年までのCO換算濃度(CO換算)によって分類されている。CO換算は全ての温室効果ガス(ハロゲン化ガスおよび対流圏オゾンを含む)、エアロゾル、およびアルベドの変化による強制力を含む。
(注6)このCO排出量の範囲を定量化するには非CO駆動要素を考慮する必要がある。
(注7)>50%と>30%の確率で2℃の温暖化に抑制するための対応する数字はそれぞれ3000GtCO(2900〜3200GtCOの範囲)と3000GtCO(2950〜3800GtCOの範囲)である。より高いまたはより低い気温への抑制はそれぞれより多いまたはより少ない累積排出量を意味する。
(注8)これは、>66%の確率で2℃より低い温暖化に留めるであろう2900GtCOの約2/3に対応し、>50%の確率で2℃より低い温暖化に留めるであろう3000GtCOの約63%に対応し、>33%の確率で2℃より低い温暖化に留めるであろう3300GtCOの約58%に対応する。


2.2 気候システムにおける予測される変化

このセクションにおける予測される変化は、他の方法が記述されていない限り、1986〜2005に対する2081〜2100年のものである。
地上気温は全ての評価された排出量シナリオにおいて21世紀にわたって上昇することが予測されている。熱波がより頻繁に起こりより長く続き、極端な降水現象が多くの地域でより強くより頻繁になる可能性が非常に高い。海洋は温暖化と酸性化を続け、世界平均海面水位は上昇を続けるだろう。 {2.2}
将来の気候は、将来の人為起源の排出量と自然の気候変動だけでなく、過去の人為起源の排出に起因する不可避的な温暖化に依存している。1986〜2005年に対する2016〜2035年の世界平均地上温度は4つのRCPで同様であり、0.3℃〜0.7℃の範囲内である可能性が高いだろう(中程度の確信度)。これは、大きな火山噴火もしくは何らかの自然源(例えば、CHとNO)における変化、または太陽照度の総計の予期しない変化がないことを仮定している。21世紀半ばまでには、予測された気候変動の大きさは排出量シナリオの選択によってかなりの影響を受ける。{2.2.1, Table 2.1}

1850〜1900年に対する21世紀末(2081〜2100年)の世界地上気温の変化は、RCP4.5、RCP6.0、およびRCP8.5では、1.5℃を超える可能性が高いと予測されている(高い確信度)。温暖化はRCP6.0とRCP8.5では2℃を超える可能性が高く中程度の確信度)、RCP4.5ではどちらかと言えば2℃を超える可能性があるが(中程度の確信度)、RCP2.6では2℃を超える可能性は低い中程度の確信度)。 {2.2.1}

1986〜2005年に対する21世紀末(2081〜2100年)の世界平均地上気温の上昇は、RCP2.6で0.3℃〜1.7℃、RCP4.5で1.1℃〜2.6℃、RCP6.0で1.4℃〜3.1℃、RCP8.5で2.6℃〜4.8℃である可能性が高い(注9)。北極地域は世界平均(図SPM.6(a)、図SPM.7(a))より急速に温暖化を続けるだろう。 {2.2.1, Figure 2.1, Figure 2.2, Table 2.1}

世界平均気温の上昇につれて、ほとんどの陸域で、日と季節の時間スケールで、極端に暑い気温の頻度が多くなり極端に寒い気温の頻度が少なくなるだろうことはほぼ確実である。熱波がより頻度が高くなりより期間が長くなるだろう可能性が非常に高い。たまに起こる極端に寒い冬が起こり続けるだろう。 {2.2.1}
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図SPM.6:マルチモデル・シミュレーションで決定された2006〜2100の世界平均地上気温変化(a)および世界平均海面水位上昇(注10)(b)。全ての変化は1986〜2005年に対する。予測の時系列と不確実性の大きさ(陰影)がシナリオRCP2.6(青)とRCP8.5(赤)について示されている。各図の右側に2081〜2100年で平均化された平均値および関連する不確実性が色塗りされた縦方向のバーで全てのRCPシナリオについて与えられている。マルチモデル平均を計算するために使用された第5期結合モデル相互比較計画(CMIP5)モデルの数が示されている。 {2.2, Figure 2.1}
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図SPM.7:1986〜2005年に対する2081〜2100年のRCP2.6(左)およびPCP8.5(右)シナリオのCMIP5マルチモデル平均予測に基づく、平均地上気温の変化(a)および年平均降水量の変化(b)。マルチモデル平均を計算するために用いられたCMIP5モデルの数は各図の右上の隅に示している。スティップリング(すなわち、点)は予測された変化が内部変動に対して大きい地域を示しており、モデルの90%は変化の符合が一致している。ハッチング(すなわち、斜線)は予測された変化が内部変動の1標準偏差よりも少ない地域を示している。 {2.2, Figure 2.2}
降水の変化は一様ではないだろう。高緯度と赤道付近の太平洋はRCP8.5シナリオに基づくと年間平均降水量の増加を経験する可能性が高い。RCP8.5シナリオに基づくと、多くの中緯度と亜熱帯の乾燥地域においては平均降水量は減少する可能性が高く、多くの中緯度の湿潤地域においては平均降水量は今世紀末までに増加する可能性が高いだろう(図SPM.7.(b))。中緯度の陸域の大部分と湿潤な熱帯地域の極端な降水事象がより激しくより頻度が多くなる可能性が非常に高いだろう。 {2.2.2, Figure 2.2}

世界の海洋は21世紀を通して温暖化し続け、海洋の最も強い温暖化は熱帯と北半球の亜熱帯地域の表面だろう(図SPM.7(a))。 {2.2.3, Figure 2.2}

地球システムモデルは全てのRCPシナリオで21世紀末までに海洋の酸性化の世界的な増加を予測し、RCP2.6では21世紀半ば以後にゆっくりと回復すると予測している。海洋表面pHの減少はRCP2.6で0.06〜0.07(15〜17%の酸性度の増加)、RCP4.5で0.14〜0.15(38〜41%)、RCP6.0で0.20〜0.21(58〜62%)、およびRCP8.5で0.30〜0.32(100〜109%)の範囲内である。 {2.2.4, Figure 2.1}

北極の海氷面積の一年中の減少は全てのRCPシナリオで予測されている。RCP8.5では、北極の海は21世紀半ば以前に9月の夏季海氷最小<summer sea-ice minimum>において、ほとんど氷がない(注11)可能性が高い(注12)中程度の確信度)。 {2.2.3, Figure 2.1}

高北緯度の地表近くの永久凍土の面積は、世界平均地上気温の上昇につれて、減少するだろうことはほぼ確実であり、地表近くの(上部3.5m)永久凍土の面積はマルチモデル平均で37%(RCP2.6)〜81%(RCP8.5)減少すると予測されている(中程度の確信度)。 {2.2.3}

21世紀末までに、世界の氷河の量は、南極大陸周辺の氷河を除き(およびグリーンランドと南極の氷床を除き)、RCP2.6で15〜55%、RCP8.5で35〜85%減少すると予測されている(中程度の確信度)。 {2.2.3}

第4次報告書以来、海面水位の変化の理解と予測にかなりの進歩があった。世界平均海面水位は21世紀を通して上昇し続け、その上昇率は1971〜2010年に観測された上昇率よりも早い可能性が非常に高いだろう。1986〜2005年に対する2081〜2100年の海面水位上昇はRCP2.6で0.26〜0.55m、RCP8.5で0.45〜0.82mの範囲内である可能性が高いだろう(中程度の確信度(注10)図SPM.6(b))。海面水位上昇は一様ではないだろう。21世紀末までに、海面レベルは海洋面積の約95%以上において上昇するだろう。世界中の海岸線の約70%が、世界平均の±20%以内の海面水位変化を経験することが予測されている。 {2.2.3}



(注9)1986〜2005年の期間は1850〜1900年よりも約0.61[0.55〜0.67]℃温暖化している。 {2.2.1}
(注10)(観測、物理的理解、およびモデルによる)現在の理解に基づくと、南極の氷床の海を基部とする部分の急激な崩壊だけが、もしそれが引き起こされたとしたら、21世紀中の可能性の高い範囲を超えて世界平均海面水位をかなり上昇させる原因になりうるだろう。この追加的な寄与は21世紀中には数十センチメートルの海面水位上昇を超ないであろうことに中程度の確信度がある。
(注11)少なくとも5年連続で海氷面積が100万kmより少ない時。
(注12)気候の平均状態および北極の海氷の1979〜2012年の傾向を最もぴったりと再現するモデルのサブセットの評価に基づく。

2.3 変動する気候に起因する将来のリスクと影響
気候変動は、存在するリスクを増幅し、自然と人間のシステムに新しいリスクを作りだす。リスクの分配は一様ではなく、一般に、あらゆる開発のレベルの国において恵まれない人々とコミュニティに対してより大きい。 {2.3}
気候に関連した影響のリスクは、気候に関連したハザード(危険な出来事と傾向を含む)と、適応能力を含む人間と自然のシステムの脆弱性と暴露の相互作用により生じる。温暖化の上昇の速さと強さ<rates and magnitudes>と、海洋酸性化をともなう気候システムにおける他の変化が、過酷で、広範囲で、場合により不可逆的である有害な影響のリスクを増加させる。一部のリスクは個々の地域に特に関連しているが(図SPM.8)、その他は世界的である。将来の気候変動の影響の全体のリスクは海洋酸性化を含む気候変動の速さと強さを抑制することによって軽減させることができる。突然の不可逆的な変化の引き金を引くに十分な気候変動の正確なレベルははっきりしないままであるが、そのような閾値を超えるリスクは気温上昇と共に増加する(中程度の確信度)。リスク評価のためには、重大な結果をもたらす低い可能性を含む影響の最も広い可能性の範囲を評価することが重要である。 {1.5, 2.3, 2.4, 3.3, Box Introduction 1, Box 2.3, Box 2.4}

多くの種は、特に気候変動が他のストレス要因と影響し合うので、21世紀中と21世紀以降の気候変動による増大する絶滅のリスクに直面している(高い確信度)。大部分の植物の種はその地理的範囲を、地表の大部分における気候変動の現在の速さと予測される速さに遅れずについて行くのに十分な早さで、自然にシフトすることはできない;大部分の小さな哺乳動物と淡水軟体動物は、RCP4.5およびそれ以上のシナリオの場合、今世紀中の平坦な地表について予測される速さに遅れずについて行くことはできないだろう(高い確信度)。現在の人為起源気候変動より遅い速さの過去数百万年間の自然の地球の気候変動が相当な生態系シフトと種の絶滅を引き起こしたという知識から<by the observation>、(訳注:過去の自然の気候変動より早い速さの人為起源の気候変動による)将来のリスクは高いことが示される<is indicated>。海洋生物は進行する低酸素濃度と海洋酸性化の大きな速さと強さに直面しており、海洋の温度の極端な上昇によって激化されることに関連するリスクもある(中程度の確信度)。サンゴ礁と極地の生態系は極めて脆弱である。海岸のシステムと低平地には海面水位上昇のリスクがあり、海面水位上昇は世界平均気温が安定化されたとしても数世紀にわたって続くだろう(高い確信度)。 {2.3, 2.4, Figure 2.5}
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図SM.P8:各地域の代表的な主要リスク(注13)、適応の限界だけでなく、適応と緩和を通したリスク軽減の可能性を含む。それぞれの主要リスクは、非常に低い、低い、中程度、高い、または非常に高いと評価される。リスク・レベルは3つの時間枠:現在、短期(ここでは、2030〜2040年)、長期(ここでは、2080〜2100年)で提供される。短期では、世界平均気温上昇の予測されたレベルは異なった排出シナリオにわたって実質的に相違しない。長期では、リスク・レベルは2つの可能性のある将来(工業化前から2℃および4℃の世界気温上昇)について提供される。各時間枠において、リスク・レベルは現在の適応の継続の場合と現在または将来の高度な適応の場合について示される。リスク・レベルは、特に地域を越えては、必ずしも比較することができない。 {Figure 2.4}
気候変動は食料安全保障を害すると予測されている(図SPM.9)。21世紀半ばとそれ以降の予測された気候変動により、影響を受けやすい地域における世界の海洋の種の再分布および海洋の生物の多様性の縮小が、漁業生産力と他の生態系サービスの持続的な供給に課題を突きつける<challenge>だろう(高い確信度)。熱帯と温帯地域における小麦、米、および、とうもろこしについては、個別の場所では利益を得るかもしれないが、適応がない場合、20世紀末のレベルより2℃またはそれ以上の地域的な気温上昇のため、気候変動が生産高に負の影響を与えると予測されている(中程度の確信度)。20世紀末のレベルより〜4℃またはそれ以上の世界気温上昇(注14)は、洪水の被害の増加と結びつき、世界的に食料安全保障に対する大きなリスクをもたらすであろう(高い確信度)。気候変動は、乾燥した亜熱帯地域のほとんどにおいて、持続可能な表面水と地下水の資源を減少させ(確実な証拠高い合意)、部門間の水争いを激しくする(限定的証拠中程度の合意)と予測されている。 {2.3.1, 2.3.2}
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図SPM.9:(a)〜1000の食用となる海の魚類および無脊椎動物の種の潜在的最大漁獲量<maximum catch potential>の世界の再分布の予測。予測は、乱獲または海洋酸性化の潜在的な影響の分析なしに、中程度〜高い温暖化シナリオに基づいた<under a moderate to high warming scenario>一つの気候モデルに基づく海の条件を使った2001〜2010年と2051年〜2060年の十年間の比較。(b)21世紀にわたる気候変動による作物(主に、小麦、とうもろこし、米、および大豆)の生産高の変化の予測の要約。各時間枠のデータ(合計100%)は生産高の増加と減少を示す予測研究数の割合(%)を示す。図は、異なった排出シナリオ、熱帯と温帯、ならびに適応と非適応の場合の予測(1090のデータポイントに基づく)を含む。作物の生産高の変化は20世紀末のレベルとの比較。 {Figure 2.6.a, Figure 2.7}
21世紀半ばまでに、予測された気候変動は、主に既存の健康問題を悪化させることで、人間の健康に影響を与えるだろう(非常に高い可能性)。21世紀をとおして、気候変動は、気候変動がない場合と比較して、多くの地域、特に収入の低い途上国において健康障害の増加をもたらすと予想されている(高い確信度)。RCP8.5では2100年までに、一部の地域で一年の複数の期間において、高い気温と湿度の組み合わせが、食用の生物を育てることおよび屋外で働くことを含めて、普通の人間の活動を危うくすることが予想されている(高い確信度)。 {2.3.2}

都会では、気候変動が、熱ストレス、嵐と極端な降水、内陸部と沿岸部の洪水、地滑り、大気汚染、干ばつ、水不足、海面水位上昇、および高潮を含む、人々、財産、経済、および生態系に対するリスクを増加させると予想されている(非常に高い確信度)。これらのリスクは、暴露される地域における基礎的インフラおよびサービスまたは収入<living>の不足により、増幅される。 {2.3.2}

地方では、世界中で、食料と非食料作物の生産地域のシフトを含む、水の利用と供給、食料安全保障、インフラ、および農業収入に関して大きな影響を受けると予想されている(高い確信度)。 {2.3.2}

経済的損失の総額は気温上昇と共に加速するが(限定的証拠高い合意)、気候変動による世界経済の影響を推定するのは今は難しい。貧困に関しては、気候変動の影響が、経済成長を低下させ、貧困の減少をより難しくし、食料安全保障をむしばみ、さらに、既存の貧困の罠を引き延ばすと共に特に都会において飢えのホットスポットを出現させ新たな貧困の罠を作り出すと予想されている(中程度の確信度)。国と国の間の貿易および関係のような国際的な側面<International dimensions>も地域的規模の気候変動のリスクを理解するために重要である。{2.3.2}

気候変動は、人々の移動を増加させると予測されている(中程度の証拠高い合意)。計画的な移動手段<the resources for planned migration>を欠く人々<Populations>は、特に途上国の低所得層において、極端な天気現象へのより高い暴露を経験するだろう。気候変動は、貧困や経済ショックのような十分に裏付けられた紛争の駆動要素を増幅することによって、暴力的な紛争のリスクを直接的に増加させることが可能である(中程度の確信度)。 {2.3.2}



(注13)主要リスクの特定は、次に示す具体的基準を使用した専門家の判断に基づいている:影響の大きさ、高い可能性、または不可逆性;影響のタイミング;リスクに寄与する継続的な脆弱性または暴露;または適応もしくは緩和を通したリスク軽減の可能性が限られていること。
(注14)陸域で平均化された予測された温暖化は、1986〜2005年に対する2081〜2100年について、全てのRCPシナリオで世界平均温暖化より大きい。地域的な予測については図SPM.7参照。 {2.2}

2.4 2100年以降の気候変動、不可逆性、および急激な変化
気候変動の多くの特徴とそれに関連する影響は、温室効果ガスの人為的排出が停止されても、数世紀間継続するだろう。急激または不可逆的な変化のリスクは温暖化が進むにつれて増大する。 {2.4}

温暖化は、RCP2.6以外の全てのRCPで、2100年を越えて継続する。地上気温は、正味の人為起源のCO排出の完全な停止の後、多くの世紀の間、高くなったレベルでほぼ一定に留まるだろう。CO排出に起因する人為起源の気候変動の大部分は、ある持続期間にわたって大気からCOを正味で大きく除去する場合を除いて、数世紀〜千年の時間スケールで不可逆的である。 {2.4, Figure 2.8}

世界平均地上気温を安定化しても、気候システムの全ての面が安定化するわけではない。シフトする生物群系、土壌炭素、氷床、海洋温度とそれに関連する海面水位上昇は全てそれぞれの固有の長い時間スケールを有しており、世界地上気温が安定化された後、数百年〜数千年間、変化は続くだろう。 {2.1, 2.4}

COの排出が続けば、海洋の酸性化は増大し、海洋の生態系に強く影響を与えることに高い確信度がある。 {2.4}

世界平均海面水位上昇は、将来の排出量に基づく上昇量を加えて、2100年を越えて数世紀間継続するだろうことはほぼ確実である。千年またはそれ以上にわたるグリーンランドの氷床の喪失とそれに関連する7mまでの海面水位上昇の閾値は、工業化前の気温に対して約1℃の地球温暖化より高く(低い確信度)、約4℃の地球温暖化よりも低い(中程度の確信度)。南極の氷床の急激かつ不可逆的な氷の喪失は可能性はあるが、現在の証拠と理解では定量的な評価を行うには不十分である。 {2.4}

中程度〜高い排出シナリオに関する気候変動の強さと速さは、海洋、陸上、および温湿地を含む淡水の生態系の組成、構造、および機能の急激かつ不可逆的な地域規模の変化のリスクを増大させる(中程度の確信度)。世界気温の継続的な上昇に伴い永久凍土の面積が減少することはほぼ確実である。 {2.4}



3. 適応、緩和、および持続可能な開発のための将来経路
適応<Adaptation>と緩和<mitigation>(訳注2)は気候変動のリスクを軽減し管理するための相補的な戦略である。次の数十年間にわたる十分な排出削減によって、21世紀とそれ以降の気候リスクを軽減し、効果的な適応のための見通しを増大させ、より長期間の緩和の費用と課題<challenges>を軽減し、かつ持続可能な開発<sustainable development>のための気候変動回復力<climate-resilient>を有する経路<pathways>に寄与することができる。 {3.2, 3.3, 3.4}



3.1 気候変動に関する意思決定の基礎
気候変動とその影響を抑制するための効果的な意思決定<decision making>は、ガバナンス、倫理的側面、公平さ、価値判断、経済的評価、およびリスクと不確実性への多様な理解と対応の重要性を認識しながら、予想されるリスクと便益<benefits>に対する幅広い分析的アプローチに基づくことができる<can be informed>。 {3.1}
持続可能な開発と公平さは気候政策を評価するための基礎の一つである。気候変動の影響を抑制することは、持続可能な開発と貧困の根絶を含む公平さを達成するために必要である。大気中温室効果ガスの蓄積への国々の過去と将来の寄与は異なっており、また国々は変化する課題と事情<circumstances>に直面し、緩和と適応を扱う能力も異なっている。緩和と適応は、公平さ、正義、および公正さの問題を提起する。気候変動に最も脆弱な人々<those>の多くは、温室効果ガスにほとんど寄与していない。緩和の遅れは重荷を現在から将来に移転させ、新たに出現する<emerging>影響に対する不十分な適応応答<adaptation responses>は持続可能な開発のための基礎を既にむしばんでいる。持続可能な開発と両立する気候変動に対応する包括的な戦略は、適応と緩和の両方の選択肢から生じ得る相乗便益<co-benefits>、不都合な副作用<adverse side-effects>、およびリスクを考慮する。 {3.1, 3.5, Box 3.4}

気候政策のデザインは、個人と組織がどのようにリスクと不確実性を理解し、それらを考慮するのかによって影響を受ける。経済的、社会的、および倫理的な分析の評価方法は意思決定を助けるために利用できる。これらの方法は、重大な結果をもたらす可能性の低い結果を含む、幅広い可能な影響を考慮することができる。しかし、緩和、適応、および残存する気候の影響の間の一つのベスト・バランスを特定することはできない。 {3.1}

