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ナップスター事件とファイルローグ事件の比較

2003.05.05
井上雅夫  
  目    次
I.はじめに
II.ナップスター事件とファイルローグ事件の概要
 1.ナップスター事件の概要
 2.ファイルローグ事件の概要
III.利用者の著作権侵害
 1.ナップスター事件における利用者の著作権侵害
 2.ファイルローグ事件における利用者の著作権侵害
 3.受信者のダウンロードは日本では適法か?
IV.中央サーバ運営者の著作権侵害
 1.ナップスター事件における中央サーバ運営者の著作権侵害
 2.ファイルローグ事件における中央サーバ運営者の著作権侵害
 3.P2Pの中央サーバはYahoo!等の検索サイトと同様なものか?
V.差止の内容
VI.おわりに
 

I.はじめに

 ナップスターが始めたP2P(ピア・ツー・ピア)技術によるファイル交換サービスは瞬く間に莫大な利用者を集め、P2P技術に注目が集まった。しかし、レコード会社がナップスターを著作権侵害で提訴し、裁判所が差止を命じ、ナップスターによるフィルタリングが効果を上げるに従い交換できるファイルが急速に減少し、利用者も離れ、ナップスターは営業を停止した。

 一方、日本においても、ナップスターに類似したファイルローグというファイル交換サービスを運営する会社に対して日本音楽著作権協会およびレコード会社がそれぞれ著作権侵害および著作隣接権侵害で提訴し、裁判所は仮処分事件において差止を命令し、サービスは停止された。その後、裁判所は本案訴訟において、ファイルローグを運営する会社および取締役は損害賠償金を支払う義務を負う旨の中間判決を行っている。

 どちらの事件も、中央サーバを有するP2P技術、いわゆるハイブリッド型P2Pファイル交換技術に関するものである。利用者のクライアントソフトが中央サーバにアクセスすると、その利用者のパソコンの共有フォルダに格納されているファイルのファイル名、利用者のパソコンのIPアドレス、ポート番号等の情報が中央サーバにアップロードされ、中央サーバはそれを基に、ダウンロード可能な電子ファイルに関するデータベース
(サーチインデックス)を作成する。そして、受信者がたとえばアーティスト名で検索すると、中央サーバは、上記ファイル情報等を用いて検索処理を行い、検出した電子ファイルに関する情報(ファイル名、ファイルパス名、ユーザーID、IPアドレス、ポート番号等)を受信者のパソコンに送信する。受信者が実際にファイルをダウンロードする場合は、受信者のクライアントが、中央サーバから受信したIPアドレス、ポート番号を用いて送信者のクライアントに接続し、中央サーバを介さずに、P2Pで音楽ファイル等のダウンロードを行う。

 これらの事件において日米の裁判所が下した差止の内容はほぼ一致しているが、日米の著作権法(制定法および判例法)が相違するために、その理由については全く相違している。そこで、日米の裁判所の認定、判断を比較してみたい。

II.ナップスター事件とファイルローグ事件の概要

1.ナップスター事件の概要
 1999年12月6日、レコード会社がナップスターを著作権侵害[1]でカリフォルニア北部地区合衆国地方裁判所(以下、「カリフォルニア地裁」という)に提訴した。2000年8月10日、カリフォルニア地裁は仮差止を行った。ナップスターは控訴し[2]、2001年2月12日、第9巡回区合衆国控訴裁裁判所(以下、「第9控訴裁」という)は地裁の認定、判断の多くを支持したが、理由の一部と差止の範囲を取り消し、地裁に差し戻した。2001年3月5日、カリフォルニア地裁は、差戻審で、ナップスターは侵害ファイルの合理的な知識を受けるとそのファイルがナップスターインデックスに含まれることを防ぐ(それによってナップスターシステムを介してその名前に対応するファイルにアクセスすることを防ぐ)よう命令する仮差止を行った。

2.ファイルローグ事件の概要
 2002年1月29日、日本音楽著作権協会(JASRAC)が著作権に基づいてファイルローグを運営する会社に対して仮処分の申立を東京地方裁判所(以下、「東京地裁」という)に行った[3]。また、2002年2月28日、日本音楽著作権協会はファイルローグを運営する会社およびその取締役に対して著作権侵害差止及び損害賠償請求訴訟(本案訴訟)を東京地裁に提起した[4]。2002年4月11日、東京地裁は、仮処分事件において、送受信可能の状態にされた電子ファイルのファイル名に楽曲リストの「原題名」欄記載の文字および「アーティスト」欄記載の文字が表記されたファイル情報を利用者に送信してはならない旨の決定を行った。2003年1月29日、東京地裁は、被告会社が著作権侵害行為の主体であり、会社およびその取締役は連帯して損害賠償金を支払う義務を負う旨の中間判決を行った。

III.利用者の著作権侵害

 両事件とも、裁判所は、中央サーバ運営者の著作権侵害を認定する前に、利用者の行為が著作権侵害であると認定している。

1.ナップスター事件における利用者の著作権侵害
 ナップスターは控訴裁では利用者の直接侵害については争わなかったが、第9控訴裁は、「他の者が複製するために[中央サーバの]サーチインデックスへファイル名をアップロードするナップスターの利用者は原告の頒布権を侵害する。著作権で保護された音楽を含むファイルをダウンロードするナップスターの利用者[受信者]は原告の複製権を侵害する。」と判示した。また、第9控訴裁は利用者の行為はフェアユースにも当たらないとして、107条(フェアユース)に規定する4つの要素について次のように地裁の認定を支持している[5]

