↑UP  ゲームソフトと著作権(中古ゲームソフト判決等について)  中古ゲームソフト事件高裁判決

中古ゲームソフト問題について
1998.09.16 井 上 雅 夫
  
 1.パックマン事件と著作権法

 現在、日本では中古ゲームソフトの販売が著作権侵害にあたるかどうかについての議論がなされている。これはゲームソフトがパックマン事件判決により、著作権法上の「映画の著作物」に該当すると判断されたことによる。

 日本の著作権法では一般的には頒布権は認められていない。しかし、著作権法26条1項に「著作者は、その映画の著作物を公に上映し、又はその複製物により頒布する権利を専有する」と規定されており、映画の著作物についてのみ頒布権が認められている。そして、著作権法2条3項には、「この法律にいう「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする」と規定されており、パックマン事件では、ゲームソフトは本来的意味の映画ではないが、著作権法2条3項の映画の効果に類似する著作物として保護されると判断している。

 そうすると、ゲームソフトはパックマン事件により映画の効果に類似する著作物であり、著作権法2条3項の規定により映画の著作物に含まれ、著作権法26条1項の規定により著作者が頒布権を持つことになり、パックマン事件の文言と著作権法の文言をつないでいくと、中古ゲームソフトの販売は著作者の許諾がなければ行うことができないということになりそうである。

 これに対して、著作権法26条1項は、上映権と頒布権をセットで規定しており、映画の著作物の利用法は、フィルムを映画館に配給して映画館で上映することが普通であるから、著作権法26条1項の頒布権も上映のためのフィルムの配給のようなものに限られ、中古ゲームソフトの販売ようなものは含まないとも考えられる。しかし、「著作権法ハンドブック」によると、「頒布については、従来、・・・いわゆるフィルム配給を念頭に置いてきましたが、ビデオが普及した現在では、ビデオソフトの販売やレンタルなども同様に頒布になります。」とされているから、著作権法26条1項の頒布権は中古ゲームソフトの販売にも及ぶと解釈せざるを得ないことになりそうである。

 また、パックマン事件の判決においても、「映画の著作物には、特に上映権と頒布権が認められているが、このことから、映画の著作物の範囲について何らかの限定をしなければならないかどうかについて検討」し、その結果、「著作権法が、劇場用映画とは全く取引実態を異にするものであっても、映画の著作物に該当する以上、上映権等を認めるとの立場をとったものと解すべきであることが明らかであり、取引実態が異なることを理由に上映権等を制限したりすることは、現行法の解釈としては採用できないというべきである」と判示しているから、ますます、中古ゲームソフトの販売は著作者の許諾を受けなければできないようにみえてくる。
  
 しかし、私としては、上記のような判決と法律の文言を単に組み合わせただけの解釈に反対である。
 
 
2.著作権と複製権

  著作権は複製権、公衆送信権、上映権、頒布権、貸与権、翻案権等の多くの権利の束であるといわれており、それぞれを支分権というが、支分権のなかでも最も重要な権利は複製権であると考えられる。小説やプログラムは本やCD−ROMで販売されているが、本やCD−ROMは著作物ではなく、本やCD−ROMに記録された情報が小説やプログラムであり、それが著作物である。無形の情報である著作物は本やCD−ROM等の媒体に記録されて、つまり複製物の形で販売されることになる。そして、著作物は情報であるから、海賊版業者がその情報をコピーすれば、オリジナルな複製物と同じ内容の複製物を販売して利益をあげることができ、その著作物を創作した著作者は利益を得ることができなくなってしまう。だからこそ、著作権法が必要となるのである。

 著作物の場合はコピーによっていくらでも複製物つまり商品を簡単に「製造」できるので、この点で、通常の商品とは全く異なったものである。しかし、著作権法に違反する違法なコピーが伴わなければ、本やCD−ROMは通常の商品と何ら変わりのない商品である。

 現在問題となっている中古ゲームソフトはプレステ(プレイステーション)やセガ(セガサターン)用のソフトであり、これらについは消費者が簡単にコピーすることはできないので、新品を購入した消費者は遊んだ後、コピーすることなく中古ショップに行って売り、中古ショップはそれを中古ゲームソフトとして販売しているはずである。