ほとんどの温室効果ガスは時間を越えて蓄積し世界的に混合し、どの主体(例えば、個人、コミュニティ、会社、国)による排出でも他の主体に影響を及ぼすから、気候変動は世界規模の共同活動問題<collective action problem>の特徴を持つ。個々の主体がそれぞれ自分自身の利益<interests>を別々に主張するのでは、効果的な適応は達成できないだろう。それゆえ、国際的な共同を含む共同の対応によって、効果的に温室効果ガス排出を緩和すると共に他の気候変動問題を扱う必要がある。適応の効果は、国際的な共同を含むレベルを横断した相補的な活動を通して高めることができる。公平に見える結果がより効果的な共同を導くことができることを証拠が示している。 {3.1}




3.2 緩和と適応によって軽減される気候変動のリスク
現在の実施を越える追加的な緩和努力が行われなければ、適応したとしても、21世紀末までの温暖化によって、世界的に過酷で広範囲でかつ不可逆的な影響の高い〜非常に高いリスクがもたらされるだろう(高い確信度)。緩和は相乗便益と不都合な副作用によるリスクの何らかのレベルを含むが、このリスクは気候変動のリスクのような過酷で広範囲でかつ不可逆的な影響の可能性は含まず、近い将来の緩和努力による便益を増加させる。 {3.2, 3.4}
緩和と適応は、異なった時間スケールにわたる気候変動のリスクを軽減するための相補的なアプローチである(高い確信度)。近い将来と今世紀を通した緩和によって、21世紀後期とそれ以降の気候変動の影響を大きく軽減させることができる。適応の便益は現在のリスクを扱うなかで既に実現され、また将来新たに出現するリスクを扱うために実現される得る。 {3.2, 4.5}

5つの「懸念の理由<Reasons For Concern>」(RFC)が気候変動のリスクを統合し、部門と地域を越える人々、経済、および生態系に対する温暖化と適応限界がどのようなものか<implications>を例示している。5つの懸念の理由は次のものと関連している:(1)独特で脅威に曝されているシステム、(2)極端な天気現象、(3)影響の分布、(4)世界総計的影響、および(5)大規模特異現象。この報告書では、懸念の理由は気候変動枠組条約第2条に関連した情報を提供する。

現在の実施を越える追加的な緩和努力が行われなければ、適応したとしても、21世紀末までの温暖化によって、世界的に過酷で広範囲でかつ不可逆的な影響の高い〜非常に高いリスクがもたらされるだろう(高い確信度)(図SPM.10)。追加的な緩和努力なしのほとんどのシナリオ(2100年の大気中濃度>1000ppm CO換算のシナリオ)で、温暖化は2100年までに、どちらかと言えば工業化前のレベルより4℃を越える。4℃またはそれ以上の気温に関連したリスクは、かなりの種の絶滅、世界規模または地域規模の食糧危機、普通の人間の活動の制約、およびいくつかの場合の適応能力の限界を含む。独特で脅威に曝されているシステムへのリスクや極端な天気現象に関連するリスクのような、気候変動のリスクのいくつかは、工業化前のレベルより1℃〜2℃の気温上昇で中程度〜高いリスクとなる。 {2.3, Figure 2.5, 3.2, 3.4, Box 2.4, Table SPM.1}

次の数十年にわたって温室効果ガス排出量を十分に削減することにより21世紀後半とそれ以降の温暖化を抑制することによって、気候変動のリスクは相当軽減する。主にCOの累積排出量が21世紀末とそれ以降までの世界平均地上温暖化を決定する。懸念する理由にわたる<across reasons for concern>リスクの抑制は、COの累積排出量の抑制を意味するであろう。そのような抑制はCOの世界正味排出量が結局はゼロに減少することを要求し、次の数十年間にわたる年間の排出量を制約する<constrain>であろう(図SPM.10)(高い確信度)。しかし、気候変動の一部のリスクは、緩和と適応を行っても、不可避である。 {2.2.5, 3.2, 3.4}

緩和は相乗便益と不都合な副作用によるリスクの何らかのレベルを含むが、このリスクは気候変動のリスクのような過酷で広範囲でかつ不可逆的な影響の可能性は含まない。経済と気候システムの慣性と気候変動による非可逆的な影響の可能性が近い将来の緩和努力の便益を増大させる(高い確信度)。技術的な選択肢において追加的な緩和または制約が遅延すれば、気候変動のリスクを与えられたレベルに留めるための長期の緩和費用が増大する(高い確信度)(表SPM.2)。 {3.2, 3.4}

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図SPM10:気候変動のリスク、気温変化、2050年までの年間温室効果ガス排出量の変化の関係。懸念の理由にわたるリスクの抑制(図A)は、累積CO排出量の制限(図B)を意味し、次の数十年にわたって年間温室効果ガス排出量を制約するであろう(図C)。図Aは5つの懸念の理由の再現{Box 2.4}図Bは気温の変化を1970年からの累積CO排出量(GtCO)に結びつける。これらは、ベースラインと5つの緩和シナリオ分類(6つの楕円)のためのCMIP5シミュレーション(ピンクの羽根飾り)と一つの簡単な気候モデル(2100年の中程度の気候応答)に基づいている。
詳細は図SPM.5に与えられている。図Cはシナリオ分類の累積CO排出量(GtCO)とそれらに関連する2010年に対する2050年までの年間温室効果ガス排出量の変化(%GtCO換算/年)。楕円は図Bの同じシナリオ分類に対応し、同様な方法で作成されている(詳細は図SPM.5参照)。



3.3 適応経路の特徴
適応は気候変動の影響のリスクを軽減することができるが、その効果は、特に気候変動の強さと速さが大きい場合、限界がある。持続可能な開発に関連して長期的な見通しを持てば、より即座の適応活動を実行することになり、それによって将来の選択肢と備えが増える可能性も増加する。 {3.3}
適応は、現在と将来の、人々の生活、資産の安全<the security of assets>、ならびに生態系の財<goods>、機能、およびサービスの維持に貢献できる。適応は場所と状況に特有<place- and context-specific>である(高い確信度)。将来の気候変動への対応に向けての第1歩は現在の気候変動に対する脆弱性と暴露を減少させることである(高い確信度)。政策デザインを含む計画作成<planning>と意思決定の中に適応を統合することによって、開発と災害リスク軽減の相乗作用<synergies>を促進することができる。適応能力を確立する<Building>ことは適応の選択肢の効果的な選択と実行に極めて重要である(高い合意確実な証拠)。 {3.3}

適応の計画作成と実行は個人から政府までのレベルにわたる相補的な活動を通して高めることができる(高い確信度)。国の政府は、地方政府の適応努力を、例えば脆弱なグループを保護すること、経済的多様化<economic diversification>を支援すること、情報、政策、および法的枠組を提供すること、ならびに財政を支援することによって、調整する<coordinate>ことができる(確実な証拠高い合意)。コミュニティ、家族、市民社会の適応をスケールアップする役割およびリスク情報の管理と資金供給の役割を地方政府と民間部門に与えることにより、地方政府と民間部門は適応の進展に極めて重要であると益々認識されてきた(中程度の証拠高い合意)。 {3.3}

ガバナンスの全てのレベルで適応の計画作成と実行は、社会的価値、目標、およびリスク認識しだいである(高い確信度)。多様な関心<interests>、事情、社会文化的状況、および期待を認識することは、意思決定のプロセスに有益である。現地の人々のコミュニティと環境<environment>についての全体論的な見方を含む、現地の、地元の、伝統的な知識の体系と慣行<traditional knowledge systems and practices>は、気候変動への適応の主要な資源の一つであるが、それらは既存の適応努力において一貫しては使用されてこなかった。そのような形の認識と既存の活動を統合することで適応の有効性は増大する。 {3.3}

制約<Constraints>は適応の計画作成と実行を妨げるように相互作用し得る(高い確信度)。実行上の共通の制約は次のものから生じる:乏しい財政的および人的資源;乏しいガバナンスの統合または調整;予想された影響についての不確実性;リスクの異なった認識;競い合う価値観;主要な適応リーダーと擁護者の不在;および適応の有効性を監視するツールの乏しさ。その他の制約には、不十分な調査、モニタリング、および観測、ならびにそれらを維持するための資金調達が含まれる。 {3.3}

より大きな気候変動の速さと強さは適応の限界を越える可能性を増大させる(高い確信度)。適応の限界は気候変動および生物物理的および/または社会経済的な制約の間の相互作用から新たに出現する。さらに、貧弱な計画作成もしくは実行、過度に強調された短期の結果、または十分な結果の予想の失敗は不適応をもたらし、将来におけるターゲット・グループの脆弱性もしくは暴露の増加、または、他の人々、場所、もしくは部門の脆弱性の増加をまねく(中程度の証拠高い合意)。社会的なプロセスとしての適応の複雑さの過小評価は意図される適応の結果を達成することに関して非現実的な期待を作り出すことがある。 {3.3}

緩和と適応の間および異なった適応応答の間で、重要な相乗便益、相乗作用、およびトレードオフが存在する;相互作用は地域内でも地域にわたっても起こる(高い確信度)。気候変動に対する緩和と適応の努力の増加は、特に、水、エネルギー、土地利用、および生物多様性の間の交差部分で、相互作用の複雑さが増加することを意味するが、これらの相互作用を理解し管理するツールは乏しいままである。相乗便益を有する活動の例は次のものを含む、(i)健康に害のある気候改造大気汚染物質の排出量の軽減を導く、改善されたエネルギー効率とよりクリーンなエネルギー源;(ii)都市の緑化と水のリサイクルを通した都市地域におけるエネルギーと水の使用の減少;(iii)再生可能な農業と林業;および(iv)炭素貯蔵と他の生態系サービスに対する生態系の保護<protection of ecosystems for carbon storage and other ecosystem services>。 {3.3}

経済的、社会的、技術的、および政治的な決定と活動の変革<Transformations>が適応を強化し、持続可能な開発を促進することができる(高い確信度)。国レベルでの変革が、その国の事情と優先順位<its national circumstances and priorities>に調和した持続可能な開発を達成する国自体のビジョンとアプローチを反映する場合、最も効果的であると考えられている。変革的変化<transformational change>を考慮せずに、適応応答を既存のシステムと構造に対する漸進的変化<incremental changes>に制限すると、費用と損失を増加させ、機会を失うかもしれない。変革的適応の計画作成と実行は、強化された、変貌した、または方向づけられたパラダイムをもたらすことができ、将来のための異なったゴールとビジョンを融和させ、可能性のある公平さと倫理的なもの<implications>に取り組むために、政府の構造に新しく増強された要求を突きつけるかもしれない:適応の経路は、反復学習、審議プロセス、およびイノベーションによって強化される。 {3.3}



3.4 緩和経路の特徴
工業化前に対して2℃未満の温暖化に抑制する可能性が高い多数の緩和経路が存在する。これらの経路においては、次の数十年間にわたって十分に排出を削減し、今世紀末までのCOと他の長寿命温室効果ガスの排出をほぼゼロにする必要があるであろう。このような削減の実行には、かなりの技術的、経済的、社会的、および制度的な課題<challenges>があり、その課題は追加的な緩和が遅れれば、また鍵となる技術が利用可能でなければ増大する。温暖化をより低いまたはより高いレベルに限定する場合も、同様な課題が含まれるが、時間スケールは異なる。 {3.4}
現在の実施を越える温室効果ガス排出量削減の追加的な努力がなければ、世界の人口と経済活動が増加することにより、世界的な排出量は増加し続けることが予想される。ベースライン・シナリオ(追加的な緩和がない場合)では、中程度の気候応答の場合、2100年に世界平均地上気温は1850〜1900年の平均値よりも3.7〜4.8℃の範囲に上昇する。気候の不確実性(5〜95%の範囲)を含む場合は、2.5℃〜7.8℃の範囲になる(高い確信度)。 {3.4}

2100年の温室効果ガス濃度を約450ppmCO換算またはそれ以下に導く排出シナリオでは、工業化前に対して21世紀にわたって2℃未満の温暖化に維持できる可能性が高い(注15)。これらのシナリオは、人為起源温室効果ガス排出量を2010年に対して2050年までに40〜70%削減し(注16)、かつ2100年に排出レベルをほぼゼロまたはそれ以下に削減する特徴を有する。2100年までに約500ppmCO換算の濃度レベルに達する緩和シナリオでは、2100年以前に約530ppmCO換算の濃度レベルまで一時的にオーバーシュートしない限り、どちらかと言えば2℃未満の気温変化に抑制できるが、オーバーシュートすれば目標達成はどちらも同程度である。これらの500ppmCO換算シナリオでは、世界の2050年の排出量レベルは2010年よりも25〜55%少ない。2050年のより高い排出量を有するシナリオは、今世紀半ば以降、二酸化炭素除去(CDR)技術により多く依存する特徴を有する(逆も同様)。工業化前のレベルに対して3℃の温暖化に限定する可能性の高い経路<Trajectories>の場合は、2℃の温暖化に抑制するよりも排出量の削減の迅速さは低下する。限られた数の研究がどちらかと言えば2100年までに1.5℃の温暖化に限定するシナリオを提供している;これらのシナリオは2100年までに430ppmCO換算未満の濃度、および2050年の排出削減は2010年に対して70%と95%の間という特徴を有する。排出シナリオの特徴、その温室効果ガス濃度、およびその気温レベルの範囲未満の温暖化に維持する可能性の広範囲の概観については表SPM.1参照。{図SPM.11, 3.4, 表SPM.1}.
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図SPM.11:ベースラインにおける温室効果ガス排出量(GtCO換算/年)と、異なった長期の濃度レベルのための緩和シナリオ(上図)および緩和シナリオにおける2010年に対する2030年、2050年、および2100年の低炭素エネルギーのアップスケールの必要条件(一次エネルギーにおける%)(下図)。 {Figure 3.2}
表SPM.1:第5次報告書第3作業部会で収集され評価されたシナリオの主要な特徴。全てのパラメータについてシナリオの10〜90パーセンタイルを示す(訳注:パーセンタイルは、小さいほうから順番に並べて何パーセント目にあたるのかを示す)。(注15)(注16) {Table 3.1}
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1 430ppm〜480ppmCO換算濃度シナリオの「全範囲」は、第3作業部会報告書の表6.3に示されたこれらのシナリオの下位分類の10〜90パーセンタイルの範囲に対応する。
2 ベースライン・シナリオは、>1000と720−1000ppmCO換算の分類に入る。後者の分類は緩和シナリオも含む。後者の分類のベースライン・シナリオは2100年に1850〜1900年の平均に対して2.5〜5.8℃上昇の気温変化に達する。>1000ppmCO換算の分類のベースライン・シナリオを合わせた両方の濃度分類にわたったベースライン・シナリオでは2100年の気温範囲は2.5〜7.8℃(中程度の気候応答に基づく範囲:3.7〜4.8℃)である。
3 2010年の世界の排出量は1990年の排出量より31%多い(この報告書で与えられる過去の温室効果ガス排出推定値と一貫性がある)。CO換算排出量は京都ガス(CO、CH、NO、F−ガス)のバスケットを含む。
4 この評価には科学文献として出版された多数のシナリオが含まれており、それゆえRCPに限定されていない。CO換算濃度とこれらのシナリオの気候における意味<climate implications>を評価するために、MAGICCモデルが確率モードで使用された。MAGICCモデルの結果と第1作業部会で使用されたモデルの結果の比較はセクションWGI 12.4.1.2およびWGI 12.4.8および6.3.2.6参照。
5 この表の評価はMAGICCを使用して第3作業部会においてシナリオのフルアンサンブルで計算した確率、および気候モデルでカバーされていない第1作業部会における気温予測の不確実性の評価に基づいている。したがって記述は、RCPのCMIP5実行<runs>および評価された不確実性に基づく第1作業部会の記述と一貫性がある。それゆえ、可能性の記述は両方の作業部会からの異なった系列の証拠を反映している。この第1作業部会の方法は、CMIP実行が利用可能ではない中間の濃度レベルのシナリオに対しても適用された。可能性の記述は{WGIII 6.3}に示されており、気温予測のために第1作業部会の政策決定者向け要約によって使用された用語に広範囲に従っている:可能性が高い66〜100%、どちらかと言えば高い>50〜100%、どちらも同程度33〜66%、可能性が低い0〜33%。これに加えて、どちらかと言えば低い0〜<50%が使用されている。
6 CO換算濃度(用語集参照)は簡単な炭素サイクル/気候モデルであるMAGICCからの全強制力に基づいて計算されている。2011年のCO換算濃度は430ppm(不確実性の範囲340ppm〜520ppm)と推定されている。これは、第1作業部会における1750年(すなわち2.3W/m、不確実性の範囲1.1〜3.3W/m)に対する2011年の全人為起源放射強制力の評価に基づいている。
7 この分類のシナリオの大部分は480ppmCO換算濃度の分類境界をオーバーシュートしている。
8 この分類のシナリオについては、CMIP5実行またはMAGICC実現<realization>でそれぞれの気温レベル未満に留まったものは一つもない。それでも「可能性が低い」を割当ているのは現在の気候モデルには反映されていないかもしれない不確実性を反映するためである。
9 580ppm〜650ppmCO換算の分類のシナリオはオーバーシュート・シナリオとその分類の上端の濃度レベルを越えないシナリオ(例えばRCP4.5)の両方を含んでいる。後者のタイプのシナリオは一般的に2℃気温レベル未満に留まる可能性がどちらかと言えば低い評価確率を持つが、前者のほとんどはそのレベル未満に留まる可能性が低い確率を持つと評価される。
10 これらのシナリオにおいては、2050年のCO換算排出量は2010年の排出量より70〜95%少なく、2100年では2010年より110〜120%少ない。
2100年に約450ppmCO換算に到達する緩和シナリオ(工業化前のレベルに対して2℃未満の温暖化に留まる可能性が高いに一致する)は、2100年に約500ppmCO換算〜約550ppmCO換算に達する多くのシナリオ(表SPM.1)のように、典型的には大気中濃度の一時的なオーバーシュート(注17)を含む。オーバーシュートのレベルによるが、オーバーシュート・シナリオは典型的には、今世紀後半における二酸化炭素貯留を装備したバイオエネルギー(BECCS)の利用可能性と広範囲な展開および植林に依存している。これらとその他の二酸化炭素除去(CDR)技術と方法の利用可能性と規模は不確実であり、CDR技術は、程度の差があっても、課題とリスクに関連している(注18)。CDRはオーバーシュートのない多くのシナリオにおいても緩和がより高価な部門からの残存排出量を相殺するために有効である。 {3.4, Box 3.3}

非CO因子<non-CO2 agents>の排出量削減は緩和戦略の一つの重要な要素であり得る。長期の温暖化は主にCO排出量によって駆動されるが、全ての現在の温室効果ガス排出量と他の強制力因子は次の数十年にわたる気候変動の速さと強さに影響を与える。非CO強制因子の排出量はしばしば「CO換算排出量」と表現されるが、これらの排出量を計算するための測定基準の選択、および様々な気候強制因子の除去の強さとタイミングがどうなるのか<implications>は、適用<application>、政策の状況に依存し、また価値判断を含む。 {3.4, Box 3.2}

追加的な緩和が2030年に遅延すれば、21世紀にわたって工業化前のレベルに対して2℃未満の温暖化に抑制することに関する課題を相当増加させるだろう。そうなれば、2030〜2050年における相当高い排出量削減率が必要となるだろう;この期間にわたる低炭素エネルギーの極めて急速なスケールアップ;長期間のCDRへのより大きな依存;より大きな過渡的および長期的な経済的影響。カンクン・プレッジ<the Cancun Pledges>に基づく2020年の推定世界排出量レベルは、工業化前のレベルに対して2℃未満の温暖化に抑制する可能性が少なくともどちらも同程度である費用効果のある緩和経路とは一致しないが、このゴールに合致する選択肢を排除するものではない(高い確信度)(図SPM.12表SPM.2(訳注:表SPM.1の誤記かもしれません))。 {3.4}