(1)使用の目的および性質:MP3ファイルのダウンロードは著作権で保護された作品を変容させていない[デッドコピーである]。また、ファイルの送信者は膨大な受信者にファイルを頒布するとき個人的使用を行っているということはできず、受信者は通常は買わなければならないものをタダで得ているから、ナップスターの利用者は著作物の商業的使用を行った。

(2)著作物の性質:本質的に創造的な作品は事実ベースの作品より著作権保護の中心により近い。原告らの著作権で保護された楽曲および録音物は本質的に創造的であり、それが第2の要素に基づくフェアユースの認定を妨げる。

(3)著作物全体に対して使用された部分の量および実質性:作品全体の複製はフェアユースの認定に対して不利に作用する。ファイル転送は著作物全体の複製を含むからナップスターの利用者は著作物の「大規模な複製」を行っている。

(4)その著作物の潜在的マーケット又は価値に対するその使用の影響:大学生のオーディオCDセールスを減少させた。音楽のデジタルダウンロードのマーケットへの原告らの参入に障壁を築いた。

 第9控訴裁は、ナップスターが主張していたその他の主張も採用せず、ナップスターの利用者はフェアユースの抗弁を有していない旨判断した。

2.ファイルローグ事件における利用者の著作権侵害
 東京地裁は、電子ファイルを共有フォルダに蔵置したまま被告サーバに接続した送信者のパソコンは中央サーバと一体となって情報の記録された自動公衆送信装置(著作権法2条1項9号の5イ)に当たるということができ、その時点で、当該電子ファイルの送信可能化(同号ロ)がされたものと解することができ、上記電子ファイルが受信側パソコンに送信された時点で同電子ファイルの自動公衆送信がされたものと解することができる旨認定している。

 この東京地裁の認定は、第9控訴裁の「他の者が複製するために[中央サーバの]サーチインデックスへファイル名をアップロードするナップスターの利用者[送信者]は原告の頒布権を侵害する。」という判断と類似している。日本の著作権法には送信可能化権、自動公衆送信権が規定されているため、東京地裁はこれらの支分権に基づいて判断しているが、米国の著作権法にはこれらの支分権が規定されていないため、第9控訴裁は頒布権に基づいて判断している[6]。日米の裁判所は日米の著作権法(制定法)が異なるため異なった支分権を適用しているが、第9控訴裁の「他の者が複製するために[中央サーバの]サーチインデックスへファイル名をアップロードする利用者[送信者]は頒布権を侵害する」と、東京地裁の「送信者のパソコンは中央サーバと一体となって情報の記録された自動公衆送信装置に当たる」はどちらも、利用者のパソコンからファイル情報等が中央サーバへ送信され、それによって、送信者のパソコンの共有フォルダ内のファイルが送信(頒布)できるようになることを著作権侵害としているのであり、送信者ついては、日米の裁判所は実質的には同じように著作権侵害と判断しているのである。

 一方、受信者については、第9控訴裁は、「著作権で保護された音楽を含むファイルをダウンロードするナップスターの利用者[受信者]は原告の複製権を侵害する。」と判断しているが、東京地裁は受信者の著作権侵害については何も判断を示していない。これは、米国では寄与著作権侵害および代位著作権侵害が判例法として存在するため、中央サーバ運営者のこれらの侵害を認定する前提として、利用者の直接侵害を認定する必要があったのに対して、日本にはこのような判例法が存在せず、東京地裁は中央サーバ運営者の著作権侵害を別の形で認定するので、受信者の著作権侵害を認定する必要がなかったものと考えられる。

3.受信者のダウンロードは日本では適法か?
 前述のように東京地裁は受信者の著作権侵害については何も述べていないが、一般には、受信者については、受信したファイルが送信可能化状態になるように設定してダウンロードしている場合は著作権侵害だが、受信したファイルが送信可能化状態にならないように設定して、私的使用のためだけにダウンロードする場合は、30条1項の規定により、著作権侵害とはただちにはいえないといわれている[7]

 著作権法30条1項柱書きは、「著作権の目的となつている著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。」と規定している。

 P2Pファイル交換サービスにおけるダウンロードは、遠隔地の見ず知らずの他人のコンピュータ内にあるファイルをネットワークを介して自分のパソコン内に複製することである。送信者のパソコンの共有フォルダ内の違法な複製物を、送信者の家族あるいは家族に準ずる者ではない受信者が私的使用のためにダウンロード(遠隔地から複製)することが、著作権法30条1項の私的複製に該当するといえるのだろうか。

 もし、これが適法だとすると、見ず知らずの他人の家に行き、その家のCDプレーヤの出力端子と持参したMDプレーヤの入力端子をケーブルで接続し、その家にあるCDを、持参したMDにコピーさせてもらい、自分の家に帰って来てから、自分で聞くためにそのMDを使用することも、30条1項で許されることになる。また、会社の社員が自分のノートパソコンを会社に持って行き、会社のコンピュータソフトを自分のノートパソコンにインストールし、ノートパソコンを自宅に持ち帰り、個人的に使用するのも著作権侵害ではないということになる[8]。30条1項は本当にこのように解釈される条文なのだろうか。

 30条1項の最も典型的な場合は、CDショップでCDを購入して、それを自分で聞くためにMDにコピーしたり、家族がそのCDを借りて、その家族が聞くためにMDにコピーする場合である。また、田村善之著「著作権法概説 第2版」によれば、「テレビやラジオで放送される映画や音楽を家で録音、録画したり、友人や図書館、さらには、レンタル店から借りてきた書籍、雑誌、CD、ビデオ・ソフトを家で複写ないしダビングする行為は、著作権侵害に該当しない」[9]