 コピーを伴わない中古ゲームソフトの販売は通常の中古商品の販売と何ら異なるところがないのであるから、通常の中古商品の販売に製造元の許諾の必要がないのと同様に、中古ゲームソフトの販売においても著作者の許諾の必要はないと考えられる。

 そこで、パックマン事件判決をもう少し注意深く読むと、この事件で問題にされたのは、頒布権ではなく、上映権であり、ナムコのパックマンの無断複製品のゲーム機を、被告が被告の喫茶店に設置したことが原告の映画の著作物の上映にあたるかどうかが争われている。

 上記のように裁判所は「上映権等を制限したりすることは、現行法の解釈としては採用できないというべきである」と判示してはいるが、一方で、「右の定義規定〔著作権法2条3項〕の解釈について、右の特則〔著作権法26条等〕の立法趣旨等も勘案しながら、本件に必要な範囲で判断を示す」とも述べおり、頒布権はパックマン事件における必要な範囲を越えた問題であるから、上記のような判決と法律の文言を単につないだだけの解釈とは異なった判断を行う余地があると考えられる。

 
3.中古品販売とレンタル

 中古ゲームソフト問題を考えるにあたって、中古ゲームソフト店に初めて入ってみた。主にプレステとセガの中古ゲームが並んでおり、値段は5000〜1000円程度である。試しに購入したゲームは1996年のコピーライト表示のあるものであるが、4480円であった。パッケージには「当社は本ソフトの無断複製・賃貸・中古販売は一切許可しておりません」という表示がある。このゲームは第2作目であり、第1作目は1995年のコピーライト表示があり、値段は2500円程度である。そのパッケージには「本品の輸出、使用営業及び賃貸を禁じます」と記載されているが、「中古販売」については言及されていない。

 ところで、私が時々利用していた比較的大きな書店の隣に中古の本と音楽CDの店が開店していたので、これにも入ってみた。中古本といっても、これまでの薄暗く天井まで本が積んであり文芸書と専門書が中心の古書店とは全く違い、店は広く明るく店員は若く、比較的背が低い書架にコミック、文庫、新書等がずらりと並んでいた。奥の方には音楽CDがアーティストの名前のあいうえお順で大量に並んでいた。音楽CDの値段はアルバムで1950円〜350円であった。試しに購入したアルバムは1950円で、98年9月9日の表示のあるものである。私が購入したのは9月12日であるから、新品を購入した人は数日以内にこの店に持ち込んだものと思われる。

 私としては、中古ゲームソフトの販売は全く問題がないと考えるが、中古の音楽CDの販売はやや問題があると考える。なぜなら、音楽CDの場合はそのままCDプレーヤーにかけて聞くというよりも、MDやカセットテープにコピーして、それを聞くことが多いからである。このコピー自体は私的使用であり著作権法上問題はないが(著作権法30条1項、2項、104条の4第3項)、コピーしたのち、オリジナルを中古ショップに持っていったとすると、コピーを伴う中古品の流通であり、現行法には違反しないとしても、問題があるのではないだろうか。

 隣の昔からの書店に入ってみると、中古ショップの影響が出ているのかどうかは正確には不明であるが、見た感じでは意外にも客の数は多い。この店では、以前から音楽CDのレンタルを行っており、アルバムで当日で290円である。CDを借りて、1、2度聞いて、そのままその日のうちに返却する人はほとんどいないはずであり、290円で借りてMD又はテープに録音し返却するのが普通であると考えられる。したがって、レンタル料金は実質的にはコピー代を意味していると考えられる。

 著作権法第26条の2には、「著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。)をその複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあっては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供する権利を専有する」と規定されており、この書店は著作者から許諾を受けて音楽CDのレンタルを行っていると考えられる。なお、著作権法26条の2の規定で映画の著作物が除かれているのは、26条の映画の著作物の頒布権で足りているからである。