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図SPM.12:「CO排出削減率に対する異なった2030年の温室効果ガス排出量のレベル」と「21世紀を通して工業化前のレベルに対して2℃未満の温暖化に留める可能性が少なくともどちらも同程度である緩和シナリオ(2100年において430ppmCO換算〜530ppmCO換算の温室効果ガス濃度)における低炭素エネルギーのアップスケール」の関係<implications>。シナリオは2030年までの異なった排出量レベルによりグループ化されている(緑の異なった影で着色されている)。左図は、2030年のレベルに導く温室効果ガス排出量(GtCO換算/年)の経路を示す。黒丸とウィスカーは図SPM.2で報告した2010年の過去の温室効果ガス排出量とそれに関連する不確実性を示す。黒い棒はカンクン・プレッジで示された温室効果ガス排出量の不確実性の推定範囲を示す。中図は2030〜2050年の年平均CO排出削減率を示す。明示された2030年の暫定目標と、第5次報告書第3作業部会のシナリオ・データベースのシナリオの範囲と、の最近のモデル間比較からのシナリオについて中央値と四分位数範囲を比較している。過去の排出量の変化率(持続した20年間および2000〜2010年の年平均CO排出量変化)も示されている。右図の矢印は、異なった2030年の温室効果ガス排出量レベルに従ったゼロおよび低炭素エネルギー供給のアップスケールの大きさを示す。ゼロおよび低炭素エネルギー供給には、再生可能エネルギー、原子力エネルギー、および二酸化炭素貯留(CCS)を有する化石エネルギー、またはCCSを有するバイオエネルギー(BECCS)が含まれる。[注:基礎をなすモデルの完全な限定されない緩和技術ポートフォリオ(デフォルトの技術の仮定<default technology assumption>)を適用するシナリオだけを示す。大きな正味の負の世界排出量を有するシナリオ(>20GtCO換算/年)、外因性の炭素価格を仮定するシナリオ、および2010年の排出が過去の範囲を大きく外れるシナリオは排除されている。] {Figure 3.4}
緩和の経済的費用総計の評価は方法論と仮定によって広範囲に変化するが、緩和の厳しさと共に増加する。世界中の全ての国が直ちに緩和を開始するシナリオ、一つの世界炭素価格が存在するシナリオ、および鍵となる全ての技術が利用可能であるシナリオがマクロ経済緩和費用を評価するための費用効果のあるベンチマークとして使用されてきた(図SPM.13)。これらの仮定に基づくと、21世紀を通して工業化前のレベルに対して2℃未満の温暖化に抑制する可能性の高い緩和シナリオは、今世紀にわたってどこでも300%〜900%以上成長するベースライン・シナリオに対して、2030年に1%〜4%(中央値1.7%)および2050年に2%〜6%(中央値3.4%)、ならびに2100年に3%〜11%(中央値4.8%)の世界消費の損失(気候変動の減少による便益も緩和の相乗便益も不都合な副作用も含まない)を引き起こす(図SPM.13)。これらの数字は今世紀にわたって、1.6%〜3%/年であるベースラインの年間消費成長率に対して、0.04〜0.14(中央値0.06)パーセント・ポイントの年間消費成長率の減少に対応する(高い確信度)。{3.4}
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図SPM.13:2100年の異なった大気中濃度レベルでの費用効果のあるシナリオにおける世界の緩和費用。費用効果があるシナリオは、全ての国での即時の緩和と一つの世界炭素価格を仮定し、モデルのデフォルトの技術の仮定に対して追加的な技術的限定を課さない。消費の損失は気候政策を持たないベースラインの成長に対して示している。上部の表は1.6%〜3%/年のベースラインの消費成長率に対する年間消費成長率の減少のパーセント・ポイントを示す(例えば、緩和による減少が0.06パーセント・ポイントであり、ベースラインの成長率が2.0%/年であれば、緩和がある場合の成長率は1.94%/年になる)。この表に示された費用の推定値は、緩和による気候変動を減少させた便益または相乗便益および不都合な副作用は考慮していない。これらの費用範囲の上端の推定値は、目標に合わせるために長期にわたって必要とされる大きな排出量削減を達成するための比較的かたくななモデルおよび/または費用を上昇させるであろうマーケットの欠陥に関する仮定を含むモデルによる。 {Figure 3.3}
(バイオエネルギー、CCSとそれらを組み合わせたBECCS、原子力、風力/太陽光のような)緩和技術が存在しないまたは限定された利用可能性の場合、緩和費用は考慮されている技術によってはかなり増加することもある。追加的な緩和が遅れると、中期〜長期の緩和費用が増大する。追加的な緩和が著しく遅延すれば、多くのモデルは21世紀にわたって工業化前のレベルに対して2℃未満の温暖化に抑制する可能性を高くできないだろう。バイオエネルギー、CCS、およびそれらの組み合わせ(BECCS)が限定されているとすれば、多くのモデルは2℃未満の温暖化に抑制する可能性を高くできないだろう(高い確信度)(表SPM.2)。

2100年までに約450または500ppmCO換算に達する緩和シナリオは、人間の健康、生態系の影響、および資源の十分な量<sufficiency>のかなり大きい<significant>相乗便益、ならびにエネルギーシステムの回復力と共に、大気の品質とエネルギー安全保障を達成するための費用を削減することを示している 。 {4.4.2.2}

緩和政策は化石燃料資産の価値を減じ、化石燃料の輸出者の収入を減じることもあり得るが、地域と燃料の間の相違<differences between regions and fuels>は存在する(高い確信度)。ほとんどの緩和シナリオは主要な輸出者の石炭石油貿易からの収入減少と関係している(高い確信度)。CCSが利用可能であれば化石燃料資産の価値に対する緩和の副作用を減少させるであろう(中程度の確信度)。 {4.4.2.2}
表SPM.2:費用効果のあるシナリオ(2)に対して特定の技術の利用の限定または追加的な緩和の遅延(1)による世界の緩和費用の増加。費用の増加は中程度の評価およびシナリオの16〜84パーセンタイルの範囲(かっこ内)(3)を示す。加えて、各シナリオセットのサンプルサイズを着色された記号で示す。記号の色は、系統的なモデル比較において、目標濃度の到達に成功できたモデルの割合を示す。 {Table 3.2}
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1 遅延緩和シナリオは2030年に55GtCO換算以上の温室効果ガス排出に関するもので、緩和費用の増加は同じ長期の濃度レベルの費用効果のあるシナリオに対して。
2 費用効果のあるシナリオは、全ての国での即時の緩和と一つの世界炭素価格を仮定し、モデルのデフォルトの技術の仮定に対して追加的な技術的限定を課さない。
3 範囲は、シナリオセットの16〜84パーセンタイルの範囲に含まれる中心的なシナリオによって決めた。2100年までの対象期間のあるシナリオのみが含まれている。2100年の530ppmCO換算以上の濃度に対する費用範囲に含まれる一部のモデルは、技術が限定された利用および/または遅延した追加的緩和の仮定における2100年の530ppmCO換算以下の濃度レベルに関連したシナリオは生成できなかった。
4 CCSなし:CCSはこれらのシナリオには含まれていない。原子力段階的廃止<phase out>:建設中のものを除き原子力発電所の追加はなく、既存の原子力発電所の運転は寿命まで。限定された太陽光/風力:これらのシナリオの全ての年において太陽光と風力からの発電が世界の発電の最大で20%。限定されたバイオエネルギー:世界の現代的バイオエネルギー供給は最大で100EJ/年(熱、電力、組み合わせ、および産業で使用された現代的バイオエネルギーは2008年で18EJ/年であった)。
5 2015〜2100年について、年5%で割引された<discounted at 5% per year>、(一般均衡モデルのシナリオにおける)ベースライン消費のパーセントによる消費の損失<consumption losses>と(部分均衡モデルのシナリオにおける)ベースラインGDPのパーセントによる削減費用<abatement costs>の正味の現在価値<net present value>のパーセント増加。
太陽放射管理(SRM)は、気候システムに吸収される太陽エネルギーの量を減少させようとする大規模な方法を含む。SRMは試みられておらず、いかなる緩和シナリオにも含まれていない。これが実行された場合は、SRMは、おびただしい不確実性、副作用、リスク、短所を伴うであろうし、特有なガバナンス<particular governance>と倫理的なもの<implications>を持っている。SRMは海洋酸性化を減少させることはできない。これが終了した時、地上気温は非常に急激に上昇し、急激な変化の速さに敏感な生態系に影響を与えるであろうことに高い確信度がある。 {Box 3.3}


(注15)比較用:2011年のCO換算濃度は430ppmと推定されている(340ppm〜520ppmの不確実性の範囲)。
(注16)この範囲は、第4次報告書における同様な濃度に対して提示された範囲(COだけについて2000年より50%〜85%低い)とは相違する。この相違の理由には、この報告書では第4次報告書より相当多い数のシナリオを評価していることと、全ての温室効果ガスを考慮していることが含まれる。さらに、新しいシナリオの大部分は正味の負の排出技術<net negative emissions technologies>を含んでいる(CDR、CCSに関する記載参照<see below>)。他の要素としては、安定化したレベルの代わりに2100年の濃度を使用したこと、2000年から2010年に参照年をシフトさせたことを含む。
(注17)濃度「オーバーシュート」シナリオにおいて、濃度は今世紀中にピークをむかえその後減少する。
(注18)CDR法は、世界規模における可能性に生物地球化学的および技術的限界がある。どれだけのCO排出量が世紀の時間スケールでCDRによって部分的に相殺できるのかを定量化する知識が不十分である。CDR法は地球規模で副作用と長期の結果を有するかもしれない。

4. 適応と緩和
多くの適応と緩和の選択肢が気候変動への対処に役に立ち得るが、一つの選択肢がそれ自体で十分というわけではない。効果的な実行はあらゆる段階での政策と協力しだいであり、適応と緩和を他の社会の目標と結びつける統合された対応を通して強化することができる。 {4}

4.1 適応と緩和の応答のための一般的な有効な要因と制約
適応と緩和の応答は一般的な有効な要因によって支えられる。これらには、効果的な制度とガバナンス、環境的に適切な技術とインフラに関するイノベーションと投資、持続可能な生計、および行動とライフススタイルの選択が含まれる。 {4.1}
社会経済的システムの多くの面における慣性が適応と緩和の選択肢を制約する(高い合意中程度の証拠)。環境的に適切なインフラと技術に関するイノベーションと投資は温室効果ガス排出量を減少させることができ、気候変動回復力を増強する(非常に高い確信度)。 {4.1}

気候変動への脆弱性、温室効果ガス排出量、および適応と緩和の能力は、生計、ライフスタイル、行動、および文化によって強く影響を受ける(中程度の合意)。また、気候政策の社会的容認性および/または有効性は、やる気を起こさせる程度またはライフスタイルもしくは行動における地域的に適合した変化に依存する程度によって影響を受ける。 {4.1}

多くの地域と部門にとって、緩和と適応への能力の強化は、気候変動のリスクを管理するために絶対必要な基礎部分である(高い確信度)。ガバナンスにおける調整と協力だけでなく制度の改善も、緩和、適応、および災害リスクの減少に関連する地域的な制約を克服するのを助けることができる(非常に高い確信度)。 {4.1}




4.2 適応応答の選択肢
適応の選択肢は全ての部門において存在するが、実行の状況と気候関連のリスクを減少させる可能性は部門および地域で異なる。一部の適応応答はかなりの相乗便益、相乗作用、およびトレードオフを含む。増大する気候変動は多くの適応の選択肢に対する課題<challenges>を増加させるだろう。 {4.2}
適応の経験は、公的および私的部門において、ならびにコミュニティー内で、地域にわたって蓄積されつつある。社会的(地方および現地を含む)、制度的、および生態系ベースの方策の価値ならびに適応への制約の程度がますます認識されてきている。適応はいくつかの計画作成プロセスに取り込まれてきているが、応答の実施はより制限されている(高い確信度)。 {1.7, 4.2, 4.4.2.1}

適応の必要性と関連する課題は気候変動と共に増大すると予想される(非常に高い確信度)。適応の選択肢は全ての部門と地域に存在するが、脆弱性軽減の状況、災害リスク管理、または率先した緩和計画作成しだいの多様な可能性とアプローチがある(表SPM.3)。効果的な戦略および活動は、より広範囲な戦略的目標と開発計画内の相乗便益と機会<opportunities>の可能性を考慮する。 {4.2}
表SPM.3:適応を通した気候変動のリスク管理のアプローチ。これらのアプローチは別個というよりもオーバーラップしていると考えられるべきであり、しばしば同時に推し進められる。例は特別な順序で提示されているのではなく、一つの分類よりも多くに関連していることもあり得る。 {Table 4.2}
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4.3 緩和のための応答の選択肢
緩和の選択肢はあらゆる主要な部門で利用可能である。最終使用部門のエネルギー使用と温室効果ガス集約度<GHG intensity>を減少させる方策、エネルギー供給を脱炭素化させる方策、正味の排出量を削減する方策、および陸域部門における炭素吸収源を増強する方策を組み合わせた統合アプローチをとれば、緩和の費用効果をよくすることができる。 {4.3}
排出量削減において、個々の技術や部門に焦点を合わせるよりも、よく計画された体系的で部門横断的な緩和戦略の方が、一つの部門の努力が他の部門における緩和の必要性に影響を与え、より費用効果がよい(中程度の確信度)。緩和策は相乗便益または不都合な副作用の可能性を生み出す他の社会的目標と交差する<intersect>。これらの交差は、良く管理されれば、気候活動に取りかかるための基礎を固める。 {4.3}

ベースライン・シナリオと、温室効果ガス濃度を低レベル(約450ppmCO換算、工業化前のレベルに対して2℃未満の温暖化に抑制する可能性が高い)に抑制する緩和シナリオの排出量の範囲を部門別とガス種別で図SPM.14に示す。このような緩和のゴールを達成するための主要な方策には、不名誉な開発<compromising development>をせずにベースライン・シナリオに対してエネルギー需要を減少させるため、脱炭素化(例えば、炭素集約度<carbon intensity>を減少させる)発電も、効率向上や行動変化も含まれる(確実な証拠高い合意)。2100年までに450ppmCO換算濃度に到達するシナリオにおいては、エネルギー供給部門からの世界のCO排出量は次の10年にわたって下降すると予測されており、2040〜2070年に2010年のレベルより90%またはそれ以上削減するという特徴がある。低濃度安定化シナリオ(約450〜500ppmCO換算、少なくとも工業化前のレベルに対して2℃の温暖化に抑制する可能性がどちらも同程度)の大多数においては、低炭素電力供給(再生可能エネルギー(RE)、原子力、およびBECCSを含むCCSからなる)のシェアは2050年までに現在のシェアから約30%〜80%以上増加し、CCSなしの化石燃料発電は2100年までにほとんど完全に廃止される。

エネルギー需要における近い将来の削減は、費用効果のある緩和シナリオの重要な要素であり、エネルギー供給部門における炭素集約度の削減に更なる柔軟性<flexibility>を与え、関連する供給側のリスクに対してヘッジし、炭素集約的<carbon-intensive>インフラへの固定<lock-in>を回避し、さらに数々の重要な相互便益に関連する。林業における最も費用効果のある緩和の選択肢は、地域による相対的な重要性に大きな相違はあるが、植林、持続可能な森林管理、および森林伐採の減少である;農業では、農耕地管理、放牧地管理、および有機質土壌の回復である(中程度の証拠高い合意)。 {4.3, Figures 4.1, 4.2, Table 4.3}
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図SPM.14:ベースライン(淡い色の棒)と、2100年に450(430〜480)ppmCO換算濃度(工業化前のレベルに対して2℃未満である可能性が高い)に達する緩和シナリオ(濃い色の棒)における各部門によるCO排出量と全部門の全非CO温室効果ガス(京都ガス)。最終使用部門における緩和が上流エネルギー供給部門における間接的な排出量削減にもつながる。それゆえ最終使用部門の直接的な排出量には例えば電力需要の減少による供給側の排出削減の潜在力は含まない。グラフの下の数字はその範囲に含まれているシナリオの数を示す(上段:ベースラインシナリオ;下段:緩和シナリオ)、シナリオの数は部門で異なり、モデルの異なった部門解像度<sectoral resolution>と対象期間により期間も異なる。緩和シナリオの排出量の範囲は緩和の選択肢の完全なポートフォリオを含む;多くのモデルはCCSなしでは2100年までに450ppmCO換算濃度に達することはできない。電力部門における負の排出量はBECCSの利用による。「正味の」植林は植林や森林再生だけでなく森林伐採活動を考慮している(訳注:正味の植林=植林等−伐採等)。 {4.3, Figure 4.1}
行動、ライフスタイル、および文化は、特に技術的構造的変化が補足する場合、いくつかの部門における高い緩和の可能性と共に、エネルギー使用とそれに関連する排出量にかなりの影響を及ぼす(中程度の証拠中程度の合意)。排出量は、消費パターン、エネルギー節約策の採用、食習慣の変更、および食品廃棄物の削減における変化を通して、かなり低下させることができる。 {4.1, 4.3}



4.4 適応と緩和、技術、および資金供給のための政策アプローチ
効果的な適応と緩和の応答は、多くの段階(国際的、地域、国、地方)にわたる政策と方策によるだろう。気候変動に応答するための技術の開発、普及、および移転、ならびに資金供給を支える全ての段階にわたる政策は、適応と緩和を直接的に促進する政策の有効性を補うと共に強化することができる。 {4.4}
効果的な緩和にとって国際協力が決定的に重要であるが緩和が地方の相乗便益をもたらすこともできる。適応は主に地方から国の段階の結果に焦点を合わせるが、その有効性は国際協力を含むガバナンスの段階にわたる協力を通して強化することができる。 {3.1, 4.4.1}
 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)は、気候変動を扱うことに焦点を合わせたマルチラテラルな場<forum>であり、ほとんど全世界が参加している。ガバナンスの異なったレベルで組織された他の制度は国際的な気候変動の協力を多様にした。 {4.4.1}
 京都議定書は、特に、参加、実行、柔軟なメカニズム、および環境的有効性に関して、UNFCCCの究極の目的の達成に向けたレッスン<lessons>を提供する(中程度の証拠低い合意)。 {4.4.1}
 地域、国、および地方の気候政策の間の政策のつながり方で緩和の便益が変わる(中程度の証拠中程度の合意)。潜在的な利点には、より低い緩和費用、排出リーケージ<emission leakage>の減少、および市場流動性の増加が含まれる。 {4.4.1}
 対応の計画作成と実行を支える国際協力は歴史的には緩和より注目されてこなかったが、(現在は)注目されつつあり、国と地方のレベルで、適応に関する戦略、計画、および活動の創設を助けている(高い確信度)。 {4.4.1}
第4次報告書以降、適応と緩和の両方に関する国と地方の計画と戦略は、多数の目標を統合するようにデザインされた政策にますます焦点を合わせることで、相乗便益を増加させると共に不都合な副作用を減少させている(高い確信度)。 {4.4.2.1, 4.4.2.2}
 国の政府は、活動を調整し枠組を提供し援助することを通して、適応の計画作成と実施に主要な役割を果たしている(高い合意確実な証拠)。地方政府と私的部門は、地域的に変化する異なった機能を有しているが、コミュニティ、家族、および市民社会の適応のスケールアップにおける役割およびリスク情報の管理と資金供給における役割を与えられ、適応の進展に決定的に重要であることがますます認識されたきた(中程度の証拠高い確信度)。 {4.4.2.1}
 適応を計画作成と意思決定に統合することを含む、適応のガバナンスの制度的次元<Institutional dimensions>は、計画作成から適応の実施への移行を促進する鍵となる役割を演じる(高い合意確実な証拠)。多数の関係者を巻き込む制度的アプローチの例には、経済的選択肢(例えば、保険、官民連携)、法律と規制(例えば、土地区画法)、および国と政府の政策と計画(例えば、経済的多様化)が含まれる。 {4.2, 4.4.2.1, 表SPM.3}
 原理的に、キャップ・アンド・トレード・システムと炭素税を含む炭素価格を設定するメカニズムは費用効果のよい方法で緩和を達成できるが、一部は政策デザインや国の状況による副作用を伴いがなら実施されてきた。キャップ・アンド・トレード・システムの短期的効果は、ゆるいキャップまたは抑制が証明されないキャップの結果として、限定されてきた(限定的証拠中程度の合意)。いくつかの国では、明確に温室効果ガス排出量の削減を目指した税ベースの政策が、技術と他の政策と共に、温室効果ガス排出量とGDPの間のつながりを弱めるのを助けた(高い確信度)。加えて、多くの国において、燃料税(必ずしも緩和の目的のためにデザインされてはいないが)が部門別の炭素税に類似する効果を上げてきた。 {4.4.2.2}
 規制のアプローチと情報による方策<information measures>は広く使われ、しばしば環境的に有効である(中程度の証拠中程度の合意)。規制のアプローチの例にはエネルギー効率基準が含まれる;情報のプログラムには消費者がより詳細な情報を得た上で判断することを助けるラベリング・プログラムが含まれる。 {4.4.2.2}
 部門特有の緩和政策は経済全般に及ぶ政策よりも広く使用されてきた(中程度の証拠高い合意)。部門特有の政策は、部門特有の障壁または市場の失敗を扱うのにより適しているかもしれず、相補的なパッケージに一括されるかもしれない。理論的にはより費用効果があるが、経済全般を扱う政策は行政的および政治的障壁によってより実行しにくくなるかもしれない。緩和政策間の相互作用は相乗作用を有するかもしれず、あるいは排出量削減に関して付加する効果はないかもしれない。 {4.4.2.2}
 補助金の形の経済的手法は部門にわたって適用されるかもしれず、戻し減税または控除、助成金、貸し付け、および与信枠のような種々の政策デザインを含む。多くの要素によって動機付けられた、補助金を含む再生可能エネルギー(RE)政策の数と種類の増加が、最近のRE技術の成長の拡大を駆動してきた。同時に、様々な部門において温室効果ガス関連活動への補助金を削減しても、社会的および経済的状況により、排出量削減を達成することができる(高い確信度)。 {4.4.2.2}
緩和の相乗便益と不都合な副作用は、人間の健康、食料安全保障、生物多様性、地方の環境品質、エネルギー・アクセス、生計、および公平で持続可能な開発のような他の目的の達成に影響を与え得る。エネルギー最終使用の方策の相乗便益の可能性は不都合な副作用の可能性より勝っているが、これは全てのエネルギー供給と植林の方策に関して事実というわけではない。一部の緩和政策は一部のエネルギーサービスの価格を上昇させ、社会が現代的エネルギー・サービスへのアクセスをサービスが十分でない人々に拡大する能力を阻害し得るであろう(低い確信度)。エネルギー・アクセスに関するこれらの潜在的な不都合な副作用は、戻し所得税<income tax rebates>または他の利益移転メカニズムのような相補的政策を採用することによって回避することができる(中程度の確信度)。副作用が生じるかどうか、および副作用がどの程度生じるのかは、場合と場所に特有であり、地方の状況と実行の程度、範囲、および速さによるだろう。多くの相乗便益と不都合な副作用は十分な定量化はなされてこなかった。 {4.3, 4.4.2.2, Box 3.4}