 テレビやラジオで放送される映画や音楽を家で録音、録画する場合は、放送局が適法に送信した著作物を自分の家の受信機で受信し、それを自分の家で複製する場合である。そして、ラジオやテレビ放送を録音、録画する者は全受信者数からみれば極めてわずかな人数である。しかも、自分の好みの曲をアナウンサーの音声やCM等を入れずに一曲まるごと録音、録画するのはそれほど簡単なことではない。また、レンタル店で借りてきたCDの場合は、レンタル店が適法に貸与したCDを自分の家に持ち帰り、自分の家でMD等に複製する場合である。この場合は、ほとんど全ての者が複製を行うと考えられるが、著作権者はそれを見込んで貸与権の許諾料をレンタル店から取っているはずであり、この複製は実質的には許諾を受けた複製である。このような私的複製と、P2Pを利用した遠隔地からの複製(ダウンロード)が、類似しているとは思えない。

 また、前述の「著作権法概説 第2版」によれば、「30条は、著作物が通常利用される市場を侵奪することなく、著作権者の利益を不当に害しない場合に、同盟国の法令で複製権を制限することを認めるベルヌ条約9条2項を具体化した規定の一つとして位置づけられている。」[9]。このようなことからみても、P2Pのダウンロード、すなわち送信者の家のパソコンの共有フォルダ内の違法な音楽ファイルを、送信者の家族や家族に準じる者でない受信者が好みの曲を一曲まるごとタダで自分のパソコン内に複製することが、30条1項の私的複製に該当し適法な複製であるというのは妥当な解釈とはいえないのではないだろうか。

 また、仮に30条1項柱書き自体ではダウンロードするだけの利用者は著作権侵害でないとしても、30条1項柱書きには、「次に掲げる場合を除き、」と規定されている。そして、「次の掲げる場合」である30条1項1号には「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合」と規定されている。30条1項1号について、作花文雄著「詳説 著作権法[第2版]」には、「店頭その他の施設に設置されているダビング機を利用してCDやビデオ、コンピュータ・ソフト等を複製することは著作権侵害になる。このような形態による複製は、大量の複製が行われる可能性が高く、権利者の利益を不当に侵害することになるからである」と記載されている[10]

 東京地裁は電子ファイルを共有フォルダに蔵置したまま中央サーバに接続した送信者のパソコンは中央サーバと一体となって情報の記録された自動公衆送信装置に当たる旨認定している。中央サーバと利用者のパソコンは地理的には離れているが、送信者のパソコンと中央サーバの両方が存在しなければ送信することは不可能なのであるから、送信者のパソコンは中央サーバと一体となって自動公衆送信装置に当たるという東京地裁の認定は妥当である。同様に、中央サーバと中央サーバに接続した不特定多数の利用者のパソコンとが一体となった装置は、公衆の使用に供することを目的としてインターネット上に設置されている自動複製装置であるといえるはずである。したがって、この点からも、ダウンロードだけを行っている利用者も、30条1項が適用されず、複製権侵害となるのではないだろうか。

 受信者がダウンロードするだけなら、30条1項の規定により、著作権侵害とはただちにはいえないとされているのは、P2Pのダウンロードをラジオやテレビ放送の私的録音、録画と同様に考えているからではないだろうか。インターネットでラジオやテレビ放送と類似しているのはストリーミングである。ストリーミングは、インターネットを介して音楽を聴いたり、映像を見たりすることであり、受信者のパソコンに複製物は残らない。ストリーミングのコンテンツを受信者のパソコンに保存するソフトもあるが、ラジオやテレビ放送の視聴者の中で録音、録画を行う者はごくわずかしかいないのと同様に、ストリーミングのコンテンツを上記のようなソフトを使い自分のパソコンに保存する者もごく少数であると考えられる。したがって、ストリーミングの場合は、著作権法上の取り扱いも、ラジオやテレビと同様に扱えばよいのではないかと考えられる。これに対して、P2Pのダウンロードの場合は、送信者の共有フォルダ内のファイルを受信者全員が複製し自分のパソコン内に複製物を保存するのであり、これを放送やストリーミングの私的複製と同様に考えるのは適当ではないのではないだろうか。

IV.中央サーバ運営者の著作権侵害

1.ナップスター事件における中央サーバ運営者の著作権侵害
 第9控訴裁は、寄与侵害責任と代位侵害責任の両方について、地裁の認定をほぼ支持している。以下に、第9控訴裁の判断の概要を記載する。

(1)寄与侵害責任
 侵害行為を認識して、他の者の侵害行為を誘発し、起こし、又は実質的に寄与している者は、「寄与」侵害者として責任がある。被告が侵害を奨励する又は支援する個人的な行為に携わるなら、責任が存在する。寄与責任は[利用者の]直接侵害について第2の侵害者[ナップスター]が「知っているか、又は知っているはずであることを要する。ナップスターが直接侵害について実際におよび推論して認識していたことは記録から明白である。ナップスターは侵害行為に重要な寄与を行っている。原告らが寄与著作権侵害請求において本案訴訟で勝つ可能性を証明したという地裁の結論を支持する。