 
4.米国著作権法における中古品販売とレンタル

 日本では頒布権は映画の著作物にしか認められていないが、アメリカでは米国著作権法106条(3)号により、著作権者は「著作物の複製物もしくはフォノレコードを、販売もしくはその他の所有権の移転によって公衆に頒布すること、又は、レンタル、リース、貸すこと」に排他的な権利を有している。つまり、アメリカでは全ての著作物について頒布権が認められていることになる。

 ところが、109条(a)項には「106条(3)号の規定にかかわらず、本法に基づいて適法に作成された複製物もしくはフォノレコードの所有者、又はそのような所有者によって委任された者は、著作権者の許可なしに、その複製物又はフォノレコードを販売又は他の方法による所有の処分をする権利が与えられる」と規定されており、適法に作成された複製物については106条(3)号の頒布権は及ばず、中古品の販売は自由にできるのである。結局、106条(3)号は違法に作成された海賊版の頒布が著作権侵害であることを規定していることになる。

 したがって、中古ゲームソフトの販売はアメリカでは自由に行うことができると考えられる。

 レンタルについては、一般的には自由であると考えられるが、109条(b)項(1)号(A)により、録音物(音楽CD、レコード等)とコンピュータ・プログラムのレンタルには著作権者の許諾が必要となる。

 ただし、(1)号(B)により、装置内に組み込まれたマイコンのROMに記憶されたプログラムのように通常の使用法では複製されるはずがないプログラムと、ゲーム機用のゲームプログラムについては自由にレンタルできることになる。つまり、装置の中のマイコンにプログラムが記憶されていても、その装置を自由にレンタルできるし、また、プレステやセガのようなゲーム機用のゲームソフトも自由にレンタルすることができるのである。ただし、パソコン用のゲームソフトのレンタルは著作権者の許諾が必要である。

 以上のように、アメリカの著作権法は、レンタルについても消費者がコピーすると考えられるものについてだけ、著作権者の許諾が必要であると規定しているのであり、著作権の本質からみてきわめて合理的である。

 
5.米国著作権法における上映権

 米国著作権法106条(4)号により、著作権者は「・・・映画及びその他のオーディオビジュアルの著作物の場合、著作物を公に演じること」に排他的な権利を有しているから、アメリカにおいても、映画及びオーディオビジュアルの著作物の上映権は保護されていると考えられる。

 なお、106条(5)号により、著作権者は「・・・映画又はオーディオビジュアルの著作物の個々の映像を含む絵画・・・の著作物において、公に著作物を展示すること」にも排他的な権利を有しているが、109条(c)号の規定により、適法に作成された絵画であれば、その場にいる人に直接見せるか、スライドのように一枚一枚映写して見せることは自由にできるようである。

 ゲームプログラムについては、Stern事件でオーディオビジュアルの著作物とされているから、106条(4)号の規定により、ゲームプログラムを公の場所でプレイすることは著作権者の許諾が必要となるはずである。しかし、109条(e)項の規定により、コイン式ゲーム機でゲームを公に実行又は表示することは、著作権者の許可なしにできることになる。したがって、適法に作成されたゲーム機を不特定多数の人が出入りするゲームセンターや喫茶店に設置して、お客に使用させることは自由である。

 ここで架空の問題として、もし、日本のパックマン事件にアメリカの現行法を適用したらどうなるかを考えてみよう。パックマン事件のゲームはStern事件によってオーディオビジュアルの著作物であり、米国著作権法106条(4)号によって上映権が保護されることになる。しかし、被告はコイン式ゲーム機を喫茶店に設置しただけであり、109条(e)項でコイン式ゲーム機でゲームを公に実行又は表示することは、著作権者の許可なしに自由にできることになるのだろうか?

 もちろんそうではない。被告のゲーム機は原告のゲーム機の無断複製品であり、米国著作権法109条(e)項は適法に作成されたゲームにのみ適用されるから、パックマン事件の場合は適用されず、106条(4)号の規定により上映権の侵害となる。

 アメリカの法律が日本で適用されることはないが、パックマン事件判決は違法に作成されたゲーム機の上映権についてなされた判決であることに注意すべきである。パックマン事件判決に基づいて、適法に作成されコピーが伴わない中古ゲームソフトの販売が映画の著作物の頒布権の侵害であるとすることはできないはずである。


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