技術政策(開発、普及、および移転)は、国際的から地方までの全ての段階にわたって他の緩和政策を補足する;多くの緩和の努力は技術の普及と移転ならびに管理方法に決定的に依存する(高い確信度)。政策はR&Dにおける市場の失敗を扱うために存在するが、技術の効果的な使用は地方の状況に適切な技術を採用する能力にも依存し得る。 {4.4.3}

排出量の十分な削減は投資パターンの大きな変化を要求するであろう(高い確信度)。2100年までに430〜530ppmCO換算の範囲の濃度(オーバーシュートなし)に安定化させる緩和シナリオ(注19)においては、主要な部門(輸送、工業、および建築)における低炭素電力供給とエネルギー効率に関する年間投資額は、2030年以前に年間数千億ドルまで上昇すると予測されている。適切な権利が付与された状況<enabling environments>の範囲内で、私的部門は、公的部門と一緒に、緩和と適応に資金供給を行う重要な役割を果たすことができる(中程度の証拠高い合意)。 {4.4.4}

適応のための資金供給の資源は、先進国と開発途上国の両方で、緩和のためよりもゆっくりと利用可能になってきた。世界の適応の必要性と適応のために利用可能な資金の間にギャップが存在することを限られた証拠が示している(中程度の確信度)。世界の適応のための費用、融資<funding>、および投資のよりよいアセスメントが必要である。災害リスク管理と適応のための国際的資金供給の間の潜在的な相乗作用はまだ十分には実現されてきていない(高い確信度)。 {4.4.4}


(注19)この範囲は、2100年までに430〜480ppmCO換算に達するシナリオ(工業化前に対して2℃未満の温暖化の可能性が高い)と、2100年までに480〜530ppmCO換算に達するシナリオ(オーバーシュートなし、工業化前に対して2℃未満の温暖化の可能性がどちらかと言えば高い)を含む。

4.5 持続可能な開発とのトレードオフ、相乗作用、相互作用
気候変動は持続可能な開発への脅威である。それにもかかわらず、統合された対応を通して、緩和、適応、および他の社会的目標の追求を結び合わせる多くの有利な状況<opportunities>が存在する(高い確信度)。実施の成功は、妥当な手段<tools>、適切なガバナンス構造、および強化された応答能力に依存する(中程度の確信度)。 {3.5, 4.5}
気候変動は社会と自然のシステムへの他の脅威を悪化させ、特に貧困層に追加的な重荷を負わせる(高い確信度)。気候政策を持続可能な開発と同じ立場に置くためには、適応と緩和の両方に注意を払う必要がある(高い確信度)。世界の緩和活動の遅延は気候変動回復力のある経路と将来の適応の選択肢を減少させるかもしれない。適応と緩和の正の相互作用を生かす有利な状況は、特に適応の限界を超えている場合は、時間と共に減少するかもしれない。気候変動への緩和と適応の努力が増加すると、相互作用、人間の健康、水、エネルギー、土地利用、および生物多様性が結びつき、相互作用の複雑さが増大することになる(中程度の証拠高い合意)。 {3.1, 3.5, 4.5}

戦略と活動は直ちに追い求めることができ、持続可能な開発のために気候変動回復力のある経路に向けて進むだろう、同時に、生計、社会的経済的幸福、および効果的な環境管理の増進を助けることがそのような戦略の重要な要素であり得る。いくつかの場合、経済的多様化はそのような戦略の重要な要素であり得る。統合された対応の有効性は、妥当な手段、適切なガバナンス構造、および適切な制度的な能力と人間の能力によって高めることができる(中程度の確信度)。統合された対応は、エネルギー計画作成と実施;水、食料、エネルギー、および生物学的炭素隔離<biological carbon sequestration>の間の相互作用;ならびに都市計画に特に関連し、回復力の強化、排出量削減、およびより持続可能な開発のための有利な状況を提供する。 {3.5, 4.4, 4.5}


訳注
(訳注1)原文はIPCCのサイトで公開されています(2014年11月2日公開)。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)から、この翻訳文を公開することについて許諾を受けてはいませんが、誰にでも無料で広告なしにインターネット上で公開された英文の著作物を日本語に翻訳して、誰にでも無料で広告なしにインターネット上で公開することは著作権法上問題ないものと考えます。例えば、アメリカの著作権法のようにフェアユースの規定がある場合は、フェアユースに該当すると考えます。日本ではフェアユースは検討はされているようですが、まだ日本の著作権法にフェアユースの規定はありません。しかし、この翻訳文のインターネット上の公開はIPCCのいかなる財産権もいささかも損なっておらず、著作人格権にも十分に配慮しているので、日本の著作権法においても問題ないと考えます。
 翻訳はできる限り正確に行っているつもりですが、翻訳文に誤訳およびその他の誤りがあったとしても翻訳者(井上雅夫)はいかなる責任も負いません。この翻訳文は自己責任でご利用ください。
 私(井上雅夫)は温暖化懐疑派ですが、翻訳は私見をまじえず客観的に行っていますので、温暖化脅威派の方も安心してご利用ください。ただし、訳注では私見を述べることがありますので、温暖化脅威派の方はご注意ください。
 なお、私はツイッター上では「井上雅夫(IPCC報告書研究家)」を名乗っています。私の経歴等はこちらをご覧ください。
 ご意見や誤訳のご指摘は井上雅夫(el_conditions_i
)までお願いいたします。

(訳注2)「適応<adaptation>」とは、例えば、海面水位上昇に対して堤防を建設して地球温暖化による悪影響に対応すること。「緩和<mitigation>」とは、COを削減して地球温暖化を和らげること。もちろん、これらはCO温暖化説という仮説を前提にしたものです。私(翻訳者)はCO温暖化説を全く信用していませんが、IPCC報告書の英文を私見をまじえず忠実に日本語に翻訳しています。

(訳注3)「海洋の温暖化は、気候システムに蓄積されたエネルギーの増加において優位を占めており、1971〜2010年に蓄積されたエネルギーの90%以上を占め(高い確信度)、大気中に蓄積されたエネルギーは約1%に過ぎない」と記載されています。蓄積された熱は、海洋:90%以上、大気:約1%なので、約9%未満が行方不明の熱<the missing heat>ということになります(NASA発表「地球の深海は温暖化していない」参照))。


(訳注4)IPCC第5次報告書の全体構成

IPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の組織)は、これまで第1次報告書(1990年)、第2次報告書(1995年)、第3次報告書(2001年)、第4次報告書(2007年)を発表してきました。今回の報告書は第5次報告書(2013〜2014年)です。ここで翻訳したのは、IPCC第5次報告書 統合報告書 政策決定者向け要約(英文で40頁)ですが、第5次報告書全体は次に示すように極めて膨大な報告書群(要約7種類、報告書4種類)です。頁数は全て英文の頁数です。

IPCC第5次報告書 合計5645頁
統合報告書 合計139頁
  政策決定者向け要約(これの日本語訳がこの井上訳文科省、経産省、気象庁、環境省訳)、報告書
第1作業部会報告書(自然科学的根拠) 合計1552頁
  政策決定者向け要約(井上訳気象庁訳)、技術要約(気象庁訳)、報告書(第1章〜第12章)
第2作業部会報告書(影響・適応・脆弱性) 合計1846頁
  政策決定者向け要約(環境省訳)、技術要約、報告書(第1章〜第30章)
第3作業部会報告書(気候変動の緩和) 合計2108頁
  政策決定者向け要約、技術要約、報告書(第1章〜第16章)
以上の報告書は全てIPCCのサイトで入手できます。第1〜3作業部会の報告書については、それぞれの表紙の写真をクリックすると入手できます。IPCCの報告書の原本は英文ですが、政策決定者向け要約については、国連の公用語であるアラビア語、中国語、フランス語、ロシア語、スペイン語についてIPCCが翻訳文を作成します。

日本語は国連の公用語ではないのでIPCCは日本語訳を作成しませんが、日本の気象庁、環境省、経産省、文科省が政策決定者向け要約と技術要約の日本語訳を作成して各省庁のサイトで公表します。現在公表されている日本語訳は第1作業部会(気象庁訳)、第2作業部会(環境省訳)の政策決定者向け要約だけです。ちなみに、私の翻訳(井上訳)は統合報告書(この頁)と第1作業部会報告書の政策決定者向け要約です。

現時点(2015年2月15日)では、統合報告書の政策決定者向け要約の環境省訳は公表されていません。これは、第3部会報告書(2014年4月13日公表)の要約の経産省訳がいまだに公表されていないからと推測します。表SPM.2の「原子力段階的廃止」が第3作業部会の表SPM.2にも記載されているので、これが経産省の政策と整合しないため、経産省は第3作業部会の要約の経産省訳の公表を見合わせているのではないかと推測します。したがって、当分は、最も多くの人に読まれる統合報告書の政策決定者向け要約の日本語訳はこの井上訳だけですので、是非ご利用ください。(2015.02.15追記)


今日(2015年4月19日)、環境省のサイトをアクセスしたら、IPCC第5次報告書 統合報告書の「政策決定者向け要約」文科省、経産省、気象庁、環境省による確定訳(2015年3月31日公表)がひっそりと公開されていました。環境省の新着情報一覧には何も掲載されず、環境省のツイッターアカウントのツイートもなく、ひっそりとです。また、気象庁のサイトをアクセスすると、3月31日付けで上記の統合報告書 政策決定者向け要約の日本語訳と共に、第1作業部会報告書 技術要約(気象庁訳)がこれもひっそりと公開されていました。気象庁の新着情報一覧には技術要約に対してのみ単にリンクが張られているだけで、気象庁のツイッターアカウントのツイートもありません。昨年春に公開された第3作業部会報告書 政策決定者向け要約の日本語訳(経産省翻訳担当)はまだ公開されていません(注1)。地球温暖化に関連する各省庁のIPCC第5次報告書への対応は何故か寒冷化しているようですね(笑)。(2015.04.19追記)
(注1)1年たっても日本語訳が公開されないのは、統合報告書 政策決定者向け要約27頁(ポインタを下に移動させ頁入力欄に「33」を入力)の表SPM.1の「原子力フェーズアウト」(井上訳では「原子力段階的廃止」)が、経産省にとって都合が悪いからかもしれませんね。「原子力フェーズアウト」では経産省にとって地球温暖化は何のメリットもなく、逆に「原子力フェーズアウト」でのCOの大幅な削減は日本経済に大きなマイナスになるだけですから。そこで、経産省の皆さん、以下の(訳注5) (訳注6) (訳注7)を是非お読みください! きっと道が開けますよ。


(訳注5)20世紀半ば以降の温暖化の原因は温室効果ガス。では20世紀前半は?

この要約(IPCC第5次報告書 統合報告書 政策決定者向け要約)の「1.2 気候変動の原因」には次のように記載されています。
人為起源温室効果ガス排出量は、工業化前の時代以来、主に経済成長と人口の増加にともない増加し、過去と比較して現在が最も多い。これが、少なくとも過去80万年間で前例のない二酸化炭素、メタン、および一酸化二窒素の大気中濃度をもたらした。その影響は、その他の人為的駆動要素の影響と共に、気候システムを通して検出されてきており、20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な原因であった可能性が極めて高い
要するに、人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因であるというIPCCの知見です。

以下の図Y5.1の左図(A)はこの要約の図SPM.1(a)の世界平均地上気温偏差のグラフです。このグラフでは3つの気温のデータセットが色別で重ねて描かれています。右図(B)はIPCC第5次報告書 第1作業部会第2章(180頁)のボックス2.2図1(a)の世界平均地上気温偏差のグラフです。図(A)は3つのデータセット、図(B)は1つのデータセットで、縦軸の気温偏差の基準となる温度も異なっていますが、どちらも世界平均地上気温偏差で基本的に同じグラフです。なお、図(A)の黒(他のデータセットと一致する部分は他の色が重ねて描かれているので黒は見えない)が図(B)のオレンジ色と同じデータセット(HadCRUT4)です。
y5_f1.jpg
図Y5.1(B)には3本の直線が描かれていますが、これらは1901〜2012年、1901〜1950年、1951〜2012年の気温データについて最小二乗法という科学的手法を用いて引かれた直線です。長い直線(1901〜2012年)は20世紀初頭以降の温暖化の傾向を示し、左の直線(1901〜1950年)は20世紀前半の温暖化の傾向を示し、右の直線(1951〜2012年)は20世紀半ば以降の温暖化の傾向を示しています。

上記のIPCCの知見は、図Y5.1(B)の右の直線(1951〜2012年)で示される20世紀半ば以降の温暖化について、その支配的な原因は人為起源温室効果ガスであるというものです。ところが、この直線の傾きと20世紀前半の温暖化の傾向を示す左の直線の傾きはほとんど同じように見えます。

実際、図Y5.1(B)をパワーポイント(プレゼンテーション用ソフト)に貼り付け、右の直線をなぞった直線を作成し、その直線をカーソルキーを使って平行移動させると左の直線に完全に重なります(誤差は直線の太さより遙かに小さい)。つまり、20世紀半ば以降(1951〜2012年)の温暖化と20世紀前半(1901〜1950年)の温暖化は、気温上昇率が全く同じなのです。

IPCCの知見によれば、20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因が人為起源温室効果ガスなのですから、同じ気温上昇率の20世紀前半の温暖化の支配的な原因も、やはり人為起源温室効果ガスではないでしょうか。ところがIPCC第5次報告書には20世紀前半(1901〜1950年)の温暖化の原因については何も記載されていないのです。

以下の図Y5.2は、この要約の図SPM.1(a)(上記図Y5.1(A)と同じ)の世界平均地上気温偏差のグラフに、同図(c)の世界平均温室効果ガス濃度(CO、CH、NO)のうち、温暖化に最も寄与が大きいとされるCO濃度(緑)を重ねた図です。緑色の線は大気中のCO濃度を測定したデータ、緑色の点は氷床コアに含まれている昔の空気を測定したデータに基づいています。
 y5_f2.jpg
図Y5.2の20世紀半ば以降(1951〜2012年)を見ると、気温が急上昇すると共にCO濃度も急上昇しています。この図からCOが気温上昇の原因であるという因果関係を導き出すことはできませんが、気温とCO濃度の間に相関関係があることはわかります。図Y5.2の20世紀半ば以降は、上記のIPCCの知見を支持する一つの証拠といえるかもしれません。

でも、あれ? どうしたことでしょう! 図Y5.2の20世紀前半(1901〜1950年)を見ると、気温は急上昇なのに、CO濃度の上昇はなだらかではありませんか!

図Y5.2をパワーポイントに貼り付け、CO濃度のグラフと目盛の位置をパワーポイントのガイドを使って計測し(したがって計測誤差はありますが)10年当たりのCO濃度の上昇率を計算すると、20世紀前半(1901〜1950年)のCO濃度上昇率は+3.2ppm/10年、20世紀半ば以降(1951〜2012年)のCO濃度上昇率は+14.6ppm/10年です。このように、20世紀前半のCO濃度の上昇率は20世紀半ば以降のCO濃度の上昇率より遙かに小さいのです。それなのに、20世紀前半と20世紀半ば以降の気温上昇率は前述のように同じなのです。

図Y5.2の20世紀半ば以降だけを見るのではなく、20世紀前半も合わせて見れば、気温とCO濃度の間に相関関係も因果関係もないことは明らかです。20世紀半ば以降について気温とCO濃度に相関関係があるように見えるのは、単なる偶然によるとしか考えられません。そうすると、人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因であるというIPCCの知見は誤りである可能性が極めて高いと言えるのではないでしょうか。

もし、IPCCやIPCCを支持する科学者が上記のIPCCの知見は正しいと主張したいのであれば、(1)20世紀前半の温暖化の原因は何か、(2)20世紀前半と20世紀半ば以降の温暖化の原因が違うのはなぜか、の両方を説得力のある証拠を用いて説明する必要があります。それができないのであれば、IPCCもIPCCを支持する科学者も上記のIPCCの知見は誤りであったと認めるべきでしょう。

図Y5.1(B)は第1作業部会報告書第2章に掲載されている図なので、IPCCは、20世紀前半と20世紀半ば以降の気温上昇率が同じであることを知っていたことになります。また、図Y5.2はこの要約の図SPM.1(a)に(c)のCO濃度を重ね合わせたものなので、IPCCは、20世紀前半も合わせて見れば、気温とCO濃度の間に相関関係も因果関係もないことも知っていたはずです。

IPCCは、それらを知った上で、温室効果ガス温暖化説に都合の良い20世紀半ば以降の温暖化だけを取り上げ都合の悪い20世紀前半の温暖化は知らんぷりして、人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因であるという虚偽の知見を発表したことになります。このような都合の良い点だけ取り上げ都合の悪い点は知らんぷりするというIPCCの手法は科学的手法といえるのでしょうか?