(2)代位責任
 代位著作権責任は使用者責任の「派生物」である。著作権法においては、代位責任は事業主/従業員関係を超えて、被告が侵害行為を監督する権利および能力を持ち、かつこのような行為に対して直接の金銭的利害関係も持つ場合に及ぶ。金銭的利益は侵害物が利用可能であることが顧客への「目玉」の役割を果たしているところに存在する。ナップスターの未来の収益が「ユーザー基盤の増加」に直接依存しているという地裁の認定を証拠が支持している。原告らはナップスターがそのシステムへのアクセスをコントロールする権利を有していることを証明している。代位責任を免れるためには、保有する取り締まりの権利を最大限に行使しなければならない。利益のために探知可能な侵害行為へ目をつぶることは責任を引き起こす。ナップスターシステムは、正しいMP3フォーマットであることをチェックする以外、インデックスされたコンテンツを「読まない」。しかし、ナップスターはサーチインデックス上にリストされた侵害物を捜し出す能力は有している。したがって、ファイル名インデックスはナップスターが取り締まる能力を有している「敷地」内である。ナップスターによるそのシステムの「敷地」の取り締まりの不履行が、ナップスターが金銭的に利益を得ているという証明と結びついて、代位責任を導き出す。

2.ファイルローグ事件における中央サーバ運営者の著作権侵害
 アメリカの寄与責任は日本の民法719条(共同不法行為)2項の「教唆者及び幇助者は之を共同行為者と看倣す」と類似しており、また、アメリカの代位責任の元となった使用者責任は日本の民法715(使用者の責任)と類似している。しかし、これらの民法の規定は損害賠償に関する規定であり、差止請求権は判例上認められていない[11]。東京地裁は、仮処分事件において争点の一つであった教唆又は幇助については判断せず、もう一つの争点に基づいて著作権侵害であるとしている。仮処分の決定と本案訴訟の中間判決の理由は基本的には同じであるが、多少異なる点があるので、以下、より新しい中間判決における東京地裁の認定、判断の概要を記載する。

 東京地裁は、「被告が、送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害していると解すべきか否かについては、@被告の行為の内容・性質、A利用者のする送信可能化状態に対する被告の管理・支配の程度、B被告の行為によって受ける同被告の利益の状況等を総合斟酌して判断すべきである。」という法律判断を行った後、@〜Bについて以下のように認定している。

 @本件サービス
の内容・性質
 ファイル情報の取得等に関するサービスの提供および電子ファイルをダウンロードする機会の提供その他一切のサービスを、被告自らが、直接的かつ主体的に行っている。利用者は、被告のこれらの行為によってはじめてパソコンの共有フォルダ内に蔵置した電子ファイルを他の利用者へ送信することができる。市販のレコードとほぼ同一の内容のMP3ファイルを無料で、しかも容易に取得できること、音質はあまり低下しないことから、本件サービスは極めて魅力的である。他方、実演家および楽曲名を把握していない音楽を検索するには、本件サービスの検索機能は機能しない。実際にも、約96.7パーセントが、市販のレコードを複製した電子ファイルに関するものである。ほとんどが違法な複製に係るものであることが明らかである。被告は、本件サービスの開始当時から上記事態に至ることを十分予想していたものと認められる(利用規約において、著作権を侵害する電子ファイルの送信可能化行為を禁止しているが、利用する者の身元確認をしていないのであるから、同規約の実効性は低い。)。したがって、本件サービスは、市販のレコードを複製したMP3ファイルを交換させる機会を与えるため、利用者に提供されたサービスであるということができる。以上のとおり、本件サービスは、市販のレコードを複製したMP3ファイルを自動公衆送信および送信可能化させるためのサービスという性質を有する。

 A管理性等
 利用者が自動公衆送信するには被告サイトから本件クライアントソフトをダウンロードしてインストールすることが必要不可欠である。利用者はパソコンを被告サーバに接続させることが必要不可欠であるが、この接続は本件クライアントソフトを起動することにより行う。自動公衆送信の相手方も、パソコンに本件クライアントソフトをインストールし、そのパソコンを被告サーバに接続することが必要不可欠である。受信者は希望する電子ファイルを検索して、その電子ファイルの蔵置されているパソコンの所在および内容を確認できるようになっており、この検索機能がなければ、受信者が、本件サービスを利用して電子ファイルを受信することは事実上不可能である。送信者が本件サービスにおいて電子ファイルを自動公衆送信するのは、このような検索により、受信する者が存在することが前提となる。したがって、本件サービスにおける自動公衆送信および送信可能化にとって、上記検索機能は必要不可欠である。なお、電子ファイルの検索は、楽曲名及び歌手名による検索であることに照らすと、受信者が、市販されている特定のレコードを複製した電子ファイルを受信しようとする場合には、このような検索機能が必要不可欠といえる。受信者に受信しようとする電子ファイルの検索を可能とさせるために、送信者に共有フォルダに蔵置する電子ファイルにファイル名を付させている。送信者は、被告の設定したルールに則り、共有フォルダに蔵置する電子ファイルにファイル名を付している。受信者は、希望する電子ファイルの所在を確認した場合、本件クライアントソフトの画面上の簡単な操作によって、希望する電子ファイルを受信することができるようになっており、利便性、環境整備が図られている。被告は利用方法について自己の開設したウェブサイト上で説明をし、ほとんどの利用者が同説明を参考にして本件サービスを利用している。上記認定した事実を基礎にすると、利用者の電子ファイルの送信可能化行為(パソコンの共有フォルダに電子ファイルを置いた状態で、同パソコンを被告サーバに接続すること)および自動公衆送信(電子ファイルを送信すること)は、被告の管理の下に行われているというべきである。

 B被告の利益
 被告は、将来、本件サービスを利用してMP3ファイルを受信した者から受信の対価を徴収するシステムに変更することを予定していることが認められる。より多くの送信者に被告サーバに接続させて、より多くのMP3ファイルの送信可能化行為をさせることは、本件サービスを将来有料化したときの顧客数の増加につながり、被告の利益に資するものといえる。ウェブサイト上の広告掲載への需要は、当該ウェブサイトへの接続数と相関関係があり、接続数が多くなれば、広告掲載の需要が高まり、広告収入等も多くなる。本件サービスの登録者数は4万2000人であり、被告サーバに同時接続している利用者数は平均約340人、そのMP3ファイル数は平均約8万であるところ、本件サービスの運営を継続すれば、上記人数は、将来さらに増加することも予想され、本件サービスは広告媒体としての価値を十分有する。そうすると、利用者に被告サーバに接続させてMP3ファイルの送信可能化行為をさせること、および同MP3ファイルを他の利用者に送信させることは、被告の営業上の利益を増大させる行為と評価することができる。

 そして、東京地裁は、以上の@〜Bから、被告は、本件各管理著作物の自動公衆送信および送信可能化を行っているものと評価することができ、原告の有する自動公衆送信権および送信可能化権の侵害の主体であると解するのが相当であると認定している。

 以上のように、第9控訴裁は中央サーバ運営者(ナップスター)を二次的侵害者としたのに対して、東京地裁は中央サーバ運営者(被告)を侵害の主体であるとしている。

3.P2Pの中央サーバはYahoo!等の検索サイトと同様なものか?
 東京地裁の仮処分事件の決定に対しては、すでにいくつかの評釈がなされており、東京地裁をほぼ全面的に支持する見解と[12][13]、一部を批判する見解がある[14]。後者の見解は、東京地裁の認定した管理性は極めて希薄なものであり、ファイルローグの中央サーバは検索サイトと本質においてほとんど変わりがなく、検索エンジン運営者はことごとく著作権侵害行為の主体たりうるという結論につながりかねない、というものである。

 もし、ナップスターやファイルローグの中央サーバがYahoo!やGoogleなどの検索サイトと同様なもので、ナップスター事件やファイルローグ事件の裁判例に基づいてこれらの検索サイトが著作権侵害となるというのであれば、日米の裁判所が下した判断は不適切であるといえるだろう。しかし、実際には、ナップスターやファイルローグの中央サーバはYahoo!等の検索サイトとは全く異なっているのであり、これらの裁判例に基づいて、Yahoo!等の検索サイトが著作権侵害に問われることはあり得ないのである。

 Yahoo!等の検索サイトは、すでに送信可能化状態となっているサイト(ウェブサーバ)の検索サービスを行っているだけである。たとえば、検索サイトで検索して見つけたサイトを「お気に入り」(ブックマーク)に追加しておけば、それ以降は検索サイトの助けを借りることなく、いつでもそのサイトにアクセスすることができる。また、各サイト(ウェブサーバ)は、Yahoo!等の助けを借りることなく、それぞれ独自に送信可能化状態になっているのであるから、Yahoo!等の検索サイトが休止している場合であっても、アクセスできるのは当然である。したがって、Yahoo!等の検索サイトで検索できる各サイトの送信可能化や自動公衆送信が、Yahoo!等の検索サイトの管理や支配の下に行われていないことは明らかであり、Yahoo!等が東京地裁の判示に基づいて著作権侵害とされることはあり得ないのである。

 これに対して、ハイブリッド型P2Pにおいては、クライアントは中央サーバに接続することによって、初めて共有フォルダ内のファイルを送信可能化状態にすることができるのである。ハイブリッド型P2Pでは、受信者が中央サーバの助けを借りずに送信者にアクセスすることは技術的に不可能である。

 インターネットに公開されたサーバには固定のIPアドレスが割り当てられ、ポート番号もたとえばウェブサーバの場合は80に決まっている。このため、固定IPアドレスと固定ポート番号を使い、いつでもそのサーバにアクセスできるのである。Yahoo!等で検索できる各サイトは、ウェブサーバを立ち上げてインターネットに接続した時点で各サイトがそれぞれ独自に送信可能化状態になり、ブラウザ(ウェブクライアント)を用いれば誰でもアクセス可能になるのである。

 これに対して、一般のインターネットの利用者はアクセスするたびに、プロバイダが保有するIPアドレスのうちの一つを一時的に割り当てられているだけであり[15]、アクセスするたびに異なったIPアドレスが割り当てられるので、仮にP2PクライアントにIPアドレスを記憶させておいても、同じ送信者をアクセスすることは不可能である。なお、ファイルローグ事件の仮処分決定の別紙「答弁書」の「第二ないし第四」には、本件クライアント・ソフトを用いて、他の特定の利用者(以下、「お友だちユーザー」という。)が「共有フォルダ」として指定したフォルダのみを表示・検索の対象とすることができる旨記載されているが、これはクライアント・ソフトに送信者のIDを「お友だちユーザー」として記憶させておき、後日その「お友だちユーザー」にアクセスする場合は、クライアントソフトに記憶されていたIDを中央サーバに送信し、中央サーバからその時点のその「お友だちユーザー」のIPアドレス、ポート番号を受信し、そのIPアドレス、ポート番号によって、その「お友だちユーザー」にアクセスするものと考えられる。