  ご意見等は井上雅夫
el_conditions_i.JPG または ツイッター)までお願いいたします。IPCCの知見は正しいと主張される科学者の方から、 以下の質問(1)〜(3)についてご教授いただければ幸いです。
 (1)20世紀前半の温暖化の原因は何か
 (2)20世紀前半と20世紀半ば以降の温暖化の原因が違うのはなぜか
 (3)都合の良い点だけ取り上げ都合の悪い点は知らんぷりするのは科学的手法かどうか

上記の質問(1)〜(3)のうち質問(1)を江守正多様に質問することができました。是非「(訳注6)環境省主催のシンポジュウムで江守正多様に質問」をお読みください。(2015.02.05追記)


追記1【首相官邸に意見送信】
2014年12月22日、首相官邸に以下の意見を送信し、環境省、経産省、文科省、気象庁の研究機関の地球温暖化分野の科学者から上記の質問(1)〜(3)の回答を得ていただき、税金の無駄遣いを防いでいただくようお願いしました。
地球温暖化研究の税金の無駄遣いについて

 私は地球温暖化に興味があり、「IPCC第5次報告書 統合報告書 政策決定者向け要約」を翻訳しました(環境省訳は現時点では未公表のようです)。http://bit.ly/1t6WxKT
 その訳注として「(訳注5)20世紀半ば以降の温暖化の原因は温室効果ガス。では20世紀前半は?」を作成しました。http://bit.ly/1y3jT7f
 (訳注5)をお読みいただければ、温暖化について知識がない人でも、人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の最も有力な(支配的な)原因であるというIPCCの知見は誤りである可能性が極めて高いことをご理解いただけると思います。
 (訳注5)の最後で、IPCCの知見は正しいと主張する科学者に対して(1)〜(3)の質問をしていますが、誰も答えてくれません。環境省、経産省、文科省、気象庁の研究機関の地球温暖化分野の科学者から質問(1)〜(3)の回答を得ていただければと思います。地球温暖化分野の科学者が質問(1)〜(3)に答えられなければ、人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の最も有力な(支配的な)原因であるというIPCCの知見は虚偽であることが確定します。
 質問(1)〜(3)に誠実に答えることなしに行われる地球温暖化研究は全て税金の無駄遣いであることは明らかです。環境省、経産省、文科省、気象庁の研究機関の地球温暖化分野の科学者から質問(1)〜(3)の回答を得ていただき、税金の無駄遣いを防いでいただきますようお願いいたします。
追記2【日本学術会議と日本気象学会に意見送信】
2014年12月24日、日本学術会議日本気象学会に以下の意見を送信し、上記の質問(1)〜(3)に知らんぷりして地球温暖化研究を続行するのは研究倫理に反すると考えられるので、地球温暖化分野の科学者から質問(1)〜(3)の回答を得て公表していただくようお願いしました。
地球温暖化分野の科学者の研究倫理について

 私は地球温暖化に興味があり、「IPCC第5次報告書 統合報告書 政策決定者向け要約」を翻訳しました。http://bit.ly/1t6WxKT
 その訳注として「(訳注5)20世紀半ば以降の温暖化の原因は温室効果ガス。では20世紀前半は?」を作成しました。http://bit.ly/1y3jT7f
 (訳注5)を読めば、科学者でなくても、人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の最も有力な(支配的な)原因であるというIPCCの知見は誤りである可能性が極めて高いことが理解できます。
 (訳注5)の最後で、IPCCの知見は正しいと主張する科学者に対して(1)〜(3)の質問をしていますが、誰も答えてくれません。これらに地球温暖化分野の科学者が答えられなければ、人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の最も有力な(支配的な)原因であるというIPCCの知見は虚偽であることが確定すると考えます。
 質問(1)〜(3)に知らんぷりして地球温暖化研究を続行するのは研究倫理に反すると考えられますので、地球温暖化分野の科学者から質問(1)〜(3)の回答を得て公表していただきますようお願いいたします。
追記3【日経新聞に問い合わせ】
今日(2015年1月19日)の日経新聞朝刊には、滝順一編集委員の署名記事『温暖化めぐる2つの裂け目、「可能性の窓」開く対策を』が掲載され、『当面はできる限り削減努力を続けて「未来の可能性の窓を開けておく」と国立環境研究所の江守正多・気候変動リスク評価研究室長は話す。』と記載されています。そこで、日経新聞に対して次の問い合わせを行い、上記の質問(1)〜(3)を江守正多氏に取材していただき記事を書いていただくようお願いしました。
滝順一編集委員の「温暖化めぐる2つの裂け目」(1/19朝刊)について

私はIPCC第5次報告書政策決定者向け要約を翻訳し、その訳注として「(訳注5)20世紀半ば以降の温暖化の原因は温室効果ガス。では20世紀前半は?」を作成しました。http://bit.ly/1y3jT7f

(訳注5)をお読みいただければ、人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の最も有力な(支配的な)原因であるとのIPCCの知見は誤りである可能性が極めて高いことをご理解いただけると思います。(訳注5)の最後の質問(1)〜(3)を江守正多氏に取材していただき、記事を書いていただければと思います。
1月20日に江守正多氏ご自身がこの記事に関して“日経新聞論説「温暖化めぐる2つの裂け目 『可能性の窓』開く対策を」を受けて”を書いておられます。江守正多氏には、滝順一編集委員の取材に対して、上記の質問(1)〜(3)に正直にお答えいただければと思います。もし上記のIPCCの知見が虚偽であれば、年間3兆円の地球温暖化対策予算は虚偽に基づく税金の無駄遣いとなるのですから(朝野賢司、杉山大志「3兆円の地球温暖化対策予算の費用対効果を問う」参照)。世界的にも巨額の地球温暖化対策費が使われているはずなので、もし上記のIPCCの知見が虚偽であれば、滝順一編集委員は世界的な大スクープをものにできます。もちろん、他紙(他誌)に先を越されなければですが…。(2015.01.21この段落追加)


(訳注6)環境省主催のシンポジュウムで江守正多様に質問

   【江守様の「温暖化はウソだと思っている方へ」の問題点】へ

2015年1月29日に環境省主催のシンポジュウム「気候変動の科学とわたしたちの未来〜IPCC作業部会共同議長を迎えて〜」が開催されました。このシンポジュウムの最後に質問の機会を得ましたので、上記の「(訳注5)20世紀半ば以降の温暖化の原因は温室効果ガス。では20世紀前半は?」の簡略版を読み上げ、質問(1)〜(3)のうち質問(1)を江守正多様に質問することができました。以下にその文字起こしを示します。
私(井上)の質問
 井上雅夫と申します。個人の研究家です。
 IPCC第5次報告書の最も重要な知見は「人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因である」(以下「IPCCの知見」と言う。)というものです。この知見に基づいてCOの削減が行われています。
 第1作業部会報告書(の180頁)のボックス2.2表1によりますと、20世紀前半と20世紀半ば以降の10年当たりの気温上昇率はほとんど同じです(注1)。ところが第5次報告書には20世紀前半の温暖化の原因は記載されておりません。
(注1)シンポジュウムの質問では図は示せませんでしたが、図1に示すように、20世紀前半(1901年〜1950年)の気温と20世紀半ば以降(1951年〜)の気温の回帰直線の傾きはほぼ同じです。なお、20世紀初頭から最近まで(1901年〜)の気温も一本の回帰直線で示すことができます。
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 統合報告書の図SPM.1の気温とCO濃度のグラフを比較しますと(注2)、20世紀半ば以降では気温もCO濃度も急上昇で先程の知見に一致します。ところが、20世紀前半では気温は急上昇ですがCO濃度の上昇はなだらかです。
(注2)シンポジュウムの質問では図は示せませんでしたが、図2は気温とCO2濃度(緑)を重ねた図です。20世紀半ば以降(1951年〜)は気温もCO2濃度(緑)も急上昇ですが、20世紀前半(1901年〜1950年)は気温は急上昇でCO2濃度(緑)の上昇はなだらかです。
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 そうすると、先程の知見は間違っている、ということになります。例えば、CO濃度上昇を20世紀前半と同程度に抑制したとしても、20世紀前半と同様に温暖化するかもしれないのです。
 そこで、ご専門の江守様に質問させていただきます。
 20世紀前半の温暖化の原因は何でしょうか?

江守正多様(IPCC第5次報告書 第1作業部会 主執筆者)のご回答
 これは是非トーマス・ストッカーさんに答えていただければと思うんですけれども、僕の知る範囲で申し上げると、IPCCの報告書の要約のところには書かれていないと思いますけれども、10章の気候変動の原因、要因のところには20世紀前半についても様々な原因とどういうふうに関係するか、どのように説明できるかということは書いてあります。僕は今そこに具体的にどのように書いてあるのかは憶えていませんし、詳しく確認できませんけれども、基本的には人為起源の温室効果ガスとエアロゾルと自然起源の変動要因、太陽活動の変動と火山の噴火ですね、これによる影響というのが20世紀前半に起こった観測された気温上昇と整合的であると言えると思います。そのことは20世紀後半の気温上昇が主に人間活動が主要な要因であった可能性が極めて高いこととは矛盾しないというふうには僕は理解しています。是非トーマス・ストッカーさんに。

トーマス・ストッカー様(IPCC第5次報告書 第1作業部会 共同議長)のご回答(英語を井上が翻訳、○○○は聞き取れなかった部分です)
 重要な質問をありがとうございます。その質問は常になされる質問です。それで我々は常にそれに回答する機会があります。瞬間ベースでCOと気温の単純な相関をとるのは誤りです。別の言葉で言いますと、気候システムには複雑な原因があるのですから、気温の時間履歴とCOの時間履歴の単純な相関をとるのは妥当であるとは言えません。それはまた江守さんが仰った自然変動を無視しています。我々はそれを(無視せず)残しておきます。それが20世紀前半にどれだけ重要な役割を果たしたのか。また、それは今も重要な役割を果たしています。例えば、いわゆるハイエイタス、地球温暖化の停滞、1998年以降の15年間の温暖化率は長期間の温暖化率より少し小さい。それも科学者が信じるものであり、これは○○○に関連する内部変動の様々なプロセスです。変化する風にもたぶん関連した変化が北太平洋といくつかの地域的プロセスのパターンを強化し逆も同様であると仮説が説明しています。実際の内部変動が常に重ね合わされていることを理解することが非常に重要です。事実は、気候システムを考える場合、世界の気温の上昇だけでなく、気温のパターンを考えることが重要です。○○○過去60年間すなわち○○○それがCOの増大する唯一の影響と一貫しているからです。これは江守さんが仰ったこととも一致し一貫しています。
江守様は第10章に20世紀前半について記載されていると述べておられます。そこで、第1作業部会報告書第10章を探したところ887頁に「20世紀早期の温暖化<The early 20th century warming>」という項目がありましたので、この項目を翻訳しました。翻訳文はこちらです。この項目では、最初に「世界平均地上気温の記録は20世紀前半の著しい温暖化を示している」ことを認め、この温暖化の原因に関する論文を多数紹介し、結論として「20世紀早期の温暖化が内部変動だけによる可能性は非常に低い。強制力と応答の不確実性および観測範囲の不完全性により、内部変動、自然起源強制力、人為起源強制力からのこの温暖化への寄与を定量化するのは引き続き困難である。」と記載されています。

以上のように、第10章には、20世紀前半の温暖化に関する多くの要因が列挙されているだけで、20世紀前半の温暖化の原因は特定されていません。また、江守様のご回答も、温暖化の要因として人為起源の温室効果ガス、エアロゾル、自然起源の変動要因(太陽活動の変動、火山の噴火)を挙げておられるだけで、20世紀前半の温暖化の原因を特定しておられません。さらにストッカー様のご回答も、江守様が挙げられた要因に内部変動を加えられただけで、20世紀前半の温暖化の原因を特定しておられません。

地球温暖化に関する専門知識は有しないが普通の判断力を有する人(以下「普通の人」と言う。)が上記図2図Y5.2)を見れば、気温とCO濃度の間に相関関係も因果関係もないことを知って、「人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因である」というIPCCの知見は誤りであると判断すると考えられます(以下「普通の人の判断」と言う。)。

この普通の人の判断を覆すためには、IPCCの知見は正しいと主張する科学者が次の質問(1)〜(3)((訳注5)の最後の質問(1)〜(3))の全てに対して説得力のある回答をする必要があると考えます。
(1)20世紀前半の温暖化の原因は何か
(2)20世紀前半と20世紀半ば以降の温暖化の原因が違うのはなぜか
(3)都合の良い点だけ取り上げ都合の悪い点は知らんぷりするのは科学的手法かどうか
しかし、前述のように、第10章も江守様もストッカー様も質問(1)の「20世紀前半の温暖化の原因は何か?」に答えるのに失敗していますので、上記のIPCCの知見は誤りであるという普通の人の判断は覆らないことになります。

ただし、ストッカー様は「COと気温の単純な相関をとるのは誤り」であると断言しておられます。上記図2図Y5.2)は正にCOと気温の単純な相関を見るための図です。そうすると、上記の普通の人の判断はこのストッカー様の断言によって覆り、上記のIPCCの知見は正しいことになるのでしょうか?

図Y6.1の(A)はIPCC第5次報告書 第1作業部会 第10章の図10.1(a)で、(B)は図(A)に20世紀前半の傾向を示す矢印を加筆したものです。図Y6.1(A)(B)において、横軸は年、縦軸は気温の偏差です。黒は気温の観測値です。赤の曲線は第5次報告書で使われた多数の気候モデル(シミュレーション用ソフト)による過去の気温の再現値の平均値です。薄黄色の細線群の1本1本が各気候モデルの気温の再現値です。(注1)
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図Y6.1(A)の20世紀半ば以降を見ると、気温の観測値(黒)と気候モデルによる気温の再現値の平均値(赤)が非常によく一致しています。(注2)

ところが、図Y6.1(A)の20世紀前半を見ると、気温の観測値(黒)は急上昇なのに、気候モデルによる気温の再現値(赤)はなだらかな上昇です。図Y6.1(B)は図(A)に、気温の観測値(黒)の20世紀前半の傾向を示す矢印(黄緑)と、気候モデルによる気温の再現値(赤)の20世紀前半の傾向を示す矢印(赤)を加筆したものです。

図Y6.1(B)の黄緑色の矢印(観測値の20世紀前半の傾向)と赤色の矢印(再現値の20世紀前半の傾向)を見れば、気候モデルが20世紀前半の気温の再現に失敗していることは一目瞭然です。2〜3年の短期間の相違ではなく、約半世紀にわたる傾向が明確に相違しているのですから、本質的な相違であり、気候モデルに致命的な欠陥があることは明らかです。

もし気候モデルが過去の気温を正確に再現できるのであれば、気候モデルは気候システムを正確に反映している可能性が高く、気候モデルによる将来の気温の予測も正しい可能性が高いといえるかも知れません。しかし、実際には図Y6.1(B)のように気候モデルは20世紀前半の気温の再現に失敗しているのですから、気候モデルが気候システムを正確に反映したものでないことは明らかです。したがって、気候モデルによる将来の気温の予測が当たる保障は全くないということになります。(注3)

図Y6.1はCOだけでなく全ての地球温暖化の要因が組み込まれた気候モデルによる気温の再現です。上記図2図Y5.2)のように単純に気温とCOだけの相関を見ても、図Y6.1のように全ての要因を組み込んだシミュレーションを行っても、20世紀半ば以降は一致するが20世紀前半は一致しないという同じ結果となるのです。そうすると、覆されるべきものは、上記の普通の人の判断ではなく、ストッカー様の「COと気温の単純な相関をとるのは誤り」という断言の方ではないでしょうか。

したがって、『「人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因である」というIPCCの知見は誤りである』という普通の人の判断は、第10章、江守様のご回答、ストッカー様のご回答、ストッカー様の断言のいずれによっても覆されることはないと考えます。そして、上記図2図Y5.2)に図Y6.1(B)を加えることにより、普通の人の判断の正しさがさらに明確になったことになります。

日本では年間3兆円の地球温暖化対策予算が使われており(朝野賢司、杉山大志「3兆円の地球温暖化対策予算の費用対効果を問う」参照)、世界的にも巨額の地球温暖化対策費が使われているはずです。その根拠になるのが上記のIPCCの知見です。したがって、このIPCCの知見の真偽は極めて重要です。江守様もストッカー様も私の突然の質問に十分な準備のないままのご回答であったはずです。また、私としても、(訳注5)とこの(訳注6)をお読みいただいた上で、質問(1)〜(3)の全てについてご回答をいただきたいと思います。

そこで、江守様に次のメール1をお送りしました。
メール1:井上から江守正多様へ(2015年2月5日送信)

20世紀前半と20世紀半ば以降の温暖化について

 井上雅夫です。1月29日のシンポジュウム「気候変動の科学とわたしたちの未来」で質問をさせていただきました。私の質問にご回答いただきありがとうございました。
 私はIPCC第5次報告書 統合報告書 政策決定者向け要約を自分で翻訳しましたが、その訳注として「(訳注5)20世紀半ば以降の温暖化の原因は温室効果ガス。では20世紀前半は?」を作成しました。 http://goo.gl/y4tzKa
 会場での質問はこれを簡略化したものです。
 会場での私の質問とご回答の文字起こしを「(訳注6)環境省主催のシンポジュウムで江守正多様に質問」に掲載させていただきました。 http://goo.gl/jHmwSh
 その文字起こしの後に、ご回答についての私の意見を書かせていただきました。
 IPCCの知見の真偽は極めて重要ですので、(訳注5) (訳注6)をお読みいただき、(訳注5)の最後の質問(1)〜(3)にご回答いただければ幸いです。
江守様に上記のメール1をお送りしましたところ、即日、江守様から次のメール2をいただきました。(2015.02.06追記)
メール2:江守正多様から井上へ(2015年2月5日受信)

Re: 20世紀前半と20世紀半ば以降の温暖化について

シンポジウムならびにメールでのご質問有難うございます。
また、AR5の10章をお調べ頂きありがとうございます。
既に証拠については共有できていると考えられますので、あとは解釈の問題かと思います。

まず3つのご質問に短くお答えします。

(1)20世紀前半の温暖化の原因は何か
人為起源強制力、自然起源強制力、自然変動の組み合わせであると考えられます。ただし、その割合は明らかでありません。

(2)20世紀前半と20世紀半ば以降の温暖化の原因が違うのはなぜか
人為起源強制力、自然起源強制力、自然変動のそれぞれが20世紀前半と後半では異なる変化をしているためです。

(3)都合の良い点だけ取り上げ都合の悪い点は知らんぷりするのは科学的手法かどうか
20世紀前半の気温上昇は気候変動の科学と矛盾しませんので、都合が悪いことではありませんし、IPCC AR5には20世紀前半の気温上昇の記述もあることから、ご質問の前提(都合の良い点だけ取り上げ都合の悪い点は知らんぷりする)はIPCCについて当てはまらないと考えます。

次に、何点か補足いたします。

1.Figure 10.1の見方について
ブログで取り上げていらっしゃる、観測データと気候モデル結果の比較についてです。20世紀前半(特に1910〜1940年)において、多数の気候モデル結果を平均した線(濃い青と赤)は、ご指摘のとおり、観測データ(黒)よりもずっと緩い温度上昇を示しています。多数の気候モデル結果を平均したものは、ランダムな自然変動が打ち消し合うため、自然変動を除いたモデル結果を見ていることになります。一方、観測された実際の気温変動は、自然変動を含んでいます。したがって、この両者がぴったり一致することは一般に期待されません(ぴったり一致しなかったとしても、気候モデルやその背景にある理論が間違っている証拠になりません)。
この図では、個々の気候モデルの結果が重ねて示されています(水色と橙、同じ色の線を重ねているので塗りつぶしたようになっています)が、観測された気温変化はその範囲内に収まっています。これは、気候モデルの結果と観測データが自然変動の不確実性の範囲内で整合的である(矛盾しない)ことを示しています。
20世紀後半(特に1960〜2000年)においては、気候モデルの平均が観測データとぴったり一致しているように見えるので、他の期間もこれくらい合わないと間違いであるように思われるのかもしれませんが、こちらの方がむしろたまたまと見るべきではないかと思います(細かい変動の一致は火山噴火によるものです)。

2.Figure 10.6について
10章の井上さまが翻訳された箇所でも参照されているFigure 10.6が補足情報として役に立つと思います。この図は時間的な相関に基づき気温変動を種々の要因に分解したもので、井上さまが「普通の人」の感覚として気温のグラフとCO2濃度のグラフを比較していることと発想が近い手法といえるでしょう。
緑色の線を見比べて頂くと、人為起源強制力のゆるやかな増加と、太陽強制力のわずかな増加に、ENSO、AMO といった自然変動の影響が加わることで、観測された20世紀前半の変動がほぼ説明できることがおわかり頂けると思います。
ただし、これは単純化された統計解析であり、これだけを信用するわけにはいかないので、他の研究結果も合わせて評価した上で、AR5では20世紀前半の各要因の寄与は定量化できないと結論付けているのです。

3.現時点での理解の不十分さについて
そうは言っても、20世紀前半の気温変動について、科学的な理解が不十分であることはその通りです。Figure 10.1についても、気候モデルがより現実に近ければモデルの平均が観測データにもっと近づくのかもしれませんし、逆に観測データが未だ補正すべきバイアスを持っているのかもしれません。Figure 10.6でも、1910年前後の低温と1940年前後の高温は諸要因で説明しきれていない部分(緑線と黒線の乖離)があります。
過去に行けば行くほど、気温データも放射強制力に関するデータも限られており、不確実性が大きくなります。過去に遡ってデータを測定することはできないので、20世紀前半の気候変動の理解は、後半と比べてどうしても難しい部分が残ります。

一般に、ある理論が明らかに間違いであると主張するには、その理論と明らかに矛盾する証拠が必要だと思います。20世紀前半の気温変動の原因の解明は十分ではありませんが、気候変動の科学と不確実性の範囲内で整合的です。つまり、矛盾していません。

ご不明な点がありましたらまたお尋ねください。

上記の江守様からのメール2への返信として、以下のメール3を江守様にお送りいたしました。(2015.02.09追記)
メール3:井上から江守正多様へ(2015年2月9日送信)

井上雅夫です。ご返信ありがとうございました。また、質問(1)〜(3)にご回答いただきありがとうございました。ご回答の内容は私のサイトに転載させていただきました。http://goo.gl/rL9Kgy
以下、質問(1)〜(3)のご回答に反論させていただきます。

(1)20世紀前半の温暖化の原因は何か
江守様のご回答:人為起源強制力、自然起源強制力、自然変動の組み合わせであると考えられます。ただし、その割合は明らかでありません。

井上の反論:
気温に影響を与えると考えられている全ての要因(人為起源強制力、自然起源強制力、自然変動)の組み合わせで、その割合が明らかでないということは、「20世紀前半の温暖化の原因はわからない」ということだと思います。原因がわからないから、図Y6.1(図10.1(a))のように20世紀前半の気温の再現に失敗しているのだと推測します。

図Y6.1の赤の曲線は多数の気候モデルの再現値(薄黄色)の平均値であるため変動の少ない曲線です。もし観測値(黒)が再現値の平均値(赤)の上下にランダムに変動するのであれば気温の再現に成功しているといえると思います。しかし図Y6.1(B)のように約半世紀にわたる傾向が相違しているのですから気温の再現に失敗していると言わざるを得ません。「20世紀前半の温暖化の原因がわからない」ことと「20世紀前半の気温の再現に失敗している」ことが整合していると考えます。

(2)20世紀前半と20世紀半ば以降の温暖化の原因が違うのはなぜか
江守様のご回答:人為起源強制力、自然起源強制力、自然変動のそれぞれが20世紀前半と後半では異なる変化をしているためです。

井上の反論:
もし、人為起源強制力、自然起源強制力、自然変動が20世紀前半と後半で異なる変化をしているのであれば、21世紀もこれらが異なる変化をする可能性もあるはずです。そうすると21世紀末の予測は当たるも八卦当たらぬも八卦になってしまいます。

20世紀前半の温暖化の原因をきちんと特定するとともに、どのような原理で20世紀前半と20世紀半ば以降の温暖化の原因が異なるのかを解明し、その原理に基づいて21世紀は人為起源温室効果ガスの影響が支配的であることが証明されたときだけ、21世紀末の予測が正しいといえるのだと考えます。

(3)都合の良い点だけ取り上げ都合の悪い点は知らんぷりするのは科学的手法かどうか
江守様のご回答:20世紀前半の気温上昇は気候変動の科学と矛盾しませんので、都合が悪いことではありませんし、IPCC AR5には20世紀前半の気温上昇の記述もあることから、ご質問の前提(都合の良い点だけ取り上げ都合の悪い点は知らんぷりする)はIPCCについて当てはまらないと考えます。

井上の反論:
科学的知見であれば「人為起源温室効果ガスが温暖化の支配的な原因である」となるはずです。なぜなら人為起源温室効果ガスの性質は20世紀前半でも20世紀半ば以降でも同じはずだからです。ところがIPCCの知見は「人為起源温室効果ガスが『20世紀半ば以降の』温暖化の支配的な原因である」です。

わざわざ「20世紀半ば以降の」という限定を入れたのは、温室効果ガス温暖化説に都合の悪い20世紀前半の温暖化に知らんぷりするためとしか考えられません。理論に合わないデータに知らんぷりするのは科学的手法ではないと、私は考えます。理論とデータが合わない場合は理論の方を見直すのが科学的手法であると、私は考えます。


実は、私もこれまでは図Y6.1(図10.1(a))の観測値(黒)と再現値(赤)は全期間にわたってほぼ一致していると思っていました。

ところが図SPM.1の(a)の気温と(c)のCO濃度を重ねた図Y5.2を作成してみて、20世紀前半は気温とCO濃度に相関がないことに初めて気づきました。図SPM.1は統合報告書の政策決定者向け要約のみに掲載された図です。1年前に発表された第1作業部会報告書では気温のグラフは第2章(の193頁)の図2.20、CO濃度のグラフは第6章(の493頁)の図6.11と別々の章に分かれて掲載されていたので、その時点では気づかなかったのです。

図Y5.2で20世紀前半は気温とCO濃度に相関がないことに気づくと、知見の中にある「20世紀半ば以降の」という限定の奇妙さに気づきました。さらに図Y6.1で20世紀前半は気候モデルが気温を再現するのに失敗していることにも気づくことができたのです。是非、江守様にも気づいていただきたいと思います。
上記の井上のメール3の後、以下の【江守様の「温暖化はウソだと思っている方へ」の問題点】の最初の部分に記載したメール4〜8のやり取りがあり、最終的に、質問(1)〜(3)についてのディベートは終了することで合意しました。(2015.02.11;2016.06.29修正)


【江守様の「温暖化はウソだと思っている方へ」の問題点】(2015.12.07追記)      (訳注6)の先頭へ
以上では、メール3以降のメールは公表していませんでした。しかし、江守正多様の「いまさら温暖化論争? 温暖化はウソだと思っている方へ」(以下、「温暖化はウソだと思っている方へ」)を読み、江守様と私(井上)のメールを全て公表することにしました。
メール4:江守正多様から井上へ(2015年2月9日受信)
応答いたしたいと思いますが、その前に、僕が前のメールで書いた3点の補足についても受け止めがありましたらお聞かせ願えますか。それらは問題無くご理解頂けたということでよろしいでしょうか。

メール5:井上から江守正多様へ(2015年2月9日送信)
先程の私のメールは、江守様の前回のメール3点の補足も十分考慮させていただいた上で、(1)〜(3)のご回答について反論させていただいたものです。
3点の補足で江守様が仰りたいことは理解しておりますが、内容に同意しているというわけではありません。
私の先程のメールの(1)〜(3)についての反論から、3点の補足についての私の考えをお酌み取りいただければ幸いです。

メール6:江守正多様から井上へ(2015年2月9日受信)
僕は井上さまと(1)〜(3)の問をめぐってディベートするつもりはありません。
最終的には共通認識に至るか、認識の違いが残るとすればそれは何で、理由は何かをお互いに理解することを目標とした対話の機会として応答させて頂いております。
そのため、井上さまの疑問をよく理解してから応答したいので、補足の内容に同意されない部分がどこかと、その理由について明示して頂くことを希望します。

メール7:井上から江守正多様へ(2015年2月9日送信)
私が知りたいのは質問(1)〜(3)についてだけです。
質問(1)〜(3)については、既に議論が出尽くしているように思います。
私も質問(1)〜(3)についてのディベートの終了に賛成します。

メール8:江守正多様から井上へ(2015年2月10日受信)
承知しました。
ディベートではなく対話をされる気になりましたら、またいつでもご連絡ください。
以上のように、江守様はメール6で、私の質問(1)〜(3)をめぐるディベートは拒否され、対話を希望されました。ネットで調べると、「ディベート」は勝つことが目的、「対話」は価値観をすり合わせてお互いが変わること。私は勝つことを目的としているのではありませんが、私が知りたいのは「人為起源地球温暖化の真偽」で、それを知るために質問(1)〜(3)に対するご回答を得たいのです(もし質問(1)〜(3)に納得できるご回答をいただければ私は温暖化脅威派に転向します)。

また、江守様と価値観をすり合わせる「対話」をするとなると、争点が多岐にわたり泥仕合(注1)になってしまうと思いました。そこで、私はメール7で質問(1)〜(3)についてのディベートの終了に賛成し、江守様からメール8でご了承をいただきました。
(注1)江守様からメール6を受けた時点で、江守様は質問(1)〜(3)に説得力のある回答ができないので、「対話」で泥仕合に持ち込み、引き分けにしようとしていることがわかりました。しかし、それを公表するのは江守様に失礼と考え、これまでメール4〜8を公開していませんでした。しかし、江守様が「温暖化はウソだと思っている方へ」の最後の部分で、『欧米の産業界の一部の意を汲むといわれる組織的な温暖化懐疑論・否定論活動』が存在し『「お前はインチキだ。」「いや,そっちこそインチキだ。」という泥仕合』になってしまい『この状況こそが,組織的な懐疑論・否定論活動の思うつぼなのである』と書かれていることを知り、全てのメールを公開することにしたのです。江守様は温暖化懐疑論者に対して主張されているのと同様なことを、ご自身も行っておられるのです。(2015.12.08追加)
2015.12.02に公開された「温暖化はウソだと思っている方へ」で江守様は、「人為起源の温室効果ガスの増加を条件として気候モデルに与えて20世紀の気候のシミュレーションを行うと,観測された気温上昇と整合的な結果が得られる」と書かれておられます。しかし、図Y6.1を見れば、気候モデルによるシミュレーションの結果(赤)と観測値(黒)が整合しているのは20世紀半ば以降(より厳密には20世紀後半)だけであり、20世紀前半は整合していません(図Y6.1(B)のシミュレーション結果の傾向(赤)と観測値の傾向(黄緑)の矢印参照)。

したがって、20世紀全体にわたってシミュレーション結果(赤)と観測値(黒)が整合しているかのような印象を与える江守様の上記の記述は、人為起源地球温暖化の真偽について読者を間違った方向に導く可能性があります。

もし「20世紀前半の温暖化の原因が何か」がわかっていれば、それを気候モデルに組み込み20世紀全体にわたってシミュレーション結果(赤)と観測値(黒)を整合させることができるはずです。しかし実際には図Y6.1のように、20世紀前半のシミュレーション結果(赤)と観測値(黒)を整合させることはできていません。これは「20世紀前半の温暖化の原因は何か」がわかっていないからです。

もし20世紀前半の温暖化が20世紀半ば以降の温暖化と比較してわずかであれば、20世紀前半を無視することができます。しかし実際には図Y5.1(B)に示すように、20世紀前半の温暖化と20世紀半ば以降の温暖化は同程度なので、20世紀前半を無視するのは不適切です。

20世紀半ば以降の温暖化の原因はわかった。20世紀半ば以降と同程度の20世紀前半の温暖化の原因はわからない。それでどうして21世紀は20世紀半ば以降の原因と同じ原因で温暖化するといえるのでしょうか?(2015.12.08追加)

今回の江守様の記事は2012年の雑誌の記事の一部を省略・編集されたものですが、2015年2月に私とのやり取りがあったのですから、今回の記事では、「20世紀前半の温暖化の原因は何か」がわからないことや、図Y6.1(B)に示すように20世紀前半はシミュレーション結果(赤)と観測値(黒)が整合していないという不利な点についても正直に加筆されて、読者がより正しい判断をできるようにすべきだったのではないでしょうか。

また、「温暖化はウソだと思っている方へ」で江守様は、「温暖化論争をフォローするうえでぜひ知っておいて頂かなければいけないことは,欧米の産業界の一部の意を汲むといわれる組織的な温暖化懐疑論・否定論活動の存在である」と書かれています(注2)

(注2)私はこのような欧米発の温暖化懐疑論を勉強して国内に紹介する解説者ではありません。自分で地球温暖化について調べ考えたこと(結果的に温暖化懐疑論だったわけですが)をこの自分のサイトで発表している者です。
これはブーメランです。なぜなら、多くの温暖化の科学者は国から研究費をもらっているからです。

IPCCは第1次報告書に、人為起源地球温暖化を確信する、枠組条約の国際交渉が開始されるべきと記載し、その2年後、気候変動枠組条約を日本を含む世界195ヵ国に締結させました。その条約の前文には、締約国は人為起源地球温暖化を憂慮する旨が記載されています((訳注9)(注7)参照)。

人為起源地球温暖化を憂慮する旨を記載した気候変動枠組条約の締約国である国から研究費をもらう温暖化の科学者は、欧米の産業界の一部の意を汲んで温暖化懐疑論の活動を行う組織と同じように、国の意を汲んで人為起源地球温暖化は真であるという結果を出さざるを得ないのではないでしょうか。

江守様は環境省の関連組織である国立環境研究所に所属しておられます。もし人為起源地球温暖化はウソだということになってしまえば、環境省の予算も国立環境研究所の予算も大幅に削減されるはずです。したがって、江守様は自分たちの研究費を守るためだけでなく自分たちの職場を守るためにも、人為起源地球温暖化は真であるという論文や記事しか書くことはできないはずです。

江守様は、欧米の産業界の一部の意を汲む組織による温暖化懐疑論を指摘されるのであれば、国から研究費をもらう温暖化の科学者は人為起源温暖化は真であるという論文や記事を書かないと自分たちの研究費や職場を守れない点についても正直に指摘されて、読者がより正しい判断をできるように書かれるべきだったのではないでしょうか。

温暖化はウソだと思っている方へ」を読まれた方は、この江守様の記事だけで判断されるのではなく、ここで私が書いたこともご考慮の上、人為起源地球温暖化の真偽をご判断いただければと思います。


環境省のパブコメ募集に上記(訳注5)とこの(訳注6)に基づいて作成した意見を提出しました。是非『(訳注7)環境省のパブコメ募集に「IPCCの知見は誤りです」と意見提出』、『(訳注9)26%削減目標のパブコメ募集に「地球温暖化はエセ科学」と意見提出』をお読みください。(2015.02.23;12.07追記)


(注1)図Y6.1(A)(B)において、青の曲線(赤からズレた部分だけ見える)は第4次報告書で使われた気候モデルによる再現値の平均値です。薄青色(グレーに見える)の細線群の1本1本が各気候モデルの再現値です。
(注2)ただし、図Y6.1のごく最近については観測値(黒)と気候モデルの再現値(赤)は一致していません。観測値(黒)はほぼ横ばいで、これがストッカー様が述べておられるハイエイタス(地球温暖化の停滞)です。これに対して、気候モデルの再現値(赤)は上昇を続けています。
(注3)地球温暖化の科学者は、「図Y6.1の20世紀半ば以降だけを見れば、気候モデルが過去の気温を正確に再現しているから、気候モデルは気候システムを正確に反映しており、気候モデルによる将来の気温の予測も正しい」と主張するかもしれません。しかし、その主張を正当化するためには、(訳注5)質問(1)〜(3)全てに対して説得力のある回答を行うことが必要です。

第1作業部会報告書 第10章(気候変動の検出および原因特定:世界から地域へ)の887頁の「The early 20th century warming」の項の翻訳文(「第10章」にポインタを置き右クリックして「新しいウインドウで開く」を選択すると別ウインドウで第10章を見ることができます。ポインタを下の方に移動させると頁入力欄が表示され、そこに頁数を入力するとその頁にジャンプできます。)
20世紀早期の温暖化
測器による世界平均地上気温の記録は20世紀前半の著しい温暖化を示している(図10.1a(第10章の879頁))。海表面温度観測に残っている偏りの補正は1950年代の気温のより高い推定値を導くが、1900〜1940年の温暖化を実質的に変えるものではない(Morice et al., 2012)。第4次報告書は「20世紀早期の温暖化は部分的に外部強制力による可能性が非常に高く」(Hegerl et al., 2007b)、人為起源強制力がこの温暖化に寄与した可能性が高いと結論した。この(第4次報告書の)評価は、1949年までの観測された温暖化に太陽および火山の強制力の寄与を見出したShiogama et al. (2006)、および1900〜1949年の地球温暖化への強制力(自然または自然人為結合のどちらか)の寄与の強い証拠を見出したMin and Hense (2006)を含む研究に基づいていた。Ring et al. (2012)は、時系列分析に基づいて、20世紀早期の温暖化の一部は温室効果ガスの増加によると推定したが(図10.6(第10章の888頁)も参照)、内部変動による支配的な寄与を見出した。過去の期間のCMIP5モデル・シミュレーションは強制された20世紀早期の温暖化を示しており(図10.1a(第10章の879頁))、これは第4次報告書および第3次報告書で強調されたより早期の検出および原因特定分析と一貫している。20世紀早期は、検出と原因特定の結果により推定された20世紀にわたる外部強制力の検出(図10.4(第10章の882頁); Gillett et al., 2013; Ribes and Terray, 2013)に寄与し、また1950年にいたる最近1000年にわたって検出された変化に寄与している(図10.19(第10章の918頁); Schurer et al., 2013)。

温暖化のパターンおよびモデルと観測値に残った相違は20世紀早期の温暖化への寄与するものとして循環変化の役割を示しており(図10.2(第10章の880頁))、20世紀早期の温暖化への内部変動の寄与が第4次報告書以降いくつかの出版物で分析されてきた。Crook and Forster (2011)は観測された1918〜1940年の温暖化はほとんどのCMIP3モデルによってシミュレートされたものよりもかなり大きいことを見出した。20世紀早期の温暖化の顕著な特徴はそのパターンであり(Bronnimann, 2009)、そのパターンは北アメリカの温暖な季節、北大西洋、熱帯に続いて、北極の寒冷な季節に、最も著しい温暖化を示すものである。対照的に、他の地域のなかでオーストラリアにおいては異常な温暖化はない(図10.2b(第10章の880頁)参照)。そのような著しいパターンは、この温暖化への地域的な差異に寄与する地域的な寄与要素として循環の変化の役割に注目させる。いくつかの研究は温暖化が、AMOへの応答(Schlesinger and Ramankutty, 1994; Polyakov et al., 2005; Knight et al., 2006; Tung and Zhou, 2013)または内部変動の大きくランダムな表出(Bengtsson et al., 2006; Wood and Overland, 2010)であることを示している。Knight et al. (2009)は、1910〜1940年のAMO(世界平均地上気温に山から谷で約0.1℃寄与すると推定されている循環モード)の負から正へのフェーズ・シフトの性質を究明している (Knight et al., 2005)。それにもかかわらず、これらの研究は外部強制力がこの期間にわたる温暖化へ寄与している可能性が非常に高いという第4次報告書に異議を唱えるものではない。結論として、20世紀早期の温暖化が内部変動だけによる可能性は非常に低い。強制力と応答の不確実性および観測範囲の不完全性により、内部変動、自然起源強制力、人為起源強制力からのこの温暖化への寄与を定量化するのは引き続き困難である。


(訳注7)環境省のパブコメ募集に「IPCCの知見は誤りです」と意見提出

環境省が「日本における気候変動による影響の評価」に関して意見(パブコメ)を募集していました。この意見募集は「気候変動による影響の評価」に関するものであって、「人為起源温室効果ガスによる温暖化の真偽」に関するものではありません。

しかし、意見募集対象である意見具申(案)の「1.1 背景」
には「第5次評価報告書では、…人間による影響が温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高いことなどが示されている」という記載があり、この記載はIPCC第5次報告書の知見「人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因である」に対応しています。このIPCCの知見が誤りであれば、意見具申(案)の中のこのIPCCの知見に基づく全ての記載は誤りということになります。

そこで、意見募集期間内の2015年2月18日に、上記の「(訳注5)20世紀半ば以降の温暖化の原因は温室効果ガス。では20世紀前半は?」と「(訳注6)環境省主催のシンポジュウムで江守正多様に質問」に基づいて作成した意見を、環境省に提出しました。提出した意見から氏名以外の個人情報を削除したものを以下に示します(読みやすくするために改行を追加しています)。同じ内容のpdfファイルはこちらです。ファイルを開いてからポインタを下の方に移動させるとダウンロードできます。複製、配布等ご自由にご利用ください。
日本における気候変動による影響の評価に関する報告と今後の課題について(意見具申)(案)に関連する意見

[1]井上雅夫

[2]
[3]
[4]意見

・意見の該当箇所

 2頁の「1.1 背景」の「第5次評価報告書では、…人間による影響が温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高いことなどが示されている」という記載。


・意見の内容

 IPCC第5次評価報告書には、上記の該当箇所の記載に対応する知見「人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因である」(以下「IPCCの知見」と言う。)が記載されています。


 しかし、IPCC第5次評価報告書の図等に基づいて判断すると、このIPCCの知見は誤りです。


 したがって、この意見具申(案)の中のこのIPCCの知見に基づく全ての記載は誤りです。


・意見の理由

1.温暖化は20世紀半ば以降だけでなく、20世紀前半も温暖化していた

y7_f1_500.jpg  図1はIPCC第5次評価報告書の第1作業部会報告書のボックス2.2図1(a)です。横軸は年、縦軸は気温偏差(℃)です。オレンジ色が気温です。黒の3本の直線のうち右の直線(1951〜2012年)は20世紀半ば以降の温暖化の傾向を示しています。

 左の直線(1901〜1950年)は20世紀前半の温暖化の傾向を示す直線ですが、20世紀半ば以降の温暖化の傾向を示す右の直線と傾きがほとんど同じです。数値的にも、10年当たりの気温上昇率は、左の直線に対応する20世紀前半は0.107℃/10年、右の直線に対応する20世紀半ば以降は0.106℃/10年で、ほぼ同じです(第1作業部会報告書のボックス2.2表1参照)。


 上記のIPCCの知見「人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因である」は、図1の右の直線で示される20世紀半ば以降の温暖化については、その支配的な原因は人為起源温室効果ガスであるとしていますが、それとほぼ同じ気温上昇率である左の直線で示される20世紀前半の温暖化は、なぜか無視しています。


2.20世紀前半も合わせて見れば、気温とCO濃度に相関関係も因果関係もない

y7_f2_500.jpg  図2はIPCC第5次評価報告書の統合報告書 政策決定者向け要約の図SPM.1(a)の世界平均地上気温偏差(3つのデータセットが色別で重ねて描かれている)に、同図(c)の世界平均温室効果ガス濃度(CO、CH、NO)のうち、温暖化に最も寄与が大きいとされるCO濃度(緑)を重ねた図です。

 図2の20世紀半ば以降(1951〜2012年)だけを見れば、気温もCO濃度も急上昇で、「人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因である」というIPCCの知見と整合します。


 しかし、図2の20世紀前半(1901〜1950年)を見ると、気温は急上昇ですが、CO濃度の上昇はなだらかです。図2の20世紀半ば以降だけを見るのではなく、20世紀前半も合わせて見れば、気温とCO濃度の間に相関関係も因果関係もないことは明らかです。20世紀半ば以降について気温とCO濃度に相関関係があるように見えるのは、単なる偶然によるとしか考えられません。


 地球温暖化に関する専門知識は有しないが普通の判断力を有する人(以下「普通の人」と言う。)が図2を見れば、気温とCO濃度の間に相関関係も因果関係もないことを知って、「人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因である」というIPCCの知見は誤りであると判断すると考えられます(以下「普通の人の判断」と言う。)。