 ハイブリッド型P2Pシステムにおいては、利用者同士がP2Pでファイルを送受信する場合は、必ず中央サーバに設けられた
ダウンロード可能な電子ファイルに関するデータベース(サーチインデックス)に記憶されている現時点の送信者のIPアドレス、ポート番号等を利用しなければならないのである。したがって、中央サーバに設けられたこのダウンロード可能な電子ファイルに関するデータベース(サーチインデックス)が、送信者のパソコンの共有フォルダ内のファイルの送信可能化、自動公衆送信を管理・支配しているのであり、その管理・支配の下に利用者同士のP2Pによるファイルの送受信が行われているのである。そして、ナップスターが裁判所の命令に従い、ダウンロード可能な電子ファイルに関するデータベース(サーチインデックス)に入力する情報を渋々フィルタリングしたことからも明らかなように、このデータベースに保管する送信者情報等は、中央サーバの運営者が、やる気さえあれば、管理・支配することが可能である。したがって、中央サーバの運営者は、ダウンロード可能な電子ファイルに関するデータベース(サーチインデックス)を管理・支配することにより、送信者のパソコンの共有フォルダ内のファイルの送信可能化、自動公衆送信を管理・支配することができるのである。中央サーバの運営者の管理・支配により、あるファイル名を有する送信者情報等が、ダウンロード可能な電子ファイルに関するデータベース(サーチインデックス)に入力されなければ、送信者のパソコンの共有フォルダ内のそのファイル名のファイルは送信可能化状態にはならず、自動公衆送信することもできないから、利用者同士がそのファイル名のファイルをP2Pで送受信することは不可能となるのである。

 P2Pという用語のイメージだけから判断すると、中央サーバ運営者は単なる通信の媒介者に過ぎず、利用者のP2Pによるファイル交換を管理・支配していないように見えるかもしれないが、以上のようなハイブリッド型P2Pシステムの技術内容を理解すれば、「利用者の電子ファイルの送信可能化行為(パソコンの共有フォルダに電子ファイルを置いた状態で、同パソコンを被告サーバに接続すること)および自動公衆送信(電子ファイルを送信すること)は、被告の管理の下に行われているというべきである。」という東京地裁の認定が妥当であることが理解できるはずである。

 また、ハイブリッド型P2Pの場合、中央サーバにアクセスして、有名なアーチスト名を入力して検索すれば、必ず、そのアーティストの音楽ファイルを入手できるが、送信者はそのときアクセスしている者のみであるから、その時々によって送信者は変わることになる。しかし、有名なアーティストの場合は、多くの送信者が同じファイル(全く同じファイルの場合と、別の人がリッピングした同じ音楽ファイルの場合がある)を共有フォルダに入れているので、いつでも同じ音楽ファイルを入手できるのである。利用者によっては、クライアントソフトの「お友だちユーザー」機能を使って特定の送信者からダウンロードすることもあるかもしれないが、とにかく音楽ファイルが無料で入手できれば良いという多くの利用者にとっては、目的の音楽ファイルが手に入りさえすれば、送信者は誰でも良いはずであり、誰が送信者であるのかも気にもとめないだろう。P2Pという用語のイメージだけで考えると電子メールのような特定の利用者同士の通信のように見えるかもしれないが、実際には、受信者は実質的に一つのファイル交換サービスから希望する音楽ファイルを入手しているということもできるのである。このような点からも、送信可能化行為および自動公衆送信は被告の管理の下に行われているというべきであるという東京地裁の認定は妥当であるといえるだろう。

V.差止の内容

 すでに、II.に記載したように、両事件とも、著作権者が提示した曲名、アーティスト名等のファイル情報を利用者に送信してはならない旨の差止である。これは中央サーバに作成される、
ダウンロード可能な電子ファイルに関するデータベース(サーチインデックス)を管理することにより可能であり、中央サーバ運営者に対する差止として妥当なものであると考えられる。

 この差止により、著作権侵害でないファイルも、曲名、アーティスト名が一致すれば、P2Pファイル交換ができなくなってしまうが、ファイル名を変えれば交換可能であり、また、このような場合は極めて少ないと考えられ、逆に高い比率で著作権侵害が行われていることからすれば、一部にそのようなことがあってもやむを得ないものと考えられる。

 また、高い確率で著作権侵害が行われるのは、これらのシステムが匿名性を保証しているからであり、匿名性を排除するようにシステムを設計すれば、高い確率の著作権侵害が生じないことは明らかである。そのためには、たとえば、利用者に住所氏名を登録させ、その住所氏名にパスワードを郵送し、そのパスワードを使用してシステムにアクセスするという周知の手法が利用できることも明らかである。そして、利用規則に、プロバイダ責任法第4条[16]の規定に基づき住所氏名を著作権者に開示する旨記載しておけば、著作権侵害を行う者は極めて少なくなるはずである。そうなれば、裁判所が「本件サービスは、市販のレコードを複製したMP3ファイルを自動公衆送信及び送信可能化させるためのサービスという性質を有する。」と認定することはなくなり、中央サーバ運営者が著作権侵害に問われることはなくなるのである。そして、このようにすることが、利用者のプライバシーを侵害するはずもなく[17]、言論の自由や表現の自由を否定するものでないことも明らかである[18]

VI.おわりに

 ナップスターが数千万人もの利用者を集めることができたのは、市販の音楽CDと実質的に同じ音楽ファイルを無料で入手できるという「特典」がついていたからである。日米の裁判所の差止はこの「特典」を排除しただけで、ハイブリッド型P2P技術の発展に対して不当な制限を加えるものではないことは明らかである。そして、この「特典」のないP2Pファイル交換サービスに興味を持つ者は少数しかいないかもしれないが、それがこの技術の実力である。




 

(1)椙山敬士、「判例評釈 ナップスター事件をめぐって」、CIPICジャーナル、Vol.114(2001/7)、59頁〜68頁によれば、「アメリカの著作権法では、レコード制作者は隣接権者ではなく、著作権者である」(61頁左欄下から6行〜下から4行)。

(2)ナップスター事件の仮差止は日本の仮処分事件の差止に相当する。日本では仮処分事件では、原告、被告、控訴、判決等の用語を使わず、債権者、債務者、抗告、決定等の用語が使用されているが、英語では本案訴訟でも仮差止でも同じ用語を使用するので、米国の事件の翻訳では、原告、被告、控訴、判決等の用語を用いている。