 この普通の人の判断を覆すためには、少なくとも、

(1)20世紀前半の温暖化の原因は何か
(2)20世紀前半と20世紀半ば以降の温暖化の原因が違うのはなぜか
の両方に対して説得力のある説明が必要です。

 なぜなら、人為起源温室効果ガスの性質は20世紀前半も20世紀半ば以降も同じはずなので、この(1)と(2)の両方について説得力のある説明がなければ、20世紀前半と20世紀半ば以降の2つの温暖化のうち、20世紀半ば以降の温暖化だけに限定して、その支配的な原因を人為起源温室効果ガスと特定したIPCCの知見は、合理性を欠き、科学的知見とはいえないからです。


3.第5次評価報告書によれば、20世紀前半の温暖化の原因はわからない

 IPCC第5次評価報告書の第1作業部会報告書第10章の887頁に「20世紀早期の温暖化<The early 20th century warming>」という項目があります。この項目は、最初の部分で「世界平均地上気温の記録は20世紀前半の著しい温暖化を示している」ことを認め、この温暖化の原因に関する論文を多数紹介し、結論として「内部変動、自然起源強制力、人為起源強制力からのこの温暖化への寄与を定量化するのは困難である」としています。


 この「20世紀早期の温暖化」の項目の結論は、要するに、20世紀前半の温暖化の原因は、気温に影響を与えると考えられている全ての要因(内部変動、自然起源強制力、人為起源強制力)の組み合わせで、その割合は明らかでない(寄与を定量化するのは困難である)というものです。これは、「20世紀前半の温暖化の原因はわからない」ということと同じです。


 したがって、第5次評価報告書は、上記の普通の人の判断を覆すのに必要な(1)(2)のうち、「(1)20世紀前半の温暖化の原因は何か」に答えるのに失敗したことになります。そうすると、上記のIPCCの知見は誤りであるという普通の人の判断は覆らないことになります。


 ただし、この普通の人の判断は図2の気温とCO濃度の比較から得られたものですので、気温に影響を与えると考えられている全ての要因を考慮すれば、この普通の人の判断が覆り、上記のIPCCの知見は正しいという可能性も残ります。


4.気候モデルは20世紀前半の気温の再現に失敗している

 図3(A)はIPCC第5次評価報告書の第1作業部会報告書の図10.1(a)で、(B)は図(A)に20世紀前半の傾向を示す矢印を加筆したものです。図3(A)(B)において、横軸は年、縦軸は気温偏差(℃)です。黒は気温の観測値です。赤は第5次評価報告書で使われた多数の気候モデル(シミュレーション用ソフト)による過去の気温の再現値の平均値です。薄黄色の細線群の1本1本が各気候モデルの気温の再現値です。

y7_f3_900.jpg
 図3(A)の20世紀半ば以降(1951〜2012年)を見ると、気温の観測値(黒)と気候モデルによる気温の再現値の平均値(赤)が非常によく一致し、これは上記のIPCCの知見と整合しています。

 ところが、図3(A)の20世紀前半(1901〜1950年)を見ると、気温の観測値(黒)は急上昇であるのに対して、気候モデルによる気温の再現値(赤)はなだらかな上昇です。図3(B)の黄緑色の矢印(観測値の20世紀前半の傾向)と赤色の矢印(再現値の20世紀前半の傾向)を見れば、気候モデルが20世紀前半の気温の再現に失敗していることは一目瞭然です。もし観測値(黒)が再現値の平均値(赤)の上下にランダムに変動するのであれば気温の再現に成功しているといえます。しかし、約半世紀にわたる傾向が明確に相違しているのですから、気候モデルに致命的な欠陥があることは明らかです。


 気候モデルによる20世紀前半の気温の再現の失敗は、「20世紀早期の温暖化」の項目の結論「20世紀前半の温暖化の原因はわからない」と整合しています。


 図3はCOだけでなく全ての地球温暖化の要因が組み込まれた気候モデルによる気温の再現です。図2のように単純に気温とCOだけの相関を見ても、図3のように全ての要因を組み込んだシミュレーションを行っても、20世紀半ば以降は一致しますが、20世紀前半は一致しません(気温は急上昇、CO濃度と再現値はなだらかな上昇)。気温とCOだけの図2と全ての要因を考慮した図3は整合しているのです。


 したがって、上記のIPCCの知見は誤りであるという普通の人の判断は、全ての地球温暖化の要因を考慮しても覆されることはないと考えます。そして、図2に図3を加えることにより、普通の人の判断の正しさがさらに明確になったことになります。


5.「人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因である」というIPCCの知見は誤りです

 2015年2月15日の日経新聞朝刊において、安藤淳編集委員の「そもそも温暖化予測は正しいのですか」という問に対して、木本昌秀東京大学教授は「IPCCの第5次報告書は、…完璧ではないが、検証を重ねた末の結果だ。9000本以上の論文を集め、どう転んでもこれしかいえないという内容をまとめてある」と回答されています。


 上記の普通の人の判断は、正にそのIPCC第5次(評価)報告書の図等だけに基づく判断です。地球温暖化に関する専門知識を有していても普通の判断力を有する人であれば、上記の普通の人の判断と同じ判断に到達するはずです。


 したがって、「人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因である」というIPCCの知見は誤りです。


 この意見具申(案)の「1.1 背景」には「第5次評価報告書では、…人間による影響が温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高いことなどが示されている」と記載されていますが、この記載に対応するIPCCの知見は誤りですから、この意見具申(案)の中のこのIPCCの知見に基づく全ての記載は誤りです。


(参考文献)
 以上の意見は、「IPCC第5次報告書 統合報告書 政策決定者向け要約」の井上訳の訳注である以下の(訳注5)(訳注6)に基づいています。
「(訳注5)20世紀半ば以降の温暖化の原因は温室効果ガス。では20世紀前半は?」http://goo.gl/y4tzKa
「(訳注6)環境省主催のシンポジュウムで江守正多様に質問」http://goo.gl/jHmwSh

追記【中央環境審議会の小委員会からの回答】(2015.03.11; 25)
上記のように『環境省のパブコメ募集に「IPCCの知見は誤りです」と意見提出』しましたが、その甲斐なく、2015年3月10日、中央環境審議会より環境大臣に、日本における気候変動による影響の評価に関する報告と今後の課題について、意見具申がなされました。誤ったIPCCの知見に基づいて税金の無駄遣いが続くことになります。

同日、中央環境審議会 地球環境部会 気候変動影響評価等小委員会の事務局の方から「ご意見全体に対する小委員会としての考え方については、結果の公示をしておりますので、そちらをご覧いただければと存じます」とのメールをいただきました。確かに「日本における気候変動による影響の評価に関する意見の募集(パブリックコメント)の結果について」の4番目に私の意見が載っていました。なお、3番目の意見も地球温暖化懐疑派の方の意見です。

私の意見に対する小委員会としての考え方は、私の意見の右欄の「御意見への考え方」に記載されています。その最初の段落では第1作業部会報告書の「D.3 気候変動の検出および原因特定」を引用し、第2段落では第10章の「20世紀早期の温暖化」の項の最後の記載(注1)を引用しています。また最後の段落に記載されている『IPCC第5次評価報告書の第1作業部会報告書「よくある質問と回答」の10.1』は「よくある質問と回答」の43〜44頁(ポンタを下の方に移動して頁入力欄に「47」を入力する)、『第10章図10.6』は「第10章」の888頁です。
(注1)この記載の意味は、上記の私の意見の3.で述べたように「20世紀前半の温暖化の原因はわからない」と同じです。(2015.03.27追加)
この「御意見への考え方」は、IPCC第5次報告書を引用しているだけで、上記の「(1)20世紀前半の温暖化の原因は何か」 「(2)20世紀前半と20世紀半ば以降の温暖化の原因が違うのはなぜか」の両方について説得力のある説明はありませんので、小委員会は上記の普通の人の判断を覆すことに失敗したことになります。

(訳注6)で、IPCC第5次報告書 第1作業部会共同議長のトーマス・ストッカー氏と第1作業部会主執筆者の江守正多氏が普通の人の判断を覆すのに失敗したのに続いて、中央環境審議会 地球環境部会 気候変動影響評価等小委員会も普通の人の判断を覆すのに失敗したのです。

これにより、「人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因である」というIPCCの知見が誤りであることは、なお一層明確になりました。(以上の3段落を2015.03.25追加)

またメールには「本小委員会の江守正多委員より、井上様とのメールでの対話のご提案をいただきました。江守委員との対話を望まれるようでしたら…のメールアドレスまでご連絡頂ければと存じます」ともありました。既に「(訳注6)環境省主催のシンポジュウムで江守正多様に質問」の時点で、江守様からの最後のメールで「ディベートではなく対話をされる気になりましたら、またいつでもご連絡ください」とのお言葉をいただいていました。ネットで調べると、「ディベート」は勝つことが目的、「対話」は価値観をすり合わせてお互いが変わることです。私が知りたいのは「人為起源温室効果ガスによる地球温暖化の真偽」だけです。なぜなら、もし「偽」なら年間3兆円の地球温暖化対策費が税金の無駄遣いであることが確定するからです。また、江守様と価値観をすり合わせるのは困難と思いますので、「対話」はご遠慮させていただきます。



是非『(訳注9)26%削減目標のパブコメ募集に「地球温暖化はエセ科学」と意見提出』もお読みください。(2015.12.08追加)


(訳注8)セクハラ疑惑パチャウリIPCC議長の辞任レターを翻訳

インド:IPCC議長のパチャウリ氏にセクハラ疑惑」(毎日新聞2015年2月22日)の記事には次のように記載されています。
 …被害を訴えているのはパチャウリ氏が所長を務める「エネルギー資源研究所」(TERI)の女性研究者(29)。13年に研究所で働き始めた直後から体を触られたり、携帯電話などから交際を求めるメールを繰り返し送られたりしたなどとして、今月中旬に警察に届け出た。パチャウリ氏は「パソコンや携帯がハッキングされた」と否認しているという。
 一方、21日には元同僚の別の女性が「(自分がいた)10年前にも自分やほかの女性が同様の被害を受けた」と明らかにした。警察はこの女性からも事情を聴くとみられる。
IPCC第5次報告書(注1)は、このパチャウリIPCC議長が監督して作成されたものですが、パチャウリ氏が個人的にセクハラを行ったとしても、IPCC第5次報告書の信頼性に傷がつくことはないでしょう。
(注1)IPCC第5次報告書は(訳注4)に示すように5000頁以上の報告書。その7種類の要約のうちで最も圧縮された要約の日本語訳がこの井上訳
しかし、上記の記事では、パチャウリ氏は「パソコンや携帯がハッキングされた」と述べています。パチャウリ氏としては、自分のパソコンや携帯がハッキングされ自分になりすました者が女性にセクハラメールを送ったと言い逃れしようとしたのでしょう。でも、体を触るハッキング技術は存在しませんし、元同僚の別の女性の証言から見てもパチャウリ氏自身によるセクハラであることは明らかです。

警察がパチャウリ氏のパソコンや携帯を調べればパチャウリ氏が嘘をついたことが確定します。そうすると、IPCC第5次報告書は、嘘つき議長が監督して作成されたものとなり、パチャウリ氏の嘘が第5次報告書の信頼性を大きく傷つけるのではないでしょうか。

2015年2月24日になって、言い逃れができないと観念したためか、パチャウリ氏は辞任レターを国連事務総長に送るとともに、辞任レターのコピーをIPCC事務局長に送り、即日IPCCのサイトで公開されました。以下に辞任レターの翻訳文を示します。
2015年2月24日

ニューヨーク、NY 10017
国連プラザ
国連
事務総長
パン・ギムン閣下

国連事務総長殿

光栄にも私は2002年4月IPCC議長に選出され、2008年に満場一致で2期目の再選出を受けました。IPCC議長としての13年間(この比類のない組織の歴史のほぼ半分の期間)において、私は第4次および第5次報告書、いくつかの影響力のある特別報告書、並びにその他の価値ある作成物の制作を監督する幸運を得ました。この期間をとおして、私は、世界中からの最高の科学的専門家により支援され貢献されながら、パネルの科学的な信頼性、その拡大する政策の妥当性、およびその仕事の頑健性を維持し高めるために努力してまいりました。数千の科学者によってIPCCの仕事に捧げられた時間、才能、および労力はお金では買えない財産であり、それは地球社会への無比の貢献の基礎を構成するものです。

それがIPCCを前例のない深い満足に導く源であることを、いくつかの非常に困難な時期、また危機をはらんだ挑戦に直面するなかで、知りました。しかし、パネルは、2007年には第4次報告書(AR4)を完成させ、さらに2014年には第5次報告書(AR5)を完成させたように、常に卓越した新しい高みに登りました。2007年にIPCCを代表して私がノーベル平和賞の授与を受けた時は、科学コミュニティと私にとって、幸せと希有な栄光の瞬間でした。

2014年11月2日、コペンハーゲンにおいて閣下のご臨席のもとAR5統合報告書(SYR)を公開した際に、私の仕事は終わったこと、そして私のIPCC議長の任期をその日に自発的に終えることを、私は発表するつもりでした。しかし、親しい友人や同僚がその行動に対して、SYRに基づく世界的な広報の努力を続けるよう私にアドバイスしました。私は過去3ヶ月間そうする努力をしてまいりました。そして、私が働く役割が何であろうとも、私の生涯を通じて、たゆみなくそうし続けます。私にとって、惑星地球の保護、全ての種の存続、および我々の生態系の持続可能性は任務以上のものです。それは私の宗教でありヒンズー教の法<my religion and my dharma>です。

ごく近い将来、IPCCには議長の強力なリーダーシップと時間的な献身と細心の注意が必要です。しかし、今週のパネルの総会の議長を務めるために私がナイロビに旅行できないことで示されるように、現在の状況においては、私はそれらを提供することができないかもしれません。そのため、私はIPCC議長の地位を私の任期満了の数ヶ月前である2015年2月24日に辞任する決心をいたしました。どのような形であれ私が求められるのであれば、私はIPCC全体の将来の仕事を助け、支援し、アドバイスさせていただきます。

最後に、国連事務総長殿の長年にわたる非常に貴重なご支援、激励、および鼓舞に対して心より御礼申し上げます。この13年間IPCCの仕事に計り知れないほどの貢献をされた世界中からの数千の科学者の惜しみないご支援のご恩は決して忘れません。IPCCビューローのメンバー、執行委員会、IPCC事務局長、事務局の素晴らしいスタッフ、多くの同僚と友人、そしてもちろんIPCCのメンバーであり光栄にも私がしもべとしてお仕えした195の全ての政府に、心より感謝いたします。選挙で選ばれたIPCCの役員としての仕事の最高の喜びは見返りに金銭的な保障を受けないことであり、それがこの任務をこの上のない満足のレベルに高めます。

私は、ビューローとパネルがIPCCの手続きに沿って即座に行動できますように、このレターのコピーをIPCC事務局長にお送りします。

ありがとうございました。

敬具

R.K.パチャウリ

CC:Renate Christ博士 IPCC事務局長
   Jonathan Lynn様 IPCC連絡報道担当
   Michel Jarraud様 世界気象機関事務総長
   Achim Steiner様 国連事務次長 国連環境計画(UNEP)執行理事
以上のパチャウリ氏の辞任レターは、自分の業績を誇り、セクハラに触れることなく辞任の決意を伝え、関係者への感謝の言葉で結んだ、当たり障りのないものです。ただし、次の1点を除いて…。

第3段落の最後で、パチャウリ氏は「私にとって、惑星地球の保護、全ての種の存続、および我々の生態系の持続可能性は任務以上のものです。それは私の宗教でありヒンズー教の法<my religion and my dharma>です」と述べています。パチャウリ氏は、「惑星地球の保護、全ての種の存続、および我々の生態系の持続可能性」は私の「宗教」であると述べたのです。これはパチャウリ氏の本心の吐露ではないかと思います。

「惑星地球の保護、全ての種の存続、および我々の生態系の持続可能性」の根底にあるもの、それが「人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因である」というIPCCの知見です。このIPCCの知見が、パチャウリ氏にとっての宗教的真理なのでしょう。

宗教的真理は科学的真理とは一致しません。パチャウリ氏の宗教的真理を科学的真理とするために世界中からの数千人の科学者がパチャウリ氏を支援して作成したものがIPCC第5次報告書ではないでしょうか。しかし、上記のIPCCの知見は、宗教的真理ではあるかもしれませんが、科学的真理ではありません。

上記の『(訳注7)環境省のパブコメ募集に「IPCCの知見は誤りです」と意見提出』で、私が環境省のパブコメ募集に対して提出した意見を公開しています。これをお読みいただければ、普通の人(地球温暖化に関する専門知識は有しないが普通の判断力を有する人)であれば、上記のIPCCの知見が科学的真理ではないことをご理解いただけると思います。

(訳注7)は次の(訳注5)(訳注6)に基づいて作成したものです。
(訳注5)20世紀半ば以降の温暖化の原因は温室効果ガス。では20世紀前半は?
(訳注6)環境省主催のシンポジュウムで江守正多様に質問

(訳注6)をお読みいただければ、トーマス・ストッカー氏(注2)も、江守正多氏(注3)も、「IPCCの知見は誤りである」という普通の人の判断を覆すことができなかったことをご理解いただけると思います。
(注2)トーマス・ストッカー氏:IPCC第5次報告書 第1作業部会 共同議長(上記のIPCCの知見を決めた第1作業部会の2人の共同議長のうちの1人)、ベルン大学 気候・環境物理学教授、このnatureの記事の写真の右側がトーマス・ストッカー氏で写真の説明によると次期IPCC議長の候補者の一人(写真の左側はパチャウリ氏)
(注3)江守正多氏:IPCC第5次報告書 第1作業部会 主執筆者、国立環境研究所 地球環境センター 気候変動リスク評価研究室長、地球温暖化懐疑派に対向する懐疑派バスターズの一員(ウィキペディア参照)
普通の人の判断を専門家が覆すことができないという事実が、「人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因である」というIPCCの知見が科学的真理ではないことを明確に証明しています。


(訳注9)26%削減目標のパブコメ募集に「地球温暖化はエセ科学」と意見提出
地球温暖化の科学者の皆様へ
以下の私の意見をお読みいただき、間違いがありましたら、井上雅夫(el_conditions_i.JPG )までお知らせいただければと思います。もし、間違いが見つかりませんでしたら、人為起源地球温暖化はエセ科学であることをお認めいただきたいと思います。(2015.09.06追記)
環境省は「日本の約束草案(政府原案)」関する意見(パブコメ)を募集していました(〆切:2015年7月2日)。この「日本の約束草案(政府原案)」のpfdファイルはこちらですが、その要点は「日本の温室効果ガス排出量を2030年に2013年比26%減の水準にする」というものです。これに対して、2015年6月24日、私の意見を環境省に提出しました。

環境省に提出した意見から住所と電話番号を削除したものを以下に示します。2000字以内の制限を満たすため、提出した意見は最小限の文字数で作成しています。そこで、以下では(注)で補足説明をしています(以下と同じ内容のpdfファイルはこちらです)。(注)は環境省に提出した意見には含まれていません。
件名:「日本の約束草案(政府原案)」に対する意見
○氏名 井上雅夫
○連絡先
 電子メールアドレス el_conditions_i
○職業 IPCC報告書研究家(IPCC報告書自体を研究対象にした研究家)

1.意見対象箇所 A(注1)

2.意見の概要

地球温暖化の研究は気候変動枠組条約で国際合意された人為起源地球温暖化とその悪影響を正当化する研究であり、エセ科学というべきものです。温室効果ガスを26%削減しても気温には影響ありません。


3.意見及び理由

y9_f1_500  IPCC第5次報告書の最も重要な知見は「人為起源温室効果ガスが20世紀半ば以降の温暖化の支配的な原因である」です。

 しかし図1のように20世紀前半も合わせて見れば気温とCO濃度に相関関係も因果関係もありません。上記の知見は、人為起源地球温暖化に好都合な20世紀半ば以降だけに着目し不都合な20世紀前半を無視した知見であり、21世紀に適用できるものではありません。(注2)

 図2Aでは、気候モデルのシミュレーションによる過去の気温の再現値(赤)が気温の観測値(黒)にほぼ一致しているように見えますが、実は図2Bのように、一致しているのは20世紀後半だけで、20世紀前半、21世紀は一致していません(注3)。20世紀後半しか観測値を再現できない気候モデルによる21世紀末の予測が無意味であることは明らかです。
y9_f2_800
y9_f3_400  更に図3のように、20世紀後半の気温の再現値(赤)は、温室効果ガス強制力による高すぎる気温上昇(オレンジ)を負のエアロゾル強制力による気温低下(青)で観測値(黒)に合わせたものです(「エアロゾル強制力のみ」(青)の復元方法はhttp://goo.gl/CrnDbm参照)(注4)。そしてシナリオで21世紀末のエアロゾル強制力(青)を0とすることにより、21世紀末の気温を再現値(赤)の延長線上ではなく温室効果ガス強制力(オレンジ)の延長線上の高い気温としているのです(詳しくはhttp://goo.gl/Cvbmn5参照)。(注5)