(3)レコード会社も著作隣接権に基づいて訴えているが、内容は同様であるので、ここでは日本音楽著作権協会が訴えた事件だけについて述べる。

(4)ファイルローグ事件のインターネット上のニュースはパテントサロン(http://www.patentsalon.com/topics/mmo/index.html)にまとめられている。

(5)米国著作権法には日本の著作権法30条1項(私的使用のための複製)に直接対応する規定はないが、一般的な著作権の制限規定として米国著作権法107条にフェアユースが規定されている。

(6)日本の著作権法の場合は、頒布権は映画の著作物にのみ認められており(26条)、その他の著作物については譲渡権(26条の2、平成11年法で消尽ありの譲渡権を新設)および貸与権(26条の3)が認められているだけである。ファイルローグ事件は音楽の著作物が問題となっているから、映画の著作物を対象とする頒布権は無関係であり、この事件に関係するのは譲渡権と貸与権だけである。頒布権ならインターネット上のファイル交換に適用しても無理はないが、譲渡権、貸与権の場合は有体物であるCD等の譲渡、貸与のイメージが強く、インターネット上のファイル交換に譲渡権、貸与権を適用するのは不自然であると考えられる。このようなことから、日本では送信可能化権、自動公衆送信権(平成9年法で新設)を制定する必要があったのではないだろうか。

(7)牧野利秋、「ファイル・ローグ事件仮処分決定と複数関与者による著作権侵害(上)」、NBL、No.750、2002.12.1、18頁〜26頁には、「・・・複製自体は受信者が当初から公衆に送信する目的でダウンロードしていない場合、個別的にみる限り、私的利用の範囲内であり複製権侵害とはただちにはいえないといえよう。」「ここで『個別的にみる限り』と述べたのは、・・・全体としてみた場合、ベルヌ条約9条(2)との関係で、著作権法30条1項により許容される私的目的の複製ということができるかという問題意識に基づく。」(22頁第2欄〜第3欄)と記載されている。また、作花文雄、「詳説 著作権法[第2版]」、2002年8月1日第2版第2刷発行、(株)ぎょうせい、592頁には、「ユーザーb(requesting user)[受信者]のパソコンへのへのダウンロード行為は、著作権法第30条の私的使用目的の複製として許容され得るのではないかとの印象も一見するとある。」と記載されており、また、「電子商取引等に関する準則」
http://www.meti.go.jp/topic/downloadfiles/e20730bj.pdf、経済産業省、平成14年7月、84頁には、「音楽などのファイルをインターネット上からダウンロードする行為は、私的複製に相当する限り、著作権または著作隣接権の侵害とはならない。」と記載されている。

(8)この場合、見ず知らずの他人や会社は著作権法26条の3の貸与権侵害の疑いがあるが、26条の3には「著作者は、その著作物の貸与により公衆に提供する権利を専有する 」と規定されているから、公衆ではなく、少数かつ特定の者にCDを貸与した場合は、貸与権侵害にならないと考えられる。また、38条4項には、「公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物の貸与により公衆に提供することができる」と規定されているから、公衆にCDを貸与したとしても、営利を目的とせず、かつ料金を受けなければ、貸与権侵害とはならないのではないかと考えられる。ただし、料金を受けなくても、何らかの形で利益が得られる場合は侵害であると考えられる。

(9)田村善之、「著作権法概説 第2版」、2003年2月10日第2版第2刷発行、(株)有斐閣、198頁〜199頁

(10)作花文雄、前掲(6)、285頁

(11)牧野利秋、「ファイル・ローグ事件仮処分決定と複数関与者による著作権侵害(下)」、NBL、No.751、2002.12.15、45頁〜51頁には、「・・・不法行為法においても、不法行為に基づく差止請求権は学説上はともかく判例上認められていない・・・」(45頁第3欄)と記載されている。

(12)牧野利秋、「ファイル・ローグ事件仮処分決定と複数関与者による著作権侵害(上)」、NBL、No.750、2002.12.1、18頁〜26頁には、「これをクラブ・キャッツアイ事件最高裁判決の管理・支配性を根拠づける具体的事実と対比すれば、本件決定における具体的事実はサービスの実態の相違により自ずから異なっていることは当然であるけれども、著作物の利用行為(客の歌唱行為、送信者の送信可能化行為・自動公衆送信行為)をさせるに適した道具・手段(カラオケ装置。本件サーバ・クライアント)を提供し、これを維持管理しているとともに、設置者の意図・目的の下に著作物利用行為をさせていることにおいて、大筋において軌を一にするということができる。この設置者の意図・目的の下に著作物利用行為をさせていることとは、逆の面からいえば、設置者が著作物利用行為をやめさせることができ、これをする事実上の権限を有していることである。このような場合に管理・支配の帰属を認めることは、前記最高裁判決の判断枠組みの外には出ないと評価してよいと思われる。」(25頁第4欄〜26頁第1欄)と記載されている。また、牧野利秋、「ファイル・ローグ事件仮処分決定と複数関与者による著作権侵害(下)」、NBL、No.751、2002.12.15、45頁〜51頁には、「本件決定の意義は、前記最高裁判決の判断の枠組みの中で、管理・支配性の要件を、本件事案に即したものとして他者が著作権者の許諾なく著作物利用行為をするのに適した道具・手段を提供し維持管理していること、この他者による著作物利用行為をやめさせることができ、これをする事実上の権限を有していることを持って、管理・支配性を肯定できることを明らかにし、差止請求を容認した点にあるということができる。」(45頁第4欄)と記載されている。