 この仕組みにより、図3の正(オレンジ)負(青)の強制力の絶対値を両方とも大きく(小さく)して20世紀後半の気温の再現値(赤)を観測値(黒)に一致させ、21世紀末の気温上昇を大きく(小さく)することができます。21世紀末の気温上昇の予測値は一義的に決まるのではなく、ある範囲内で希望する値に設定可能なのです。(注6)

 IPCCは1990年の第1次報告書に、人為起源地球温暖化を確信する、枠組条約の国際交渉が開始されるべき旨を記載し、1992年に人為起源地球温暖化とその悪影響を前文に記載した気候変動枠組条約を各国に締結させました。(注7)

 このため、各国は温暖化の研究者に多額の研究費を与え、温暖化の研究者は人為起源地球温暖化とその悪影響に合ったデータ収集やシミュレーションを行い(上記のように21世紀末の予測値は設定可能)、IPCCはその論文を集め報告書を作成しているのです。(注8)

 本物の科学は実験や理論を駆使して未知の法則や事実を発見するものです。これに対して、地球温暖化の研究は既に気候変動枠組条約で国際合意された人為起源地球温暖化とその悪影響を正当化する研究であり、エセ科学というべきものです。(注9)

 従って、温室効果ガスを26%削減しても気温には影響ありません。(注11)

 人為起源地球温暖化は条約に基づき法的には真なので、温暖化に多くの予算が投入されるのはやむを得ませんが、温暖化の嘘がばれれば無価値になる気候モデルやCCS等の予算は最小限にし、嘘がばれても価値のある省エネや新エネ等に予算を多く配分すべきです。(注10)

※以下の(注)は環境省に提出した意見には含まれていません(字数制限のため)。

(注1)番号で記載することになっているので「A」と記載していますが、意見の対象箇所の内容は以下のとおりで、その要点は「日本の温室効果ガス排出量を2030年に2013年比26%減の水準にする」です。
日本の約束草案
 2020年以降の温室効果ガス削減に向けた我が国の約束草案は、エネルギーミックスと整合的なものとなるよう、技術的制約、コスト面の課題などを十分に考慮した裏付けのある対策・施策や技術の積み上げによる実現可能な削減目標として、国内の排出削減・吸収量の確保により、2030年度に2013年度比▲26.0%(2005年度比▲25.4%)の水準(約10億4,200万t-CO)にすることとする。


(注2)IPCCの知見と図1について詳細は「20世紀半ば以降の温暖化の原因は温室効果ガス。では20世紀前半は?」参照。

(注3)環境省主催のシンポジュウムにおいて、「20世紀前半の温暖化の原因は何でしょうか?」と質問しましたが、江守正多氏(国立環境研究所)からも、トーマス・ストッカー氏(IPCC第5次報告書 第1作業部会 共同議長)からも、説得力のあるご回答はいただけませんでした(「環境省主催のシンポジュウムで江守正多様に質問」参照)。

y9_f4_500.jpg (注4)図4A(図3と同じ)は、気候モデルによる過去の気温の再現値で、赤は全ての強制力による再現値、オレンジは温室効果ガス強制力のみによる再現値、黄緑は自然起源強制力のみによる再現値、青はエアロゾル強制力のみによる再現値です。黒は観測値です。縦軸は気温です。

図4Bはシナリオで、縦軸は強制力です。強制力とは気温を変化させる力で、正なら気温上昇、負なら気温低下。横軸は図A、図Bとも年です。図Bは21世紀末(2100年)までありますが、過去から現在(2012年)までの目盛の位置を図Aと合わせています。

図Bで、RCP8.5(赤)は温室効果ガスを排出し放題のシナリオ、RCP2.6(青)は温室効果ガスを徹底的に削減するシナリオ、RCP6.0(オレンジ)とRCP4.5(水色)は中間のシナリオです。

気候のシミュレーションでは、気候モデル(シミュレーション用ソフト)を1000億円のスパコンで処理して途轍もなく複雑な計算を行います。しかし、実質的には、図Bの強制力(W/m)が気候モデルへの入力データ、図Aの気温(℃)が気候モデルの出力データであり、地球を1m当たり何W(ワット)で加熱したら気温が何℃になるか、という中学理科なみの計算なのです。

ちなみに、RCP8.5というシナリオは正負の全ての強制力を合わせた正味の強制力(図Bの赤の実線)が21世紀末に8.5W/m(地球を1m当たり8.5Wで加熱)となるシナリオであり、他のシナリオも同様です。

図Bの十分に混合した温室効果ガス強制力(一点鎖線)によって図Aの温室効果ガス強制力のみの高すぎる気温上昇(オレンジ)が得られ、図Bのエアロゾル強制力(破線)によって図Aのエアロゾル強制力のみの気温低下(青)が得られます。

そして、図Bの正の温室効果ガス強制力(一点鎖線)と負のエアロゾル強制力(破線)を合わせた正味の強制力(実線)によって、図Aのオレンジの高すぎる気温上昇を青の気温低下分だけ下げた全ての強制力の再現値(赤)を得て、この再現値(赤)の20世紀後半を観測値(黒)に一致させているのです。

y9_f5_500.jpg (注5)図5A、Bは図4A、Bと同じ、図5Cは気候モデルによる気温の予測値で、横軸の年は図Bに合わせ、縦軸の気温の目盛の間隔は図Aに合わせています(ただし基準年が異なるので気温偏差の数値は異なる)。

図Bで、RCP8.5(温室効果ガス排出し放題)の十分に混合した温室効果ガス(赤の一点鎖線)は21世紀に入ると20世紀後半の直線延長よりも急速に上昇を続けます。

これに対して、図Bのエアロゾル強制力(破線)は現在(21世紀初頭)が負方向に最大で、21世紀末には0になります。エアロゾルはPM2.5のような大気中の微粒子(大気汚染物質)で、21世紀末になれば現在大量にPM2.5を排出している中国等でも公害対策が進むと予想され、21世紀末のエアロゾル強制力は0となるのです。

一般に、「正味の強制力=温室効果ガス強制力の絶対値−エアロゾル強制力の絶対値」の関係がありますが、21世紀末になるとエアロゾル強制力は0となるので「正味の強制力=温室効果ガス強制力の絶対値」となります。

そのため、図BのRCP8.5(赤)の正味の強制力(赤の実線)は21世紀末に近づくにつれて急激に上昇し十分に混合した温室効果ガス強制力(赤の一点鎖線)に近づいていきます。なお、赤の実線が赤の一点鎖線を追い抜いてしまうのは、わずかに正のオゾン強制力(赤の長い破線)の寄与です。

その結果、21世紀末の気温の予測値は図Aの気温の再現値(赤)の延長線上ではなく温室効果ガス強制力(オレンジ)の延長線上の高い気温となります。ただし図Aのオレンジの曲線の直線延長ではなく、図Bに示されているように、RCP8.5(温室効果ガス排出し放題)の場合、21世紀の温室効果ガス強制力(赤の一点鎖線)は20世紀後半の直線延長よりも急速に上昇し、正味の強制力(赤の実線)がこれに近づくので、気温の予測値も図CのRCP8.5(赤)のように急激に上昇することになります。

結局、21世紀末の気温の予測値は、気候モデル自体よりも、気候モデルへの入力データである図Bの強制力(地球を1m当たり何Wで加熱するか)のシナリオをどのように作成するのかにかかっているのです。詳細は「21世紀末温暖化加速のカラクリ」参照。

y9_f6_500.jpg (注6)図6は図5(曲線1)に強制力の絶対値を大きくした場合の曲線(曲線2)を追加した図です。ただし図6Bでは、見やすくするためにRCP8.5(温室効果ガス排出し放題)以外のシナリオは削除し、また説明をわかりやすくするために、わずかに正の強制力を持つオゾン(十分に混合していない温室効果ガス)は削除(無視)し、十分に混合した温室効果ガスを「温室効果ガス」と記載しました。

20世紀後半については、図Bの正の温室効果ガス強制力(赤の一点鎖線)と負のエアロゾル強制力(赤の破線)の絶対値を両方とも大きくして曲線1から曲線2に移行させても、図Bの20世紀後半の正味の強制力(赤の実線)の位置はかわりません。これは「正味の強制力=温室効果ガス強制力の絶対値−エアロゾル強制力の絶対値」という関係があるので、両方の絶対値を同じだけ大きくしても正味の強制力は同じ数値になるからです。

図Bのように20世紀後半の強制力が曲線1から曲線2に移行すると、図Aのように20世紀後半の温室効果ガスのみによる気温(オレンジ)とエアロゾルのみによる気温(青)は曲線1から曲線2に移行します。しかし図Bの20世紀後半の正味の強制力(赤の実線)にかわりはないので、図Aの再現値(赤)は観測値(黒)と一致したままです。つまり20世紀後半については、正負の強制力の両方の絶対値を大きくしても(逆に小さくしても)、図Aの気温の再現値(赤)を観測値(黒)に一致させることができます。

ところが21世紀については、図Bのように温室効果ガス強制力(赤の一点鎖線)については絶対値を大きくした曲線2が曲線1より急速に上昇しますが、エアロゾル強制力(赤の破線)については曲線1でも強制力の絶対値を大きくした曲線2でも21世紀末には0になります。つまり強制力の絶対値を大きくしても21世紀末には「正味の強制力=温室効果ガス強制力の絶対値」となります。

その結果、図Bのように正味の強制力(赤の実線)については強制力の絶対値を大きくした曲線2は21世紀の途中から曲線1から離れてより急激に上昇し21世紀末にかけて温室効果ガス強制力(赤の一点鎖線)の曲線2に近づいていきます。

これにより、図Cのように強制力の絶対値を大きくした21世紀の気温の予測値である曲線2は曲線1より更に急激に上昇を続け、21世紀末の気温上昇をより大きくするのです。

逆に、図Bの20世紀後半の温室効果ガス強制力(赤の一点鎖線)と負のエアロゾル強制力(赤の破線)の絶対値を両方とも小さくして、図Aの20世紀後半の気温の再現値(赤)を観測値(黒)に一致させれば、図Cの21世紀末の気温上昇の予測値を小さくすることができます。

つまり、図Bの20世紀後半の正の温室効果ガス強制力(赤の一点鎖線)と負のエアロゾル強制力(赤の破線)の絶対値を両方とも大きく(小さく)して、図Aの20世紀後半の気温の再現値(赤)を観測値(黒)に一致させれば、図Cの21世紀末の気温上昇の予測値を大きく(小さく)することができるのです。

このように気候モデルによる21世紀末の気温上昇の予測値は一義的に決まるのではなく、ある範囲内で希望する値に設定可能なのです。IPCC第5次報告書による21世紀末の気温上昇の予測値は最大4.8℃ですが、例えば、常に「エアロゾル強制力=0」(エアロゾルは世界平均地上気温に影響しない)と仮定した場合は最大2.7℃になります(「「エアロゾル等強制力=0」のパソコン気候モデルシミュレーション」参照)。つまり、正負の強制力の両方を調節することにより21世紀末の気温上昇の予測値の最大値は2.7℃以上の希望する値に設定可能なのです。

別の言葉で言えば、図Aにおいて20世紀後半の気温の再現値(赤)が観測値(黒)に一致していることは、気候モデルによる21世紀末の気温の予測値の信頼性の根拠には全くならないということです。

(注7)1990年にIPCCが発表した第1次報告書には次のように記載されています。  
 我々は以下のことを確信する。
 ・人間活動に起因する排出によって二酸化炭素、メタン、…といった温室効果ガスの大気中濃度は著しく増加している。これらの増加は温室効果を強めるため、その結果、全体として地球表面に一層の温暖化をもたらすだろう。…
  …
 ▼…枠組み条約についての国際交渉は、この報告書発表後、…可能なかぎり早く開始されるべきである。…
この第1次報告書のわずか2年後の1992年に締結された気候変動枠組条約の前文には次のように記載されています。これはIPCCが第1次報告書で確信した人為起源地球温暖化に悪影響を付け加えたものです。
この条約の締約国は、…
人間活動が大気中の温室効果ガスの濃度を著しく増加させてきていること、
その増加が自然の温室効果を増大させていること並びに
このことが、地表及び地球の大気を全体として追加的に温暖化することとなり、
自然の生態系及び人類に悪影響を及ぼすおそれがあること
を憂慮し、…

(注8)第1次報告書で人為起源地球温暖化を確信したIPCCは、気候変動枠組条約を各国に締結させ、その後、第2次から第5次報告書にかけて、人為起源温室効果ガスが温暖化の原因である可能性を次のように高めています。
第2次報告書(1995年):識別可能な人為的影響が地球全体の気候に現れていることが示唆される。
第3次報告書(2001年):過去50年間に観測された温暖化の大部分は,温室効果ガス濃度の増加によるものであった可能性が高い(66〜100%の可能性)。
第4次報告書(2007年):20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガス濃度の観測された増加によってもたらされた可能性が非常に高い(90〜100%の可能性)。
第5次報告書(2014年):人為起源温室効果ガスの影響は、その他の人為的駆動要素の影響と共に、20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な原因であった可能性が極めて高い(95〜100%の可能性)。
IPCCは第1次報告書では人為起源地球温暖化を「確信」すると記載しましたが、第2次報告書では「人為的影響が…示唆される」としか書けなかったのですから、第1次報告書の「確信」は単なる「固い信念」に過ぎなかったことになります。(2016.01.10追加)

その単なる「固い信念」に基づいて、IPCCは各国に気候変動枠組条約を締結させたのですから、第2次から第5次報告書にかけて、人為起源温室効果ガスが温暖化の原因である可能性を高める以外なかったわけです(2016.01.10追加)

第5次報告書で初めて「その他の人為的駆動要素の影響と共に」が記載されました。これは図4Bの負のエアロゾル強制力(破線)による図4Aの気温低下(青)のことです。住明正「さらに進む地球温暖化」によると第2次報告書からエアロゾルを導入しているので、「温室効果ガス」だけ言及して「その他の人為的駆動要素」に言及しなかった第3次、第4次報告書の知見はこの点でも虚偽の知見であったことになります。

第5次報告書で「その他の人為的駆動要素の影響と共に」を記載したのは正直でよいと思います。ただし、この記載から(注4) (注5) (注6)で述べたエアロゾルを使った巧妙な仕組みを推測できた人はほとんどいないでしょうけど…。

(注9)気候変動枠組条約を各国に締結させたIPCCにとって、気候変動枠組条約で国際合意させた人為起源地球温暖化とその悪影響を正当化する報告書を書き続けることが唯一の選択肢なのです。一方、気候変動枠組条約を締結してしまった各国はIPCCに人為起源地球温暖化とその悪影響を正当化してもらわなければならないのです。

そこで各国は人為起源地球温暖化とその悪影響を正当化するために温暖化の研究者に多額の研究費を与え、温暖化の研究者は人為起源地球温暖化とその悪影響を正当化する論文を発表し、IPCCはその論文を報告書としてまとめ、その報告書に基づいて各国は温暖化の研究者に更に多額の研究費を与え、…という正のフィードバックが働くことになります。

(注6)で説明したように、21世紀末の気温上昇の予測値はある範囲内で希望する値に設定可能なので、気候変動枠組条約に記載されている「自然の生態系及び人類に悪影響を及ぼす」程度の気温上昇で、かつ温室効果ガス排出を徹底的に削減すれば悪影響を及ぼさない程度の気温上昇に設定することができるのです。(2015.07.06 この段落追加)

人為起源地球温暖化の正体は、人為起源温室効果ガスによる温暖化ではなく、上記のIPCCを駆動源とする人為的なフィードバックによる「人為起源」地球温暖化であり、エセ科学というべきものです。

(注10)企業も、温暖化の嘘がばれても持続可能な経営を目指すべきです。補助金頼りでは温暖化の嘘がばれた時に経営が傾きます。現在は補助金をもらいながら、将来は補助金なしで世界に貢献できる省エネや新エネの研究開発を行うべきではないでしょうか。省エネや新エネは、人為起源地球温暖化とは無関係に、世界で必要とされる技術です。

y9_f7_500.jpg (注11)私の意見は、人為起源地球温暖化はエセ科学であるから、日本が温室効果ガスを26%削減しても気温には影響ない、というものです。

しかし、仮に人為起源地球温暖化が本物の科学であると仮定しても、日本の温室効果ガス26%削減による気温の低下は無視し得る程度なのです。

図7は1990〜2013年の各国のCO排出量の実績と2030年(アメリカは2025年)までのCO排出量削減目標のグラフです。

中国の削減目標は「GDP当たりのCO排出量を05年比で60〜65%削減する」であり、中国のGDPは今後も成長すると見込まれているので、中国の「削減」目標は実際には図7のように「増大」目標です。気候変動枠組条約が締結された1992年においても中国は世界第2位のCO排出国で、日本やドイツより遙かに多く排出していました。しかし、気候変動枠組条約の前文に次のように記載されていることもあり、開発途上国に分類されている中国はその後、CO排出量を激増させ世界最大の排出国となり、今後も増大させる「削減」目標となっているのです。

…、過去及び現在における世界全体の温室効果ガスの排出量の最大の部分を占めるのは先進国において排出されたものであること、…開発途上国における排出量が占める割合はこれらの国の社会的な及び開発のためのニーズに応じて増加していくことに留意し、…
図7から明らかなように、日本のCO排出量は世界的に見ればわずかなものであり、人為起源地球温暖化が科学的に真であると仮定したとしても、日本の26%削減による気温の低下は無視し得る程度なのです。(2015.08.02(注11)追加)


【環境省の回答について】(2015.08.06追記)
2015年7月17日に温室効果ガス26%削減の「日本の約束草案」がパブコメ募集時と同じ内容で決定されました。同時にパブコメ募集に寄せられた意見の概要と環境省の回答も公表されました。地球温暖化懐疑論の意見は最後の第60項にまとめられ、私の意見はその1番目でした。以下が第60項に掲載された私の意見の概要です。
60(温室効果ガスを26%減らしても気温への影響はない/そもそも地球温暖化は起こっていない)
・地球温暖化の研究は気候変動枠組条約で国際合意された人為起源地球温暖化とその悪影響を正当化する研究であり、エセ科学というべきものです。温室効果ガスを26%削減しても気温には影響ありません
第60項にはこの私の意見を含め4件の懐疑論の意見が掲載され、これらに対して一括して環境省の回答(意見に対する考え方)が掲載されています。その回答は、IPCC第5次報告書の内容を引用した後、最後に次のように述べています。
・IPCC第5次評価報告書は、800名以上の専門家が30,000点を超える科学的文献をレビューして執筆され、最新の科学的知見を集めた報告書であり、日本政府も含めIPCCに参加している世界195ヵ国が承認しています。
環境省が言いたいことは、要するに、IPCC第5次報告書は権威ある報告書であるから、これを信頼せよ、ということでしょう。権威ある文献を丸暗記するタイプの人には説得力のある回答ですが、私はIPCC報告書自体を研究対象にした研究家なので、私には全く説得力のない回答です。

環境省に提出した意見には文字数制限のため「図3の正(オレンジ)負(青)の強制力の絶対値を両方とも大きく(小さく)して20世紀後半の気温の再現値(赤)を観測値(黒)に一致させ、21世紀末の気温上昇を大きく(小さく)することができます。21世紀末の気温上昇の予測値は一義的に決まるのではなく、ある範囲内で希望する値に設定可能なのです」としか記載できませんでしたが、上記の(注4) (注5) (注6)をお読みいただければ、「図6Aにおいて20世紀後半の気温の再現値(赤)が観測値(黒)に一致していることは、気候モデルによる21世紀末の気温の予測値の信頼性の根拠には全くならない」ことを明確にご理解いただけると考えます。

つまり、「気候モデルによる21世紀末の気温の予測値は全く信頼性がない」のです。

私は気候モデルの専門家ではありませんが、IPCC第5次報告書を詳細に検討した結果、この事実を知ることができました。気候モデルを扱っている研究者なら当然、「気候モデルによる21世紀末の気温の予測値は全く信頼性がない」という事実に気づいているはずです。

しかし、「気候モデルによる21世紀末の気温の予測値は全く信頼性がない」という事実を公表したのでは、これまでの自分の論文は全て無意味になり、気候変動枠組条約の締約国である国からの研究費も受けられなくなり、研究者としての地位も危うくなります。それで、気候モデルの研究者は信頼性がないことを隠して論文を発表し続け、IPCCはその論文を集めて21世紀末の気温上昇は最大4.8℃であるとの第5次報告書を作成したのでしょう。

問題は、気候モデルの研究者が何時まで嘘をつき続けられるかです。科学的にはエセ科学でも、法的には気候変動枠組条約に基づき真なので、気候モデルの研究者は良心の呵責なしに嘘をつき続けることができるのです。

人為起源地球温暖化というエセ科学が気候変動枠組条約によって法的に強制されている現在は、かつてキリスト教会が天動説を強制していた時代と同じです。科学は条約や宗教によって強制されるべきではありません。「人為起源地球温暖化はエセ科学である」ことが広く知られる日が一日も早く来ることを願わずにはいられません。






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