(13)作花文雄、「『ファイル交換ソフト・ファイルローグ』仮処分事件」、コピライト、2002.10、34頁〜41

(14)平嶋竜太、「ピア・ツー・ピア方式による電子ファイルの交換に関するサービスを提供している債務者に対し、著作権侵害及び著作隣接権侵害を理由に、利用者へのファイル情報の送信の差止めが命じられた事例、ファイルローグ仮処分事件」、判例時報、1797号、195頁〜210頁(判例評論526号33頁〜48頁)には、「インターネット上の検索エンジンのサイトにおいて、入力されたキーワード等のサーチ要求に対応したWebページのアドレス(ドメインネーム)をインターネット上に存在する全てのサイトから検索し、提示するという役割とその本質においてほとんど変わるところがなく、偶然検索されて提示されたWebページが著作権を侵害するものであったというような場合についても、本件における要件の適用基準を当てはめると当該検索エンジンの運営者について著作権侵害の主体性を判断する上での管理性の充足を否定し得ないようにも考えられる。・・・広告を自らのサイトに掲示している検索エンジン運営者はことごとく著作権侵害行為の主体たりうるという結論につながりかねないのである。」(205頁第1欄〜第2欄)と記載されている。また、ナップスター事件に関して、山口いつ子、「メディア判例研究」、法律時報73巻9号(2001)、117頁〜122頁には、「ナップスターのファイル共有サービスにおいては、・・・、Yahooなどの検索エンジンに類似した機能を持つサービスであるとも言える。本件は、オンライン・サービスの形態が多様化しつつある中での中間媒介者の法的責任を論じるにあたり、一層複雑な考慮が求められることを示唆している。」(119頁第2欄)と記載されている。

(15)たとえば、快適Net.com 、「ADSL導入はこう行え!! ADSLでサーバ構築」(http://www.kaiteki-net.com/adsl/server.html)には、「サーバを構築するためには、基本的にプロバイダから割り振られるIPアドレスが固定である[ことが]必要です。しかし、一般にほとんどのプロバイダから割り振られるIPアドレスは非固定であり、動的に割り当てられています。」と記載されている。また、「『鷹の巣』の自宅サーバー」(http://sakaguch.com/ping.html)には、「非固定のグローバルIPアドレスを割り当てられている場合は、無通信状態が長く続くと、 自動切断され、IPアドレスが変ってしまいます。」と記載されている。なお、固定IPアドレスの費用はそれほど高額ではなく、また、非固定IPアドレスでサーバを立ち上げる方法もあるから、個人が趣味でP2Pの中央サーバを立ち上げることも十分可能である。ファイルローグの場合は会社が運営しているのであるから利益を得るために行っていると認定されたとしても当然であるが、個人が純粋に趣味で中央サーバを立ち上げた場合は利益を得るためではないから、一見、著作権侵害に問われないようにみえる。しかし、アクセス数の多いサービス名、ドメイン名、IPアドレスには財産的価値があり、転売すれば利益を得ることができる。転売する気はないと主張したとしても、サービス名、ドメイン名、IPアドレスの財産的価値が上昇していることにより利益を得ているとされ、他の2要素と総合斟酌されて著作権侵害と認定される可能性もある。そして、利用者一人当たりの損害賠償額は少額であっても、利用者全体の損害賠償額は極めて高額になるから、個人が趣味でP2Pの中央サーバを立ち上げるのも危険である。また、ローレンス・レッシング著、山形浩生訳、「コモンズ ネットワーク上の所有権強化は技術革新を殺す」、(株)翔泳社、2002年11月28日発行を読み、著作権法を弱体化させることがインターネット時代の先進的な法律論であると考えるのは自由であるが、それを実践に移してP2Pの中央サーバを立ち上げるのは止めた方がよいだろう。なぜなら、損害賠償金をレッシング教授が肩代わりしてくれるとは、どこにも記載されていないからである。

(16)「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律−逐条解説−
」(http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/chikujyokaisetu.pdf)、総務省、平成14年5月、22頁

(17)P2Pファイル交換サービスで問題となる著作権侵害は、市販のCDをそのままリッピングした音楽ファイルであるから、同じアーティストの音楽を聞いたことがある人であれば誰でも、ダウンロードして聞いてみることによって著作権侵害かどうかを、簡単かつ正確に判断することができるから、著作権侵害をしていない利用者の住所氏名を誤って著作権者に通報することはないと考えられる。

(18)
P2Pファイル交換サービスで問題となる著作権侵害は、市販のCDをそのままリッピングした音楽ファイルであるから言論の自由や表現の自由と無関係であることは明らかである。しかし、翻案権が関係する場合は、あまり広く翻案権を認め過ぎると表現の自由に関わるかもしれない。たとえば、服部克久、「敗軍の将、兵を語る 裁判官の耳に旋律は響かず」、日経ビジネス、2003年4月14日号、142頁〜144頁には、小林亜星v.服部克久事件で敗訴した服部氏が、「最高裁は上告事件として取り上げてくれませんでした。『本件を上告審として受理しない』という簡単な文章なんですけど、結局、何も判断を下さなかったということですね。我々にとっては、大げさに言えば、表現の自由に関わるところでもありますよね。『もしかしたら音楽家は軽くみられているのかもしれない』と邪推してしまいます。高裁は勘違い、最高裁は無視という印象ですね。」(144頁第2欄)、「すべての作曲家の足かせになってしまう。そういう意味では非常に大事な、今後に大きな問題を残す判決だったと思います。」(144頁第3欄)と述べている。
 

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